それは約束だった。「星修で会おう」幼い頃交わした小さな姉との約束。だけど、親父が引き取ってきた妹達との慌ただしい日々の中で、その約束は俺の中から消え去っていた。俺に取っては幼い頃の良い思い出だった訳だけど亜季ねえにしてみればどうやらそれは違ったみたいだ。「で、どうして亜季さんが荷物を抱えて我が家に来ているのか説明して欲しいんだけど」どう見ても体力のなさそうな亜季ねえが風呂敷を背負って我が家に訪れるという現状がよく分かっていなかった。門倉空はじめました act2 再従姉弟同士は結婚可能衆人環視の元いつまでも姉を泣かせる訳にはいかず、さらに空は不機嫌でどうしろと思うわけだがいつまでもこうしている訳にはいかないので、うちの住所を亜季ねえに転送し、時間ができたら会おうということでその場は解散になった。その後、何とか出席に間に合った俺たちは友人の雅にギリギリまでナニしてたのかとからかわれてぶち切れた空の一撃がボディに入って悶絶させるのだが、アイツは化け物かと戦々恐々とした。「それにしても、甲にとって再従姉弟ということは、私たちにとっても親戚ということになるのよね」「まあ、そういう事になるな。亜季ねえはどことなく母さんに似てるかもな」「マザコン」そらのことばぜめこうかはばつぐんだ「な、何だよそれ」「知らないわよバーカ」「たく、お前もおとなしくしてたら人並み以上なんだから。もう少しお淑やかさをだな」「え、それって」「どうした顔赤いぞ」突然赤くなったので風邪かと思い、おでこに手を当てると、自分の体温と比較した。「こ、こう!?」「熱は無いみたいだな。だけど体調が悪いようなら早退して」「おい甲」「何だ雅?」どうやら、復活した親友が何か言いたげなのだが、俺にはよくわからない。「ここ教室だぞ」空―顔がまっ赤になっている俺―空のおでこに手を当てている場所―教室我に返って自分が何をしたか気づいた。あ、空がプルプル震えている。急に血の気が引いていく気がした。「え、えと、これはだな。ほら家族だから熱が出たら心配でこうするわけで」「甲の」空の身体が少し沈み込むのを確認し、急いで逃げようとするがその光速の拳から逃れられる者無し。「甲のばかぁぁぁっ!」スカイアッパー(空のアッパー)が容赦なく繰り出され、俺は教室の天井にぶつかるかぶつからないかの位置まで吹き飛ばされるところまで確認し意識を落とした。お前、実はセカンドじゃなくて戦闘用に生み出されたデザイナーズチャイルドか何かだろと心の中でツッコミながら。ああ、またやっちゃった。保健室で寝ているこいつの前で私はため息をつく。心配してくれるのはすごく嬉しかった。私を褒めてくれるのはもっと嬉しかった。「でも、もう少しムードとか考えなさいよ」苦笑しながら人差し指で頭を小突く。この鈍感は今まで、そしてこれからどれだけの女の子を泣かせるのだろうか。今朝も一人泣かしてたし。「亜季ねえか」自分も同年代と比べればスタイルは良い方だと思ったが、あの胸の大きさとあのウェストの細さは無いだろう。しかも甲ったらデレデレしちゃって。でも、男の子はいつまでも母親を求めるって話を聞いたことがあるし。「いっそここで」「いっそ何だって?」予想もしない言葉に心臓がビクンと跳ね上がる。「い、いつから起きてたの?」「小突いた辺りからだけど」「ならさっさと起きなさいよね、もう」「人を殴っておいてよくそんなこと言えるな」「うっ・・・それは悪いと思うけど甲も悪いのよ。みんなが見ている前であんなこと」今度は甲が返答に窮する番で、バツが悪いのかこめかみの部分を指で撫でる。「全く、お詫びに今日の料理の買い物付き合ってよね」「そんなんでいいのか?」「元々荷物持ちに連れて行く予定だったもの」「了解、マイシスター」「お願いしますお兄様」さわやかな笑顔で相対する私たち。そしてげんなりする私たち。「・・・やめよう」「・・・そうね」結局私たちには絵に描いたような仲良し兄妹とか似合わない。というより兄妹で固定されるととても困る。「さて、今日は何がいいかしら」「といっても結局は真が料理するんだから。選択肢が多ければいいだろ。いい加減俺も料理覚えないとなあ。俺たちが料理ができないせいでクラブ活動とかも積極的にできないみたいだし」「確かにあの子ももう少し世界を広げた方が良いのかもしれないけど、そうなると私も料理を覚えた方が」「お前はまずデータ通りに作れ、余計なアレンジをするな」「うるさいわねえ、データ通りに作ると味気ないじゃない」「しばらくは真にがんばってもらうか。何というか料理がうまい高性能な幼なじみが隣に住んでいるとかいう設定どこかに転がってないかなあ」「あんた、マンガの読み過ぎじゃない。そんな家事全般が上手くて、朝になったら優しくあんたを起こしてくれる幼なじみなんて現実には存在しないのよ。それとも心当たりあるの?」そんな子がいたら私には勝ち目がない。まあ、スタイルはそれなりにいいと今まで思っていたのだが、西野亜季さんを見たらその自信もかすんでしまった。一応私も芽を摘んでるけど、潜在的に女にもてそうだからなあこいつ。「うーん、南八坂に住んでいたときのお隣さんの子とは仲良く遊んでいた記憶はあるんだが、名前が思い出せないんだよな」本当に無意識の約束をどれだけ重ねているんだか。その後、野菜と調理の選択肢の多い鶏肉、タマゴ、牛乳を商店街で買い、なじみのパン屋であるル・フランで食パンと豆パンを買って私たちは家路についた。「おまけしてもらってラッキーだったわね」「まあ、小さい頃から馴染みだからなあ。真なんて商店街のアイドルだぞ」学生兼主婦みたいなまこちゃんは商店街のおじさんやおばさんにとっては娘や孫娘のような扱いを受けている。その恩恵を兄姉である私たちも受けているのだ、空ちゃんも料理上手いんだろうねえと言われる度に凹むのだ。甲もそこだけはお茶を濁してくれるのだが、多分こいつの中では私は料理ができないカテゴリーに分類されているのだろう。かといって「お姉ちゃんにはお姉ちゃんの良いところがあるから無理する必要はないと思う」と優しく諭されている以上、まこちゃんから料理を教えてもらうのはほぼ無理。「それでさあ、空どうかしたのか?」夕暮れの空の下を歩きながら沈みそうになるのだが、こいつの隣を歩いているだけで幸せな気になれるのだから現金なものだと思う。ようやく門倉家が見えてきたとき、荷物を背負った長身の女性が我が家の玄関の前に立っていた。「亜季ねえ?」キレイだけど、少しでも触れたら泣き出しそうな笑顔を浮かべている。私はアルバムに残っているお母さんを彼女に見いだした気がする。「甲」亜希さんはゆっくりと甲に近づき、呟いた。「私がんばった。でも、もうダメ」崩れ落ちる亜希さんに、甲が駆け寄る。「お腹すいた、考えてみれば朝から何も食べてない」美人は倒れる時も絵になるなあと思うのだが、その後の言葉で台無しになった。「これから夕食ですから豆パンと牛乳で」夕食も食べてもらうことになったので、亜希さんに先ほど買った豆パンと牛乳を差し出すと、食べはじめた。「やっと落ち着いた」「それで亜季ねえ。どうして荷物抱えてうちに来たんだ」「家出してきた」「家出って先輩って寮生活ですよね?」星修は近くに自宅がない限りは寮生活が基本である。「もう、私しかあの寮にいないから。甲も本当に星修に来るか分からなかったし。それにお姉ちゃんが知らないうちに甲には家族がいるし」詳しくは話さなかったが、彼女の住んでいた如月寮は先輩達がみんな出ていって今現在は彼女しかいないこと、久しぶりに登校したら甲を見つけたこと、そしてとりあえず最小限の荷物を抱えてやってきたことなどを教えてくれた。「おばさまが甲が良いって言ったらココで暮らしていいって」亜希さんが言う、『おばさま』とは多分甲の叔母であり、私たち姉妹の後見人でもある橘聖良社長の事なのだろう。また、彼女は同時に星修の理事というか出資者の一人でもある。問題は彼女が重度のシスコンで、甲にですら甘いのに、八重養母さんに似た亜季さんのお願いを断れるはずがない。「いや、亜季ねえ。その寮で一人暮らし寂しいのは分かるけど、年頃の男女が暮らすのは倫理的に色々問題が」「実は私もデザイナーチャイルド。八重おばさまと、おばさまの遺伝子が混ざっているみたいだけど。大丈夫戸籍は別だし血縁から言えば再従姉弟ぐらいだから子どももちゃんと作れる」「何かまた衝撃的な発言をさらりと」「甲驚かないの?」「知らない間に妹が二人できていましたと母さんが死んだ直後に知って暮らしはじめた事に比べればね」甲はあっさりと流していたが、私の中では結構ショックだった。「ずるい」この人は『西野』亜季で戸籍上は別だから甲と結婚できるけど、私は『門倉』空だから。「空?」「何でも無い。この件はまこちゃんが帰って来てからもう一度話しましょう。門倉家のルールでしょ」本当に大切な事は三人が納得できるまで話し合い、多数決では決めない。それが私たちのルールだ。でも、これからは彼女もこのルールに加えるのだろうだろうか。彼女は私にとっても姉みたいなものではあるが、姉ではない。血縁はあっても私の意識の中では家族は甲とまこちゃんだけなのだ。でも、彼女は今まで独りだったことを考えると・・・「ええ、いいですよ」「そんなあっさり」まこちゃんはあっけらかんと即答した。「それにしても久しぶりですね門倉家会議、前回の議題はクリスマスのときの『ケーキ三分の計』でしたっけ?」「すごいネーミング」「一つのものを三人で取り合うのは半分こするのよりとても難しい。天下しかりケーキしかり」姉ながらたまにまこちゃんの論理が分からなくなるのだが、これは誰に似たのだろうか。「まあ過去の話は置いておきまして、私たちだってお父さんが掛け合ってくれなかったら施設暮らしだと思うんです。私たちは家族だけどある意味擬似的な家族で、だから多少増えても大丈夫だと思います」そうか、まこちゃんも色々大きくなったんだな。「ところで亜季さんも、門倉家で一緒に生活するんですから、最低限体を鍛えて働いてくださいね。後、生活費払ってくださいね」生活費に余剰があるとはいえ、まこちゃんは間違いなく主婦というかそろそろ母親のレベルなのではないだろうかと思うのだが、主な原因が私と甲にあるので強く言えない。「お金はあるから大丈夫だけど、体はちょっと」「人間は慣れの生き物です。お兄ちゃんだって亜希さんは健康な方がいいよね」「そりゃそうだけど真、どう見てもダメ人間の亜季ねえにそれは厳しすぎないか」甲、あなたも結構酷いこと言ってるわよ。「とりあえず、朝の散歩からはじめましょう。規則正しい生活と適度な運動さえしていれば人間何とかなるものです」何というか、まこちゃんはセカンドの申し子のような適正を発揮する割に意外とリアル志向だった。「がんばれ亜季ねえ。後真は巨乳に対してある意味容赦ないから」「失礼ですねお兄ちゃん。うちの女性は遺伝上みんな巨乳が判明しましたので私も今後の努力次第で巨乳になるんです」その論理には多分無理があると思いながらも言えなかった。門倉真は成績もいいし、運動神経も悪くなく、ネット上では天才の部類に入り、家事全般が万能にもかかわらず、胸が小学生レベルだった。「とりあえず、来週は引越準備をしましょう」テンションの高いまこちゃんが己の運命に絶望するのはそれから数年先なのだが、今は輝く未来があって疑わっていなかった。というわけで門倉空の続き、まあお見合いとか、ジルベルトに比べると私の趣味に走ってます。まあ、タイトル通り彼女は初期設定が門倉空ですから、それに対する色々な葛藤があるのです。空のアッパーは車田先生のノリであってどり●みるきぃぱん●とはちょっと違います。さて、おねがいツインズは半分こする話なのですが、三人だったら牽制されまくりですね。あと、南八坂に住んでいたときのお隣さんの子というキャラがいるそうです。まあ、この物語は一年で決着がつく設定なので、これでメインキャラは揃った感じ。どうでもいいですけど、ジゼルさんって意外と家庭的何じゃないですかねとか思ったり。「失礼だな、私だってたまには女性らしいことをするさ。まあ中尉の相棒のようなワンピースが似合うキャラではないがな」とかですね。これは律動というか、空シリーズにでも取り入れますか次は律動かなあ、ジルベルトはネタのストックがあるんで書けますが、律動は個別にヒロインと絡ませればいいんだけど、どうしたものやら。でも個人的には「俺が一番うまくロッカーを使えるんだ」という短編を作ってみたいような。