12年間続いた世界統一連合政府(統合)と統合の加盟を良しとしない反統合勢力の争い、通称統一戦争は南米に拠点を置く、武装勢力「南アメリカ解放戦線」のパナマ運河爆破事件から始まった。1914年に開通したパナマ運河は、経済の大動脈であると同時に、統合の軍事拠点のひとつであった、運河の爆破は、同組織を支援していると思われる南米同盟への非難から、武力衝突に発展。後の調査では、結果的に組織的な関与は無かったと判明したが、これを機会に完全な統一を目論んだ統合政府は、統合軍第一方面軍(北アメリカ軍)ほ派兵を決定。後手に回った南米同盟も、ここに至っては面目が立たないと開戦を決意し、ここに第二次南北アメリカ戦争が開始された。 当然、仮想空間が発達した現代においては、仮想へのインフラ依存も大きい。現実空間(リアル)の戦況が仮想での結果いかんで覆られてしまうのは驚異でしかない。よって、この戦争の最大の特徴は、リアルでの死者数より、仮想での脳死者の数が多いことが上げられる。 さて、ここで仮想における基本的な軍事行動について語ろう。 初期段階で、各陣営ともウィルスを展開し撃ち合いが始まる。当然、トラップもあるのでそれを除去しながらの行軍となる。ジャマーを展開している地区では当然転送(ムーヴ)は不可能であるから、仮想空間を延々と移動しなければならない。そして、ウィルスを使いつくして、始めて電脳将校であるシュミクラムユーザーが出撃するという状況が生まれるのだ。彼らは戦闘機であり、戦車でもあった。初期段階でのウィルス同士の消耗戦は保持戦力比が概ね適用されるが、シュミクラムユーザーによる戦闘は、古代における勇者同士の争いという側面を持っていた。彼らは戦場の華であり、その勝敗が戦場に多大な影響を与える。もちろん、サポートである情報将校の功績も忘れてはならないだろう。華やかなエース同士のぶつかり合いの裏でそれほど目立たないが、情報分析、トラップの解除、工作などを一手に引き受ける彼らこそが、もっとも重要だとというのが常識であった。つまりウィルスと電脳将校が前線でぶつかっている間に、情報将校が敵構造体を攻略する。これが電脳戦に対するセオリーであった。 そして少なくとも大戦の中期まではこのセオリーが適用される。物量に勝る統合に対し、南米ならず、世界各地から一流のホッドガーが傭兵あるいは義勇兵という形で参戦し、押し返すというくり返しだった。だが、やはり物量に勝る統合軍の猛威はすさまじく、要衝マナウス占領に至り陥落は間近と考えられていた。 だが、ここでとある兵器が開発される。それは形容しがたい何かであると対峙したものは皆口を揃えていった。無機的な機械でもAIでも、もちろん人間でもない。そう強いて言うなら化け物だろうか。 後にノインツェーンと呼ばれる存在の登場であった。高性能の機械的AIのコアに、閃きを持たせるために数十の胎児の脳を強化して並列に接続して、AI端末と共に二足歩行機械に搭載する。後に複製を考えた科学者は幾人もいたが失敗しているところを見ると、結果として成功した超兵器というカテゴリーに入るそれは、統合の強固なAIネットワーク群を悪意と言えるようなえげつない手段でズタズタに切り裂き、各個撃破していった。 その猛威はすさまじく、今度は統合への反転行為を開始させる。同時に、シベリア州が宣戦布告し、アラスカ方面から進軍、ここに世界大戦の様相を見せるが、ここに至り統合政府は最終兵器の投入を決意する。「本当にアレを投入するつもりですか閣下?」 作戦参謀のひとりウォルフガング・グリマー少佐は上官であるハロルド・ローラン大将に聞き返した。「グリマー少佐、これは政府の決定だ。我々軍人は政府の決定に従う、それが文民統制だと思っている。少なくとも私はそう思っている」「ですが、あの悪魔を投入すれば、構造体周辺を含めて消滅・敵味方問わず死亡してしまいます。政府はその危険性を理解していない!」「我々もあの化け物が現れなければ使いたくなかったよ。化け物を殺すのに化け物を使うのが最後の手段と思いたくなかった。だが、ここに至っては支配するノインツェーンが支配できない存在をぶつけるしかない」 だが、若きグリマーは納得できなかった。「グリマー君、私は、といっても総司令をはじめ、司令部は全員退役することになるだろう。私やロイは死刑台に登るか良くて収監になるだろう。少なくとも英雄と称えられるのはゴメンだ」「総参謀長閣下」「君達は、この手段を使わないようにソフト・ハード共に充実させたまえ。もっとも争いがないのが一番だがな」 グリマーには言葉が無かった。軍律に厳しいことを徹底していたが、意外と将兵に好かれていた上官が最悪の手段を選択したとして政敵に攻められるのは目に見えている。「だが、この時代、世界を救う方法はこれしかなかったのだ。その後、再びノインツェーンとまみえる時に我々の持っているカードの豊富さを考えれば、彼の我々に対するメッセージは間違いではなかった」 後の統合軍総司令部総参謀長ウォルフガング・グリマー大将は手記に残している。彼のノインツェーンとの戦いはここから始まるのだが、それについては、彼の手記ならび、『ノインツェーン後のパラダイムシフト』を読むことを奨める。 さて、現代に生きる私たちにしてみれば構造体が、攻勢プログラムや、武器による破壊ではなくそこに存在すると言う理由で崩壊する現象を信じられるだろうか。圧倒的な存在によって基地が都市が飲み込まれる。それが進む先には破壊の爪痕、否そこに存在した跡しか残らないという常識外の何か。 神話に準えたそれは、歴史の教科書に載っているから知識としては誰もが知っていた。だが、それが実在することは、敵味方問わずほとんど知らなかったのだ。『リヴァイサン』 電子の海を飲み込む終末を告げし獣。一度動き出せば、神で無ければ止められない。それを戦場に投入した。 南米連合は抵抗したが、結果は無残なものだった、仮想半径1kmの球体は構造体、あるいはシュミクラムを分解し、データを喰らい、ウィルスをはき出す。 では、ノインツェーンはこの化け物にどう対抗したかといえば、彼は始めて抱いた恐怖という感情に押しつぶされ、文字通り逃げ出した。彼がただの機械ならその全能を持って突撃をしただろうン、そうすれば歴史は変わっていたかも知れない。だが、結果としてノインツェーは統合軍に捕らえられる。人間を越える存在が結果として人間いや生物の持つ本能的な畏れに屈したというのが皮肉な話だろうか。 ノインツェーンのない南米連合は降伏を決意した。 統合政府もそれを了承し、インフラを破壊し尽くし、文明レベルを20、30年ほど衰退させるほど猛威をふるったリヴァイサンは停戦から2日後に虚空へ消え、現在に至る。「あれを制御できる存在がいるとしたら神だろう。南米連合が攻撃した先にあれがいて、報復しただけではないか」 当時の統合政府議長トマス・クーパーは証言し、戦後の混乱を最小限に抑えながら引退。また、先述したように統合司令部は第二管区司令官レイニー・ウォーカーを除いて退役しており、彼らも死ぬまで黙秘を貫いた為、真相は未だ闇の中である。「もし、シベリア州が仕掛けてこなければこんな事態にならなかっただろう」 歴史にifはないが、この当時、統合軍が誇る最精鋭電脳旅団(サイバーブリゲード)は健在であったし、ロジックボムがノインツェーンに対して一定の効果があることが証明されており、最終的には統合が勝っていたという軍事研究家は多い。だが、同時に勝ったとしても、その頃には統合政府は文字通り解体されていただろうがと予測されている。どちらにせよこれにより帰趨は統合の時代を迎え、同時にリアルにおける最終兵器である軍事衛星グングニールの建造が始まるのもこの戦争の後であった。 その後、稀代のマッドサイエンティストとして現代社会に多大な貢献をしながら、最後まで人間とはかけ離れたノインツェーンは自殺という結末を迎えた。そしてリヴァイサンは統合政府が未だに保有している、あるいは解放された悪魔は、ネット上のどこかにいるという噂が絶えない。ノインツェーンは生きている。ただし、その時再び悪魔は蘇るだろう。「正直評価に困るな」「うん、戦争映画なのか、ドキュメンタリーなのか判断に迷うな」『ノインツェーン対リヴァイサン』確かに映像は迫力もあるし、リアリティもあるのだが、娯楽映画ではない。啓蒙したいのかもわからない。「帰ろうか、ああそういえば3番街に新しいカフェがオープンしたから行ってみない?」「そうだな」こうしてカップルらしき男女はログアウトすることにした。「うー、私あんな怪獣みたいなことしてないよ」「確かにあれは過剰演出だよなあ」「それにレンはお兄ちゃんのいうことなら聞くもん」「はいはい、年齢不詳バカップルはそろそろ家に帰ろうな」「うう、漣君がいじめる。ハッこれがもしかして反抗期?」「漣、そんなに母さんをいじめるな。なだめるのが大変なんだから」「お兄ちゃんまで私を子ども扱いするー」水色の少女が20代半ばであろう男に抗議している。兄妹か何かだろうか。何かほほえましいなと思っていると、ふと男性の方と目が合ったがすぐに視線は少女の方に向けられる。「どうしたの甲? そろそろ出るよ」「あ、ああ。今行く」 少年が別れを経て青年と出会うのはまだ先の話。あれギャグがない。ノインツェーンVSリヴァイサンという名を借りた妄想歴史ならびに予告です。ノインツェーンの脳には凹みができてしまったそんな世界。草原の狼は友を取り戻す為に電子の荒野を進む。というのができればいいなあ。まあ、これにて一端休みです。お見合いはアレの続き書いた方がいいのかなあ。トリップ間違ってないよねとクッキーが吹っ飛んで不安に思いながら。