空に抱かれて眠っていたはずの俺は、気がついたら再びあの場所にいた。「中尉、ご無事ですか?」「あ・・・ああ俺は無事だ。他のやつらは?」レインの声が聞こえる。確か俺達以外は全滅のはずだが、聞かないと変に思うだろう。だが返答は俺が予想した物と全く異なるものだった。「イージスを展開に成功した人たちは無事です。今は大尉が撤退の指示を取っています。周辺は・・・さんが索敵しています」さっきのEMPの影響で突入した人員は俺達以外全滅だったという事実と違う? それに大尉って誰だ? そしてアラートと共に白と赤をベースにし、弓形の武器を持つシュミクラムが近づいてくる。俺はこの独特のフォルムのシュミクラムを操るやつを知っている。「甲! 無事みたいね。アイツに任せていた部隊の人員は撤退したわ。後は私達が撤退すればいいけど、かなりのウィルスが展開されていて・・・」「空?」「何よ」何故、空が水無月空がここにいる? 混乱する俺の思考を止めたのはレインからのコールだった。「大尉より連絡。撤退ルートを確保したから早く来いとのことです。連絡事項は作戦終了後のブリーフィングでお願いします」「了解、甲、あんたさっきの影響で調子悪そうだけど戦える?」「あ、ああ」その後、何も分からず俺は『二人』に誘導されてログアウトし、目が醒めたら車の中だった。「おうリーダー、あんたも無事みたいだな。まあ俺達は運が良かったんだろうな」周りを見ると脳死した人間が何人か居た。「そうだな・・・」「ま、これ絡みで美味しいなら俺はいつでもはせ参じるから、大尉殿に交渉しておいてくれ」大尉って一体誰のことだ。「期待している」男が去った後、入ってきたのはレインと■だった。「目覚めるのが遅かったから心配したわ。電子チップに影響が無いか見て貰った方がいいかもね」「甲中尉、今日の作戦を覚えていますか」「ドレクスラー機関の連中が持ち込んだと思われるナノを追うのと、久利原先生の足取りを追う?」二人は心配そうに見ていたが、俺の言葉を聞いて安心したようだ。しかし、この世界はどうなっているんだ。何故俺と空が同一に存在している?「中尉、無事そうで何よりだ」黒い軍用コートを着た赤髪の男が入ってきたことで混乱に拍車をかかる。「大尉、中尉はどうやらEMPの影響で記憶に混乱が見られます。一度確認をした方がいいかもしれません」「そうか・・・この辺りだとドクター・ノイの所だな」混乱する俺を『大尉』は怪訝そうな顔をして一瞥する。「・・・仕方無い、俺も付いていこう。少尉は生存者に追加報酬、それと死亡者に対しては受取人が居るなら受け取れるように」「了解」俺はこのクソッタレな世界で大切な人たちを救う。それが俺達(かどくらこう)の願い。だが、現実は突きつけられた銃だ。「単刀直入に聞こう。お前どこから来た門倉甲だ」銃を突きつけている大尉。知っているが余りにも俺の知るあの男と乖離している。「・・・何の話だ 俺以外に門倉甲がいると?」「ジルベルト君、彼―門倉甲君は大規模なEMPの影響で脳内チップが破損している。一時的な記憶障害だと思うが」ジルベール・ジルベルトと名乗る男はまるで世界の全てを嘲るように笑った「・・・ドクターノイ。ノインツェーンの娘。特殊な技能として他のNPCやシュミクラム、電子体に憑依することができる。『俺』の持っている知識だが、あなたは生い立ちはともかく後者について知っている人間は?」ノイ先生が驚愕し、首を横に振る。「何故君がそれを知っている」「こことは違う未来を歩んだであろう並行世界。バルドルの中で『アイツ』と『あなた』がした会話を聞いていた。仮にノインツェーンと同程度の情報量を操作できるなら、同位体のデータをダウンロードさせるくらい簡単にできるはずだ」こいつは俺の知っているジルベルトじゃない。俺の知っているジルベルトっていうとプライドが高くてずるいが残念な悪役だ。「はっきりと言っておく、俺達が知っているのは灰色のクリスマスの後に再会した水無月空と大衆の面前で接吻かました映画に出てくるような男で、お前じゃない」そして俺の胸ぐらを掴んで吼えた。俺には彼の言葉に反論することはできない。「お前が事故でそうなったのか、意図的にそうなって成り代わろうとしているのか俺は知らないし知りたくもない。だが、お前は門倉甲を殺した。この部隊を統率する身としてはどの段階でそれを伝えるべきか躊躇している。桐島少尉については俺から説明するが・・・水無月中尉は多分3時間も一緒に居れば気付くだろう。俺ですら違和感を覚えたのだから四六時中一緒にいる彼女が気付かないはずがない。それを一時的な記憶喪失でどこまで誤魔化せるか」「・・・どうして違うと思うんだ」「神父と戦う上で一番怖いのは、自爆を厭わない狂信者ではなく侵食だ。だから作戦前と作戦後で電子体に異常が無いかチェックする。加えて俺はゆらぎ・・・これは俺の感覚的なものだが。まあ人間って目を見ればだいたい分かるしな。ドクターここタバコ駄目「駄目だ。ここで吸って良いのは唇と乳と陰茎だけだ」・・・あんたもぶれないなあ」紙コップの注がれたコーヒーを飲み干し俺を見た。「俺達の知る門倉甲は戦士だが墜ちていない。正義なんて人の数だけあるが、それでも灰色のクリスマスの悲劇を繰り返さないために、何より久利原直樹を救うために動いている」「先生のことも知っているか。つまり神父との関係も」「俺が知っているのはノインツェーン内にいる本体の神父だが。生きて罪を償うという段階をとうに過ぎているから俺は殺した方が後腐れがないし本人の為にもいいと思っている。だが、門倉甲と水無月空は救えるなら救いたいと言っていた。こんな世の中でお人好しだと思うが、だからこそ俺が悪意から守ってやらないとダメだ」よく分からないがこいつも俺と似たような立場の違うジルベルトなんだと気付いたとき、この世界は救いは必要無いことを理解した。「教えてくれ、お前が助けたのは俺か、空か」「水無月真の姉の方だ。お節介だとは分かっていたが助けた」その言葉にこいつは真ちゃんに借りか何か知らないが手を差し出すに足る理由があるのだろう。「お前は俺の知るジルベール・ジルベルトではない。俺は世界0のコウと呼ばれるシミュラクラが別世界の俺達の情報を収集、統合した存在・・・」そして復讐者で自分の為に自分を殺したエゴイストだ。「でどうするのかね。電子チップの復元なら私の専門分野に引っかかるが、上書きされた記憶、それも電子化されたデータを弄るとなるとそれこそあのクソ親父クラスのキチガイじゃないと無理だぞ」「門倉甲と水無月空に関しては保険があるから大丈夫だ。また上書きになっちゃうのが問題だが、この仕事の直前だったのが幸いだったな」「どういうことだ?」「シミュラクラだったか。そこに二人のデータのバックアップを入れてある。コストの問題があるから難しいそうだが、クローニングさえできれば、本当の意味で個を継続させることができる。電子体のバックアップを使った不死という発想は無かった」聖良おばさんが方舟計画を実施しようとしていたのは知っていたが、シミュラクラにデータを保存する? それは空とクゥが融合したような。「つまり外付けにデータを移し、必要に応じて復元する。古典的ではあるが電子体でそれをやるというのは些か乱暴なのではないかね。それに人一人の情報量というのは多い訳ではないが完全にコピーするとなるなら別だ」「まあそれについては俺も一枚噛んでいる。アイツほどではないがそれだけに集中できるなら問題無いだろう」アイツとは誰のことだ? 聞こうと思ったが苦々しい表情を見て思いとどまった。「俺はアイツやドクターノイみたいな異能(バグ)でも、橘聖良や西野亜季のような奇才(マッド)でも、お前や水無月真のような腕利き(ホットドガー)でもない。だが、同じ舞台に立たなければ俺が強い。どれだけ経験を積んでもセカンドは最終的にネットを前提にする。肉体を捨てた神父も同様だ」そして最後に一言を付け加えた。「現実世界(リアル)を蔑ろにすれば足を掬われることを世界に刻みつけてやる」残念だけどもう少し続きます。KOUさんが最強なのはネットだけ・・・デザイナーズチャイルドという高スペックが軍隊格闘技を収めると、スペックが半端無く上がり、現実で学んだそれはネットにも反映される。トラップ使いは近接に弱いという定説を信じて近づいたら「二の打ちいらず、一つあれば事足りる」的な一撃を食らって落ちた敵は数知らず。とまあ、それでもまだ満足しておらず後10年も修練続ければ多分最強の戦士になるんじゃねと本人は思っている。深手を負ったら分身する? 一撃で沈めれば問題無い。そんなこんなでDIVEXも次回で完結。ニトロ的剣士と拳士の戦いが始まるよ。すみません、ただ私がやりたいだけなのですが次回は多分3月になりそうです。DIVEXが終わったらグランドフィナーレでスーパージルベルトワールドは完結です。救世主物語はクロスオーバーなので長くても後2回ですが別枠扱いとしてやります。後はその他板に加筆修正したものをアップしていきますが、おまけとして一本上げます。アンケートみたいなものですが、一人一回、グランドフィナーレ投稿までで一番要望の多かった物をあげます。同率あるいは接戦になった場合は二本目あげます。①レインEND 「いつになったら手を出してもらえるんだろう」。何とか勝ち取った彼女の座だが、付き合いはじめて2年経って手を出さない彼氏に自分は魅力が無いのかと不安になるレイン。「押し倒しちゃうべきよ」という自分より若い母からもらった薬を手の中に秘めレインが思うのは。②真END 世界を結果的に救ったジルベルトが選んだ道は科学者でも軍人でもなくカウンターとテーブル席が2つしかない料理屋のオーナーシェフだった。傍らにはお店のマスコット兼妻となった少女と・・・「お義姉さん、いい加減立ち直って下さいよ」。それは結婚できない姉(いきおくれ)と胸が大きくならない妹(ぺたんこ)とその旦那(くろうにん)の物語である。③若葉が色づく日 如月寮でフラグを立て続けた男、門倉甲。彼を手にできるのはただ一人、ゆえに彼女らは最後の一人となるまで互いに陥れ合う。幼馴染みというポジションでありながら中々関係を進められない若草菜ノ葉。増え続ける女性。そして彼女は七夕の日に想いを告げる。①はラブコメ、②はギャグコメ、③はシリアス話です。いや読者が望むのが何番かは何となく分かっていますけど・・・読んでくださっている方への感謝の気持ちですから一応選択肢は必要ですよね。④その後の彼氏彼女DIVEXの後日談というか、気遣いができる割に不器用なジルベルトとそんな人間を微笑ましく思うレインさんのBittersweetな日々⑤佐藤さんと白鳥さん転生者とか憑依者とかそんなジャンルが隆盛を究める昨今、「責任取ってくれるわよね」とかニヤニヤ笑いながら裸でにじり寄る白鳥さん(死亡年齢27)。これはノーマルエンド後の良くありがちな物語な訳がない。