「息子だったら甲、娘だったら美海にしましょう」「しかし、お前似の娘なら嫁に出す条件として俺に勝てる男じゃないと認めない」そう、それは誰かの記憶。「そう、でも性格は永二さん似の方が好きになれそうかも。性格まで私似だったら聖良が養子にするとかいいかねないし」「そんなことしないわよ、でも八重さん似の男の子なら婿に」「おいおい、聖良さんも体面とか気にしてくれよ」記憶の欠片。「私が抑えている間にバルドルを止めて」「八重!」そして私のデータ(記憶)は電子の海に解き放たれた。「誰だ!」かつて自分が暮らしていた都市の崩壊を目の当たりにした門倉甲が、悄然として公園にいると足音が聞こえてくる。艶やかな黒髪をお下げにした10人中8人はかわいいと判断できる少女がいた。「こんにちわ兄さん、久しぶりと言った方がいいかな」年の頃は18歳前後、身長は背は160くらい位だろう、彼女が来ている服装は甲もよく知っているが、あいにく彼女そのものに記憶はない。「生憎、君見たいな女の子に記憶は無いんだけど、聞かせてもらってもいいかな」少女の思案は10秒だったのか1分だったのかは不明だったが、彼女の口から出て来たのは衝撃的な一言だった。「門倉美海、あなたの妹」「まさか、親父の隠し子?」年齢から逆算すれば自分の母と死別した後の子どもと言われても違和感はないだろう。「永二父さんとは血縁関係は無いよ。できればその辺も踏まえて家族で話し合いたいのだけど」彼女の服装は門倉運輸のもの、つまり彼女はフェンリルの一員であるということだ。「親父は俺に何をさせたいんだ?」「情報の整理かな。例えばアセンブラだったり、ドミニオンだったり」「分かった、とりあえずは信用しよう」アセンブラやそれに関わりがあるとされるドミニオン教団の情報は貴重だった。その為なら父親との確執は目を瞑るべきだと甲は思っている。それに目の前の少女について問い詰めなくてはならない。「では、申し訳ないのですが、相方さんを下げてもらえませんか? 私は電子戦特化スタッフなのでシゼル先輩みたいに撃たれても死ななかったり、モホーク先輩みたい撃ってから交わすなんて芸当は無理ですので」「レイン!」しばらく後、木陰から甲の相棒である桐島レイン少尉が近づいてくる。「よく、分かりましたね。気配を殺したつもりだったのですが、もしよろしければ後学のために察知した方法を教えていただけないでしょうか」「セカンドは常時接続状態なので、そこから逆探知すれば簡単です。大まかな位置がわかれば逃げることは可能ですから」セカンドの人口はそれほど多くないとしても、そんなことができると聞いたことがないとレインは思う。そういった意味では彼女の異常さを垣間見た気がした。「よろしくお願いします、桐島レイン少尉」「こちらこそよろしくお願いします門倉美海中尉?」あと彼女の胸元にある徽章を覗くとそれは自分の持っている少尉ではなく相棒である甲と同じ中尉であることを現しているので驚きを隠せなかった。「私の方が年下だから美海って呼び捨てでいいですよ。私の階級なんてお飾りみたいなもんだし」「で、では美海さんでよろしいでしょうか?」「うん、私もレインさんって呼びますね。女性の知り合いはシゼル先輩とノイくらいだから女性の友達が増えてうれしい」不意に抱つかれてレインがあたふたするシーンもあったが、甲はなぜかお姉様と妹という訳が分からない単語が浮かび、その妄想を消すのに必死だったことを追記しておこう。「おう坊主久しぶりだな」「親父。あれは誰だ?」「詳しい事情はまだ話せないが、八重の親戚みたいなもんだ」「面倒だから言ってしまっても構いませんよお父さん」「美海・・・いいのか?」「ただ、レインさんは下がって欲しいですね。身内の話なので」「では、私は別室におりますので」「甲は俺が南米虐殺事件のことを知っているな」「そりゃな、まあ全てが真実だとは思ってないが」「彼女はその時の被験者の生き残りだ。八重のDNAマップを使っているからクローンではないがそれに近い存在だと思ってくれ」「どうしてそこに母さんが出てくるんだ」「あなたのお母さん、まあ遺伝的に私の元になった人物は、あるプロジェクトに関係していた。遺伝子を鍵と見た研究機関は門倉八重を元に色々なパターンの被検体を作った。その一人が私、まあ、あの時点で生き残ったのが後2人いて、灰色のクリスマスが原因で一人死亡したから生き残り二人が鍵の素質があるというところ」「俺が助けられたのは美海が言う二人だけだった。後は証拠隠滅に全部吹き飛ばしやがったからな」「私は別の研究グループだったから何とか生き残ったってところです。もっとも、携帯食と最低限の衣服しか着てない状況だったから、色々苦労しましたけどね」甲はその苦労を聞くつもりはなかった。女が生きる術を得るためにできることを世界中旅している時に知ったからだ。「別に体なんか売ってませんよ。身元が身元なので戸籍をハッキングして作って、アンダーグラウンドで資金転がしながら身寄りになりそうな人間探すのに彷徨っていただけですから」(それはそれで酷い生き方な気がするのはなぜだろう)口にはしなかったが、その破天荒っぷりは叔母である橘聖良を彷彿とさせる。そう思えば、彼女は身内だとして接することができると甲は思った。「それで、アセンブラとドミニオンについて教えてもらおうか」第一段階 アセンブラの暴走第二段階 AIのグングニールの制御による広範囲のなぎ払い第三段階 神父の復活3つがホワイトボードに書かれる「研究者の残したアセンブラの数式を見る限りでは、増殖を加速するプログラミングがされていました。聖良さんもその点は同意しています。そしてグングニールの当初の照射範囲内ですと、20%くらい残ってしまいます。そこで慌てたAI群は独自の判断でコントロールを奪取して広範囲なぎ払い。まあ、そのせいで死んだ人もいるのですが、AI群は功利主義というか効率を重視するところがあるから仕方ないですね。そして神父が復活しました」「神父ってドミニオンの神父って死んだんだろ。二代目か何かか?」「原理は分かりませんが、電脳上の神父は死にません。初代神父はお父さんが殺してますけど、可能性としてはウイルス的な何かで電子体を乗っ取ったというところでしょうか? 極端な話、外側と内側が同一というのは私たちの常識であって、絶対的なロジックではありません」電子体は偽造できないという常識がいつ頃から確定したかは分からないが、過去に於いてはイタチごっこであったものの、AIの発達によって観測されるというルールが加わった。それによって隔離された空間においてはともかく、共有スペースとしての仮想での偽装は困難になったと思っていい。加えて言うのであれば、常識をすべてねじ曲げることができるなら偽装することは可能であるが、現実的ではない。「ドレクスラー機関の誰かが神父である可能性は高いのです。甲兄さんは心当たりがありませんか。たまに人格が変わったりした人物とか」甲には心当たりが1人だけあった。「久利原直樹、俺の恩師だ」基本的にこんな分岐は嫌だは毎回がある種の嘘企画である。まあプロットらしきものはあるんだけど、今回の主人公である美海さんは電子戦特化の人なのでアクションがないというか、謎解きものになる。元ネタは「.hack AIバスター」。失われた記憶を探し求める兄の甲と、失われたデータを取り戻すために動く妹美海さんの門倉兄妹の提供でお送りします。まあ正体はバレバレなんだけどね。地震で被害自体はないんだけど、自律神経が上手く働いて無くて生活に支障が出るレベルではないが、何となく怠くてジルベルトの方の改訂版ができてなかったりする。現在アフター3制作中。アフター2の後編は時系列に合わせて3の後に来ることに。