星修の学園祭というのは為になることが多い。何しろ最先端分野における研究成果の一部を公開するのだから。もちろん、昔ながらの学生屋台なんかもあって、それはそれでいいのだが。「しかし、焼きそばはどこに行っても焼きそばなんだな」ちなみに、紅ショウガはないほうが好みだ。青のりはあっても構わないが、人と会う際は気を使うのがマナーである。海鮮と肉のどちらがいいかと問われるとその時の気分によるが、豚バラ肉を使ったのがやっぱりベターだろうか。残念ながら食べに行ったことも無かったが富士宮焼きそばとかいうB級グルメが当時人気だったな。「よし、今度焼きそばを作ることにしよう」「あのジルベルトさん。焼きそばを食べながら焼きそばを作る話はいささか変だと思うのですが」いつからか定例会になった食事会のネタはここに決まったのだが、心の声が出ていたのかレインにたしなめられてしまった。本日のレインはエスニック調の2WAYワンピースにサンダルという出で立ち。青いハートに十字パールの革ひもチョーカーが魅力を引き出していると思う。服装はそれほど目立つ訳ではないのだが、やはり素材がいいと目立つのはやむを得ないのか、男性諸氏の注目を集めていた。同時に俺に対する視線を感じるのだが、虫除けだと思って諦めて貰おう。「そういえば、真さんに連絡しなくて良かったんですか?」「忙しいだろうし、彼女には彼女の付き合いがあるだろうし」ついでにいうと彼女のお姉さんは苦手な部類に入る。どうやら彼女は俺を真ちゃんを誑かす悪い男と考えているようで、俺もその点は考慮しないでもないが、どちらかというと諸悪の根源はノイ先生だし、15にもなった人間に対してはいささか過保護すぎるように思えた。一度きちんと話し合えば、性格的には竹を割ったようなイメージがあるので誤解が解けるような気もするのだが、現状ではそこまで積極的にしたいとは思わないのが現状であった。「じゃあ、ジルベルトさんは何が目的で星修の学園祭に?」「最先端技術というのに興味があったことかな。あと、アセンブラに関する講演に関して興味があったんだ」「アセンブラですか、確か新世代ナノマシンでしたよね」「今のナノマシンでも驚きなのに次世代は全くイメージできないからな」詳しい内容は分からないが、自己増殖して知性を持っているらしいそれは、俺がイメージするSFの産物そのものだった。こういう時に俺は人間とは果たしてどこまで行けるのだろうかと問いたくなる。橋を造り、船を造り、車を造り、飛行機を造り、とうとう宇宙船まで造った人間は最後にどこに向かうのだろう。電子の海か、あるいは太陽系を更に星海の果てを目指すのか。「自分が将来どういう道を進むかは決めていないけど、選択肢を増やすのは悪くないと思う」それはジルベール・ジルベルトになってはじめて抱いた将来の展望だった。16年以上かけてようやく地に足が付いてきたかなと思うと、苦笑する限りなのだが。アセンブラに関する展開についての講演会は、学生の他に、業界関係者とおぼしき人間が幾人か見られた。説明は順調に進み、質問の時間に移行したのだが・・・・・・「しかし、あいつらは成長をしないよなあ」「ええ、で何で彼らは休日にもかかわらず制服を着用しているのでしょうか」目の前では、やれセカンドがエイリアニストやら、デザイナーズチャイルドの優位性やらを説いてバカやっている男と取り巻きたちがいた。本当に関わりたくないのだが、頻繁に出現してくるんだよなあ。「鳳翔のブランドが彼らのアイデンティティなのさ。さて、そろそろ止めに入るとしようか」今にも殴り掛かろうとするケニッヒスの後頭部に羅漢銭(メダル)をぶつけた。「ウガ」後頭部に直撃した一撃は確実にあいつの意識を刈り取ることに成功したようだ。一般人なら間違いなく致命傷になりかねないが、デザイナーズチャイルドのあいつなら気絶ですむだろう。「ケニッヒス。理論には理論で対応しろといつも言われているじゃないか。犬じゃないんだからそうキャンキャン吠えるな。ほら、お前達もご学友を連れていったらどうだ」連れを一睨みすると取り巻き達はケニッヒスを抱えて出ていったと邪魔者が出ていったところだが、どうもみんなの注目が俺に集まっているようだ。「先ほどはお見苦しいところを。ついでですが質問させていただいてもよろしいでしょうか?」「あ、ああ。構わないよ」「鳳翔学園に在学するジルベルトといいます。先ほどのアセンブラに関する研究の今後の課題等につきまして、大変勉強になったのですが、一つとても気になる部分があり質問の席に立たせていただきました。先生の講演でアセンブラの理論、今後の課題は分かったのですが肝心の部分が抜けているような気がするんですよ」「肝心な部分?」久利原氏が怪訝な顔をするが気にせず続ける。「ええ、私はこの分野について全く素人ですし、ここに聞きにいらした皆さんも知りたいとのではと思っているのですが、アセンブラが完成した場合、何ができるのか。つまり得られる果実が何なのか知りたいのです」「それは・・・アセンブラが完成すれば無限の可能性が」何でも切れる剣が仮にあるとして、料理人なら魚を切るだろうし、木こりなら木を切るのに使うだろう。剣客なら当然人を斬るのに用いる。アセンブラというのはそういう趣旨のアイテムで何でもできるのだが、扱う人間が何に使うのかというのがとても問題でそれについて聞きたかったのだが。「それはPR的な意味の話です。まず何に利用できるか、何に利用したいのかを久利原先生は明言できないのですか」この人の話には、アセンブラの完成に対する情熱は感じることはできても、自身が描く『アセンブラで何をするか』が無かったのだ。「本来道具とは何かをするために開発するもので、手段と目的がすり替わっているのではと疑問に思いました。故に伺いたかったのですが、現段階では明確な目的がないようですので、この質問はここで打ち切らせてもらいます。この研究が実を結ぶことを期待しております。失礼しました」言い終わると俺は着席した。この後もいくつか質問があったが、明らかに久利原氏の弁舌は講演中ほど冴えない。もっとも、俺の関心はすでにアセンブラから農業科で行われる『荒地でも育つ食物の開発について』にシフトしていた。講演会が終わり立ち上がり、講堂から出ようとすると後ろから声が掛けられた。「おい!」見覚えのある顔。ああ、正統派主人公か。。「あの後の決勝ラウンド敗退は残念だったな」「そういや、お前らあの時、手を抜いて・・・じゃなくて、さっきの講演の質問は何なんだ。久利原先生だって色んなことを考えて」「いや、その思いを口に出さないと世間に伝わらないし、予算とかスポンサーが付かないだろ」この講演会の協賛にアーク社が無かったのはその表れだと思う。つまり、秘密主義なのかどうかは分からないが個人への不信が研究への不信に繋がるパターンに陥っているといってもいい。彼にしてみれば研究ができればいいのかもしれないが、スポンサー達はそれによって生み出される成果を期待しているんだから。「その通りだよ」「先生」そこには久利原直樹氏がいるが、その表情は暗い。「あの時、ぼくは何がしたいのかを明確に言うべきだった。この研究が日の目を見るときに胸を張って答えられるようにするよ。甲君、ぼくはここで失礼するよ」頭を垂れ、久利原氏が立ち去った。「悪いけど俺も失礼する。連れを待たせているんで」「あ、ああ。俺も余計なこと言った。悪かった」これだけ思ってくれる生徒がいるのだから多分、あの人自身はいい人なのだろう。不幸があるとすれば、いい人がいい功績を残せるとは限らないことだ。「レインは久利原氏のことをどう思う?」「そうですね、いい人だとは思いますけど、何というか危険な感じがします」最近、人を見る目が養われてきたレインの評価は俺と概ね一緒だった。「危険というと?」「女の勘ですから何とも」「こんな変人と積極的に関わることを決めた人間の勘は果たして信用できるかどうか」そして最近、すっかり俺たち側に染まってしまったご令嬢たるレインさんはこう切り返すのであった。「少なくとも今の私は以前より自分のことが好きになりました。それで充分です」「こんな風にした俺たちが言うのも何だけど、まじめに親父さんに顔向けできないなあ」1年前、彼女がこうなるなんて誰が予測しただろう。「いや、私は充分に感謝しているよ」後ろから渋い声がかかり、俺は振り向くと、カジュアルなジャケットを着た長身の40前後の男性。「お父様!?」「確か、ジルベルト君だったね」「鳳翔学園2年、ジルベール・ジルベルトです。レインさんとは、いい友人として付き合っています」その目付きは鋭く、全く隙がない。だが、その鋭さも長くは続かず柔和な表情に変化する。「友人か・・・まあいい。ジルベルト君、君はこれから暇かね?」「申し訳ありませんが、私は発表会を聞きたいと思っておりまして、お嬢さんに用事でしたら、俺はここで別れますが」「いや、私は君と話がしたいと思っているのだよ。その講演が終わるのは?」「3時です。それ以降だったら大丈夫ですが、お仕事の方が忙しいのでは?」「私だって46時中仕事をしている訳ではない」初見なのだが、娘から聞く父親像とはあまりにもかけ離れていた。(なあ、レイン、性格はまともないい人っぽいじゃないか)(ま、まあ最近はそんな気もします)「まあ、いい。レイン、申し訳ないのだが彼を借りてもいいだろうか。埋め合わせ方法は何か考えるので」つまり、仕事関係か。レインもその辺は理解しているのだろう。「分かりました」どうでもいいジルベルトファッション茶系のチノパンにアンダーはクレリックシャツ、ジージャン。足下はレザーブーツで固めている。まあ、私的にはレインのファッションさえはっきりしていれば野郎なんて特に気にしなくてもいいんですけどね。レインはナチュラルもシックもいけるかなというイメージがあります。もちろん、着物だっていけますよきっと。4-1はレインに何を着せるかという悩みで1時間かかりました。2WAYワンピースだと少し寒い気もしますが、気温が比較的良好ならこの格好でもいいかなと。いや、本編のあの格好は間違いなくクリスマスは寒いはずと思わない訳ではないけど。温泉編はその編のファッションもきちんと決めないというか、決めたいのですが、残念ながらその辺の才能がないのでというわけで4-1です。後は火打ち石氏が出ればあのチャットのメンバーは全員登場していますね。あ、さらにどうでもいいけど、ジルベルトが正史をかき混ぜているので、菜ノ葉さんが無事に見つかるのかどうか・・・というわけで学園祭の1日は続きます。初期よりジルベルトがダメになっている気もしますが、元々こういうキャラです。レインがダメになってきたので、使い分けるのを諦めました。