シュミクラム戦というのはアリーナと呼ばれる空間で行われる。当然非殺傷設定だが、それを除けば同レベル程度の人間同士のやりとりが楽しめるのでユーザーだけではなく、観客も結構いる人気の娯楽だった。「まあ、古代のコロッセオしかり、近代のボクシングしかり、人間の闘争本能未だ衰えずということか」対戦相手のシュミクラムをいなしながら俺は一人呟く。現在1対1で大戦中。相手は格闘仕様だが、俺の構築した陣を突破するほどの堅さを持ち合わせたタイプというより素早さと高火力で押し込むタイプのようだから、相性的には有利だ。俺の基本戦術は待ちだった。ワイヤーマインをばらまき、後ろから狙撃する。仮に突破された時は、電磁鞭を使って戦えばいい。とどうでもいいことを考えながら機体をボロボロにしながらも突破してきた対戦相手に鞭を振るい止めをさす。ここはショック死でも起こさない限りは安全なので、その分俺も容赦が無かった。まあ、殺し合いになっても容赦する必要は全くないのだが。『勝者 ジルベルト』アナウンスが上がると共に俺は電子体に移行し、一息ついた。余り歓声が上がらないのは、俺のスタンスが基本的に静であり、面白みに欠けるからだろうと思う。だが、俺は本来前線に出て戦うタイプではないので、このやり方が効率的なのだ。「相変わらず如才なく勝利するな」観覧席に戻ってきた俺にノイ先生の意見に苦笑した。「まあ、正統派でないことは認めますけどね」「で、問題は」『試合を開始してください』アナウンスと共に試合が開始される。「ふむ、確かに筋は悪くないが勢いに欠けるというか」「基本的に優しいんですよ。だから、傷つけるという行為に対して戸惑う。死なないとしてもね」「まあ、娯楽に転用できるようになったもののシュミクラムはあくまで兵器だ。これで楽しもうと考える神経の方がどこかおかしいのさ」「まあ、世界もある程度安定すると多少は退廃的になるということですね。余裕があるようで無いのが問題ではありますが」世界的に見て紛争は比較的収まってはいる反面、それは人口の膨張を意味しており、どう考えてもパラダイムシフトを必要としていた。まあ有り体にいえば俺がかつて生きていた時代と似たようなものなのだが、俺が死んだ後あっちの世界はその辺の問題を解決したのだろうか。「その辺は政府にがんばってもらうしかあるまい。今後は宇宙開発やナノマシン分野に予算が投じられると私は思っているよ。政府直轄のドレクスラー機関だってナノマシンの研究を進めていると聞く。それに、一市民である我々はその日その日をまじめ・・・とまではいかないが食うために働くのが精一杯だろう。そういうのは税金をもらって食っているお偉いさんがすればいいのだよ」「ごもっともで、ああ、負けてしまったか」アリーナでは、勝敗―レイン嬢の敗北―が決していた。しょんぼりしながらこちらに向かってくる少女の姿は、悪いことをしてしょんぼりする仔犬のようでちょっとかわいく感じた。ちなみに彼女の姿はいつものようなお嬢様然とした姿ではなく、ノイ先生コーディネートのデニムに白いジャケットを羽織った少しラフな格好だ。美人は美人というだけで何を着ても似合うならというのが正直な感想。「お疲れさま」「また、負けてしまいました。私には才能が無いのでしょうか」「レイン君は真君やジルベルト君を基準に考えているから勘違いするかもしれないが、シュミクラムをはじめて一週間でその上達ぶりは並以上だ。君が今試合に出ている理由を忘れたのかね?」「それは・・・戦闘の雰囲気に慣れる為です」「そうだ。幸い試合まではまだ期間がある。勝つに越したことはないが、しばらくは戦場で冷静に対処する方法を考えた方がいい」レイン嬢の機体もノイ先生が設計したのだが、先生が極限まで趣味に走ったネール・エージュや俺の志向に合わせたグリモアと違い、彼女の機体は射撃中心という普通のコンセプトだった。サーチ範囲が広いという特性を生かして、射撃をするという部分は俺に似ているのだが、彼女の場合はジャマーの展開なども可能なのでチームを組んだ上でとても心強くなる予定だ。だが、同時に彼女が的になると不利になるのでその辺は改善しなければというのが、現在の実線訓練の趣旨である。多分レイン嬢の才能は俺を上回っているだろう。現時点で俺が上なのは、相手の動きが何となくわかるからだ。これはデザイナーズチャイルドの恩恵であり、リアルでも充分に使えるというかリアルでもっとも使える能力であり、シュミクラム戦では真ちゃんのような飽和攻撃をするタイプとの相性がよくない。当初からいくらデザイナーズチャイルドでも仮想上ではセカンド世代には叶わないことが予想していたので、実のところ勝敗はレイン嬢の成長次第であると結論づけていた。「さて、これから・・・」アリーナが騒然となる。どうしたのかと覗いてみると闖入者が仮想についてシュミクラムで批判している。「いつも思うんですが、反AI主義者はどうしてシュミクラムという電子の鎧を纏ってその辺を否定するんでしょうか?俺からしてみれば技術的には同系統のはずなんですが」「反AIといっても仮想そのものを否定する勢力、生物学的AIを否定する勢力と色々いるからなあ」「しかし、あいつらも暇人ですねえ。あっケニッヒスだ」紫黒をベースにしたムダに突起のある機体から聞こえてくる声は間違いなくケニッヒスだ。俺とレインは顔を見合わせため息を付く。「知り合いかね?」「俗にいう同じ学校の嫌われ者同士ですね。まあ、別に俺は彼が余計な事をしなければ生きていても死んでいても構わないのですが」「ジルベルトさんとあの男が遠ざけられる理由は違いますが」もちろん、俺たちの会話をしている中でも舞台で話は進んでいる。『甲くん受け取りたまえ!』アリーナに突き刺さる巨剣を白と青をベースにしたシュミクラムが手に取り一閃。「ケニッヒスって美形で、優秀なのにどこかギャグキャラっぽいよな」「何かいいましたか? 」「いや、今後もこんなことあると厄介だから、3ヶ月ぐらい長期入院してくれないかなと思って」「そう言うことならば手を回していいナノを」「ジルベルトさんがあんな男のために手を汚す必要がありません!」「冗談だよ。それに言い方は悪いがあのシュミクラムの人にあいつに粘着すると俺はとっても助かる」「・・・どなたか知りませんがご愁傷様ですね」俺と彼女の中では因縁付けられる可能性が120%くらいだと思っていた。残りの20%は取り巻きたちの分である。俺は厄介ごとに巻き込まれるであろうシュミクラムの中の人に心の中で合掌するのであった。おまけ 妹魂:あら、佐藤さんはそういう理論は嫌いかしら佐藤:別に否定はしませんよ。ただ、どっちかというとバランス派なだけです。御大将がログインしました妹魂:お久しぶりね御大将:ご無沙汰しています、しかし今日は大変だったよ佐藤:研究室を爆発させたとか?御大将:佐藤君は僕のことをマッドサイエンティストか何かと勘違いしていないかい?佐藤:まあ、その辺はいいですけど、何か問題でもあったんですか?御大将:僕の問題じゃなくて教え子がちょっとね。まあ結局は事なきを得たんだけど。佐藤:ああ、先生業も大変ですね。気楽な学生でずっといたいなあ妹魂:佐藤さんは働き出したら飽きるまでやるイメージがあるけど佐藤:飽きたらまずいですよ仕事。でも、探偵業とかいいかもしれませんね。助手はshinさんにやってもらってリアル・ネット両方で見つけますみたいな御大将:・・・それはちょっと怖いかもしれない妹魂:そうね、寝首をかかれないように注意しないと佐藤:や、二人ともどれだけ後ろめたいことしてんだよ妹魂:大人になるって大変よね御大将:まあ、刺客には困らないからねえ佐藤:もしかしてこのチャットは危険人物が多いのではないだろうか妹魂:申し訳ないけどあなたに言われたくないわ言い訳的な何か律動書くはずだったんだけどなあ。次の話は書けるけど、その後の展開があんまり面白くないのでちょっと停滞中。というわけでジルベルトの続き。レインさん対戦をがんばる。あと美人はどんな格好をしても目立つ甲さん、セリフは無いけど初登場する。3までは普通の物語4は今までの伏線回収5でやっと表題であるスーパーがつく展開6で終わり後シュミクラムユーザーという意味では本文でも言ってますけど、ジルベルトの実力は多分雅よりは上、レインとどっこい、甲に勝てる訳がないレベル。シュミクラム戦という土台でやる方が悪いんですけどね。シナリオ上甲はまこちゃんに勝ってますけど、実際どっちが強いんでしょうね?