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No.41431の一覧
[0] 黄金の神話[しろがね](2015/11/10 18:07)
[1] 1-1 戦乱の果てに辿り着いた日常 NEW[しろがね](2015/11/10 18:09)
[2] 2-0 ドラクエⅢ 魘される夢からの門出 NEW[しろがね](2015/11/10 18:10)
[3] 2-1 ドラクエⅢ 1日目 残忍な勇者達 NEW[しろがね](2015/11/10 18:12)
[4] 2-2 ドラクエⅢ 2日目[しろがね](2015/10/20 16:56)
[6] 2-3 ドラクエⅢ 3日目[しろがね](2015/10/27 17:35)
[7] 2-4 ドラクエⅢ 4日目[しろがね](2015/10/20 17:00)
[8] 2-5 ドラクエⅢ 5日目[しろがね](2015/10/20 17:01)
[9] 2-6 ドラクエⅢ 6日目[しろがね](2015/10/27 17:35)
[10] 2-7 ドラクエⅢ 7日目[しろがね](2015/11/10 18:01)
[11] 2-8 ドラクエⅢ 8日目 NEW(途中から)[しろがね](2015/11/10 18:02)
[12] 2-9 ドラクエⅢ 9日目 NEW[しろがね](2015/11/10 18:04)
[13] 2-10 ドラクエⅢ 10日目 NEW[しろがね](2015/11/10 18:05)
[14] 5-1 ドラクエⅢ? ルーラ 蟲師[しろがね](2015/10/20 17:11)
[15] 6-1 羊男の混乱 ダンスアタックダンス1[しろがね](2015/10/20 17:12)
[16] 8-1 フェイトゼロ 世界線1.68 その1[しろがね](2015/10/20 16:59)
[17] プロット[しろがね](2015/10/20 16:59)
[18] 作者の嘆き NEW[しろがね](2015/11/10 18:14)
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[41431] 6-1 羊男の混乱 ダンスアタックダンス1
Name: しろがね◆0c3027e3 ID:4317f015 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/10/20 17:12
羊男の混乱 ダンスアタックダンス1
---------------------------------------------------------------------
車のデジタル時計を目で確認すると、ちょうど7時だった。
このペースで車を法廷速度を守って走っていくと、信号機が55機あるため、最低で13分、最高で23分の消費になる。
それはラジオ番組を一つまたぐことになる。(一つ15分の番組なのだ)
だが、いずれにせよ、会社には就業の30分前に到着する。
さて、予定通りで安心したと思い、今日は木曜日か?水曜日か?と判断の空隙に陥ったとき、それは起こった。

唐突に一人の少女がふらりと車のドアを開けて助手席に乗ってきたのだ。
見知らぬ少女だったし、そもそもなぜ助手席のドアがロックされていないことを知っていたのだろうか?
「海岸を散歩したいの」
と彼女が言うので、仕方なく車を南に向ける。
そう、無条件にその言葉に従ってしまうほどその少女は美しい顔立ちをしていた。
言葉に逆らうという発想が湧いてくることがないから、それがどれほど恐ろしい美であるか想像してほしいんです読者の諸君に。
ともかく、僕は言った。
「その前に、ご飯でも食べにいかないか?」
いつもは朝食を取らずに出勤するのが日課の僕だが、そのときに唐突に感じた身体の状態は強度の空腹だった。
だが、その少女は首を横に振った。
「じゃあ、気が向いたら食べよう。」
と僕は言って、そのまま海へと車を走らせた。紳士である。

少女は僕に向かって自分はユキという名前で、わざわざ車を走らせてくれてありがとうと礼を言った。
どういたしまして、と僕は返事をして、チューイン・ガムをポケットから取り出して一枚食べた。
もちろん、ユキにも勧めたが、受け取りはしなかった。
海辺の駐車場にはトヨタカローラとホンダのオデッセイに、詳しくは解らないがオフロード用のごついバイクが止まっていた。
「僕らの他にも人が来ているみたいだね。」と僕はユキに言った。
「そうみたいね」とユキはちょっと考えてから答えた。
「でも海には誰もいないみたい。皆どこへ行ってしまったのかしら?」
「わからない」と僕はその答えに対して本当に検討が付かなく、仕方なく小さな声で答えた。小心者だ。
海には二時間ほどいたが、僕らは話すこともなく、結局誰ともすれ違うこともなく、帰路へとつくことになった。

スバル(僕の自家用車)に乗り込むと、すぐにユキはおなかが減ったと言った。
僕は24時間営業のファミリーレストランに入ってハンバーグを食べ、まあいいやとビールを朝から煽って飲んだ。
ふぅ・・・(ロマサガ2的なっ!)

スーツにカバン、という僕の姿を改めて眺めるように見たユキが言った。
「どうしてあなたは会社で働いているの?」
ユキはデザートのプディングを食べながら質問してきた。
理由も何も、それは日本で生活する上で当然のことだと説明した。
会社でのつまらない、しかし、忙しいある一日を具体的に話してみた。

「いいかい、会社というものは本当につまらないんだ。
たかが一枚の書類を作るのに多いときで十数人の上司が書類をみるんだ。
そして、国語の文法や論理的な説明を超越した修正をする。
なぜかって?何もしないのは無能だと思っているからだよ。
僕がいくら完璧な報告書を書いたところでどうにもならないんだ。
本当にどうにもならずにたかが一枚に一日も二日も掛かる。5分で終わることが。
そしてどうしようもないことで怒られるけど、そのときには必ずありがとうございましたと言うのが礼儀なんだ。
貴方に注意され(僕は不快になったけど(小声))僕は成長することができましたありがとうございますって。
ふざけてやがる。製品にたかが一個の穴を開けるのに三ヶ月も掛かった。三ヶ月だ。信じられるか?
三秒で終わることを、三ヶ月にして引き伸ばして仕事をしているんだ。
そりゃあ色々とおかしくなって自殺する人も気が狂ってしまう人もでるさ。
はぁ・・・。はぁ・・・。
もう疲れたよ。マジで疲れましたごめんなさい。そして、ありがとうございます!」
「あなた、本当にあきれるわね。よくそんなに連続してたわいもないことを連続させることができるわね。本当に尊敬していいのやら駄目なのやら…」
「そんな事言うと思った。でも、これが覆せないげんじつ!32話ってわけだ。」
「げんじつ?32話?って何」
「けいおんっていうアニメの三クール初頭32歳のお兄さんです。さあ謳おう!」

僕は席を立ち上がりオペラ口調でこう謳うのだった。
ぎざぎざハートのはげ頭!

ちゃらっちゃちゃっちゃ チャーチャ タタタタ!
へい!
ちっちゃな頃からはげ頭!(哀しい顔で)
15で毛根壊れたよ!(本当に哀しくて驚く)
20で鬘を買いました。(かぶるポーズでドヤ顔がスパイスさ!)
次の日かつらはぁあああーーー盗まれたぁあああーーーxふううう!
嗚呼!わかって・くれとは・いわないがっ!
そんなに、それが、にくいのか?あ~ん?
髪の毛髪の毛お休みよ。ハハハ
ピカピカ頭の王子様。

ごめんなさい。ウイリアムおぉおおおおおーーーーぃいいじいいい

ユキが腹を抱えて笑い出した。
僕は冷静な顔になって言うのだ。
「会社で働くしかないよ。もちろん、無軌道なほど自由にだけどね。
ある種のやくざよりやくざ。きんぐおぶやくざは俺のことだっ!
凍傷になるぜっ!
しかし、僕が適当に人の間を渡り歩いたら、話の筋がまともじゃない方向にしか流れていかない。
きっと何かにつまづく人生が待っているよ。」
ユキはワクワクした顔で言った。
「ねぇ・・・。その、貴方に会いたくなったらどうすれば良いの?教えて!お願いぃいいい!!」

ドドドドドォオオオオオ

「君は既に思考することを放棄して、心の声を僕に委ねている。
もう僕のスタンドの攻撃を避けることができないんだ。
絶対にね。そう、僕は新手のスタンド使い。大石豊だ!覚えておくがいい。」

唖然としているユキをほっておいて僕は続けた。
「会いたくなったらここに電話してくれればいい。」
会社の名詞をプラスチックのケースから流暢な動作で取り出して、携帯電話に番号を書く!もうユキの心は俺のものさ!
「何、君が会いたくなったら、会社を休んで会えばいいのさ。既に今日休んでいるのだから?違う?」
彼女はもうわけがわからないっと言った態になり「うん」と言った。
「ともかく、君が抱えているその問題というものは、ほおっておくと身体の中でどんどん膨らんでくるんだ。
抑えが効かなくなる時が必ずあるんだ。ときどき、というか、もう常にでもいいけど、僕を通して空気の質を変化させないと爆発しちゃう。ボンッとね。
水素が入っている君というヴァルーンの中身を、ヘリウムに変えるんだ!」
「貴方の言っていること、いいえ、神の申しますお言葉は全て解ります!かみぃいいいいいーーー!」
ユキは痙攣しながら床を転がって涎をたらし始めた。
周りを見ると、店の人も涎をたらしながら床を転がっていた。
スタンド使いも生きて生きにくいね!
ディオに対してねぎらいの言葉を上から目線で掛けた僕は、どうやら彼と戦う運命にあるらしい。
それはまた先のことだ。

ともかく、僕はユキを立たせて、泣き止んで僕の言う事を聞いた方が君はモットもぉおおおお!と、幸せだよ。続きを語り始めた。
「生きていくのが難しくなるのが一番駄目だ。全ての生物、つまり、有限という存在、無機物であってもだ、それらは無限という方向性にしか収束しない。解る?」
「あまりに解りすぎる…。ねぇ・・・。何なの?今から何が起こるの?」
「つまり、重要なことなので二回言うけど、全て有限が到達すべきは無限だ。これは解る?」
「り、理解できます。はい…」
「誰も未来を信じない。誰も未来を救えない…」
そして、僕はユキと手を繋いで、一万円札をファミレスのカウンターに置いて出て行く。あけみほむらだっ!わかるか?俺の言っていること?

村上龍が出てきたよ。村上だけに。僕は貴方の言っていることが全部解ります。これ書いている作者の僕のことね!
「それにしても、どうして僕ら二人が会って話をしているのか解らないけど、たまに会って共有できる秘密を話し合おう。」
なぜか皿ごと持ってきてデザートをようやくフィニッシュしたユキが、ペットボトルのお茶をごくごくと飲んだ。
そして、歩道を歩いている見事に太った一家の一団を熱心に眺め始めた。
ちらちらと横目で見ているが、その頻度があまりにも多く、それだったらじっと見ているほうがましだ!ふぁっく!
僕もまた彼らを見る。両親と娘が一人と小さな男の子が一人。皆見事に太っていた。遺伝ですか?

ふと頭の中に浮かんだ同僚の田中は今頃何の仕事をしているのだろうか?と思い、電話を掛ける。
田中は課長だが、どうしようもない奴なので心の中で呼び捨て居るしている。許してくれ。田中課長!
「ゴホッ、ゴホッ。もしもし、大石です。昨夜から熱が出てしまって、すいません。
薬を飲んだら、眠ってしまって。
ええ。病院は行くつもりです。申し訳ありません。
五歩?
それでは失礼します。」
「ハハハ。何それ、馬鹿みたい。」
電話を掛け終わると、小さい声でユキが呟いた。
その調子だ!いいぞ。突っ込みに回ってきたな!

僕は聞こえない振りをしてコップのビールを運転しながら飲み干した。
自分の運命というものを試していく。もちろん、警察が検問していそうな日にちと場所を全部理解した上でだっ!
解るか?俺の言っていること!

村上ぃいいいいいい!!

ダッシュボードに肘をついて、ユキは僕の顔をじっと眺めていた。
僕は思わず赤くなってしまったが、下半身の反応を努力で押さえ込んだ。やはり僕は紳士に違いない。
いずれ永沢という男に、ノルウェーの林というストーリーで復習してやる!
ハツミさんを殺したのは奴だっ!
永沢の計算によれば、ハツミが夢ついえて死ぬ可能性は約94%であり、それを解った上で彼は孤独の道を歩んでいるのだ!
スタンド使いみたいなやつめ。
という発言がよく解らない人は、ジョジョの奇妙な冒険の25巻から読むように!

さて、ユキが本当に綺麗だと感じていたんだったかな。
何を話していたのか解らなくなってきたけど。
ユキの美の本質は、その造詣も然ることながら、雰囲気が逸脱しているのだ。
じっと見ていると、心の深い部分に小さな石を投げ込まれた錯覚を覚える。
そういう種類の美しさなのだということを解ってもらいたい。

会社など休んでしまっても気にはならない。一切だ。
どうせ誰かがまわしていくだけの他愛もない仕事だ。
僕である必要なんて何処にあるのだというのだ?

そんなことよりも、僕がもし15才だったら、間違いなく恋に落ちているなと思った。
今はなぜか彼女に一切触れずに彼女を絶頂に引き上げる術を考えるという、不思議なことに挑戦してしまっている。
僕は混乱していた。
彼女とやろうと思えば簡単にやれるだろうに、彼女に僕の子供を産ませることだって可能なのに。
いや、プーチン大統領と話して、北方領土を共同開発のカジノやら遊園地のテーマパークに開発することだって、宇宙に行く事だってたぶんできる。
ナサに電話一本掛けて、日本語が喋れる奴がいたら、もうお仕舞いさ。
僕の言葉から逃れることは決してできないだろう。
地球全ての人間を幸せに導くことだってきっとできるさ。
何せ、新手のスタンド使いだからな。人類初の。

ともかく、僕は32歳だ。13歳の女の子に手を出すとしても、場所を選ばなければならないぞ!
走っている車の中で何かをするわけにはいかない。
死ぬ可能性が飛躍的に高まる。
当たり前のことだが、我慢するのが難しいぜ!

そして、僕は人生のピークを迎えたことを感じた。
もしそんなものがあったとして?と思っていたが、それは確かに来た。
今だ。今です。今でしょう?水曜じゃなくて、木曜どうでしょう?って感じですね。解ります。

今という状態になってから僕の人生を振り返ってみると、実に惨めだった。
ある意味では、それは人生ですらないのだ。
少しばかり起伏はあったと思う。
ごそごそと登ったり、下ったりした気もする。
でもそれだけだった。
ほとんど何もしていない。
奇妙に平坦で、風景は平板だ。
まるでゲームか何かのダンジョンの中を歩いているみたいな気がする。
風来の試練みたいだ。

おっと、ここで僕の自己紹介文章を書きましょうか。
僕自身が思う僕ではなく、他人から見た僕という人物に関してね。
もう一度紹介したけど、再度読む価値はあると思うんだ。

しろがね Edit
?2010年8月22日初配信にて表1時間58分打開
?元何実のアスカプレイヤーであるが、Peercast、ustream等の大会にも参加。
 ここ最近はPeercastでの配信がメイン。
?主に裏白蛇、表白蛇、GTA、骨心魔天の挑戦等のTAを配信。
 (現在最高記録 裏1時間44分、表1時間26分)

▲ ▼

プロフィール的な欄
タイムを出そうとするあまり雑な操作になりしょっちゅうやらかす。
60F以降からがしろがね、それまではTAプレイヤーさん。
KUSOGA!UNKO!などが主な口癖である。
天鳳は特上で中々勝てず停滞気味。
保存の中身が覚えられない。
なかなか操作速度と判断速度は速いが、その分密度が低い。
調子の波が激しく、うまいときはうまいが下手なときはどうしようもない。
安定打開にはまるで興味がなく、TAしかやらない。
リアルDQNを彷彿させる内容の話がたまにある。
ニートなるよ→マジでニートになる→裏1時間58台、表1時間30分を叩き出す。これが後に語り継がれる、バタフライ効果ならぬニート効果である。
しかし就職してしまった為に落ち目になるかと思えば、復帰直後の第一回目で卍にお帰りをされる。
髪の毛がペッタリするとよく悩み、育毛剤の投与を試みるも、価格に負けて断念した。?しかし、ジャグリング動画を披露した際に、禿げでない事が証明された。
同じアスカ配信者のにゃんちゅうとはなん実時代から一緒に麻雀やったりする親友。
頼まれればSKYPEにも御呼ばれするくらいである。だがしろがねはエロ動画をくれなかったことを恨んでいる。
とにかくTA!しかし、しろがね弟(配信者ではない)にはTAを否定されているらしい
おとがね曰く「TAはいい加減に早くやっているだけで意味がまるでない。縛りこそ価値があり難易度も高くやる意義がある。TAは屑のやること」
母がね曰く「他人の食器は洗うのはもういやだ。洗わない食器は即捨てる!自分の食器を洗うのは、社会人としての常識だ」らしい。
ニート期間中、ある日突然宣戦布告されたのだが、それに対ししろがねの対応策は「うんこ投げつけてやるぞ糞が!」とマイクに向かって憤慨するだけであった。
TA配信者の中でもペカレコ上位やしろがねの主観で上手いと思う人達を話題にする事がしばしば。特に同じアスカTA配信者としてロックやしいなの事は尊敬している。
彼らの言う事は絶対であり、しろがねが白だと思ったものも彼等が黒だと言えば黒くなる。
意外にもロックとしいなの両名はしろがねのことを気に入っており、ロックに至っては「しろがねさんの配信を見ながら寝る」とまで配信内で言うほど頻繁に話題に出して絡むほどである。
2011 7/16 名古屋オフを開催、参加者二名。参加者二名によるとしろがねの顔レベルは7らしい。
果たして本当に7のイケメン部類なのか、お世辞なのか、判断が狂ってるのか、ダーク指示なのか、すべてはロックオフでの判別が求まれる。
2011 8/20 8/21 ロックオフに参加。爽やか風イケメンで、顔レベルは7という結論に至ったらしいが、とても信じられない。
ロックの事をついにお父さんと呼び始める。近いうちに直接四国へ遊びに行くらしく、もはやしろがねを止められる事はできない。

▲ ▼

しろがねの歴史、武勇伝
「デブは障害だ!」「死ね糞が」と上司に喧嘩を売り会社を辞めたため、少なくともダイエットをやるのは義務だと始め体重計をわざわざ買ってきて頑張るも、わずか2ヶ月で断念した。
良い記録を出したら、グランドライン(タイ-カンボジア)へ行くつもりだったらしい。「日本人がタイやカンボジアへ行くって言ったら何するか決まっているだろう?」うれしそうに語っていたが、残念なことに就職してしまい海外は断念した。
大学、会社共にどれにしようかなで決める。論理的に考えている用で、実は何も考えていない脊髄反射の行動が目立つ。
デリ○ル、ソ○プ、ヘ○スに関して、彼の右に出るものはいない。しかし、よく調査して行く割になかなか当たりを引けず、愚痴をもらす。
イケメンが嫌いらしく、イケメン税の導入を叫んでいる割に、不細工にも風当たりが激しい。しろがね曰く「自分がこれだけ謙虚にやっているのだから、不細工の癖に調子に乗った行動するやつは許せない!」とのことである。
自分にはやさしく、人には厳しい。しろがねの行動理念であると考えられる。
ジャグリングがかなりうまく、たまに動画を披露するが、調子に乗って言ったクラブチームでは全く技術が通用しなかったらしい。黒歴史である。
サッカー、将棋、陸上、シューティングゲーム、麻雀、ジャグリングに打ち込み、断念してアスカTAをやっている。
不感症の女の子を気持よくするために、色々と努力するも断念した。
合コンに来た不細工な女の子をじゃがいもやにんじんなどの野菜に例えて酷評する。
無拍子(手で一切触れることなく、絶頂に達するための技術)の訓練に一時期励んでいた。福山雅治がラジオで喋っていた事がきっかけである。
オフ会を開くためにおいしい店やメイド喫茶を調べていたしろがねは、偶然にも可愛いメイド(しろがね評顔レベル9:性格レベル10)を発見し、下見に行って恋に落ちてしまった。
営業トークにすっかり騙されているにも関わらず愛を叫び、アスカTAをほったらかして配信中に色々と対策を立てる始末である。刑事事件に発展しないか不安だ。
自称、顔レベルは6(10段階評価)であるが、上記の惚れたメイドやアニメ等で顔レベル評価を行なった際、偏った好みである事が発覚。なおリスナー評による上記のメイド顔レベルの平均は5~6である。
オフ会に参加したリスナーによるとメイドの実物の顔レベルは4とのことである。
オードリー若林とAD堀に似ており、また嵐の二宮にも似ている上に童顔であるらしい。友人には「女の兄弟はいないか?」とよく聞かれるらしい。果たしてどんな顔の造形をしているのだろうか?
惚れたメイドをデートに誘い、連絡先を渡したが、リスナーにとっては当然のごとくメイドから連絡は貰えず、玉砕した。以上によりメイド喫茶通いも止めた。
あまりにもロックを好きすぎるせいかロック東京オフでロックと同じ宿をとった。
オフで当たりを引き、番号とアドレスを交換した。
腰をゆっくりと動かし「同じクラスだったら、絶対君に告白している。」などという決めセリフを発言しながら50分を要した。その様にして、うれしそうに語るしろがねの笑顔は、信じられないほど爽やかである。
2015年5月末(正確な日時は不明)、長らく配信も行わず音信不通気味であったところ、突如掲示板を閉鎖し、ブログの記事全削除を行い、ニコニコのTA動画も削除し、ツイッターからも退会と言う唐突な引退?行動を取り完全な行方不明に。ロックの配信などでもその身を心配をされる。

「おっと、今更だけど、僕はしろがねっていう名前で配信していたんだ」
笑い転げてダッシュボードに頭を打ち付けるユキを横目に、僕は話を続ける。
「ともかく僕はテクテクと迷路の中を進んでいく。
無目的に、そして、いつか確実に死という終末を迎えるのだ。」
僕は考えることを辞めて前を向き、車を運転させる。

ふと目を横に向けると、ユキが期待に満ちた眼差しで僕をじっと見ていた。
「やれやれ、一度喋り出したらもう止まることが許されないみたいだ。」
「大丈夫?」彼女は言った。「何だか、凄く疲れているみたいだけど。すごく…。」
僕は微笑んで首を振った。「いや、君に話をするぐらいで、この僕が疲れて堪るかっ!」
「嫌らしいこと考えていたのね?」
「そうかもしれない…」
「そういうことよく考える?」
(まさに原作通りの展開だっ!)
「しばしば」
ユキは感嘆の溜息をついて、しばらく紙ナプキンを折って遊んでいた。
そして、ふと顔を上げて言った。
「すごく寂しくなることある?つまり、夜中なんかにそういうことをふと考えるの?」
「夜中?いつでも考えるよ。そういうことはもちろんある。」
と僕は言った。
「どうして今ここで急にそんなこと考えたんだろうか…」
声に出して疑問を表現してみると、それはますます不思議な感情の結露だった。
「でも、ユタカ様、あなた馬鹿みたいに見えるわよ。」
「それはまた、一つの見識だな。」と僕は肩をすぼめて言った。

「いつの間に出発したところに戻って来たの?」
ユキがそのとき愕然として言った。
解らなかっただろう。ユキには東京へ真っ直ぐに帰るような方向性を感じさせるように道を選んで進んだのだ。
東京へ戻ろうとしたら振り出しに戻る。
人生ゲームだ。
そして、ユキは混乱している。

「そう、ユキは混乱している。」
「「!!」」
後部座席に、その人物が唐突に現れたのは、そんなときだった。
いつの間に乗ったのだと?ユタカもユキも驚く。

宇宙そのものの意思たる人格の一つによって人間の枠組みの中に定義されたヒューマノイドインターフェイス。
長門ユキ(16歳(4歳))
涼宮ハルヒの一団である。

僕は、やばい奴が出てきちゃったと思った。
「デート・マナーの第一。命を落とさないこと…」
言葉に出すということは、死に繋がるフラグとして本能が恐れているのだろうか?その事象を…。
「ふん」とユキが鼻を小さく鳴らした隙を突いて、僕は再び車を走らせるのだった。

どこへ行こうか?

街へと帰る車の中で、二人のユキはほとんど口をきかなかった。もちろん僕も。
彼女達は身体の力を抜いてぐったりとした姿勢でシートにもたれ、何かを考えているようだった。
ときどき眠っているようにも観えたが、起きているときと寝ているときの違いはあまりなかった。
僕は試しにラジオを掛けてみたが、うるさいと文句を言われることはなかった。
いや、何かの音が鳴っている事に気付かないほど、何かに集中しているようだった。
首都高速に入ると、13歳のユキが身を起こして、おもむろにたばこを一本だけ吸った。
三、四度吹かして窓の外に捨てた。
勘がいいのだろう。
僕が文句(実は誉め言葉)を言おうとすると、すぐにしかるべき距離を開けて対処する。
引き際というものを心得ているようで勘違いをしている。
「草吸うか?」
僕は聞いてみなければならない。
「草って…何?」
「マリファナのことだよ。」
「吸わないわよ。何考えているの?」
「だから君は駄目だっていうことに気付くべきだと思うけどね。」
「…」
ユキを苛めて遊んでみた。
雰囲気をわざと悪くする。
それがその人の本質を表現しているのだと、ハンターハンターのゴンが言ってますよね。
ハハハ。富樫さん仕事しないと僕が勝手にハンターハンターの続き書いちゃいますよ!
脅してみる。

ともかく僕は、中学生(さぼり魔)ユキを拾った交差点まで戻って、そこで車を『停めた』。
「着きましたよ。お姫様。」雰囲気を悪くして、捨てる。ユキは欲しいが、ユキはもう要らない。
ユキはだるそうにドアを開けたが、車から降りず、いつまでもそのままの状態だった。
小さな道とはいえ、ドアを開け放って『止まって』いたら文句を言われる。
後部座席に隠してあるRPGをぶっぱなしてヒャッハーって叫びたくなっちゃうよ。

というか、今横浜ダルクっていう施設の中でこの文章を書いているんだけど、環境が最悪なんだ。
ここにいる全ての人間が、この俺よりも偉いと思っている。
ここにきて確かめてみるといいよ。
どいつもこいつも、死よりも苦しい悲惨な結末を与えてやる。

と言って、僕は三枚の絵を書いた。
レンゲキという名の剣劇
10歳のハーマイオニーという深層心理
この僕の心の中身を表現した説明文

ともかく、物語の中の僕は、車を少し加速させてからまたブレーキを掛けた。とてもシャープに。
ジャンという男が言う慣性の法則を利用して、ドアをバタンと閉めた。
調査兵団で生き残るだけの男の力だ。芸術的な重厚さを伴う閉塞の音。
しかし、ミカサは振り向いてくれない。哀しい。ジャァアアアアアン!

さて、もう何を書いているのか解らないが、改めて確認する。
僕はダンスアタックダンスという小説を書こうとしている。
そして、もし自分が主人公だったらどう行動するか?どう思うかを考えている。
ノルウェーの林が第二章とか、考えている。
羊男が泣き叫ぶまで、僕はこの文章を書くのを辞めない。決してね。
それがルールだ。

やれやれ、意識を現実に戻した僕は思った。
怒り出すとドアを閉めようともしない。
僕は怒る気にもなれなかった。
まあ、僕がそういう風に仕向けたんだけど。

さて、そこで後部座席のユキを見る。
彼女はミラー越しに僕の瞳をじっと覗き込んでいた。
「貴様!見ているな」
こういうときに言うべき台詞を言ってみる。
ユキの眉毛が少しだけ動いた。
これは効いているぞ。
長門ユキを壊す事だって俺にはできそうだ。
だが、明日会社に行かなければならないのか?
矛盾している。

三人に共通している事柄は、何かをサボっているという状況だ。
学校や会社や団等を裏切って、一人一人が集まって三人だ。
文殊の知恵で何とか面白いことをひねり出せないだろうか?

しかし、こういうのってまるで映画の筋みたいだなと僕は思った。
傷つきやすく複雑な年頃の少女に、スタンド使いだと自負しているサラリーマン(嘘)、人外の存在(宇宙人?)。

そうだ。どうしたらユキの中に《ボオッ》とするような恋を呼び覚ますことができるのか?
炎の中に投げ入れられた杉の木の一房が見せる延焼という名の変化を予感させるような、ボオッ
うーん。ディフィカルト。

ファーイアメリカンピープル脇臭い!厚切りジェイソンだって!
僕は薄切りハムスターを名乗らせてもらうけど
おいおい、動物愛護団体から苦情がくるぞ!
違うんです。夢の中に出てきたジェイソン君が、僕に対して言った呼称です。
無罪!有罪?
ファイナルアンサー?
ティントゥントゥン↓ドドドドドドドドド
無罪です。
だって考えても見て下さい。
ジェイソンさんが現実に居なければ、僕はそんな夢を決して見ることはない。
それはカッコたる事実ですから、ジェイソンさんがテレビを通して僕を攻撃したんです。
だからその責任はジェイソンさんが全部取ってください。
さあ、アグネスチャン!やっちまえ!潰せ!
ジェイソンという犯罪者を、ただ殺すだけでは飽き足らないと厚切りにしてゆっくり殺した厚切りジェイソンという
変態をね!
お前みたいな奴は日本がぴったりだぜ今畜生。
アメリカにいてチェスを嗜むよりも、日本酒を飲みながらNHKの将棋見てたほうがいいですもんね。
論点がずれたが、誰が悪いか、そう、この推理小説の犯人は全てジェイソンだっ!
なわけないです。

さて、僕は頭を振ってから身体を上に伸ばして前を向く。
行く場所もないので家へ帰ることにした。

2時間の領域
---------------------------------------------------------------------------------------------
三人で暮らし始めてから少し経ったある一日のことである。

昼が過ぎて夕方となった後、夜を迎えた。
7時前だったので、駅では通勤する人々がごったがえしていた。
春だというのに、微笑んでいる人は数えるほどおしか見当たらなかった。
僕は、売店で新聞と雑誌を流し読みし、ダンキン・ドーナッツでドーナッツを食べ、コーヒーを飲みながらそれを読んだ。
どこにもメイという綺麗な女性が死んでしまった記事はなかった。
雑誌にもディズニーシーやイランとイラクが争っていることや大阪都知事の選挙のことやら中学生の非行のことが載っているだけだった。
赤坂のホテルで、美しい若い女が絞殺されたことについては、もうただの一行も触れられてはいなかった。
自分が少なからずそれに関わっているが故に、特別に見えるだけで、それはありふれた事件なのだ。
ディズニーシーとは比べ物にならない。そんな事件があったことなんて、皆直ぐに忘れてしまうだろう。
もちろん、忘れない者も何人かいる。
僕はその一人だろうし、殺人者もその一人だ。
僕をしつこく取り調べた刑事も忘れないだろう。
「はい、もちろん知っています。その、街でナンパした女なんです。
見た瞬間一目惚れしてしまって、普段絶対にナンパなんてしないんですけど
でも、その・・・ナンパして、ぼく会社で働いているので、癖で名詞渡したんです」
「…それで?」
「それだけですけど…まさか、僕が?疑われているんですか!」
「いや、そうは言ってない。何か知っているんじゃないかって…」
「僕が彼女で何回も抜いたからって、罪にしないでくださいね!」
「いや、いや、お前もしかして犯人じゃなののか?」
「疑っている!疑っているぅううううーーー!」
そうやって10時間もの間、僕は警察と喋り続けた。
とても苦しかった。

それはそうと、新聞やら雑誌の映画欄を見たが、『両想い』は既に終わっていた。
ユキに聴いてみる。しつこく。
「ユキはどこか行きたいところある?」
「特にないわ。貴方の行くところへ行きます。」
今日はところどころに敬語を混ぜてくるが、女らしい言葉を主張して使ったりもする。
複雑な年頃なのだ。きっと。
しつこく攻めたらどうなるか解ったものではないな。
殺されるかもしれない。

そんなことよりも、そろそろ僕としては独りになる必要がある。
ユキやユキをダブルファックして、それが原因で警察と問答を重ねる破目になる未来を回避しなければならない。
いや、ファックしちゃうと読者が離れちゃうから。
あくまで純潔!でなければ物語りは成立しないのだよ。
解るか?俺の言っていること、解るか?
わかります。村上龍ぅうううううう!

僕は電話で五反田君に電話を掛けた。
俳優である彼は、もちろん電話に出なかった。
何かの演技中だろうか?
歯医者辺りが想像される。
僕はちょっと大事な用があるので連絡をほしいと言った。

歩きながら僕は、性的な事とはなるべく関係ないことを話そうと心掛けた。
「どうしてイランやイラクは戦争だのなんだの物騒なこと言い出すんだろうね?」
「知らない。」
複雑な世界だ。実に。
やらなくてはならないことはなく、しかし、やりたいことを考えても思いつかない。
もう一人のユキを攻撃してみるのが一番面白いが、同時に一番危険な試みでもある。
ともかく、今日は最悪な感触がする一日で、そんな風に最悪が何処より齎されることを始めて知った。
現実的になるんだ!現実的に現実と正面から取り組む。
いや、違う。脳内に浮かんだ即物的な裸体の交わりは、現実ではなく妄想である。

部屋に戻ると、ユキ達がチャンネル争いを始めた。
やれやれ。
僕は干してある洗濯物をしまった。
二人とも相変わらず元の場所に戻る予定がないらしい。
もちろん、僕もそれを望んでいないから、無意識の領域で質問を選別して彼女らと会話を続けるのだ。
それにしても、13歳のユキの苗字をそろそろ教えてほしいと思った。
でもなぜか、それは今問うてもどうでもいいじゃないで終わる可能性がある質問に感じる。

僕はシャツにアイロンを掛けた。
銀行の通帳を確認し、もし明日仕事を辞めたらどのぐらい生活が持つか意味もなく考えた。
なぜ僕は自分で働いてお金を稼ぐことにこだわっているのだろうか?

そして、テレビを横目で眺めながら、部屋の片づけをした。
浴槽をきれいに洗った。
冷蔵庫の中を全部引っ張り出して、内側を綺麗に拭き、窓を磨き、ごみをまとめた。
ついでにパスタを作って、三人で食べた。
家族みたいだ。

気が付くと11時になっていた。
ユキ達は相変わらず僕のベッドの上で無防備に眠ろうとしていた。
そのとき、タイミングを計ったように電話のベルが鳴った。
五反田君からだった。
「できれば直接会ってゆっくり話せないかな?電話じゃちょっとまずい話なんだ。」
と僕は言った。
「いいよ。でもそれ、急ぐのかな?今いささか仕事が立て込んでるんだよ。
映画とドラマの撮影が重なって首が回らないんだ。二、三日経つと楽になってゆっくりできるんだけどね。」
「忙しいところを申し訳ないとは思う。でも、人が一人死んでいるんです。」
僕は勤めて冷静に言った。「警察が動いている。」囁くような声で、付け加えて言った。

彼は電話口で黙り込んだ。
僕はそれまで沈黙というものは好ましくなく、ただじっとしているだけの愚かな行為だと思っていた。
しかし、五反田君の沈黙は物静かで能弁に思えるから不思議だ。
彼が身に着けている他の全ての資質と同じように、スマートでクールでインテリジェントだった。
耳を澄ませば彼の頭が最高速で回転している音が聞こえそうだが、果たして何を考えているのだろうかと、ふと疑問に思う。
「わかった。今夜会えると思う。けっこう遅くなるかもしれないけど、それはかまわないかな?」
「かまわない」
「たぶん一時か二時に電話を掛けることになると思うよ。
悪いけど、今のところその前にはどうしても時間があけられないんだ。」
「大変だな。起きて待っているよ。」
電話を切ってから、ユキ達を見ると、やはりぐっすりと眠っていた。
それは僕のベッドだ!
いつもいつも思う不満だが、一体僕はどこで寝ろというのか?
まさか一緒に寝ていいんですか?と横に並んで寝た時、股間に恐ろしいほどの圧力を感じた。
やれやれ。

ともかく、人が一人死んでいる。
なるほど、犯罪映画のワンシーンだと僕は思った。
何せ、五反田君がさらに加わるのだ。
何もかもが映画のシーンのように見えてくる。
そうすると、現実が少しずつ後退していくような気分を生じるのは当然だろうか?

僕は、サングラスを掛けてトレンチ・コートの襟を立て、マセラティからスッっと出てくる五反田君と、そこに駆け寄る二人のユキを想像した。
大手企業の宣伝の冒頭みたいだ。
最終的に何かの製品を買いたくさせるような悪意すら感じるのだ。

やれやれ。
気分が悪い。
少し外でも散歩してこよう。

僕は原宿まで散歩した。
もう夜は遅く、ほとんどの店は閉まっていたため、適当にコンビニに入って雑誌を立ち読みし、チューインガムを買った。
梅味しか置いてなかったので、それで我慢した。
念のため、僕は店員にブルーベリー味の在庫はないか尋ねてみたが、取り扱っていないらしかった。
「でも、昔は取り扱っていたんです。昔は。」
その店員は、まるで昔付き合っていた可愛い彼女を思い出すように、遠くに焦点を合わせて言った。

ようするに、POSシステムにはじかれたのだ。
少なくとも梅味より人気がないらしいが、どうしても僕にはその事実を受け入れることができなかった。
とりあえず、近くの店でブルーベリーを扱っている店はないか聞いてみたが
「うーん。聞いたことないですね。」
「はぁ…。」
「最近、新しいのがいっぱい出てきますよね。嘘みたいに。」
「とてもついていけない」
「まったく」僕は同意して店を出た。

そのようにして漫然と時が流れ、日付が替わった。
僕は一人の風来人としてあてもなく現実という名の迷路を進む。
たいしておいしくもない新しいガムを噛んで、ぶらぶらと歩くのだ。
そうすると、一体僕は何をしているのか、何を求めているのかわからなくなってきた。
メイ―美しい娼婦…。
君は何を求め、どうして死んでしまったのだろうか?

十二時半に家に戻った。
ユキ達に占領され続けている幸せそうなベッドによりかかり、本を読みながら五反田君からの電話を待った。
様々な状況が齎され、僕は少なからず混乱してきたようだ。
次に瞬間には携帯電話が鳴りだすんじゃないか?という気がしてならず、本に集中できない。
そして、ふと気が付くと無力感が静かに音もなく水のように部屋に満ちていた。

僕は本にしおりを挟み、浴室に行ってシャワーを浴びた。
色々な事を5分で済ませた。ふぅ。

バスタオルで頭をふきながら、冷蔵庫からビールを出して、一気に飲み干した。
とりあえず無力感に関してはアルコールがどこかへ運んでくれたが、困ったことに性欲が再び目を出した。
隣のトトロのあのシーンのように、それはあっという間に大木に成長してしまった。

嗚呼。

会社のこと。ユキ達のこと。五反田君のこと。日本におけるブルーベリーガムの生産量のこと。
僕はこの社会の中で生き残っていけるだろうか?
不安はさらに僕のそれを硬くこわばらせたのであった。
なぜだろう。

五反田君からの電話が掛かってきたのは一時半だった。
「悪いんだけれども、もしできたら今から君の車で僕の家まで来てくれないかな?」
と彼は言った。
「とてもごたごたして、結局うまく時間が取れなかったんだ。
でも、車の中話せると思う。
君の車の方がいいだろうね。
運転手の耳に入るとまずいんだろう?」
「そうだね。今からここを出るから、20分ぐらいでそちらに着くと思う。」
「じゃあ、あとで。」

僕は玄関の扉とベッドの脇にユキへのメモを書こうとペンを取り出した。
そのとき、パチリと二人のユキがほぼ同時に目覚めて言った。
「出かけるのね。私も行かせて貰うわ。」
「一緒に…」
「うん、わかったよ。でも、人と会うんだ。問題ない?」
「「ない」」

あまりのタイミングの良さに狸寝入りをしていたとすると、僕が行ったその音が少なくとも一人のユキには筒抜けだ。
そして、不思議ともう一人のユキの苗字がこのタイミングで気になって仕方なかった。
混乱している。

僕は近所の駐車場からスバルを出して、ユキと供に麻布の五反田君のマンションまで行った。
15分しかかからなかった。
玄関のベルを押すと、彼はすぐに降りてきたが、後部座席に座るユキ達を見て驚いた。
「えーと…」五反田君は少し動揺したようだ。
「僕の恋人は二人いて、二人ともユキという名前なんだ。」
どうやら五反田君は本当に驚いたようで、目を見開いていた。
「ごめん。ジョークだ。」
「ははは。そうだよな。ところで、ユキさんとユキさんは何者なの?」
「わからない…。僕が教えてほしいぐらいだ…」

仕方ないので、僕はありのままを五反田君に話した。
「ということは、ずっと一緒に行動しているの?」
五反田君は、大仰なしぐさを交えてそれが日常からどれほど逸脱しているか述べた。
そんな事言われなくても判っている。

そのとき、僕は何かのタイミングをつかんだ感触がした。
「ところでユキ。苗字って何なの?」
「牧村」
「改めてよろしく、牧村ユキさん。」
「…こちらこそ、よろしくお願いします…」

本名が判明すれば何でも調べられる時代だ。
ようやく少しだが何かすっきりした気持ちになった僕は、ユキと握手した。

「…」
一方、五反田君は僕と二人で重大な話をするつもりでいるため、どうしたものかと迷っているようだ。
エレガントな沈黙、彼は今具体的に何に迷っているのだろうか?
「その…遅くなって悪かった。ひどい一日だった。
これから横浜まで行かなくちゃならないんだ。
明日の朝早く映画の撮影があるんだ。
それまでに少し眠っておきたい。
ホテルはとってある。」
「それじゃあ、横浜まで三人で行こう。そうすればその間に話しができる。」
僕は事実を確認するように提案した。
「ユキさん達も一緒に行くの?」
「大丈夫さ。何を話しても問題ない。」

結局のところ、僕はユキ達の非現実的な美しさにある種の諦観を感じていた。
妖精の類だとさえ考えていた。
あきらめよう。そして、性の対象から彼女達を外すんだ。
言いくるめて何とかその場を取り作っても、必ず何かのしっぺ返しを食らうにきまっている。
そうにちがいないっ!これは陰謀だっ!

五反田君は助手席に乗って、二人は後部座席に再び乗りこんだ。
「落ち着く。」五反田君は言った。
「信じられないかもしれないけど、スバルとは心が通い合っているんだ。」
「そうなの?」牧村ユキは感心したように言った。

五反田君は、驚いたことに本当にトレンチ・コートを着ていた。
そしてそれが実によく似合っていた。
サングラスは掛けていなかったが、ごく普通の透明なレンズの眼鏡を掛けていた。
とてもインテリジェントに見えてしまう。

僕らは深夜のすいた道路を第三京浜の入口に向かって車を走らせた。
五反田君は、足元においてあったCDラックからいくつか手に取って眺めていた。
その内一つを手の中でくるくる回しながら言った。
「懐かしいね。昔よく聴いたな。中学生のころだね。
何というか、特別な音だった。
親密でスイートな音だ。
いつも太陽が輝いていて海の香りがして、となりに綺麗な女の子が寝転んでいるような音だ。
唄を聴いていると、そういう世界が本当に存在しているような気持ちになった。
いつまでも皆が若く、いつまでも何もかもが輝いているような、そういう神話的世界だよ。」
「そう…」珍しく高校生のユキが口を開いて呟くように言う。
しかし、そんな曲の入ったCDが何か、僕は思い当たらなかった。
人によって何を感じるかはそれぞれ違うのだ。
彼は続けて言った。
「でも、そういうのはもちろんいつまでも続かない。皆年をとる。
世の中も変わる。神話というのはみんないつか死んでしまう。
永遠に存続するものなんて何もなに。」
彼はラックにCDを戻したが、影と光の具合でそのCDが何であるのか見えなかった。

ラジオから『世界で一つだけの花』が流れた。
ユキが曲に合わせて口笛を吹き、小さな音が心地よくあたりに響いた。
「懐かしい」と彼は言った。
「ねえ、信じられるかい?これが流行ったのはもう十数年前なんだぜ。」
「まるでつい昨日みたいに思えるのにな。」と僕は言った。
五反田君は決めかねるような顔つきで僕を見ていた。それからにっこりと笑った。
「ああ、本当に、時の流れが加速しているようだ。何かの冗談みたいだ。」
「でも、冗談じゃない。社会に出ると時が加速する。」
と僕は言った。
「そして、僕が何か言うと、大抵みんな冗談にとるんだ。狂った世の中だ。」
「ははは。そうだね。でも、きっと僕の住んでいる世界よりはずっとましだよ」
彼は笑いながら言った。
「あそこでは弁当箱に玩具の犬の糞を入れるのが高級な冗談だと思われているんだ。」
「本物を入れる方が、冗談としては高級だと思うな。」
「馬鹿みたい。」
ユキが小さく鼻を鳴らしながら言った。

それからしばらく僕らは黙ってラジオを聴いていた。
世界のあらゆる出来事が読み上げられ、また多くのジャンルの曲が流れた。
細かい雨が降り始めていた。
僕はワイパーを動かし、しばらく止め、それからまた動かしてみた。
その程度の雨だった。柔らかな春の雨…。

「中学校の頃っていうと、君はどんなことを思い出す?」
五反田君が沈黙を破って僕に質問した。
「自分という存在が無限に膨らみ掛けたと思ったら、みっともなく縮んでおぞましいゴミになった。」
と僕は答えた。
「その他には?」
僕は少し考えてから言った。「君が理科の実験の時間にガズ・バーナーに火を点けていたことが記憶に残っているな。」
「どうしてまた?」と不思議そうに彼は言った。
「火の点け方がね、何というか、とてもシックだった。
君が火を点けるとまるでオリンピックでも始まるんじゃないかって、期待しちゃうんだ。」
「それはいささかオーバーだぜ」と彼は言った。
「でも、君の言わんとすることはまあ解る。つまり…ジョウ・アップのことだろう。
うん、何度か人に言われたことはあるよ。
そして、そのことで昔は傷付いたもんだよ。
僕自身はショウ・アップしているつもりなんて全くなかったからね。
でも、無意識にはしていたんだろうな。
小さいときからずっとみんな僕のことを見ていたんだ。
だから当然そういう形に体が動いてしまう。とても自然に。
何をするにしても、演技的になる。」
「そういうものなの?」ユキが疑問を発した。
五反田君はそうだな…と改まってから答えた。
「うん。そうだね。本当にそうする必要性があるかと言われると解らないけど、自然の流れで演じていたんだ。
だから俳優になった時は、何となくホッとしたもんだ。
これからはもう堂々と演じられるわけだからね。」
彼は膝の上で両手の平をぴたりと重ねあわせた。
ちらりとバックミラーを眺めると、ユキ達はいつの間にか五反田君と同じ姿勢を取っていた。
五反田君がそんな事言うから、早速演じているのか?二人とも?
彼の話が続く。
「でもね、僕はそれほど酷い人間じゃない。
僕は僕なりに素直な人間だし、また傷つきやすくもある。
ずっと仮面をかぶって生きていられるほど、強くもないんだ。」
「ごめん」と僕は謝った。そして言い訳した。
「そういう意味で過去を振り返ったわけじゃない。
ただ、感心しているんだ。
ユキ達も一度見るといい。
それは本当にシックなんだ。」
彼は楽しそうに笑い、眼鏡を外してハンカチで拭いた。
とてもチャーミングな拭き方だった。
「いいよ。じゃあ今度やってみよう」と彼は言った。
「ガスバーナーとマッチを用意しておくわ。」ユキが興味心身といった態で言う。
「じゃあ僕は、失神したときの為に枕を用意する係りを承ろう。」
「「馬鹿みたい」」ユキがユキを演じて被せたのだった。

五反田君は眼鏡を掛けて、カー・ステレオのボリュームを少し下げた。そして言った。
「もしよかったら、その、君の言った死んだ人間の話をしないか。そろそろ…」
「メイ」と僕はワイパーの向こう側を睨みながら言った。
「彼女が死んだんだ。殺された。赤坂のホテルで、ストッキングで絞め殺された。」
五反田君はしばらくぼんやりとした目で僕を見ていた。
話を理解するのに、三秒か四秒かかかった。
そして顔を歪めてそれを理解したようだ。
大きな地震で窓の枠が歪むような歪み方だった。
僕は彼の表情の変化を何度かちらっと横目で眺めた。

「殺されたのはいつなの?」唐突にユキが聞いた。
僕は正確な日にちを答えた。
五反田君は気持ちを整理するようにまたしばらく黙り込んだ。

「ひどい」と彼は言った。そして何度か首を振った。
「それはちょっと酷すぎる。殺す理由なんて何もない。良い子だった。それに-」
彼はまた何度か頭を振った。
「良い子だったよ」と僕は言った。「御伽噺みたいに」
彼は体の力を抜いて深い溜息をついた。
疲労が急激に彼の顔を覆っていた。
もうそれ以上留めておくことはできないというように。
彼は疲労をずっと体の中のどこか人目につかないところに留めておいたのだ。
不思議なことができるものだと僕は感心した。
本当にそんなことが五反田君にはできるのだ。
そして、その疲労によって彼は少し老けて観えるほどだ。
何をしても様になってしまう。
疲労でさえ、人生のアクセサリーのように使いこなし、彼がますますチャーミングに見えてしまうのだ。
ちょうど、何を手を触れても黄金に変わってしまうあの伝説の王様を僕に想起させた。

「よく三人で話をした。」と五反田君が静かに言った。
「僕とメイとキキで。楽しかった。親密な気分になれた。
君は御伽噺って言う。でも御伽噺だってそう簡単に手に入らない。
だから僕は大事にしていた。でもひとつずつ消えてなくなっていく」

それからずっと四人とも黙っていた。
僕はじっと前方の路面を眺め、五反田君はダッシュボードの上に視線を向け、なぜかユキ達は五反田君を睨んでいるように思えた。
僕はワイパーを止めたり、動かしりした。
ラジオは小さな音で世界を語り、様々な音楽を流しつづけている。

「どうして君はメイが死んだことを知ったの?」と彼が僕に聞いた。
「警察に呼ばれたんだ。」と僕は説明した。
「彼女が僕の名刺を持っていたんだ。この間渡したんだ。
キキのことで何かわかったら、教えて欲しいって。
どうしてか、それを財布の一番奥に彼女は入れていたらしいんだ。
そして、具合の悪いことに、それが彼女の身元確認に繋がる唯一の遺留品だった。
だから僕が呼ばれた。死体写真を見せられて、この女を知っているかと訪ねられた。
タフな刑事が二人だよ。
でも、知らないって言った。嘘をついたんだよ。」
「どうして?」ユキが聞いた。
「それを言ってしまうと、五反田君にとって、都合が悪くなるんだ。色々と事情が入り組んでいるんだ。」
僕は続けた。「警察は全然信用しなかった。プロだからね。嘘を付いていれば匂いで解るみたいだ。
たった一日だったけど、ひどく絞り上げられた。法律に引っかからないように。
体に痕(あと)が残らないように。
ありとあらゆる手法で。かなり気持ちよかった。実は、最高の体験だったよっ!」
「そ、そうなのか?僕は昔二週間も留置所にぶち込まれた。
でも、完黙した。でも、怖かった。
二週間一度も太陽を見ることができなかった。
もう二度と出られないと思って怯えたよ。
そういう気持ちにどうしてもなるんだ。我慢しようがなかった。
あいつら、人を本当に打ちのめす。
ビールの瓶で肉を叩くみたいに。
やり方を知ってるんだ、どうすれば人が参るかってのをさ。」
「だからこそ、僕はそれを受けて笑顔で応じたよ。警察官も怒らないといけないから大変ですねって。」
「君は凄いな。よくそんな事言えるな。」
「それが僕という男の生き様だからね。」
そこで、ユキが話に割り込んできた。
「二人とも警察には事実を話さなかったの?」ユキが改めて聞いたので、僕が答えた。
「当然だよ。途中で『実は…』って言い出すわけにもいあかないよ。
そんなことしたら、それこそ帰れなくなってしまう。
ああいうところでは、一度口に出した事は最後まで死守するしかかにんだ。
たとえ何があろうと、しらを切り通すしかないんだよ。」
五反田君が顔を少し歪めて言った。
「悪かったな。僕が彼女を紹介したばっかりに、君を酷い目に合わせてしまった。
巻き込んでしまった。」
「君が誤ることはない」と僕は言った。「あのときはあのときだよ。
あれは僕だって楽しかった。それて、これはこれだ。彼女が死んだのは君のせいじゃないと思うよ。際どいけど」
「…。でもとにかく君は僕のために警察に嘘を付いてくれた。
僕を巻き込まないために独りで酷い目にあった?あれ?楽しんでいたのか?」
「おおむね。楽しんでいたさ。会話を誘導してまいんちゃんを認知している文学というロリコンを漁師という警察を味方につけて二人で攻めた。
ロリコンは才能じゃなくて単なる犯罪だからね?解ってんのかお前っ!
漁師は怒りながら文学と喧嘩しはじめたよ。本当に面白かったさ。」

僕らは信号を待つ間、視線を交し合った。
そして、僕にとって一番肝心な部分を彼に説明した。
「ねえ、そんなことはもういいんだ。気にしなくていい。
感謝しなくていい。君には君の立場があるし、僕はそれら全てを理解している。
問題はね、僕が彼女の身元を明らかにできなかったってことなんだ。
彼女にも身内はいるだろうし、犯人のことはどうでもいいんだけど、ともかく、しかるべき場所に彼女を移動してやりたい。
僕だって全部喋ってしまいたかった。でも、喋れなかった。
僕はそれが少しだけ辛いんだよ。メイだって冷凍庫の中で凍っているのは嫌だし寂しいだろう。」
「本当にそう思っているの?」ユキは驚いたように僕に言い放った。
「え?…うん。」僕は冷静に対処した。

五反田君も、僕も、ユキも、もう一人のユキも、それからしばらく黙っていた。
五反田は長い間じっと目を閉じて考え込んでいた。
眠り込んでしまったんじゃないかという気がしたほどだ。
ラジオだけがずっと何かを喋り、或いは音の羅列を奏でていたが、奇妙に音が捩れてしまって、まるで辺りがしんと静まり返っているように感じた。
なぜか、車のタイヤが薄い水の膜をはねるシュゥウウウという均一な音が耳の奥で響くように聞こえるのだった。
ジクウガユガンデイル。僕は思い、そして感じた。

「警察に電話する…」と五反田君は目を開けて静かに言った。
「おいおい、匿名にして電話でもするのか?
そして、彼女の属していたクラブの名前だけでも言うつもりか?
メイが殺された何日か前に、君とメイが会っていたことなんてすぐに調べられちまう。
音声が録音されて、声紋を照合されるおそれだってあるぞ。
そうなったら今度は僕がしょっぴかれるかもしれない。
秘密は余すことなく全て暴かれるんだぞ!」

彼は肯いた。
「君の言うとおりだ。うん、まったく僕はどうかしている。」
「混乱している」と僕は言った。「そういう時はじっとしてればいいんだ。
そうすればみんな過ぎ去っていく。時間の問題だ。
的確な表現をすれば、単にホテルで女が絞め殺されただけだ。
よくあることだし、今に皆忘れる。恐らく君が責任を感じる筋合いはない。
間接フリーキックみたいなもんなんだろ?えぇ?」
「え?…君は…」
「ははは。ジョークだよ。ジョーク。
ともかく、君はただ首をすくめて静かにしてればいいんだ。
何もしなくていい。今ここで君が余計なことをするべきではないんだ。」

意識して冷たい声を出したが、やりすぎたかもしれない。
或いは、言い方がきつかったのかもしれない。
でも、僕は演じることをやめることができなかった。
五反田君が始めた、対戦心理ゲーム式のバトルの土俵に上がり、僕は戦っているのだ。

「悪かった。」と彼はよく解らないという顔をして誤った。僕は優しい声を意識して出して言った。
「君を責めているんじゃないんだ。ただ、僕はもう少しだけファックしたかって事さ。
おっと、レディの前でこんなこと言ってしまった。すまない。ともかく、君のせいじゃないだろう。アリバイだってきっとあるしさ。」
「い、いや、君は…。僕のせいだろ?それって・・・」

「僕は違うと思うね。」と僕は言った。
「私は彼が犯人だと思う。」ユキは鋭く言った。
「約37%の関係性が認められる。」高校生のユキは無機質に言い放った。

そして、沈黙が再び重くのしかかってきた。誰も何も喋られなくなった。
僕はラジオのボリュームを上げた。ビートルズのアクロス・ザ・ユニヴァースが流れてきた。
結局、横浜の市内に入るまで僕らはそれぞれに黙り込んでいた。

でも、このタイミングで沈黙して考えることを選択する三人の態度に、これまでにない親密な感情を抱くことができた。
不思議だ。なぜこのタイミングでこんな気分になるのだろうか?
僕は彼の背中に手を置いて、もういいんだ、終わったことなんだから、と言ってみた。
そして、僕は何でもいいから彼に対して言おうと思った。
「ウイリアム王子って、どうしようもないハゲだよね。救いというものがない。誤魔化し様がない。完璧な禿げだっ!」
空気中に漂っていた、僕の力を超えた重みがある何かを吹き飛ばすのにはジョークが一番だった。

そして、ウイリアム王子に注ぐと言って、謳うのだ。
ギザギザハートの禿げ野郎。ウイリアム王子。
ちゃらっちゃっちゃっちゃ、ちゃちゃちゃちゃ!ヘイ!(のりのりで)
ちっちゃな頃から禿げ頭(目を見開く)
15で毛根壊れたよ(ショックを受けて泣く)
20で鬘を買いました。(どや顔)
次の日鬘は、盗まれたぁあああーーー(叫ぶように!)
嗚呼、解ってくれとは言わないがっ!(怒るように)
そんなに俺が憎いのか?(湧き上がる憎しみ)
髪の毛髪の毛お休みよ!(事実を読み上げる)
ピカピカ頭の、王子様…(目線をそらせる)

五反田君は腹を抱えて笑い転げた。
きっと、このタイミングでこんな唄を聴くという未来を想像できなかったのだろう。
彼の心の中に穴を開け、全てをその穴に吸い込ませてやったのだ。

「ねえ、その、誰が殺したんだろう?」と随分後で彼が言った。
「それはとても難しい問題だ。」ちらりとバックミラーで高校生のユキを見ると、眠っているように彼女は動いていなかった。
もう夜も遅く、眠いのだろうか?或いは、目を開けて寝ているかもしれない。
「そもそも、そんなこと考えるなよ。」と僕は勤めてどうでもよい風に言った。
これ以上五反田君が責任を感じるべきではない。
「ああいう趣味を持っているのだから、結局色んな人間と顔を合わせ、同じ結末を辿るのが落ちさ。
何でも起こる可能性がある。御伽噺ばかりじゃない。」
「でも、身元が確かな人間しか相手にしないんだぜ。
彼女は気をつけてやっていたはずだ。」
「うーん。それでも、落ちる時は簡単に落ちるのが人生の落とし穴さ。」
「かわいそうに。」と彼は言った。
「確かに、あの子は御伽噺を信じすぎたんだ。そりゃあぶち壊してみたくもなるさ。」と僕は言った。
「あの子が信じていたのはイメージの世界だ。でも、いつまでもそういうのが続くとは限らない。
仮に続くとしても、さらに厳格なルールが必要だ。甘すぎるだろう。」

「不思議だったんだ」と五反田君は言った。「もっと上手な生き方、たとえば、モデルなんかだっていい。
どうしてあんなことをやっていたんだろう。あの子はそれほど金に興味があるわけじゃなかった。
確かに金にはなるだろうけど、やっぱり、彼女は御伽噺を求めていたんだろうな…」
「たぶんね」と僕は言った。「君と同じように。僕と同じように。他のみんなと同じように。
それぞれ求め方が違う。だからすれ違いや誤解が起こる。」
「そして、それが死に繋がることもあるわけ?」ユキが聞いた。
そのときちょうど、目的地であるニュー・グランド・ホテルの前に到着した。

「ねぇ、今日は君らもここに泊まっていかないか?」と五反田君は僕に訊いた。
「部屋は取れると思うんだ。ルーム・サービスで酒なりジュースなりとって、少し皆で飲みたい。
これじゃどうせ直に眠れそうにないから。」
僕は首を振った。「酒を飲むのはまた今度にしたい。すまない。
僕は些か疲れすぎている。たぶん行かない気もするけど、一応会社があるんだ。
それに、僕は三人で楽しみたいんだ。五反田君。ごめんよ。」
「わかった。」と彼は言った。「送ってくれてどうも有り難う。僕は今日はずっとろくでもないことばかり言ってるみたいだね。」
「君も疲れているんだ」と僕は言った。
「いろいろ有り難う」と彼は言った。

彼は微笑んで車を降りようとしたが、ふと思い直したようにユキをちらりと見た。
二人の中間辺りに視線を定めて少しだけ眺めたようだ。
なるほど、僕がこの真ん中でふんぞり返っているように見えるのか?
彼は顔をキリっと引き締めて、族に言われる決め顔で言った。
「不思議な話だけど、僕には君以外に友達と言えそうな人間が全く一人もいないんだ。
二十年ぶりに会って、それも今日会うのが二回目なのに。君は本当に不思議な奴だ。」
そう言って彼は行ってしまった。トレンチ・コートの襟を立てて、春の小雨の中をニュー・グランド・ホテルの玄関に消えた。

友達か…と僕は思った。
人が死んで、美しい友情が始まろうとしているのか?
僕は人生を軽く振り返ってみた。今はじめて、友達と呼べるものができようとしている気がする。
僕はまだ彼を友達として認めてはいなかったが、彼の言う事はよく理解できた。
それが映画のワンシーンみたいに見えるのは、彼のせいだけではなく、僕という人物の本質によるものだろう。
たとえば左右に控えるダブルのユキがいることで、さらに華やかな絵となって画面を飾るドラマになるのだ。

僕はビートルズを聴き、曲に合わせてハンドルをぱたぱたと叩きながら東京に戻った。
懐かしきイエスタデイ。

雨は相変わらず静かに均一に降り続いていた。
夜の闇をしっとりとさせる優しく柔らかな雨。
「メイは非情に完全に死んでいる。」
と僕は自分とユキ達に向けて言った。
ユキ達から何かしらの返事があると期待したが、それが齎されることがなかった。

それにしても、僕と五反田君との間にはいくつかの共通点がある。
僕は思考を切り替えてそれらを具体的に考えた。
まず、理科の実験班が同じだった。
次に、どちらも離婚していて独身だ。
それからキキと寝ている。
そして、メイとも寝ている。
その先には、もしかしたらユキに対する甘く切ない気持ちが含まれるかもしれない。
今度会った時に一緒に酒を飲むだけの価値はある。
しかし、今日は駄目だ。
彼にはったりを言って、悠々と帰路を進みたかったのだ。
社会の中にいる以上、序列を決めるという競争に参加するように僕は生きていくしかないのだ。
あと、ユキと五反田君に囲まれているのは気分が良くない。
かっこ悪い自分のせいで、何となく惨めな気持ちになる。
映画のワンシーンのように見えるという事象に、僕は少しも関わっていないのだ。
そんな結論に僕は達したため、思考を放棄した。
ようするに、三人ともチャーミングなのだ。あまりにも、チャーミングすぎる。

渋谷のアパートに戻ると、僕はブラインドの隙間から外を眺めながらウイスキーを飲んだ。
ユキはベッドに寝転んで片方は漫画をもう片方は文庫本を読んでいる。
やれやれ。四時になると僕は眠くなってきたので、床にタオルをしいて雑魚寝した。


一週間が過ぎ去った。春が地歩を固め、確実に前進していく一週間だった。
一度として後戻りしない春という季節は、時の流れを早く感じさせる。
あっという間に時間が過ぎたのだ。
三月とは全然違う。
桜が咲き、そして夜の雨がそれらを散らせた。
随分前から街を騒がせていた選挙が終わり、学校の新学期が始まる。
なぜか東京ディズニーランドでテロが起こり、大勢の人が死んだ。
それは千葉で起こったのだっ!と僕は叫んで良いのか解らなかった。
マイケル・ジャクソンが新曲を出し、顔も新しく作り直されていた。大変なことになっていた。
一体、最後には何処へたどり着くのだろうか?
僕の人生の結末を彼の顔によって占う。
よしてくれ。きっと最悪に違いない。
ともかく、メイという死者はずっと死者のままだった。
そして、僕にとってそれは激動の一週間だった。

どこかに僕が行こうとすると「なぜそうしなければならないの?」と中学生のユキが訊いてきた。
そして、その全てに金による人生の構築が目的として含まれていたため、ユキは僕に一億円の現金をくれた。
アタッシュケースに詰められたそれらは持ち上げると重く、筋肉を鍛えるのにちょうど良い重さだった。
ある日、会社から帰ると、部屋にそれが置かれていて、ユキが「それあげるわ」と言った。
蓋を開ける前、どうしてか分解されたスナイパーライフルが入っているのだと思うような、スマートなアタッシュケースだった。

「ああ、よかった。こんな物が入っているなんて思いもよらなかったけど、武器だったら人が大勢死んでたよ。」と僕は言った。
「あなた、やっぱり変わっているわ。」
「ユニーク」ユキが話を一言で纏めた。

お金を受け取った僕は、会社に電話を掛け、犯罪を犯して警察に呼ばれたので、もう会社へは行けないと言って、会社を辞める旨を伝えた。
「君はいったい何をやったんだ?」と聞かれたので「人を三人殺しました。次は貴方を殺そうと思ってたんです。貴方には理不尽によく怒られましたからね。」
電話は唐突に切られた。そして、二度と彼とは話すことがなかった。

「ピース」僕が言った。
「ピース」牧村ユキが言った。
「ピース」長門ユキが言った。

僕は週に五回もプールに行って泳いだ。
潜水で200mも泳いだユキは不気味で誰も声を掛けたがらず、中学生のユキの隣は常に僕が居て男を遠ざけた。
また、すきバサミを用いて、自分で髪を切った。
時々新聞を買って読んでみたが、どこにもメイの事件は載っていなかった。
また、ネット上に上がるあらゆる噂にも目をこらしたが、メイの事は書かれていなかった。
恐らく、まだ身元がわからないのだろう。
そんなことよりも、二人のユキが全く家に帰ってくれないことの方が、僕にとっては事件であり、僕を不安にさせるのだった。

今日は、ゲーム機を買ってきては格闘ゲームに熱中している二人である。
僕は後ろから眺めているだけだ。
二人とも上手すぎる。なぜそんなに連携が繋がるのか?
それが終わると、ロマサガ3をやり始めた。
面白そうなゲームだ。トレードと戦争がたまらない。
HP200で四魔貴族に挑んで無双三段をひらめいたとき、僕は感動さえしてしまったのだ。

そして週が開けた月曜日には、音楽を聴きながら車で遠出した。
彼女達と行動をするのは概ね楽しかった。
我々には様々な共通点があり、その最たるものとして暇があげられる。
どうやら、彼女の母親は有名な写真家で、また帰国しておらず家に帰っても仕方ないとのことだ。
またどうやら彼女は一人限で、様々な事象に対処しなければならなく、大変だとか。
仕方なく三人で纏まって行動し、楽しくやっていくしかない。
二人だけで昼間街を歩いていると、補導されるらしく、そこに僕が含まれないわけにはならないとのことだ。
まったく、日本のシステムはどうかしているよ。

「ねぇ。今度サファリパークを歩いてみないか?」と僕は聞いてみた。
「あんなところ行きたくなんか無いわよ。死にたいの?」中学生のユキが顔をしかめて言った。
「獣に食べられて死ぬのなんて嫌なの。」
「ああいう、危険で恐ろしく、でも動物だけだとわざとらしく平和に見える場所に騙されて車から降りちゃうのは子供だけだと言いたいの?」
「そうよ。」
「いや、一度ニュースになったけど、老人も降りたらしいよ。ムツゴロウさんにでもなったつもりだったんだろう。」
「そう、指を食べられた。」
「えっ?本当にそんな時間が起きたの?」
「ああ、起きたとも。ネットで騒がれた驚くべきニュースだ。」
「とにかく、私は絶対に行かないわ。そんなの当たり前でしょう。なんで車から降りてあるかなくちゃいけないのよ」
彼女は怒ったように答えた。
「でも、狭い中にじっとしているのは体によくない。とても不健康だ」と僕は食い下がった。
「そんなこと大きなお世話よ!」
「楽しいのに…。」
「楽しくない…。そうね。楽しいことと言ったら、ハワイなんてどうかしら?」
唐突に彼女は提案した。
「えー。ハワイだって?」僕はどうでもいい風に答えた。
「ママが電話してきて、私に少しハワイに来ればって言ったの。
あの人今ハワイにいるの。ハワイで写真撮ってるの。
ずっと私のこと放っておいたんで、きっと突然心配になったのね。
そして電話してきたの。
ママはまだしばらくは日本に戻れないし、どうせ私も学校に行ってないしね。」
「行けよっ!」
僕の突っ込みを軽く受け流して彼女は続けた。
「うん、まあ、ハワイって悪くないじゃない。
それでもしあなたが来られるんだったらと思って。
だって私ひとりで行けないでしょう?」
「いけるよ。頑張ってくれ。」
「どうしてそんなに冷たいの?」
「ああいうソフトでやわでわざとらしくて子供の笑顔がとことん眩しい自由主義的でハワイアン的なところが嫌なんだっ!」
彼女は笑った「じゃあ、あなたはライオンに食べられちゃうよ。」
「ロケットランチャーを持っていく。大概、それでどうにかなるさ」
「バイオハザードのやりすぎよ、あなた」
「確かに、ハワイには補導員はいないけど、一体何があるんていうんだ。」
「本物の青い空と白い雲がある」
「まあ、言わんとしていることは解るけど、それって沖縄にもあるじゃないか。
それに、サファリの中心で見上げる空は、きっと凄く青いぞぉー。」
「一緒に行ってくれないの?」
「いや、行くよ。」
「私、最近あなたが何を考えているのかわからないわ」
「それは奇遇だね。ちょうど僕もそう思っていたところだ。」
改めて僕はハワイについて考え直してみた。
そして、考えれば考えるほどハワイに行っても何も得られないという結論しか導き出せない。
仕事も辞めたことだし、東京の街を離れて全く違う環境に身を置いてみたかったが、ハワイはちょっと…。

ここで重要なことは、僕が東京の街にいる必要性などないことだ。
ビルばかり眺めていても良い考えというものが全然頭に浮かんでこないのだ。
どこかに繋がるはずの運命の糸は切れかけ、新しい糸も出てくる気配はないように思える。
ユキとユキがその何かに含まれているような気もするが、僕の本質が彼女達に関係あるとはどうも思えなかった。
見当違いな場所で見当違いなことをやってみるような気分だった。
何をやってもしっくりと体に馴染まなかった。
間違ったものを食べつづけて(最近は贅を凝らした食事に放蕩しつつあった)
間違ったものを買いつづけているような(意味もなく数十万するアンティークを買ったりだとか)
薄暗い気持ちになった。
もうなんか色々とどうでも良くなってきてしまったが、メイは非情に、完全に死んでいるのだ。
どうしようもないってやつだ。問題は五反田君の今後の人生だろう。
それに、警察で絞り上げられたあの記憶が妙な疲労感を伴って苛む。
もしもう一度取り調べられる機会が巡ってきたら
「実は、五反田って奴が怪しいんですぜ!」
などと、何よりも自分を楽しませるためだけのブラック過ぎるジョークを言ってしまいそうだ。

それはそうと、以前に僕は一日だけハワイに滞在したことがあったことを思い出した。
仕事でロス・アンジェルスに行ったときに、途中でエア・ジャックされて、ハワイですったもんだした。
僕は死にたくなかったので、その場でうんこをしてご飯に掛け、とても上手そうに食べてみせて犯人を動揺させ、犯人の背後に回らせた警察官だという男に事件の解決を託した。
懐かしいハワイ。
表面的には感謝されたが、ホノルルの安ホテルに一泊という、実にチープな恩返しには涙した。
なにがホテルだ!うらぶれた安アパートの一室のような酷い場所だった。
そうか、だから僕はハワイに良いイメージをもてないのだ。

ハワイか…
のんびりするのだ。
たっぷりと海で泳いで、ユキにピナコラーダを飲ませてみる。
日焼けもするだろう。
そして改めて視点を変えて物事を見直し、考え直してみる。
そしてたぶんこう思うだろう。
そうだ、こういう考え方があったんだと、悪くないかもしれないな、ハワイ。

「実は、サファリパークに行くっていうのははったりだ。ごめん。ハワイに行こう!」
「じゃあ決まりね!」

切符を買いに行こう」
その前に、僕はユキから親の電話番号を聞いて、牧村拓なる人物に電話を掛けた。
電話には書生なるフライデーと名乗る男が出た。
僕が名前を告げても、なかなか牧村拓に繋いでくれないため、ユキに代わって電話を取り次いでもらった。
牧村拓に、僕は事情を説明した。
そして彼女を連れてハワイに行って構わないだろうか、と聴いてみた。
少し考えさせてくれと彼は言った。
「君はユキに好かれているということは、随分変わっているということだと思うんだが…」
「どうも、それは誉め言葉だと捕らえておきます。」
「そうだな…。ハワイに行ったら、君は何をするんだ?」
「まあ、外国ですからね。僕は英語が得意ではありません。
何とか身振り手振りを交えて意思の疎通ができるぐらいです。
だから、ビーチに寝転んでのんびり毎日を過ごすしかないと考えています。」
「うむ・・・」と彼は考えるように返事をした。
「僕みたいな雪かき労働者にだって、休暇は必要です。」
ドンとユキが僕を殴った。
電話を耳に挟んで僕はユキに忠告した。
「いや、違う雪のことだよ。空から降ってくるやつ。」
「解っているわよ。何でそんなややこしい表現にしたかって聴いているの?」
「ねえ。もしかしてあの日なの?」
ユキのパンチを柔らかく受け止めて僕は言う。
「腰を入れて打つんだ。抉るように。父親をなっ!」
「おい!ふざけやがって」
「ははは。ジョークですよ。ジョーク。」
「「…(本当に変わってる)」」
「まあ、それはそうと、海外に行けば警察に小突き回されずにすむだろうしな。」
「なっ!どうしてそれを…。まさか貴方、既に僕達を監視しているのですか?」
「親としては当たり前だと思うが、まあどうだろうな?ともかく、あのメイさんの事件はまだ落着していないんだろう?」
「そんなことまで知っているんですか?じゃあ、五反田君って誰か解りますか?」
「は?誰だそれは?」
なるほど、ここまでしかこいつは知らないのかと僕は思った。
それとは別に、僕は部屋に盗聴器の類が仕掛けられていないか、車の中も心配になってきた。
「雪かき労働者ユタカ君。そんなジョークを言っていると、あいつらまた君のところに来るかもしれないぞ。きっと。」
どうやら、うっかりユキに手を出していたら、僕は殺人犯となって刑務所に10~20年近くも服役する破目になるかもしれない。
「そうかもしれないですね」と僕はとりあえず返事をした。
「「…」」そして、二人とも沈黙した。
お互いの出方を探っているのだ。
30秒近くも言葉を発しなかった。
五反田君のようなインテリジェントな沈黙。
難しいものだ。
先に精神が折れたのは牧村拓だった。
「ともかく旅行に行ってきたまえ。金のことは気にしなくていいから、好きなだけ行っていい。」
と彼は言った。どこに行って何を話しても、結局のところいつも金の話になる。
みんな現実的なのだ。僕みたいな夢の世界に片足突っ込んで妄想の世界に浸ったりしない。
「でも、好きなだけと言われると困ります。一年ぐらい帰ってこないかもしれないですよ?」
と僕は言ってみた。
「僕は仕事を辞めて自由です。お金もある。ハワイに行って、色々と遊ぼうと考えているのです。
やらなくちゃならないことはありませんから。」
「…なんでもいい。君とユキの好きにすりゃあいい。」
と牧村拓は言った。
「それでいつ行く?うん、早い方がいいだろうな。
旅行ってのはそういうもんだ。
思いついたらすぐ行くんだ。
それがコツだよ。」
「だそうだ。ユキ。」傍らで聞いているユキに言ってみた。
「馬鹿みたい。」と彼女は言った。計画通りの台詞に僕は小さくガッツポーズを取った。
牧村拓にこの言葉を聞かせて精神を削っていくのが、僕の攻撃さ!
「…ゴボン。続けるぞ。えーと、どこまで話したっけか?」
「荷物なんてたいしていらん、までです。」
「そうそう、いらん。何もいらん。シベリアに行くわけじゃないもんな。
足りなきゃ向こうで買えばいいんだ。向こうでは何だって売ってる。
そうだな、明後日の切符は取れると思う。それでいいか?」
「いいですけど、僕の切符の分は自分で払いますよ。けれども―」
「ぐずぐず下らんことを言うな。俺に任せておけ。知らんかもしれんが、俺はこれでも少しばかり有名な作家だ。
飛行機の切符くらい恐ろしく安く買えるんだ。すごく良い席が手に入る。
人にはそれぞれの能力というものがあるんだ。」
「おっしゃるとおりです。」
僕はここらへんで相槌をひとつ打ってみた。牧村拓が続ける。
「とにかく、余計なことは言わなくていい。システムがどうこうなんてことは絶対に言うな。
ホテルも俺の方で予約しておいてやる。二部屋。
君とユキの分だ。どうする?キッチン付きがいいか?」
「三部屋予約してくれませんか?知っていると思いますが、もう一人のユキを連れていきたいんです。」
「確認してみてくれ。」
「君は僕と一緒に行動する。違う?」
「そう、違わない。」
「はい、確認取れました部長!三つ取ってください。」
「…解った。三つだ。キッチン付きの部屋で良いのを知ってる。
ビーチに近くて、静かで、綺麗だ。
前に泊まった事があるんだ。
とりあえずそこを二週間押さえておく。
好きなだけ延長すればいい。」
「しかしながら―」(僕はうんこしたくなったので、会話を中断したかった)
「余計なことは何も考えるな。(漏れそうです。考えちゃいますよ。)
全部俺に任せろ(これは僕の問題だから任せられない。)
大丈夫だ。(お前まさか俺の心を読んでいるのか?)
母親には俺から連絡しておく(うんこ漏らしそうなことを?)」
僕は無言でトイレに向かって座った。彼の話しは続く。
「君はただホノルルに行って、ユキと、いやユキ達と一緒にビーチに寝転んで飯を食っていればいいんだ。」
「ちょっと待ってくれ。うんこだ。うんこする必要がある!」
「そうだな。君は妙なことに突っ込むんだな。飯を食って糞を出す。当然の原理だ。」
ボタボタボタ
「?何か聞こえたが…、まあとにかくだ、母親はどうせ仕事で飛び回っている。
仕事していると、娘だろうが眼中になくなっちまうんだ。
だから君は何も気にしなくていい。」
ズゥウウシャアアアーーー(水が渦を巻いて下方に流れる音)
「そう、何も気にしなくていい。音のことは、気にするな。」
「そ、そうか。気にしないよ。俺が?あれ?」
「素数を数えるんだ。そう、混乱している。2、3、5、7、11…」
「はぁはぁ。君と話すのは疲れる。ある意味ユキを超えているな。」
「ビザは持っているので心配なく。」
「嗚呼。とにかくだ。明後日だぞ。いいな?
水着とサングラスとパスポートだけ持ってきゃいい。
あとは買えばいい。簡単だ。シベリアに行くわけじゃない。」
「あんたそんあこと行っているとシベリアに変更しますよ。」
「辞めてくれ。別に自慢したかったわけじゃないんだ。経験を言っているんだ。」
「アフガニスタンとか行ってみたいな。」
「頼むから一人で行ってくれ。ユキを連れて行かないでくれ。」
「説明してもわからないだろうけど、もう一人のユキがいる以上、絶対に安全なんです。」
「???」
牧村拓は混乱した。
「よく解らなくなってきたが、充分だ。君の能力は充分だ。
言うことない。パーフェクトだよ。
中村に明日切符をそちらに持って行かせる。行く前に電話する。」
「中村?」
「書生だよ。電話に出た若い男だ。」
書生のフライデー。なぜ中村と素直に名のならないんだあいつは?
「何か質問はあるか?」と牧村拓が訊いた。質問なんて初めからないが、沢山作り出すこともできる。
あるのかないのかと言われると、何れの答えも正しくない。僕は中間に位置しているのだ。
「とくにありません。」と僕は言った。
できることの最大の利点は、できないと言い張ることができるところにあるだろう。
めんどくさくなったら「はいはい」と言う通りにして会話を終わらせれば良いのさ。
「結構」と彼は言った。「何を考えているのか知らんが、わかりが早い。俺好みだ。
ああ、そうだ、それからもう一つ君に俺からプレゼントがある。
これも受け取ってくれ。
それが向こうに行けば解る。
リボンを取ってのお楽しみだ。
ハワイ。良い所だ。遊園地だ。
リラックス。雪かきはしなくていい。
あそこは何といっても匂いがいい。
楽しんでこいよ。
あと、そのうち直接会ってみたいな。君には。」
そして電話が切れた。
どうせ売れない三流の作家に違いない。話していてまるで文学表現が無く、感情に乏しい反応しかない。
僕は携帯の電源を切って、食事を再開しつつ、ユキに向かって言った。
「明日出発だからね。一度家に帰って荷物でも取ってきたら。」
「向こうで全部買う。」
「まっ、ハワイだしな。」
漫画の週刊誌が向こうで売っているか、怪訝そうな顔をして僕は考えたが解らなかった。
ハワイ。どれだけ日本の文化が入り込んでいるのだろうか?深夜アニメは見れるのだろうか?
ユキも怪訝そうな顔をして言った。
「そうよ、ハワイなの。大磯に行くのとたいして変わらないわよ。カトマンズに行くわけじゃないもの」
「カトマンズに行きたいの?」
「違うっ!」
「いやだって、そのときジンバブエとか北極とか色々答えがあるのにカトマンズだから」
「お母さんがそういうとこ行くって話」
「いや、お母さんが行くなら君も行くべきじゃないかな?何となくだけど…」
「そう…」黙っていた長門ユキが口を開いた。
まさかカトマンズには行かないよね?

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何のかんの言いつつも、一応僕には旅行前にやっておくことが幾つかあった。
僕は翌日銀行に行って預金を下ろし、トラベラーズ・チェックを組んだ。
預金が一億あるので、一千万組んだ。しばらく足りるだろう。
それから書店に行って本を何冊か買った。
クリーニング屋からシャツを持って帰った。
家に帰って、冷蔵庫の食品をまとめて調理し、みんなで仲良く食べた。
三時にフライデーから電話があった。
今丸の内にいるのだがこれからそちらに切符を持っていっていいかと彼は聞いた。
僕ら4人はパルコのコーヒー・ルームで待ち合わせた。
彼は僕に分厚い封筒を渡した。
中にはJALのファーストクラスのオープン・チケットが二人分と、アメックスのトラベラーズ・チェックが二冊入っていた。
その他にはホノルルのアパートメント・ホテル周辺の解りやすい地図が入っていた。マイナーな店まで全て調査されている。
「そこに行ってあなたの名前をおっしゃっていただければわかるようになっています。」
とフライデーは言った。
「予約は二週間しかとってないですが、短くも長くも変えられます。
それから、小切手はあなたのサインを入れておいて下さい。
好きに使って下さい。
遠慮することない、どうせ経費で落ちるんだから、ということでした」
「何でも経費で落ちるんですか?」僕は期待して言ってみた。
「全部というのは無理でしょうが、できたら領収書のもらえるものは領収書をもらっておいて下さい。
あとで僕が処理することになりますので、その方がありがたいんです」とフライデーは笑いながら言った。
決して厭味な笑い方ではなかった。
気が向いたらそうする。と僕は適当に言った。
「むっ。くれぐれも気をつけて良い御旅行を!」
「おいおい、怒るなよ。ヒャッハー!」とフライデーをからかってみる。
「馬鹿みたい。」とやはりユキが言った。
そして、二人とも動きを止めて冷静になり、小さな事で気を乱してしまってすいませんと彼に謝らせた。
「いいんだ。君が怒る姿を見たくてね。ありがとう。ごちそうさま。」
「…。ハワイですから冗談も通じますが、外国では即刻打たれる可能性があることを忘れないでください。
ジンバブエに行ったら本当に死にます。気をつけて。」
やれやれ、今度はジンバブエか。人それぞれ世界に対する認識が違うものだ。
僕だったらかっこよく宇宙ステーションに行くわけじゃないからって言うね。

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日が暮れてから僕らは空っぽの冷蔵庫を改めて確認し、少し値の張るレストランでステーキを食べた。
なぜか長門ユキは野菜サラダとオムレツと味噌汁を食べていた。ステーキを食べるべきときに、なぜそんな物を食べるんだ?
これだから宇宙人に作られたヒューマノイドなんたらの考えることが解らなくなってくるんだ。
それはそうと、明日からハワイだと思うと、不思議と飯が上手かった。
表層意識の僕はともかく、深層心理ではああいう平和な楽園を求めているのかもしれない。
僕に取ってハワイとはある種の宇宙ステーションだ。
縛り付けられていた因果から開放され、宙に漂うように空を飛び回ることができる場所だ。
僕は押入れからあまり大きくないビニールの旅行カバンを出して、そこに洗面用具を入れようと思ったが辞めた。
本を二冊入れた。これは辞めることができない。
そして、水着とサングラスと日焼けクリームを入れた。身につけるものはしっくり馴染んだものが良い。
だが、Tシャツやらポロ・シャツ、ショートパンツなんかは入れだすと限が無いので辞めた。向こうで買おう。
スイスのアーミーナイフ。空港で止められる恐れがあるが、ハイジャック犯にナイフ一本で立ち向かう自分を思い浮かべると入れざるを得ない。
先ほど、Tシャツなんかは要らないと考えたが、マドラス・チェックの夏物の上着は必要だ。畳んで一番奥に入れた。
そして鞄のファスナーを閉めて、パスポートとトラベラーズ・チェックと免許証と飛行機のチケットとクレジット・カードを確認した。
まあ、こんなものだろう。
ハワイに行くのはとても簡単なことなのだ。静岡に行くのとあまり変わらない。北海道に行くことの方が大変に思えるぐらいだ。
僕は荷造りした鞄を床に置き、ブルージーンズとTシャツとヨットパーカーと薄いウィンドブレーカーを畳んで積んだ。明日切る服をなぜ出して畳んだのだろう?
ともかく、それだけやってしまうと、すごく手持ち無沙汰になってしまった。ロマサガ3ぐらいしかやることが思いつかない。
仕方ないので、僕はスーファミを起動させてコンティニューから冒険の続きをやり始めた。
喉が渇いたので途中でビールを何本も飲んだ。
それをユキ達が眺め(いつもゲームを占領しているのは二人だ)僕は一つの主人公をエンディングまで導いた。4時間経過していた。
そして、メイのことを考えた。非常に、完全に、死んでいるメイ。
彼女は今、ひどく冷たいところにいる。
身元もわかってない。
引き取り手もいない。
ちはやふるもフェイトゼロも観る事ができない。
それとは関係ない気もするが、僕は明日からハワイに行こうとしている。
それも他人の経費で。
この混沌としている有様こそ、世界の正しい有り方だっ!エントロピーが高く、何が起きてもおかしくない状況ができあがりつつある。
僕は首を振って、メイのイメージを頭の中から追い払った。
またいつか暇にでもなったら考えよう。
今はそんなことよりもハワイを題材として、自身をどう振舞わせるか考えるのだ。
ハードでホットなハワイ旅行。
そこで僕は、札幌のドルフィン・ホテルの女の子のことも考えてみた。
眼鏡をかけたフロントの女の子は僕のストライクだ。バッターアウトっ!
その名前も知らない女の子も、どうやってかハワイに連れて行くことはできないだろうか?
僕だって、いつまでこするだけに留まっているわけにはいかない。
非情に、完全に、奮起しているのだっ!
彼女の夢さえ見たのだ。
でも、一体どうすればいいのか?
僕には解りそうで解らなかった。
親戚の者に不幸か何かあったから東京へ戻ってくるようにとでも嘘を付けば良いのだろうか?
駄目だ、探偵でも雇って彼女の人生を洗うにしても時間が掛かる。どんな嘘を付けば良いのか解らない。
それに、明後日にはとても間に合わない。
また、どうやって彼女まで辿りつけば良いのだろうか?正直に、眼鏡を掛けたフロントの女の子と話をしたいんですが?って言い始めれば良いのだろうか?
名前すら知らないのだ。そんなのが上手く行くわけがない。おそらくとりあってもくれないだろう。ホテルというのはとてもシリアスな職場なのだ。
ぼくはそれについてしばらく考えてみた。
そして、何かきっと上手い方法があるはずだと思った。
意思のあるところに方法は生じるものなのだ。
10秒で僕は手がかりを掴んだ。
聞いてみる価値はある。
「北海道にあるドルフィンホテルの受付の人、眼鏡を掛けた人の名前、ユキは知らないか?」
「…ユミヨシ。世界に76人しか該当せず、42年後にその苗字は消滅する。」
やはり、長門ユキに聞けば何でも答えが返ってくる。
宇宙人なのだ。しかし消滅するって何だ?
もう一人のユキに意見を聞いてみようとしたが
「今TV見てるのよね。解るでしょ?後でいいでしょ?」
取り付く島もなかった。
僕はもはや古代遺産となっている電話帳を片っ端から捲って、ユミヨシという名前を捜してみた。


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