<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

TYPE-MOONSS投稿掲示板


[広告]


No.41120の一覧
[0] 冬木防衛戦、深海棲艦『レ級』現る(Fateシリーズ×艦これ)新章始めました[ベリーイージー](2016/03/27 21:11)
[1] 序章・過去の出来事[ベリーイージー](2015/06/11 00:42)
[2] 一 聖杯戦争前夜[ベリーイージー](2015/06/11 00:43)
[3] 二 火種蠢く冬木にて[ベリーイージー](2015/06/19 00:21)
[4] 三 始まりの夜[ベリーイージー](2015/07/26 11:01)
[5] 四 二つの戦場[ベリーイージー](2016/03/06 01:48)
[6] 五 戦争二日目の出来事[ベリーイージー](2016/03/06 01:49)
[7] 六 狂気と狂喜[ベリーイージー](2015/08/30 22:26)
[8] 七 一人目の脱落者[ベリーイージー](2015/06/19 00:25)
[9] 八 因縁の始まり[ベリーイージー](2015/06/19 00:25)
[10] 閑話一 男の決断[ベリーイージー](2015/06/19 00:26)
[11] 閑話二 艦娘達と共に[ベリーイージー](2015/06/19 00:27)
[12] 九 地の底で[ベリーイージー](2015/07/26 11:14)
[13] 十 天に昇り、天から落ちて[ベリーイージー](2015/08/10 01:10)
[14] 十一 それぞれの亀裂[ベリーイージー](2015/10/04 21:03)
[15] 十二 戦いの後で[ベリーイージー](2015/10/04 21:04)
[16] 十三 うたかたの夢[ベリーイージー](2015/10/04 21:05)
[17] 十四 運命に続く日[ベリーイージー](2015/10/04 21:05)
[18] 十五 その先は見えず[ベリーイージー](2015/10/14 21:53)
[19] 十六 英霊達の宴[ベリーイージー](2015/10/14 21:54)
[20] 十七 離反者[ベリーイージー](2015/11/06 20:08)
[21] 十八 穢れた聖杯[ベリーイージー](2015/11/22 22:06)
[22] 十九 足掻く者と抗う者達[ベリーイージー](2015/11/25 02:27)
[23] 原点<ZERO>・一[ベリーイージー](2016/03/14 01:29)
[24] 原点<ZERO>・二(完)[ベリーイージー](2016/03/13 01:30)
[25] 幕間[ベリーイージー](2016/04/18 16:52)
[26] SN編前夜・・・AL作戦・序[ベリーイージー](2016/04/18 16:52)
[27] AL作戦・序二[ベリーイージー](2016/04/18 16:53)
[28] AL作戦 其一[ベリーイージー](2016/04/18 16:54)
[29] 幕間 時計塔の一日[ベリーイージー](2016/05/18 12:52)
[30] AL作戦 其二[ベリーイージー](2016/06/04 18:18)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[41120] 十一 それぞれの亀裂
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/10/04 21:03
ブウンっと衝角が振り下ろされる。
ランサー、アーサー王であり巡洋艦ロイアルアーサーでもある存在が突進した。

「魔力放出、最大……はああっ!」

ダンッ

爆発的に爆ぜた魔力を推進力にして、彼女は一気にレ級の懐へ飛び込んだ。
力任せに衝角が掬い上げられ、レ級をガード毎吹き飛ばした。

ドガアア

勢い良く飛ばされ、レ級は慌てて尾で体を支えながら叫んだ。

「クウ、速エ……ソノウエ重ッ!?」
「ふっ、最速のランサーで、魔力放出のステータス底上げもある……甘く見るなよ、深海棲艦!」

相手の驚愕の言葉に彼女はニッと笑い、素早く二度目の特攻を掛ける。
前のめりに槍を構えた体勢から、再度魔力放出を全開にした。

ダンッ

衝角を真っ直ぐに突き出した、ランサーが再加速した。
だが、咄嗟にレ級も地を蹴り、同時に尾を撓らせる。

トッ
ズドンッ

「……何?」

衝角が『一瞬前』までレ級の居た場所に突き立ち、顔を顰めたランサーの顔に『影』が差した。

「奴が消えた、いや……上か!?」
「舐メンジャネエ、コッチモ……敏捷『A』ナンダヨ!」

ボウッ

「……デ、当然反撃!」

頭上で『三つの砲火』が瞬く、跳躍体勢のまま彼女は自身と融合状態の雷巡チ級の兵装、禍々しく輝く主砲を同時に起動させていた。
ガゴンガゴンガゴンと重々しく唸りを上げて、凶悪な火器が狙いが付けられた。
そして、眼下の槍のサーヴァント目掛けて、引鉄が引かれようとする。

「不味い……避けて、先輩!」
「わかってます!」

ダンッ

だが、その直前ランサーが駆ける、後ろではなく前に出る形で。
突き立ててあった衝角を足場に、それを蹴り、高く彼女は跳んだ。

「はあっ!」
「何ッ!?」

彼女は三つの砲弾の隙間を抜けるように跳び、そのままレ級と並走する。
そして、魔力放出を手加減して蒸かし体勢を整えると、徐ろに両の拳を握った。
ギリと拳打が引き絞られ、一瞬の溜めの後解放された。

ゴウッ

「……はああっ!」

立て続けに響く二度の轟音、レ級の肩と脇腹が弾け、抉り飛ばされた。
だが、その腕のイ級が牙を向く、レ級は体を捻り反撃の体勢に移った。

「グッ……ヤレッ、イ級!」

ザシュッ
ガギィン

禍々しく伸びた牙が閃き、アルトリアの胸甲に二条の傷が走った。

「くっ!?」
「ハッ、ヤラレッ放シジャネエゾ!」

ガコンガコンッ

レ級はニヤリと邪悪に笑うと、吹っ飛んだ状態で更に反撃へ、黒装束を払い兵装(生体火器)を展開した。

「雷撃、まだ来るのか?ならばこちらも……インビジブル・エア!」

ビュオオオッ

ランサーは一瞬の魔力放出で体勢を整え、両腕に風を纏わせた。
そして、風を白兵の併用ではなくそのまま広範囲に解放、ある意味本来の形で宝具を発動した。

ドガアアッ

爆炎と風、二騎のサーヴァントの攻撃がその中心で炸裂した。

「ぐあっ!?」
「ウア……」

二人同時に吹っ飛び、睨み合いながらアルトリアとレ級は着地する。
コツンと甲冑が落ちる、槍のサーヴァントは肩口を穿たれ赤い血を流していた。
ブチと肉片と腸が溢れる、反英霊は胴に風穴が空いて青黒い血を流していた。

「……アア痛エナア、ケドソッチモ無傷ジャナイ」
「ちっ、捨て身とは厄介な、何より……今の攻防、手応えから判断するに……筋力魔力共にA、いやA+といったところか」

ランサーが舌打ちしながら肩を押さえ、応急ながら砕けた甲冑を再展開する。
一度損傷した分強度は落ち、無数の罅が入っているが、彼女は魔力放出を重点的にそこへ集中させ補った。

「まあこれで……ひとまずは大丈夫、ですかね」
「……器用ナ奴ダ、ダガ……コッチダッテ、マダ戦エルゼ」

レ級の胴、そこに開いた傷口が蠢く。
時間が巻き戻るようにその肉が膨れ上がって、胴の大穴、更にはその前に受けた肩と腹の傷も塞がった。

「サア、コレデ元通リ……ジャア続キ、ヤロウカ」
「化け物め……良いでしょう、お相手しますよ、深海棲艦」

一瞬瞠目し、その後大きく嘆息した後ランサーは地に刺さった衝角を抜いて構える。

「……倒れるまでやるのみ!(……そう、難しいことは後ろに、魔術師に任せればいい!)」

相手が何でもありということは最初から承知の上、覚悟を通り越して開き直って、彼女は三度目の突進を敢行した。



『馬鹿な、あの再生力、いやそれはわかっていたが……魔力効率が良すぎる、主無しであれ程等……あり得るのか?』

後方で戦いの行方を見守っていた蟲が、間桐臓硯が絶句した。

『……妙じゃ、魔力の収支が合わぬ……どこからか流れ込んでいる?』

六十周期で冬木の地、その霊脈は平常時の数倍あるいは数十倍の魔力を放つ。
元々の性質と御三家の手が加わったことによる物で、最初から魔力的に肥沃な土地であり、また人工的にもそれが強化されている。
だが、マスターやサーヴァントの恩恵は本来一定量、どこかに偏って流れることは本来有り得ない(陣地なら兎も角)
それなのに、レ級に異常な程の魔力が流れ込んでいた。
レ級への過剰供給、恣意的な偏りが、彼女を勝たせようという『何かの意思』を感じた。

『いや馬鹿な、しかしこれは……今次以前の、『何らかの要因』で聖杯戦争のシステムが歪んだとしか……』

ありえない光景に臓硯が戸惑う、聖杯戦争の大元といえる基板に歪みが生じたとしか思えなかった。
絶句し困惑する臓硯、しかし戦うために召喚された者達はそれよりも戦場に集中していた。

バリンバリン

「……お悩みの所悪いけど、そんな場合じゃないと思いマース」
「ええ、深海棲艦との決着を……」

宝石、魔力を凝縮させた簡易礼装(アサシンからの横流し品)を他人のだからと躊躇なく使い切り艦娘達は再び立ち上がる。

『……そうじゃな、奴の相手を頼む(……儂がうだうだと悩むことではない、後で調べればいいか)』
「そういうことで……先輩の方へ行きますかネー?」
「はい、行きましょう!」
「アサシン、そっちは大丈夫?」
「……問題ない、任せて」

主達に、その護衛のアサシンに言うとライダー達が戦場へ向かった。

「……じゃあ行ってくるネ、提督(マスター)」
「ああ、思い切りやってこい……二画目、何時でも切れるようにするから」
「イエッサー、思い切り……ぶっ放してやりマース!」
「魔力、どこまで持つかわからないけど……援護します!」

ライダーと雪風はこくと力強く頷いて、ヒートアップする戦場へと飛び込んでいった。



十一 それぞれの亀裂



「風よ……やああっ!」

ダンッ

ランサーが三度目の突進を敢行した、今度は魔力の瞬間放出だけでなく風による後押しも加わっている。
倍近い速度で彼女はレ級の目の前へ現れた。

「……甘エンダヨ、イ級!」

ギイイッ

が、左右から合わさるように怪魚が牙を剥いた。
深海棲艦の眷属はその身を抉られながらも、ガッシリと衝角を咥え込んだ。
透かさずレ級は生体火器、速射性の高い雷撃を展開した。

ズドンッ

「ぐっ!?」
「ヘッ、命中確認……」

至近距離からの爆炎にランサーが苦悶の声を上げる。
突進時纏っていた魔力が幾らか削いだが、完全には衝撃は消せず僅かにバランスを崩した。

「チャンスカ?……チ級、ヤレッ!」

ガコンガコンッ

レ級は眷属の名を叫び、左右からその背に融合した二体は頷き主砲を傾けた。
それが狙うは当然敵サーヴァント、目の前で一瞬硬直したランサーである。

「照準ヨーシ……放テ」
「……ちいっ、舐めるな!」

ボウっと禍々しい光、収束した魔力が砲口から放たれる。
しかし、寸前でランサーは魔力の放出、更に風を『自分の近く』で炸裂させた。
溜めは無く小規模ながら、彼女の装甲に包まれた右足を動かすには十分だった。

ズドンッ

ランサーは相手の胸元を蹴りつけ、砲撃を『外させた』。

「グッ!?」
「回避と同時に……返すぞ、深海棲艦!」

更に彼女は次の行動、反撃に適した体勢へ移った、空中から衝角を上段に構え、その上機銃も装填状態で展開した。

ズドンッ
ドガガ

「……グアッ!?」

深海棲艦の悲鳴が上がる、ビチャリと青黒い体液が零れ落ちる。
衝角の一閃が額を割り、更に斜めに掃射された弾丸が胴を浅くだが広範囲を傷つけた。
ランサーは青く染まった衝角を一度払い、今度は真直ぐに、胴体目掛けて突き出す。

「まだだ、再生等させるか……貫け!」
「……ヲッ!」
「何!?」

ガギィン

が、追撃のそれは不発する、掲げられた『白い左腕』、『有機的、生物的なスーツに包まれた肘』が衝角を弾く。
返る手応えはレ級より一段上の耐久、彼女を救ったのは左半身と融合した白い深海棲艦だった。
その存在は反対側のレ級を叱るように叫び、同時に破壊された筈の艦載機群が『無事な部分』を継いで浮かび上がった。

「ヲッ!」
「……ワカッテル、合ワセロ!」

レ級は頭を振りながら答え、二人は同時に艦載機を制御する。
四方から集まった艦載機がその生体火器を一斉に展開し、衝角を押さえ込まれ動けないランサーへ照準した。

「不味っ……」
「……撃テエッ!」
「ヲッ!」

バララと数えきれない程の爆雷が降り注いだ。
後は爆ぜるだけ、ニヤリと笑いながらレ級は白い尾を自分に巻きつけ巻き添えを避けようとした。

「アア?」

その寸前、尾の隙間から入ってきた光景に彼女は凍りつく。

ダッ

兵装を展開しながら、二人の艦娘が駆けてきたのだ。

「そうは行かないデース……雪風ちゃん!」
「はい、任せて!」

ガガガッ

並走して走ってきた二人が機銃をばら撒く、一つの爆雷を撃てば誘爆で他も落ちる。
金剛と雪風、合わせて三〇を砲門から弾丸が爆雷の大半を無力化する。
落とし切れない物もあるが、目減りしたそれはランサーの風の突破に至らない。

「……い、今のは少し焦った、助かりました」
「大丈夫ですか、先輩!」
「ええ、お陰でね、後輩」

風で生き残りの火器を落としたランサーが礼を言う、それにライダーはニッと笑みを返す。
その後二人は同時に頷き、レ級の方を見た。

「……やりますか?」
「ヤー、当然……ここは同時攻撃デース!」
「ふっ、成る程、それは……いい考えです!」

ダンっと二人は好戦的に笑い走る、白と青の魔力を迸らせながら一気に駈け出した

「チッ、止メロ、艦載機共!」
「ヲヲッ!」

レ級とヲ級が焦った表情で指示を出し、周りに艦載機を集めようとした。
だが、その瞬間雪風が前へ出る、先を行く二人を追い抜き全兵装を展開する。

「二人共、あれは……私達が!」
「ガオッ!」
「ようし、任せるデース!」

横を抜ける瞬間金剛が装甲を掲げる、そしてそれを足場に雪風と曙が跳躍する。

ヒュッ
ジャキン

硬く跳んだ二人は兵装を展開し、上空から(構造上)艦載機が対応できない頭を取って狙いをつける。

「分析済みだよ、ヲ級の癖も既に見た……行きます!」
「……ガオッ、ガオオー!」

ガコンガコンガコン
ドガガガガガッ

二人は主砲に副兵装、機銃や爆雷、本来海戦用の魚雷すらばら撒く。
レ級が操る艦載機はアサシンが、ヲ級の物もここまでの戦いで既に読んでいる。
だから殆どが当たり、ありったけの火器が艦載機を蹂躙した。
ガラガラと降り注ぐ破片の中をランサーとライダーが駆け抜ける。

『今だ、これで……』

ダンッ

二人は一気に戦場を駆け抜けてレ級の眼前へ飛び込もうとしていた、魔力を全開にし宝具を起動させながら。

「グッ、不味ッ……」
『……遅い!』

引こうとするも一瞬遅い、レ級の目の前で宝具が発動する。

「我らの攻撃、その身に受けろ……風王結界(インビジブル・エア)!」
「TheDreadnought起動……三式弾装填、ファイアーデース!」

至近距離、距離の減衰無しの連携攻撃がレ級へと叩きつけられた。

ドゴンッ

二重に魔力が渦を巻き、同時に二つの宝具が発動する。
解放された風が右のイ級を抉り、炸裂した榴弾が左を引き裂く、そしてそれでも止まらずその奥のレ級へと突き進む。

「迎撃、間二合ワ……ガ、ギアッ!?」

風が榴弾を押し、榴弾が楔となって、二つの宝具は互いを破壊力を損なわず、寧ろ上乗せして破壊力を発揮した。

「ガアアッ!?」
「ヲヲ……」

グシャという音と共に肉片が飛び散る。
同時にレ級の体が崩れ掛かる、咄嗟に耐久で勝るヲ級が右側のレ級を支えるもそれで精一杯だ。
両腕、イ級はズタズタに裂かれてギリギリ形は保っているも唸るのみ、一番被害の少ないチ級すらも余波でふらついている。
だが、それでも深海棲艦達は戦意に、殺気に満ちた目で睨んでいた。

「ギッ、ヨクモ……」

最早驚きや呆れすら無かった、艦娘達は油断せず構えた。

「……本当に化け物ですね、ですが!」
「ヤー、このまま止めを!」
「再生等させない、切り札も……このまま追撃を……」

二人は衝角を払い、主砲に弾丸を装填、一気に畳み掛けようとした。
カッと外が輝き、ズドドと『輝く刃』が降り注がねばだが。

『何っ!?』

無数の刃が雨のように落ちる、その全てが明らかな宝具だった。
それは無差別に、レ級もランサー達も構わず降り注いだ。

「避けて、二人共、これ……アーチャーの宝具!」

アサシンが、唯一その正体を知る少女が必死に叫んだ。



「……やってくれたな……なあ、時臣よ」

黄金の鎧の英霊が顰めっ面で呟く。
彼は苛立たしげに腕を組み、だが引っ切り無しに注がれる魔力が強引に宝具を発動させる。
そして、彼の意思を無視して、波紋のように揺れる空間から無数の刃が放たれた。

「……どういうつもりだ、時臣?」
『勝機と見ました……深海棲艦、そしてこれから立ち塞がるであろうアインツベルンを倒す絶好の機会かと』

ここからでも状況は幾らかわかった、ランサー達が宝具を使ったのも、それを受けてレ級が魔力量を大いに減らしたのもだ。
だから彼は令呪を使ってアーチャーに攻撃させた。
障害となるランサーを倒し、同時にレ級打倒で(この地の代表としての)面子を果たし消費分も教会から得られる。

「時臣、貴様……よくもそのような巫山戯た物言いを」

だがプライドの高いアーチャーは激高しかけ、それに訝しそうにする。

『貴方は勝利が欲しい、ならば……喜ぶべきでは?』
「このような姑息な真似、王たる我に……」

アーチャーが空を睨む、二人の間に決定的な罅が入りかけた。
その寸前、ガララッと音がした、瓦礫を押し除け生存者が現れる。

「トンダ乱入者ダ、ダガ……チャンスダナ、モウスコシ保タセロ、ヲ級」
「……ヲヲッ」

深海棲艦が辛うじて立っている、咄嗟に寄せ集めた艦載機郡を盾にしてアーチャーの攻撃に耐えたのだ。
それから一瞬遅れて、二人の人影が現れる。
正確には二人、それとその腕に支えられた消滅寸前の影だ。

「雪風ちゃん、曙ちゃん!」
「私達を庇って……」
「……まあ残すならそっちでしょう、それに魔力量次第ですが再召喚もあるから」
「が、ガオ……ちぇ、流石にリタイアだね、後は頼んだからね」

ランサーとライダーを庇い二人は消滅(あるいは送還)される、それを見送ってランサー達は一瞬項垂れる。
だが、直ぐに顔を上げレ級、次にアーチャーを睨みつけた。

「むう、少し立て直したか、それに……アーチャー、やはりさっきのは」
「令呪を使われては、な……」

バツ悪そうな顔で彼は答え、その後主へ嫌味を言った。

「先の命令、三騎同時に打て……そのせいで火力がバラけた、どうするつもりだ、時臣?」
『……問題無いでしょう、まだ『令呪』の効力は切れてませんから』

すると再び周りに波紋が生まれ、そこから刃が湧きでた。
突き出た刃達は先端を三方向に、ランサーとライダー、それにレ級へと向ける。

「ちっ、まだ切れぬか……」
『さあこれで……我らの勝利です!』

苦々しそうなアーチャーに対し、その主は勝利への確信、言い換えれば慢心と紙一重の宣言を口にした。
だから、それはある意味『必然』だった。
レ級が呆れたような声を出した。

「……馬鹿ダナ、余計ナコトシナケリャヨカッタノニ……『ギリギリ』間二合ッタ」

そう言った瞬間地が揺れた、地の底から何かが唸った。

ズズッ

「何?」
「ヒヒッ、ギリギリダナ……アノママ、艦娘に畳ミカケラレテタラ……危ナカッタカモナ」

アーチャーの乱入が一瞬戦場を停滞させた、それがその現象を間に合わせた。
ピチャリという音がした。

「……終ワリダ、アバヨ」

ドンッ

地面が爆ぜて水柱が上がる、そこから艦載機が顔を出した、それがやった細工がこれを起こしたのだ。

「くっ、これはまさか……」
「ええ、先輩……冬木の地下水道、あそこにはそれが集中していて、多分強引に歪めさせて……」
「……フッ、正解」

ランサー達の言葉にレ級がニヤリと笑う、
万が一に伏せていた伏兵だ、戦いが始まった時点で地下を壊させた。
尤も少数の艦載機でその速度は遅く、間に合うかは彼女にとっても賭けだった。

「……アリガトヨ、魔術師」
『何?』
「オカゲデ賭ケニ勝テタ……巡洋艦二戦艦、ソレジャ私ニハ追イツケナイ」

レ級はゆっくりと空いた穴の縁に足を掛けた。
彼女は深海棲艦の中でも屈指の汎用性を誇る、つまり潜水艦のようにも動けるということ。
高速かつ自由に水中機動が可能、そして、水没した地下は冬木『各地』に繋がっている。

「分岐スル道、大小合ワセテ、マア……二、三十ハアルカ、当面ノ避難場所ニハ十分ダロ?」
「さ、させない……追いますよ、ライダー!」

慌ててランサー達が追おうとする、一度潜られれば速度と水中での自由度の差、それに滅茶苦茶であろう錯綜する地下道で巻かれる可能性がある。
そうなってしまえば次に追いつくのは難しい、その上レ級には殺人鬼が齎した裏社会の知識がある。

「と、止めねば……」
「……避けろ、令呪はまだ続いている!」

だが、それはアーチャーが無差別に放つ宝具がさせてくれなかった。
効力の途切れかかった令呪が諦め悪く攻撃を続けさせる、それは目標と成る三者を執拗に狙う。
それによってランサーとライダーは回避に時間を取られた。
勿論レ級にも行くが、最早必要ないとばかりに艦載機を盾にして耐えた。

「ヒヒ、残念、ツイテネエナア……惜シカッタナ」

その光景を楽しそうに見ながら、彼女は艦載機の空けた穴へと体を預けようとした。

『令呪を持って……』

が、その瞬間二重に声が響いた。

『……命ずる、仕留めろ、ランサー!』
「命ずる、援護しろ、ライダー!」

片方は念話越しに切嗣、もう片方は(アサシンに庇われ)物影に隠れるウェイバー、そして二つの令呪によってランサー達は能力以上の速度で走り出す。
ライダーがど真ん中に飛び出し、周囲へ砲塔を向ける。
四機の主砲の内二つをレ級へ、残り二つをそこへ行くまでの道の為に向ける。

「道を開きます、第二の宝具……FULLFIRE!」

ズガガガッ

「グオッ!?」
「今デース、先輩!」

砲弾が宝具の雨を強引に開き、そこへ続いて砲弾が飛び込み、レ級を横から吹き飛ばす。
高々と吹っ飛んだところへ一場の風が吹く。

「……感謝します、マスター」
『唯戦うより……場合によっては立て直しの方が大変だからね』

珍しく殊勝に礼を言い、宝具の雨の隙間を走り抜けてランサーが地を蹴った。
彼女は前傾姿勢で衝角を構える。
その全身に魔力を纏い、渾身のチャージを仕掛ける。

「穿て、名槍ロン……ロンゴミアント、はああっ!」

ズドンッ

轟音が響き、空中で青黒い体液塗れの肉片が弾けた。

「何!?」

ギギッ

大顎を持つ怪魚、イ級が悲鳴を上げた。
彼を中心に、生き残りの艦載機がスクラムを組んでいる、それ等が作り出したが衝角を受け止めていた。

「レ級、貴様、これは……」
「悪イナ、艦娘……庇ワセタ」
「……そうか、大和に令呪三角でぶち抜かせたというのはそういうこと!?」
「多分ナ?」

そうしてニヤリと笑いながらレ級が水の中へ沈む。
パシャと一度だけ白蛇の尾を跳ね上げ、それを最後に彼女は完全に消えた。

『……追えんな、巡洋艦に戦艦、そしてただの英雄ではな』

臓硯が言って、丁度それぞれの令呪が消える、そして戦場に沈黙が訪れる。

「……行った、気配もずっと先まで……逃げられました」
「そんな……ここまでやって、駄目だったなんて」

ガクリとランサーとライダーが肩を落とす、追い詰めれば十分とは言ったがそれでも倒せなかったことは悔しかった。
そしてそれ以上に、悪鬼の如き形相でアーチャーは空を睨んだ。

「これが……欲望に負けた結果だ、どうするつもりだ、時臣」
『……何、致命的ではありません、深海棲艦があるならば……今回のような状況も『また』訪れましょう』
「ちっ、そううまく行けばいいがな……」

抜け抜けといった彼にアーチャーは一度だけ舌打ちした。
だが、それで怒りが治まる訳がなく、鬼のような業像で飛行艇を動かしこの場を去っていった。



「成功成功、上手クイッタゼ……」

ドンッ

冬木地下、その一画の水路の水面が爆ぜた。
そこから白髪に人間味のない青白い肌の少女が飛び出す。

ポタタッ

「……ヒヒッ、追手ハ無シダナ」

髪から垂れる水を払いながら、彼女は笑みを浮かべた。
戦いでは危ない所が有ったが無事に逃げられた、これで聖杯及び『その奥にいる物』接触が出来る。
だから忙しくなるなと彼女は思った。

「殺シテ、壊シテ……アア、忙シイゼ」

それが彼女の目的だ、戦争という概念が形になった、しかも負の面が実体化した存在だから何故そうするかとか思わない。
言ってしまえば彼女はそういう現象だった。
燃え広がった炎が伸びた相手に何か思うか、堰を切って溢れた大水が飲み込む相手に何か思うか、唯当然のことで理由等どうでもいいのだ。
重要なのは無事前回生き延びられて、続きをやれるということだけだ。

「サア……待ッテイロヨ、『私』?」

彼女は自分、この世界のどこかに(座に戻らず)残っているもう一人の自分のことを思った。
それと接触できれば目的である殺戮と破壊は大いに捗る筈だ。
つまり当面の目的は回復まで逃げること、最終目的は片割れとの接触だ。

「キット楽シイダロウナ、頑張ラナイトナア……手前等モナ!」

キイキイキイ

レ級はニヤリと笑い、それに追従するように半身のヲ級や左のイ級、左右のチ級が笑った。
そう決めると戦いで弱った体に力が漲る。
彼女は未来の殺戮を思い、力強く逃走を再開する。

「……次ノ、道ハット」

バシャと枝分かれした水路の一つへ跳び込む、そこから右へ左へ、撹乱目的にコマ目に変えながら彼女は逃げていく。
そして、ある程度ランサー達との戦場から離れた所で『何か』が触れた。

ブツッ

「アン?」

透明で細い、蜘蛛の糸のような物がレ級に引っかかって切れた。
彼女が訝しんだ数秒後近くで爆音が成った。

ドゴンッ

一人の少女、動きやすそうな装束を着た娘が水路の壁を破った、明らかに魔術士の手の入った大きな蜘蛛を乗せている。
糸の出処はその蜘蛛だ、あるいはここだけでなく冬木の地下中に張り巡されているかもしれない。

「ナ、何イ!?」
「糸に反応あり、ここか……妙高型が三番艦……足柄、参上だよ!」

ギロと艦娘、足柄がレ級を睨む。
レ級は顔を引き攣らせた、水中を自在に動けなくても『待ち構える』なら関係ない、彼女は慌てて艦載機を突っ込ませる。

「ウオ、罠……行ケッ!」

咄嗟に放って水中を駆ける艦載機、だが足柄に辿り着く直前影が割って入った。
それは足柄と似たような容姿で服も似ている、敢て差を上げればやんちゃそうな足柄よりやや凛々しい。
その少女、明らかに妙高型の一人が艦載機を鷲掴みにした。

「……やっちまえ、姉上殿!」
「……ガウ」

コクと頷き、妙高型が拳を振り被る。
ズドとまず火器を砕き、次にセンサー部から手を突き入れて艦載機を貫く。

「ガウウッ!」

バギンッ

更に掴んでいた左腕を深く刳り込ませ、その後内部から両腕で割って開く。
ガラガラと艦載機の破片が辺りに散って、それを踏み躙ってから妙高型の一人がニヤリと野性味の有る笑みを浮かべた。

「グル……」
「……紹介しよう、妙高型が二番艦『那智』、見た通り荒っぽい人だよ」

紹介しながら足柄も同じように野性味の有る笑みを浮かべる、狼の名に恥じない笑い方だ。
彼女はレ級を指差し立ち塞がって、ゆっくりと言い放った。

「ここは通行止め、周りな……で、その時勿論追うが……そこで一つ話がある」
「何ヲ言イタイ、餓狼?」
「……まあ水中戦じゃ逃げられる、だがそっちじゃ唯じゃすまないだろう……そらもう大型イベントばりにリソース吐きな、それで手を打とう」

ビッと足柄はレ級の身体、そこに張り付いたヲ級達を指し示した。
水中戦に適応できず地の利はあちら、だがそれならそれで相手から『絞り尽くそう』というのだ。
だがここは逃げたいレ級の取れる手は限られる、この強引な取引を無視できなかった。

「ググッ、ドイツカ残セッテノカ」
「正解、でどうする?……時間は無いよう?」

ジャキンと足柄と那智の砲塔が同時に展開、催促するようにレ級に突きつけられる。
そうなるに至ってレ級は相手の思惑通りに動くしか無かった。

「……イ級、ソレニ、チ級ノ片方モイケ」
「毎度あり、って感じかな」

生き残った方のイ級、それと雷巡の片方を時間稼ぎに残し、彼女は背を向け泳ぎだす。
レ級は別方向への迂回に向かう。
その背で爆音と、興奮した様子の足柄達の言葉が聞こえた。

ドガガガッ

「久々に暴れようか、獲物は小ぶりだが……楽しませな!」
「ガウガウ、ガルル!」
「ははっ、興奮しなさんな、姉……レ級、それと残り二体も直ぐに後を追わせてやるからな!?」

一方的な宣言、屈辱に顔を歪めながらレ級とヲ級達は逃走するしかなかった。



「クソガ、クソガッ!?」
「ヲヲ……」

荒れ狂いながらレ級は逃げ切り、荒れ果てた殺人鬼の隠れ家の一つに逃げ込んだ。
怒るレ級を見たヲ級が心配そうにする。
すると、暫し辺りの壁に八つ当りした後レ級が冷静になる。
ゆっくりとヲ級とこの後のことを検討していく。

「アア大丈夫、戦力モ魔力モ問題無ェ」
「ヲッ!」
「……ダガ保険ハイルカ、少シ賭ケニナルケドナ」

レ級はそこで言葉を切った、訝しそうにするヲ級に苦笑気味の顔で答える。

「英雄喰ウノガ楽ダガ、コレジャ難シソウダ……ダカラ、奴等ヲ……利用シテヤル」

ゆっくりと彼女は鈍く輝く液体、『水銀』をこね始めた。



「……誰だ」

黄金の英雄が訝しげに誰かを読ぶ、すると銀の影が現れる。

トプンッ

「私ダ、話ガアル」
「貴様は……」

豪奢な貴族趣味、遠坂の屋敷の壁に体を預けていたアーチャーに器用な客が訪れた。
時臣の暴走以来彼は怒りっぱなしだが、その上妙な客の登場で本格的に切れかけている。
だが、その客は好都合とばかりに笑いかけた。

「荒レテンナア、主運ガ悪イノカイ……ヨウ、真実ガ知リタクナイカ、聖杯ガ如何ナルモノカ、トカナ?」
「……話せ、それが……時臣の舐めた物言いに繋がりそうだ」

邪悪なる異形の魔物と神代の大英雄、本来交わること無き二人がこの日接触した。
ゆっくりと最悪の聖杯戦争、その盤面が加速し始めた。





レ級は逃走、ダメージは大きいでしょうが再起は十分でしょう・・・しかもアルトリアに金剛ともに令呪損失、困ったことに。
それ以上にアーチャーがかなり切れてます、あ、裏切りフラグ・・・
題名の『亀裂』、全勢力に当てはまりますが・・・さて致命的なのはどれか、ああどう見ても原作ラスボスか。

・・・とりあえず何やらレ級と英雄王が悪巧みした所で次回へ。

FC様
個人的にタイコロ当たりの彼女が好き、ちょっと影響有るかも・・・ヲ級はピンが続くレ級の相方に成るかも。

ネコ様
時臣パパ、予想通りやっちゃったようです・・・令呪マイナス1と金ピカぶち切れという最悪な結果に。
もっとも本人はまだ2角あるからと軽く考えてます、うん駄目なフラグですね。
・・・弟子は逃げても許される、アサシンが顔つなぎに成るか?


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.035293102264404