それは水無月空とノインツェーンによる世界の刈り取り場。勝ったり負けたりをくり返しているが決定的な勝利はない。そしてその合間に水無月空は相談を受けることが多い。「私の胸を大きくしてください」「まこちゃん、人間できることとできないことがあるの諦めて」思いつめた表情の妹から出た突拍子もない発言に姉は優しく諭すことにした。「どうしてですか、ベースがスタイル抜群の甲さんのお母さんで、亜季先輩はもちろん、お姉ちゃんだって十分大きいんだから私だって大きくなる遺伝子はあると思うんです」「そう言われても、いいと思うわよ。胸が小さいとデザインも選べるし」何のデザインかは言わないのが花である。「これもノインツェーンの陰謀ですね」繋がっているノインツェーンから冤罪だという意識が流れ込んでくるような気がしたが無視する。「じゃあ、覗いてみる? ああ、モニター作るからそっちで見てね」呆れて物も言えない空は、ある意味仮想空間の支配者よろしく虚空にモニターを作り出した。3、2、1と古き良き時代のムービーよろしくカウントされ、そしてタイトルが現れた。『水無月真における微成長記録』「な、何ですかこの悪意あるタイトルは?」「ああ、別に私がやったわけではなくてエージェントが担当世界の門倉甲の深層心理を読み込んで適当なタイトルを付けただけだから」「それはそれで酷いじゃないですか」「それはこっちにいる甲に文句を言えば? 大本は同一人物だし。ああ始まるわよ」後でブチギレた妹が甲を壁に追い込んだ上で胸倉を掴みながら、10分近くも泣きつつ問い詰めるのかなと思いながら映像を続ける。便宜的世界5とラベルが貼られたこの世界。平和かどうかは別として、自分たちの周りは少しだけ穏やかになって、久しぶりに従姉妹である亜季の元を最愛の人と訪れた帰りのこと。甲は恋人である水無月真が不機嫌な顔をしていることに気がついた。何か気にくわないことでも言ったのかなとさりげない話を振ってみるが何も話さない。困り果てた甲の横でかわいらしい口から出た言葉は彼の予想外だった。「甲さん、この間亜季先輩の胸元を見てニヤニヤしてた」「そ、そんなことないよ」その発言に冷や汗が流れるがなるべく正常な口調で否定した。確かに、リアルでも少しずつ頑張るようになって栄養と適度な運動(といっても普通に行動しているだけとも言うが)をした従姉妹の一部分はさらなる発展を遂げていた。具体的に言うと前より揺れる。疲れたからおんぶを要求され、仕方ないから背負ったのだが、何というか格別だった。そういえば急いでいたから付けてなかったとか。何をとは言わない方が幸せである。「私の胸が小さいから、いつか私を捨てて亜季先輩の胸に行くんだ」「俺は真ちゃんの手にフィットする感じの胸も好きなんだ」「大きいのと小さいのとどっちがいいんですか」「いや、大きいのも小さいのも人それぞれだから」「私は甲さんの好みを聞いているんです」ジリジリとにじり寄る恋人に甲はたじたじで、脳裏には学園時代の空を見ることができる。ああやっぱり空の妹なんだなあと変な納得をしつつ打開策を考えていた。「俺は小真ちゃんの胸が好きなんだー!」「甲さん」「真ちゃん」勢いよく力一杯抱きしめて、これで機嫌が治ってくれたかなと思ったのもつかの間。「じゃあ、亜季先輩の前で大きな胸は嫌いなんだって言ってくれますよね」小悪魔は突然理解不能なことを宣った。「え?」「甲さんは私の胸さえあればいい。そうみんなの前で言ってくれますよね。そしてピーして、ピーしてするのは私の胸だけだって言ってくれますよね」「あの真ちゃん?」「あの無駄に大きな脂肪の塊をもみしだいて、ペシャンコにして塩をぬりぬりして腫れ上がれさせて使い物にならないスクラップにしてやりたい…!」「落ち着くんだ真ちゃん」「この世界はまやかしで、本当の私の胸はお姉ちゃんに負けないくらい大きなはずなんです」「この世界が現実なんだよ」甲は決意した。この世界の平穏を守るために夜な夜な頑張って愛する人の胸を大きくしようと。巨乳弾圧の宗教団体なんて作られたらたまったもんじゃないし、ナノマシンで胸を大きくするとかやりかねない。料理が上手で、仕入れた知識が豊富なのか床も上手な彼女だが、こと胸のことになると恐ろしかった。巨乳の為にアセンブラを利用された日には、自分たちの師も草場の陰で泣いてしまうだろう。甲は子どもができれば胸が大きくなると頑張ったが無理だったときにノインツェーン陰謀説を立ち上げるのは別の話。世界0「ねえ、まこちゃん」「何でしょうお姉ちゃん」「私だって思うのよ。自分の料理の才能のなさは、デザインした段階で決まっていて努力じゃどうにもならないんじゃないかって」「も、もしかして料理したんですか」「料理で部隊が作戦行動不能になってからもう諦めたわ。合成食材でも貴重だもんね」さらに仮想の食材調理で戦闘不能にできるなら兵器転用した方がいいんじゃないかといった生き残りの部下であるRさんは証言する。ちなみに彼女は努力次第で料理は作れるようになっていることが別世界での統計で判明している。「で、でもそれと私の胸は関係ないじゃないですか」甘いわねと前置きをして、姉は告げる。「私の料理ですらこれなんだから、肉体的な部分なんてものそれじゃない?」「じゃ、じゃあエージェントの力で私が生まれる前から干渉を」「私ができるのは灰色のクリスマス以降よ。そんなことできるなら前段階でノインツェーンを倒しているわ」「お姉ちゃんってあんまり役に立たないんですね」「久しぶりに会った姉に対する返事がそれ? まこちゃん私にケンカ売ってるの?」なにげにこの姉妹は沸点が低かった。そこからやれ天災料理やら腹黒とか低レベルな口げんかが続くが割愛。「そういえば私達ってケンカらしいケンカしたことなかったわよね」「私もお姉ちゃんも遠慮してましたからね」一瞬の沈黙の後、姉妹は声を上げて笑い出す。「今日はもう帰ります。また来ますね」「うん、待ってる」ここはサイバースペースの終末。全時空の未来が定まる所。そこで懸命に生きる少女の他愛の無い物語がまた一ページ。考えてみればみんな最低でも20代半ばから後半位なんだよね。水無月真16歳、オイオイ的な。お見合い頑張ります。そしてお見合いが終わったら、適当に本編物語バルドスカイオルタネイティヴを始めるんだ(嘘)