人間は人生の内に何度かは自分とは何かを問うことがある。ジルベール・ジルベルトは佐藤弘光という人間を核にしたジルベール・ジルベルトである。デザイナーズ・チャイルドという要素も重要ではあるのだがが、これは身体的な特徴であって精神面への影響を終ぞ与えなかった。「結局は人間の行き着く先は人間でしかない」サイバーグノーシスなんていう思想もあるらしいのだが、人間の精神って基本的に長い時間に耐えられるのかという話だ。吸血鬼という生き物は一般的に数百年を生きるという。つまりそれが前提なので、それだけの時間に耐えれる存在なのだ。佐藤:と思うんですが、専門っぽい姉魂のご意見は?姉魂:そうね、じゃあ逆に聞くけど佐藤さんはどれくらいの時間なら人間は耐えられると思うのかしら佐藤:そうですね、本来の寿命である120年前後の3割増しである150年が適当なところでしょうか。姉魂:佐藤さんがその気なら200年くらい生きそうな気がするけど・・・どうも私の先生だった人と同じ雰囲気があるのよね。超越している辺りが佐藤:姉魂さん中で俺がどういう認識をしているのかは今更気にしませんが、俺的には適当に生きて適当に死ぬだけで構わないし、自分一人で全部する必要はありませんよ。ダラダラ生きるだけだったら意味がありませんし。姉魂:制限が無いと人間は進歩しない・・・なるほどその意見はあるわね佐藤:まあ、これから夕食ですし俺は一般人なのでその辺の解釈についてはこの辺にしておきますか。姉魂さんもたまにはリアルで暮らした方がいいですよ。姉魂:忠告はありがたいけど、今リアルに戻ったらリハビリからはじめなければならないレベルなのは確かね佐藤:・・・いや、まあ、その何というか・・・がんばりましょう。御大将さんがログインしました佐藤:どうも。御大将:これは、タイミングが悪かったな。佐藤:もしかして俺に用事でしたか?御大将:いや、別に今でなくてもいいんだが・・・ちょっと自分の研究に行き詰まりを感じてね。佐藤:興味はともかく生活はごく普通のジャンルに生きてるのでそっち方面の相談されても無理ですよ。御大将:それは理解しているよ。ただ、技術的な面もそうだけど、何の為に今の研究を始めたのかと思うと・・・袋小路に入ったネズミみたいな気分だよ。姉魂:あなたはまだ若いんだからそれほど焦らなくてもいいのに佐藤:御大将はきまじめだから自分ががんばらないとって考えるかもしれないけど、物事には他者と時間が必要なことがあると思う。壁にぶつかったなら人か時間が必要なんだろうな。御大将:二人の言うとおりだね。ちょっと気が楽になった。じゃあ、今度は楽しい話題で話そう。御大将さんがログアウトしました佐藤:相当切羽詰まってますね。姉魂:みたいね「どうも余り機嫌が良くないようだがジルベルト君と何かあったのかね」ラ・ヴィータで偶然、ノイ先生を発見した私は一緒に軽めの食事を取ることにした。「別に、最近ジルベルトさんが私より父と一緒にいる時間が多いからって拗ねている訳ではないですよ」そう、たまにはどこかでデート―例え彼がそう認識していなくても―に誘ってみてもあまり反応が良くない割に父に呼び出されると行くのだ。もっとも、家庭で話すことがたまにあるのでそれはそれでうれしいのだけど。「ほう、桐島勲准将か。あまり意識はしていなかったが君は彼の娘さんだったな」「父をご存じなのですか?」「お互い間接的に知っているというところだ。それは別としてジルベルト君もまた変なのに捕まったなあ」「私が言うのもおかしな話ですが、父は生まれつき制服を身に纏ったような融通の利かない性格ですよ」言いたいことは色々あるが、生真面目な役人体質である父が変わり者に分類されるとは思っていない。「だが、そういうタイプほど、別のタイプに惹かれるものだよ。君だってジルベルト君のおかげで私好みに変わったじゃないか」それが良いことか悪いことかは別として、他人の顔色ばかり伺っていた自分の考えを口にできるようになったのは悪くないとは思うのですが・・・その手つきが問題だった。「あの、ノイ先生。胸は自前ですので」母もそうだったので、私もそういうものだと思っている。「ふむ、私や真君がセックスアピールに乏しいのは自覚しているが、君に手を出さないのは男としていただけないな」呆れているようなノイ先生の表情の中にもジルベルトさんへの親愛の情を感じ取ることができる。「あの、前から思っていたのですが、ノイ先生にとってジルベルトさんはどのような存在なのでしょうか」「弟のようであり、兄のようであるが、偶然出会って、話してみたら意外と相性が良かったということだろうな」確かにノイ先生とジルベルトさんは端から見ても見た目と実年齢は逆だが相性はいいと思う。そして、ジルベルトさんと父との相性も意外と良かったのだろう。でなければ、あのジルベルトさんが何度も会うはずがない「どうやら、私は父親に嫉妬してるみたいです」「何、愛憎は生きるうえでの糧だよ。それに親が生きているというのは良いことだ」そういえば、私はノイ先生の家族というものについて聞いたことがない。真さんはお姉さんと星修の寮に入っているし、ジルベルトさんの場合は、一人暮らしだが家族は健在だ。だが、私たちより年上というところもあるが、今までその辺りについて聞いたことがなかった。「ノイ先生のご両親は健在なのですか?」「母親は知らんが、父親は死んだよ。もっとも墓が大きすぎて掃除する気にもならないがな」墓が大きいということは資産家か何かで、ジルベルトさんや私のように反発して家を離れたのだろうか。「しかし、ジルベルト君もまた厄介な問題に巻き込まれていなければいいが」「いくらジルベルトさんでも政府レベルの問題に巻き込まれてることは無いと思いますよ。どうせ、私に対しての愚痴ではないですか?」どうやら、父は気に入っているようなので、結婚とかになると話は別だが交際は問題ないだろう。つまり、一番のライバルは目の前の彼女なのだ。でも、真さんを含めたこのぬるま湯のような関係も悪く無いと思っている。「アセンブラはメリットもあるけど、現段階ではデメリットの方が高い。特に地上での利用に関しては」それが目の前の青年の出す意見だった。「それはグレイデーを想定した場合かね?」「まあ、それもありますが、完成したら桐島さんはまず何に利用されると思いますか?」「・・・兵器だろうね」軍人の自分が言うのも変な話だが、最先端の技術というものは戦争に関わることが多い。というのも予算として認可されやすいというのも理由の一つであるが、発明した人物はただ発明した物でも使う人間によっては兵器として利用できることは歴史が証明している。「目視しながらアセンブラを起動して殺人の方法は有効です。後はアポトーシスをロジックに組み込めば完璧でしょうか。つまり、成功したらしたでそれに対する抑止手段を考えなければなりません。正直に言うと、面倒ですよね」「制御できればな」「最悪なのはとりあえず使える段階です。世に出すなら完成形で出さなければならないでしょう」ジルベール・ジルベルトは物事の道理をわきまえている人間なのだと私は結論を出している。意識しているのか無意識なのかは分からないが、答えを導き出す能力はどちらかと言うと非常時に有用な能力だ。ああ、そういえばタイプは違うが彼女も似たような人だったな。常識人だと思っている自分に新しい世界を見せてくれた彼女は、別の男性と結婚し既にこの世にいない。「では、君はどうすればアセンブラは日の目を見るることができると思う?」「まず第一段階としてアセンブラで宇宙開発、そして宇宙に移住して100年単位で浄化。まあ地下で暮らすっていう選択肢もありますけど、火星開発は閉塞感の打破に繋がりそうですよね」最後の一言は年相応の発言なのか、商品を紹介する際のメリットをアピールしたいのか判断に迷う。レインにその話をすればその辺も魅力だと惚気るのだろうか。「話は変わるが、最近レインはそのどうなんだね」「いえ、特にはといいますか、最近は桐島さんとこういう話をすることが多いので、余り会っていないんですよね」道理で最近機嫌が悪いのかと冷や汗をかく思いだった。「そ、そうか・・・若者の貴重な時間を不意にしてしまい申し訳ない」「いえ、若い女性と知り合ったのだってここ半年くらいの話で、俺的にはこっち側が楽で良いんですけど」「君くらいの年齢だと女性に興味がある頃だと思ったのだが、枯れてると言われないか?」「黙ってれば言い寄ってくる女性はいますが・・・中身が伴わない女性はちょっと」つまるところまだお眼鏡にかなう女性は居ないということなのだろう。「ちなみにジルベルト君として娘の評価は?」「そうですね、あと2、3年磨きをかければ宝石のように輝きますよ。ただ、友人として不幸な結婚だけはさせないことを祈ってますが」今更お世辞は言わないだろうから、3年後が勝負。それまでに誰かが彼の心を射止めた場合はレインには悪いがすっぱり諦めてもらおうと心に決めた。というわけでジルベルトワールド更新。特に意味のないガールズトークと野郎どもの語らいですが、それなりに意味があったりなかったり。ちなみに本編はあと6回くらいで終わる予定。次回以降登場人物が増えます。