ただ、その後ろ姿に目を奪われるしかなかった。すれ違ったのは一瞬だったのに、鮮明に思い出せるほど、その姿は印象的だった。
白。
色で例えるなら間違いなく白だろう。身に纏っている上着の色であるが、それ以上に女性自身の雰囲気にこれ以上ないほどに合致している。紫のロングスカートも加えて決して煌びやかな服装ではないにもかかわらず、完成された一枚絵のよう。
それが、琥珀が初めて見た金髪の外国人女性、真祖アルクェイド・ブリュンスタッドの姿だった――――
――――気づけばわたしはベンチから立ち上がっていた。そのまま呆然としたまま彼女の後姿を見つめているだけ。知り合いではない。赤の他人。喋ったことも、見たこともない。確かに外国人は珍しいが、そこまで気にすることなどあり得ない。姿でいえば、着物姿の自分の方が視線を集めるだろう。それでもわたしは、その女性から眼を話すことができなかった。
金髪の、外国人女性。
それはいつか、彼が口にしていた女性。彼によれば道でぶつかって怒らせてしまったことがあると言っていた女性。彼女に出会いたくないがために、自分に見かければ教えるように念を押す程に彼が接触することを忌避していた存在。
何故それだけでそこまで怖がる必要があるのか。本当は何か別の理由があるのでは。自分と買い物に行きたくないからついた嘘なのではないかとわたしは思っていた。だがそれはある時、確信に変わった。
奇しくも場所はこの公園で。自分の話を聞いていない彼へとちょっとした悪戯。金髪の外国人女性がいると嘘をついた時、彼はそれまで見たことのないような反応を見せ、狼狽していた。まるで自らの命が危機にさらされているかのように。
結局、彼にとってその女性がどんな関係であるかは確かめることができなかった。でも、間違いなくその女性がいることだけは確かだった。
そして今、自分の前を通り過ぎた女性がまさに、彼が口にしていた容姿と一致する。偶然か必然か。彼はここにはいないものの、自分が彼女を見つけてしまった。
(あの人がそうとは限らない……でも、もしかしたら……!)
だが、確証はない。確かに、容姿は一致しているが彼女がそうとは限らない。常識を考えれば、人違いの方があり得る。そもそも、本当にそうだとしても自分はどうするつもりなのか。彼は、その女性を恐れていた。それは間違いない。なら、彼女が彼の居場所を知っているわけがない。
「あの……!」
なのに、知らず体が動いていた。そのまま、彼女を追いかけていた。藁にもすがる思いだったのだろう。彼の居場所が分からない。手掛かりすら掴めない。八方ふさがりの現状。それをどうにかしたい一心で、あきらめることができない一念でわたしは彼女の声をかけた。だが
「…………」
その声は女性に届くことはなかった。背中からとはいえ、声をかけたのに彼女は全く反応しない。歩みの速さも全く変わらない。一定のリズムで、無駄のない動き。なのにどこか優雅さが感じられる矛盾。もしかしたら自分に声を掛けられたと思っていないのかもしれない。
「――――すいません、ちょっとお聞きしたいことが」
息を弾ませ、何とか駆け足に先回りし、彼女の前へと出る。これなら、気づかないことはないはず。無視されているにしても、どうしようもないはず。でも、そんなわたしの考えは
正面から彼女と向かい合った瞬間に、停止してしまった。
「――――」
言葉を失っているのはわたしだけ。もう、自分が何を口にしようとしていたのかすら分からない。それほどに彼女の姿は異常だった。
美しい。黄金の金髪に血のように朱い瞳。完璧な造形を思わせる美貌。同じ女性である自分から見ても見惚れてしまう程、彼女は美しかった。だが、それだけではない。それだけであったなら、ここまで我を失うことはない。ただ違うのは
――――彼女が、全く自分を見ていなかったから。
端から見れば分からない差異。でも、わたしには分かる。瞳はわたしを映しながらも、彼女は全くわたしを見ていない。意識していない。気づいていない。
声も同じ。目の前にいるわたしの声も、きっと彼女には聞こえていない。届いていない。
ただ思った。
――――まるで人形のようだ、と。
彼女は全く自分を意に介することなく、わたしの横を素通りしていく。一言も発することなく、目を向けることもなく。道端に落ちている石を誰も気に留めることがないように、神が人を気にかけることがないように。ただ彼女は去っていく。機械のように、無駄なことを何一つ知らない白い人形。
わたしはただ、その場に立ち尽くすしかなかった。頭にはもう自分が何をしようとしていたのかすら残っていない。ただ、目を奪われていた。何故ならわたしは知っている。見たことがある。彼女の姿が、重なる。
(今のは……まるで……)
屋敷を出て行く時の、彼の姿。八年前、初めて会った彼の姿。何も見ず、何も聞かない。ただ人形のような在り方。
違うのは、彼が何かによって摩耗し、そうなったのに対して、彼女はまるで最初からそうであったかのようだったこと。使い古されたビデオテープと新品のビデオテープのように。結果は同じでありながらも過程が真逆の二人。
わたしはそのまま、しばらくその場に留まっていたもののすぐに動き出した。言うまでもなく、彼女の後を追うために。
そこに明確な理由はなかった。ただ何となく、というしかない。彼女が彼のことを知っているかもしれないというのももちろんある。それを問いただしたい。でも、それ以外のよく分からない感情が、予感がある。
彼女は、自分と同じかもしれない。そんな感覚。
八年前、初めて彼と出会った時に感じた感覚。それが、先にあった。同時に、惹かれていた。彼女は、わたしや彼とは違う。何かが違う。もしかしたら、彼女なら彼との約束の答えを得ることができるかもしれない。
人間の振りをしている人形と、人形の振りをしている人間。そのどちらが正しいのか。それとも、どちらでもない答えがあるのか。
そんな理解できない、気が触れたと思われてもおかしくない感情に後押しされながらわたしは彼女の後を追って行く。もしかしたら、もうわたしは壊れてしまっているのかもしれない。彼がいなくなってから、自分で自分が何をしているか分からなくなる。今までは、何も感じなかったのに、演じている以外の『琥珀』がいる。
熱に浮かされたように、わたしは彼女を尾けていた。話しかけることもなく、ただその後を。端から見ればただの異常者。それでも気配を消しながら、姿を見られないようにしながら歩く。まるで光に寄って行く虫のように、自分と同じ仲間を探しているかのように。
(…………何をしているんでしょうか、わたし)
公園にいた時と同じ思考をしながら、ようやく足を止める。気がつけば公園から随分離れている。このまま彼女に付いて行っても意味はない。そもそも何故彼女に付いて行こうと思ったのか。もうやめよう。これ以上続けても、よくなることはない。でも、あきらめたらもう彼とは会えないかもしれない。あきらめたくない。ならどうすればいいのか。そんな思考の牢獄に囚われていた時
(…………え?)
唐突に、彼女の動きが止まった。今まで淀みなく、歩き続けていたリズムが止まる。同時に、彼女は視線を上に上げる。そこにはマンションがある。どうやらそこが彼女の家らしい。なら、自分も早く決断しなければ。彼のことを尋ねる機会が失われてしまう。でもわたしが動くよりも早く
彼女は振り返り、そのままわたしの方へ向かって歩き始めた。
「――――」
わたしはその場で金縛りにあったように身動きができない。彼女が近づいて来るのをただ待つことしかできない。あるのは本能に近い思考。逃げなければという思いのみ。
でも分からない。どうして逃げなければいけないのか。確かに後を追っていたのは悪いことだが、悪意があってのものではない。そもそも彼女がそれに気づいていたかも怪しい。なのに、わたしの中の何かが告げている。人形のはずなのに、人形であっても逃れられないもの。
逃ゲロ。
わたしではないわたしが告げる。そこから離れろと。アレから逃げろと。だけど、足が動かない。蛇に睨まれた蛙のように。みっともなく、呆然と眺めていることしかできない。一歩、また一歩と彼女が近づいてくる。表情は全く先程と変わらない。美貌を持ちながらも、人形のように無表情。いつも笑みを浮かべている、笑みしか浮かべることができない自分とは違うもう一つの形。
さらに違うのは、彼女がはっきりとわたしを見据えていたということ。間違いなく、わたしに向かって彼女は向かってきている。先程までは意に介していなかったにもかかわらず。それはつまり、今のわたしは、彼女の行動理由に引っかかってしまったということ。
そのまま彼女はわたしの前で動きを止める。互いに見つめ合うことができる距離。逃げることができない間合い。そこで、ようやくわたしは悟る。
何のことはない。目の前の彼女は、文字通り自分達とは違っていたのだと。
瞬間、彼女の眼が見開かれる。同時に、瞳の色が変わる。光を放つように瞳は深紅から金色へ。魔性を感じさせる瞳によって、私は魅入られる。何かがわたしに入ってこようとしているが、それが何なのか分からない。奇妙な感覚。思い出したのはいつかの彼の瞳だった。そういえば、彼の瞳も彼女と同じように光っていたと。蒼い双眼。色は違えど、そんなところも、どこか彼女は彼に似ていると。そんなどうでもいいことを考えていると
「――――?」
初めて、彼女の表情に変化が生じた。変化というには小さすぎる揺らぎ。でもわたしには分かる。目は口ほどに物を言うとまではいかないまでも、金の瞳でわたしを見つめていた彼女は何かに気づいたように瞳を細める。まるで、何か予想外のことが起きたかのように。既に瞳の色は深紅へと戻っている。同時に感じていた違和感も消え去る。一体何だったのか。それを考える間もなく、今度は彼女が先に動きだす。
それは手だった。彼女の手がゆっくりと上がって行く。白く、美しい手。思わず見とれてしまうような所作。だが、同時に同じほどの危うさを、不吉さを感じさせるもの。それが何を意味するかなど考えるまでもない。もう、後はない。
もう出来ることは何もない。直感、本能。ヒトではない何か。それが目の前の彼女の正体なのだと。魔と呼ばれるものをわたしは知っている。だが、そのどれとも違う。人と混じっている紛い物などではない。正真正銘の、ヒトならざる高み。それを前にして何もできることはない。
怖くはない。怖がることはない。わたしは人形だから、壊れるだけ。速いか遅いかの違い。このままゆっくり壊れて行くなら、ここで壊れても変わらない。ゼンマイを失ったわたしにはもう何もない。なのに、どうして――――
「あなたは……志貴さんを知っていますか……?」
この瞬間に、そんな言葉が出てくるのだろう。もしかしたら、自分の生死よりも、そのことの方が、わたしにとっては大事だったのかもしれない。
瞬間、わたしに向けられんとしていた手の動きが止まる。機械仕掛けの人形が止まってしまうように。理解できない何かが起こってしまってショートしてしまった機械のように。
「…………シ、キ?」
彼女はたどたどしくその名を口にする。否、それが名前であることすら分かっていないのかもしれない。ただわたしの言葉を反芻しただけ。その声も、発音もまるで機械のよう。まるで初めて言葉を喋ったかのように、そこには生まれたばかりの赤ん坊のような矛盾があった。
「はい。目を閉じている男の人なんですけど……知りませんか? あなたともしかしたら、ぶつかったことがあるかもしれないんです」
「…………」
先程までの、生死の境にあったはずの緊張感は既にない。それを忘れてしまうほど、今の彼女には何もない。ただ、まるで自分が喋ったことに驚いているかのように黙りこんでしまう。
それがいつまで続いたのか。彼女はそのまま踵を返し、そのまま去っていく。言葉をはすることはもうない。もしかしたら先程言葉を発したのが聞き間違いだったのではと思うほどに。わたしは、彼女がそのままマンションに入って行くのを見つめながらもそれ以上声をかけることはできなかった。それは身の危険を感じたからではない。もっと違う、既視感に近いものを先程の彼女の姿に見たから。
八年前、わたしが彼と出会って何かが変わってしまった時のように。
それが琥珀とアルクェイド・ブリュンスタッドの初めての邂逅の終わり。そして彼女にとっての始まりだった――――
「…………ふぅ」
溜息を吐きながら、わたしはようやく遠野の屋敷へと戻ってきた。時間は昼の二時頃。夕方に戻ってくる予定で、早めに帰ってきたはずなのに何故かもうくたくただった。収穫はほとんど何もなし。それどころか危うく命を落とすところだった。今思えば、正気を疑うようなやり取り。今になって、知らず汗が出てくる。でもそれが既におかしい。わたしはそんなことを気にしたりしなかったはず。死ぬのは嫌だけど、そのことで動揺したりはしないはず。今までのわたしなら、そんな自分を客観的に見つめることができたはず。なのに――――
「……あ、翡翠ちゃんただいま。お仕事はもう終わった?」
そんな思考を断ち切るように、玄関で翡翠ちゃんと出くわす。翡翠ちゃんも一瞬驚いたような顔をするものの、すぐにいつもの表情に戻ってしまう。彼も、秋葉様もいないのに使用人としての義務を怠らない妹らしい対応に少しだけ心が落ち着いたような気がした。
「姉さん、早かったのね。夕方に戻ってくるんじゃなかったの?」
「はい。でも、思ったよりも早くお買い物が済んじゃったんです。時間もちょうどいいですし、ちょっとお茶にしましょう」
ぽんとてを合わせながら翡翠ちゃんを休憩という名のお茶会に誘う。買い物はしていないけれど、お茶菓子ぐらいはある。時間的にもちょうどいい。何より、早くいつもの琥珀に戻りたかった。琥珀なら、そうするだろうという行動を取ることで安心したかったのかもしれない。でもそれは
「ごめんなさい、姉さん。わたしはこれからお部屋の掃除があるから」
翡翠ちゃんの理解できない返事によって断られてしまった。
「……お部屋の掃除ですか? でも、もうお昼ですよ。いつもならとっくに終わってるじゃないですか」
「……何を言っているの、姉さん? 部屋の掃除はこれからするわ。だからお茶はその後にするから」
「翡翠ちゃん……?」
そのまま翡翠ちゃんはてきぱきと慣れた手つきで掃除道具を手に出て行ってしまう。でも、おかしい。だってもうお昼すぎ。いつもなら翡翠ちゃんは掃除を終わらせているはず。朝も、わたしが出かける時から掃除道具を手にしていた。一体何があったのか。
(……やっぱり、ここも掃除は終わってる。どうして……)
急いで部屋の廊下や手すり、お部屋の様子を確認する。そこには埃も汚れもない。間違いなくつい先ほど人の手が入ったのが分かる程。でも、何度声をかけても翡翠ちゃんは聞く耳を持たない。その光景を見せても、わたしはまだしていないの一点張り。頑固なところがある妹ではあるが明らかに普通ではない。そう、まるで本当に自分が掃除をしていることを忘れてしまっているかのように。
「――――」
瞬間、自分を切り替える。人形の自分の中でも、夜にしか見せない顔を。遠野秋葉の、遠野家の使用人としての顔。気配を殺しながら、ゆっくりとそれでも余談することなく一階から見回りをしていく。一室一室。曲がり角の度に、息をひそめ、耳を凝らしながら。隠れている誰かを探しているかのように。
侵入者。
それが今、わたしが警戒している存在。ここは混血である遠野本家。それに敵対する組織や家も存在する。その証拠に、遠野は自らに敵対する者を排除してきた。先の翡翠ちゃんの態度もそれによるものならあり得る。直接被害は受けていないが、もしかしたらまだ侵入者がいるかもしれない。それを放置しておくことはできない。だが今は秋葉様はいない。自分は感応能力は持っているが戦うことはできない。本来なら逃げるべき。でもそれはできない。自分だけならそれもできる。それでも、翡翠ちゃんは屋敷から出ることができない。出ることを禁じている。確証もないままではどうしようもない。
気配も、感情も。何もかも消し去りながら二階へと上がって行く。知らず、空気が重くなる。まさか、講演に引き続いてこんなことになるなど想像もしていなかった。でも愚痴を言っている暇はない。これは遊びではない。正真正銘の、命のやり取りの世界なのだから。
そして、辿り着く。自分でなければ気づかないようなわずかな差異。それでも、確かな人の痕跡。誰よりもその部屋のことを知っているからこそ。奇しくも、数日前、彼が訪れた場所であり、彼を見た最後の場所。
(槙久様の……部屋……)
今は亡き当主の部屋。そこに誰かが侵入している。自分でも翡翠ちゃんでもない。ましてや秋葉様でもない。もしかしたら彼が返ってきたのかと思うも振り払う。そんな都合のいい話はない。十中八九、自分達に敵対する何者か。とにもかくにも確証は得た。後は、気づかれないようにこの場を離れ、妹共に屋敷を離れることだけ。そう決断しかけた時
「……覗きはいけませんね。あまり続けていると癖になってしまいますよ?」
「―――っ!?」
まるで知っていたかのようにドアが開き、中から侵入者が姿を現す。何とか二が出さんとするも既に回り込まれ、退路はない。明らかに素人の動きではない。何よりもその容姿が想像だにしていないものだった。
「確か、琥珀さんでしたか。お買い物で夕方まで戻ってこられないと聞いていたんですが……ちょっと油断しすぎていたかもしれませんね」
女性。しかも学生服を身に纏い、眼鏡をかけている。およそ侵入者、刺客とは思えないような姿。何よりもその態度。見つかったと言うのに全く焦りがない。むしろ余裕すら見せつけている。自然体そのもの。つまり、この女性は見つかったとしても意に介さない程の実力を持っていると言うこと。その姿に琥珀は最悪の事態を覚悟する。
「あなたは……一体」
「そうですね……ただの『お節介さん』とでも申しましょうか……ただ少し、今回はそれが過ぎたみたいです」
思わずこちらの気が抜けてしまいそうな朗らかさで、眼鏡をかけた女性は独白する。内容も意味が理解できないもの。でも今はそんなことはどうでもいい。何とか隙を見つけ出してこの場を離れなくてはいけない。しかし、そんなわたしの考えを知ってか否か
「――――そういえば琥珀さん、まだ買い物が済んでないんじゃありませんか?」
侵入者はそのままわたしの瞳を覗きこんだまま、そんな理解できない言葉を口にした。
瞬間、強烈なデジャヴを感じる。何故ならつい先ほど、これと全く同じ感覚を覚えたのだから。瞳が光っているかの違いはあるものの、金髪の彼女も、眼鏡の彼女も自分の眼を見つめてくる。何かをわたしに訴えかけるように。しかし、分からない。何も起こらない。
「――――? これは、まさか――――」
しばらくした後、眼鏡の女性は困惑したように眼を細める。まるで予想外のことが起きたかのように。金髪の外国人女性とは違い、侵入者はそのことに何か心当たりがあるような素振りを見せている。
でもわたしは、そんな彼女の姿を見ながらも全く別のことに気づいていた。それは彼女の容姿。緊張状態であったため切り捨てていた思考によってようやく悟る。目の前の女性の容姿を、自分が知っていたことを。眼鏡に、学生服。加えて明らかに日本人ではない容姿。自分が探していた、もう一人の人物であり手掛かり。
「あなたは、もしかして……『シエル』さんですか……?」
彼が学校から手紙を送った留学生。彼のことを知っている確率が最も高い存在。
それが計らずとも、琥珀と教会一の『お節介さん』が邂逅した瞬間だった――――