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No.41431の一覧
[0] 黄金の神話[しろがね](2015/11/10 18:07)
[1] 1-1 戦乱の果てに辿り着いた日常 NEW[しろがね](2015/11/10 18:09)
[2] 2-0 ドラクエⅢ 魘される夢からの門出 NEW[しろがね](2015/11/10 18:10)
[3] 2-1 ドラクエⅢ 1日目 残忍な勇者達 NEW[しろがね](2015/11/10 18:12)
[4] 2-2 ドラクエⅢ 2日目[しろがね](2015/10/20 16:56)
[6] 2-3 ドラクエⅢ 3日目[しろがね](2015/10/27 17:35)
[7] 2-4 ドラクエⅢ 4日目[しろがね](2015/10/20 17:00)
[8] 2-5 ドラクエⅢ 5日目[しろがね](2015/10/20 17:01)
[9] 2-6 ドラクエⅢ 6日目[しろがね](2015/10/27 17:35)
[10] 2-7 ドラクエⅢ 7日目[しろがね](2015/11/10 18:01)
[11] 2-8 ドラクエⅢ 8日目 NEW(途中から)[しろがね](2015/11/10 18:02)
[12] 2-9 ドラクエⅢ 9日目 NEW[しろがね](2015/11/10 18:04)
[13] 2-10 ドラクエⅢ 10日目 NEW[しろがね](2015/11/10 18:05)
[14] 5-1 ドラクエⅢ? ルーラ 蟲師[しろがね](2015/10/20 17:11)
[15] 6-1 羊男の混乱 ダンスアタックダンス1[しろがね](2015/10/20 17:12)
[16] 8-1 フェイトゼロ 世界線1.68 その1[しろがね](2015/10/20 16:59)
[17] プロット[しろがね](2015/10/20 16:59)
[18] 作者の嘆き NEW[しろがね](2015/11/10 18:14)
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[41431] 2-0 ドラクエⅢ 魘される夢からの門出 NEW
Name: しろがね◆e4a4d4a0 ID:3f4538f9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/11/10 18:10
○ドラクエⅢ 魘される夢からの門出
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それは啓示を齎すような明晰夢だった。
随分後になっても目を瞑れば記憶の残骸から取り出すことができるそれは、深層心理が表層意識へと警告をアラーミングするために、意図的に届けられたのかもしれない。
士郎は、冒険の合間の道草で、ぼんやりとその幻影を思い出しては、首を傾げて脳内会議を開催する。

始まりに相応しい夢…。

ふと気が付くと、士郎は木漏れ日が斑に降り注ぐ森の中に佇んでいた。
光を辿るようにしてトボトボと独りで進む。
しばらく行くと木々が開け、壮大な滝壷に到達した。

先端がせり出している崖の上まで歩を進め、辺りを眺めるようにして、背筋を伸ばして立つ。
爽やかな空の蒼に、底の深い川辺の藍が混じり合い、透明の鏡が中空に挟まれて浮かぶように見える。
何と良い場所だろう。
心が透き通るようだ。
ドドドォーっと高所より落ちる水の音が砕け散り、低く、重く…鼓膜を振るわせて耳に心地良い。
鼻の奥を掠める清涼な空気がつーんっと冷ややかで、肌の上をゆったりと流れるように伝わって、下へと落ちていった。

衛宮士郎は、包み込む大自然の感慨に浸り、思わず目を瞑って上を仰ぎ見た。
たった一人であることも、ここが何処であることも、何も気をもむようなことではない。
景色の一部に溶け込むように、一枚の絵画の一要素となって、ただそこにある自分を受け入れては、柔和に微笑んだ。

そのとき、遥か高みからソプラノの美しい声が、鐘のように鳴り響いてくるのが聞こえる。
「士郎…士郎…。
私の声が聞こえますね。私は全てをを掌る者。
貴方は、やがて真の勇者として私の前に現れることでしょう。
しかし、その前にこの私に教えてほしいのです。貴方が、どういう人なのか?
さあ、私の質問に、正直に答えるのです。用意はいいですか?」

「はい…」
誰のものとも解らないそれは、しかし不思議な響きを伴っており、素直に答えを返してしまうのだった。

「まず、あなたの真の名前を教えてください。」
「衛宮士郎・・・。いや、エミヤと呼んでくれれば、それで良い。」
そう返事をする。
真の名前という聞かれ方から想起される答えには、士郎という名ではなく、衛宮という姓を答えるのが相応しいと、漠然と感じた。

月の夜のあの言葉が心の中で滲む…
僕はね、正義の味方になりたかったんだ…
そうだ、自分は、エミヤの意思を継承する者なのだ…。

「生まれた月を教えてください。」
「…」
どうしてだろう?
解るはずのその日にちを、どうしてか思い出すことができずに、閉口した。

「生まれた日を教えてください。」
「…」
頭を掠めるのは、灼熱の中に崩れ落ちた瞬間だ。
そのとき差し伸べられた手によって、自分の命は『再び』生まれたのではなかったか?という認識こそ正しいのだろう。
しかしそれは、具体的に何日に起きたことだったか?
記憶を辿るが、やはり解らなかった。

なぜ、解らないのだろうか…?
なぜ、調べることをやらないのだろうか…?
なぜ、自分の本当の親を知ることに、固執の欠片もないのだろうか…?

「難しく考えず、素直な気持ちで答えてくれれば良いのです。
そうすれば、あなたをさらに知ることになるでしょう」
沈黙によって生じた静寂を咎められることもなく、質問は次々に続く。

「あなたにとって正義とは、絶対の法則ですか?」
「はい・・・」
「よく、悪夢をみるようですか?」
「はい・・・」
「剣と魔法、両方を用いて戦うのが、好きですか?」
「はい・・・」
「弱者は、強者に助けられるべきですか?」
「はい・・・」
「何か失敗をしても、いつか成功すると、それをやり続けますか?」
「はい・・・」
「救うべき命は、少ないよりは多い方が良いと言い切れますか?」
「はい・・・」
「人々のうわさを、気にしますか?」
「はい・・・」
「世の中には楽しいことよりも、悲しいことの方が多いですか?」
「はい・・・」

予め心の奥を認識されていたのだろうか?
それらすべてに肯定の意を返すべきだという、予定調和が約束されているような、そもそも必要がない問答ではないかという疑惑が芽生え始めたとき、主旨の異なった問いかけが飛来する。

「それでは、これが最後の問いです…。」
そして、世界が滲むように霞んでいくのだった。

-------------------------------------------------------------------------

これは、一冊のノートを巡る紛れも無い正義の物語だ。

悪の駆逐によってこそ、世界は平和になるのだと、多くの犯罪者を葬った矢神月(やがみライト)という青年がいた。
デスノートと称されるその奇跡は、顔と名前の一致のみで効力を発揮させることが可能であり、対象者を『必ず』死へ追いやるのだった。
その黒い背表紙のノートに書き込まれた内容は個の因果を捻じ曲げて、逃れられない消滅に吸い込まれては生涯に終止符が打たれてしまう。

重篤な犯罪者は、一律に心臓麻痺として世の中から削除されていった。
死因を一編させることにより、正義の使者として『キラ』なる存在を人々に想起させるため、限定された手法で行使されて積みあがって行く屍の山…。
死神の影に人々は恐れを成し、また期待しては、犯罪事態が年々減少の一途を辿るというカラクリだった。

年月の経過により、えげつない割に報道が控えらがちないじめ問題も、窃盗や痴漢等の軽犯罪にすらも影響を及ぼした。
キラを崇め奉る宗教団体が設立される一方で、メディアも積極的に彼を神と称して報道した。
遂には、様々な国家機関さえもその力を認めざるを得なかったほどだ。

弱者が虐げられる不条理が終わり、新世界が形成されていく。
法すらも改定がなされ、秩序ある平等は人々に安息を与えた。
戦争すらも無くなっていく運命から逃れることはできない。

人間は、その永い歴史の中で初めて争いから解放され、尊厳のある人生を約束されるのだ。
一体そのどこに、意義を挟む余地があるのだろうか?

しかし、そこに立ち向かう意思もあった。
困ったことに、彼もまた正義と言わざるを得ない。
迷宮入りを余儀なくされるような数々の事件を解決してきたL(エル)なる人物が台頭し、キラに向かって指を向けて宣戦布告する。
たとえ顔を歪めるような罪を犯した者であっても、そこへ一方的な死を押し付けて善い筈がないと、キラに挑んでいったのだ。

物語は、思わぬ方向へと展開していく。
Lは、矢神月こそキラではないかと疑惑を抱き、その正体を暴く目的で直接顔を合わせ、運命を交錯させていく。
ときには手を取り合って問題に取り組むほど、互いの呼吸が合ってしまうからまた笑えないものだ。
誰よりも似ているはずの二人が、その立場から対立を余儀なくされてしまう偶然こそにこそ、不条理がある。
ともあれ、同等の能力を持つ彼らが繰り広げた知略の鬩ぎ合いは、互いの精神力を削る熾烈なものとなり、水面下で激しく交錯したのだった。

世界の外側から眺めたそんな二人の正義なる闘争に、士郎は頭を悩ませた。
正義味方とは、どうあるべき、なのか?
救うべき対象がいるということは、つまり、切り捨てられる者を決めることに他ならない。
例えそれが正義であったとしても、救われる領域に含まれていなければ、阻害せざるを得ない。
改めて突きつけられた矛盾には答えがでなかった。

ついに対決は結末を迎えた。
一時は袋小路まで追い詰められたかのようにしか見えなかったキラであったが、死神の心理を見抜ぬくばかりか、逆に巧みに操ってLを始末させるように仕向けたのだ。
何をしても良いキラとしての贅沢な問題である、複数ある邪魔な者のいずれかが残る展開で妥協せずに、打消しあってゼロになる絶妙なバランスで事象をコントロールするのだ。
舌を巻くほどの大胆な発想には、溜息が漏れるほどであった。

だが、輝かしきその勝利が確定した瞬間に、ライトが抱いた禍々しい表情は一体なんだったのか?
キラを放逐せんと、同じく正義を掲げては立ちはだかる者達を仕方ないと切って捨てるのも避けようのない必然であり、手の一部が悪に染まり掛けて汚れるのも理解できる。
照らされた光からは影が生じるのは、存在に質量がある以上、物理的に避けられない現象だ。
それを背負い込むこともまた業であると考えるしかない。
それならば…許容できる…。
けれども、Lの最期に抱いたライトのそれが、洗っても落ちない黄土色の染みとなって、ただ一つ残された正義までも侵蝕して溶かし崩す。
ドス緑色の汚水より意地汚い湾曲は、今まで認識したどの悪人よりも濃厚に澱んで、目を背けるほど酷かった。

「…」
唖然と開いた口が塞がらない士郎の前に、いつの間にかその黒いノートがあった。
ご丁寧に、机と椅子にペンまでもが並べられ、その傍らにはインターネットの光配線が伸びるパソコンが置かれている。
手を伸ばせば掴み取れるその奇跡の御業を眼前にして、士郎はいつまでも動く事ができなかった。
削除、削除、削除…。
三上なる男が後方より現れては、士郎を押しのけてその場所に陣取り、坦々と作業をこなしていく。
その騒乱を留めることすらも、士郎にはできないのだ…。

世界が再び揺らいでいく・・・

-------------------------------------------------------------------------

気が付くと、先ほどの滝壷へ戻ってきたようで、ドドォオオオという弾ける重苦しい振動が耳を擽る。
冷涼で静謐な空気が、混乱に澱み始めた魂を浄化してくれるように感じ、乱れかけた息がゆったりと落ち着く。
そして、再び上方より厳かなる声が聞こえ、視線を上に据えた士郎だった。

「私は、全てを掌る者。
今この瞬間をおいて、貴方がどういう人なのか解ったような気がします。
貴方はとても懸命に努力を重ね、奇跡の一端を担うまで登り詰めるでしょう。
しかし、そこで得るものはありません。
ただ永遠と喪うことを積み上げるだけの残酷な運命が、貴方を待ち受けています。
でも、誰かがやらねばならぬそれを、決して投げ出すことができない衛宮士郎は、確かに、正義の味方と呼べるのかもしれませんね…」

辛い事実を慈しむような優しい響きに、士郎は顔を上げて前に歩を進める。
誰も未来を信じない。
誰も未来を変えられない…。

「さあ、そろそろ夜が明ける頃。
貴方もこの夢から、目覚めるのです。……」

-------------------------------------------------------------------------

「起きなさい。士郎。朝ですよ。」
アイリスフィールの優しい声に呼ばれ、がばっと跳ね起きた士郎は、多量の汗で服を湿らせていた。
酷く恐ろしい夢の残滓に、はぁはぁと息を弾ませて肩を上下させてしまう。

「あれ?俺・・・。ここは?」
曖昧模糊とした夢の記憶が、経過する時に流されて、パラパラと外側から剥がれ落ちていく。
何を考えていたのかすら霞んでいき、少しばかり残るのは、哀しみを伴う暗い疑問の抽象だった。
上半身を起こした状態で、ベットの側面に立つアイリスフィールを見つめ、首を傾げた士郎であった。

アイリスフィールは、今日もまた名画の中で佇むような眩しさを纏っている。
とても可憐な女性で、そう、理想の母親を超えた聖母だろう…。
眺めるだけで自然と心がポワンと温まり、その次に望んでしまうイケナイ段階へ思いが展開し掛けた士郎は、直ぐに我に返り、辺りの状況を観察する。

窓からは朝日が柔らかく差込み、小鳥の囀りが聞こてくる。
そう、いつもの朝であるはずだが、違和感が沸々と泡を伴い、いつもの?というところが何よりも間違っているようにしか考えられなくなってくる。
反芻と反復で成された事実は、回帰によってのみ正しい技を導き直す…。
記憶が逆に戻ろうと過去に向かって遡り始めるが、昨日と今日の境目のダムが屈強な防壁となって、士郎の前に立ちはだかるのだった。

眠れば夢を見るのは当然であり、そして今朝見たはずであるそれ…。
忘れ去ってしまうほど、安い夢ではなかった。
自分の本質に迫るような大切なものに触れかけた夢の影が、士郎を再び空想の世界へと引き戻そうとする。

そうやって考え込もうとする士郎の肩に、そっとアイリスフィールの手が置かれた。
そして、それが厳かに告げられる。
「士郎、貴方は17歳の誕生日を迎えました。これから、旅立たねばなりません…。」
「えっ?・・・うん、そうだ。俺、行かないと…」
言い渡された内容が頭の中で鳴り響く。
目が虚ろになった士郎は、首をカクカクと縦に振って、ベットから降りた。

箪笥の前へと移動して、視線の定まらない眼差しのまま、しかし手際よくテキパキと、勇者然とした装束に身を包んでいく。
最後の仕上げに、立て掛けて置いてある剣を腰に携えて、前を向いた。
「さあ、朝ご飯を食べたら、お城へと赴くのですよ。」
「・・・」

アイリスフィールの背中に続き、階下へと降りていく。
階段を降りる二人の足音が、トン、トン、トンと完全に重なって、木と靴底の接地を事実として刻んでいく。

暖炉が設けられているやや大き目の広間には、マホガニー調の良質なテーブルが置かれていて、パンとスープが並べられている。
椅子に座った士郎とアイリスフィールは、無言のままに食事を始めた。
うつらうつらとする士郎は味も匂いも解らないといった態で、機械的に動かす手から流れ作業のように栄養源を摂取していった。

食事が終わりに近づき、最後の一切れにまでにパンが小さくなったところで、新たなる登場人物が扉を開けて入ってきた。
「おはよぉー!士郎ぉ・・・。じゃなくて、勇者様っ!」
「イリヤ?」
近所に住む年下の少女で、ただの可愛らしい村人だった気もするが、突如として家に押し入ってきた。
今は、十字の紋様が胸にあしらわれた蒼の僧衣という佇まいだった。
しかしそれよりも、その手に握られている物騒な茨の鞭に視線が釘付けになる。

「あれ?イリヤ・・・おはよう?なんで鞭なんか持ってるんだ?」
「イリヤは僧侶になったのぉ!士郎と一緒に、出発するのぉ!」
よく解らない返答だ。
しかし士郎は本能で悟る。
もし、仲間として連れていなかったら、あの鞭がどう振るわれるか?ということを…。

『僧侶のイリヤが仲間になった!』

ともあれ、何とか朝食を胃の中に流し込み、お城へと向かう道を歩き始めた二人だ。
「いってくる。母さん。」
「行ってくるね!」
「いってらっしゃい、士郎、イリヤ。」
頑張るのよーと手を振るアイリスフィールを背に、城下町を歩いていく。

暖かい日差しが降り注ぎ、村の中は平和だった。
無邪気な子供が道を走り周り、家々からは朝食の香りがして安寧を感じさせてくれる。
そうだ。この平和を守るために闘うのだと、士郎は胸を張るようにして、歩を進めるのだった。

「おっ!士郎ちゃん。おはよう。」
「おはようございます。宿屋のおじさん。」
「おはよぉー。おじさんA」
「Aって…。悲しいこと言うなよ、イリヤちゃん。
ダダおじさんだって、何回も言ったのにさ…。
イリヤちゃんは村人をABCの記号でしか言わないなー」
ダダ?そうだっけか?と士郎は思うが、こらっ!とイリヤを柔らかく小突いて躾ついでにおじさんに声を掛ける。

「ダダおじさん。俺、勇者になったんだ。
これから魔王を倒しにいくよっ!」
「おやまあ…。
勇者なんかに…。
ナンマンダブ、ナンマンダブ…」
手を合わせて拝み始めるおじさんだった。

「ナンマンダブって、まるで死ぬみたいじゃ…」
「…。士郎ちゃん。怖かったら、戦いなんて辞めて帰ってきな。
アリアハンは出発の街でさ、ここに集っては杯を合わせて、魔王の首を持ち帰るって意気込んで出て行った人達を幾人もみたけどねぇ…。
皆、どこに行ったのか、おじさん、知らないんだ…。
風の噂にも聞かないし、ロマリアを出た後に、大体行方不明になっちゃうらしいんだ…。
ほんと、士郎ちゃんともこれでお別れだと思うと…。」
「おじさんA。黙りなさーいぃ!イリヤが付いているんだから、大丈夫なのよぉ!」
白いハンカチを振って、おじさんは二人を見送ってくれたが、目からは一筋のしずくを零して泣いていた。

「え、縁起が悪い…。今日は辞めて、明日にしないか?」
「早速逃げないのぉ!まだ五分も経ってないのに、冒険を中断するっていうの?セーブポイントにだって到達してないでしょ!」
「セーブポイント?でもさぁ…。なんか、怖いんだ、俺。不吉な夢を見たというか、何というか…」
「行くったら行くのぉ!男の子だったらシャンとしなさいぃ!」
「はい…」

そして、お城へと到着する。
左右二人の守衛に挟まれる城門を潜り、正面の通路を真っ直ぐに進む。
「これから王様から言われると思うけど、私たちは魔王を倒しに行くのよ!勘違いしないでね!」
「魔王、魔王か…」
楽しげに喋るイリヤの声に、訝しげな士郎の返答が被さる。

唐突に頭をよぎった考えは、魔王は倒されるべき存在か?という疑惑だ。
思考を重ねるほどにそれは士郎の中で膨れ上がってしまう。
『私たちは魔王を倒しにいくのよ!』
イリヤの声が、頭の中をグリグリに捏ね繰っては、攪拌する。

ともあれ、二人は階段を上がると、厚く踏み心地の良い赤の絨毯が敷かれている王座の間にたどり着いた。
王座には、年端もいかぬ少女と思しき者が尊厳なる王の衣装を身に着けているが、見れば見るほどにそれは王の姿に見えるから不思議だった。
悠然と佇む姿はアルプスのごとき山のそれであり、この王に街を治められているという安心を、まず感じさせる。
ポニーテールで纏めた金髪に、明緑な瞳が凛とした空気を演出していて、礼節を重んじる騎士達を傅かせるに至る理由が確かに存在していたのだった。

「私こそは、アリアハンの王。アルトリア・ベン・ドラゴンである。」
そう、セイバーは宣うのだが、発言がここで終わってしまって後に続かない。
イリヤと士郎は、冒険にいざなうであろう夢を乗せた王の言葉と、共に旅を歩む決意の文言を待っているが、その言葉は一向に話されることがなかった。

仕方なくイリヤが言う。
「魔王を倒すために、皆で冒険するだからぁ!」
叫ぶようにして声をぶつけて、台本に書いてあるはずの文言を引き出そうと、消えてしまった導火線の着火を試みる。

もう冒険は始まっているのだ。
タイムリミットは、今この瞬間にも刻々と迫っている。
一刻も早く、旅に出発しなければならない。

「なぜ王たるこの私が、倒しに打って出ねばならぬのですか?
勇者達の使命は、勇者達が自ら切り開くものです。さあ、行きなさい!」
冒険に出る運命をヒラリと躱す発言をするセイバーだ。

アルトリア王は、さらにこう続けて締めくくった。
「王は国を守るものです。心惜しいですが、貴公らに付いていくわけにはいかないのです。解って頂きたい…。」
「セイバーのわからずやっ!バカバカバカァアアアーー!」
出発するより前に問題が生じると思っていなかったイリヤは、癇癪を起して肢体を乱雑にバタバタと動かしては、金切り声で叫ぶ。
だが、セイバーは素知らぬ顔で椅子に座り、恐らくは今日の昼に食すであろうご飯に対する期待を膨らませているのであろう。
視線を斜め上に向けたまま、何かを考え込んでしまっている有様で、まるで相手にすらしていない。
聞く耳すら持たぬ王が、ドカンとここにおわしたのだ。

もはや、こちらを向いてくれることすらしなくなったアルトリアという王を、一体どうやって説得すれば良いのか?
主戦力として期待できる英雄アーサー王たるセイバーを連れて行かずに、ゾーマを撃破できるほどこの冒険は甘くないだろう。
そこで士郎が妙案を発した。
「セイバー、美味しい物を食べに、世界を周ってみないか?」
やらないか?と、ベンチに腰を落とすアベさんのように少し踏ん反り返っては、挑発的に士郎は手を差し出して、セイバーに誘いを掛けた。

「いきましょう!」
豪奢な装束から甲冑に着換え、鋼の剣を手に持つセイバーだったが、家臣がそれを止めに入り、王よ!王よ!と嘆いては引き止める。

「今日のランチは、王ご所望の怪鳥から出汁を取ったスープをメインに…」
「王よ!吟遊詩人を夜に呼んであります。世界の話は聞けばよいではありませんか…」
左右から挟み込んで捲くし立てるように説得を試みる大臣達であったが、手を軽く振ってセイバーは二人を追い払った。

「私は、もう、飽きたのです。この退屈な生活に。
それに、ここの食事は言うほど美味しくはありませんね…。
雑、なのですよ?
いつになったら、ロマリア原産のワインを取り寄せるのですか?
いつになったら、ポルトガ産のお菓子を食べられるのですか?
口だけで実務がまるで伴わない貴方達を首にしたところで、結局は同じ…。
私が直接行かねばならぬのです!」

嗚呼!と、居並ぶ兵士達も何とかこの王たる王に居てほしいと傅くが、道端に転がる石ころを見るように、セイバーは彼らを無視して城を出てしまった。
「そういえば、ルイーダの店で美味しいワインが飲めるそうですね」
などとのたまっては、士郎とイリヤの手を掴んでついには走り出した。

「庶民の料理は王の口に合いますまいと、あの無能なる家臣共は決め付けて、私は街の料理をたしなんだことがないのです。
まずは足元から固めて行きましょう!」
まさかアリアハンにある美味しいものを全部食べてから出発するのだと言いかねない勢いだ。
そんな時間はないんだっ!と、イリヤは言いたいところだが、仕方ない。
ルイーダの酒場には魔法使いの凛がいるであろうため、いずれにしろ寄っていく必要性がある。

『(アーサー王)=(アルトリア・ペン・ドラゴン)=セイバーが仲間になった!』
「私のことは、セイバーと呼んでください。」
「「言われなくても判ってます…」」

橋を渡り、街の中を三人は駆けていく。
街人が、あれは王ではないか!?と騒ぎ立てるが、意外に早い速度で進むため、ざわめきがただ後ろへと流れていくばかりだった。

「士郎ちゃん、イリヤちゃん!まさか、王様を仲間にしちゃったの?」
宿屋のおじさんが驚いたように言葉を投げ掛けて来たが、街人も全て無視して二人の手を掴んでぐいぐいと引っ張るセイバーに、進行を止めることができない。
「行ってくるよ!おじさん。必ず返ってくる!」
「おじさんA。さらばっ!」

その呆れ顔のおじさんも背に残し、街の入口付近まで一直線に進んだのは、もちろんセイバーの食欲による引力だろう。
ちょっとだけ道具屋に寄ったりもしたかったのだが、こうだと一度決めたら周りが見えなくなる猪突猛進ぶりには、手を引かれる士郎とイリヤは苦笑する。
しかし逆に言ってしまえば、食べ物の情報を捏造してしまえば、この暴れ馬のようなセイバーの手綱を握ることは容易い。

「セイバー!セイバー!」
走りながら、イリヤはセイバーに声を掛ける。
「何です?後にしてください。」
次の行動コマンドが飲む・食べるに固定されて動かないセイバーは、喋ることすらも放棄して前進することに余念がない。
次第に加速していく走りは、もはやイリヤにとって全力に近いほどになり、ラストの直線は身体ごと引きずられかねない怒涛の勢いを予感させる。

「魔王がねっ!美味しい食べ物も溜め込んでいるって言う話、聞いたことある?」
ズザザザーと滑るようにして止まったセイバーが、イリヤに顔を近づけて眼を覗き込んできた。
「もう一度、言って貰えませんか?走っていたため、空耳を聞いたのかもしれません!」
ギュゥウっと握力を増したセイバーの手に、痛い痛いと士郎とイリヤが手を振り回すが、手を離さないセイバーだった。

「魔王がねっ!おいしーい食べ物を集めて、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎをしているって、聞いたの?」
「おのれぇー!魔王め!それは私が食べるべきもの…。一刻も早く行かねば、食べ尽くされてしまうではありませんか!」
ここまで馬鹿だったの?と逆に不安になるほど、セイバーはあっさり騙されて、冒険に熱意を注ぎ込み始めた。

そういう割には、まずは簡単に腹ごしらえしてからと、決然とした歩調で酒場に向かって進み始める。
ともかく、そんな経緯を経て、ルイーダの酒場に到着した。
ギィっと音のするドアを潜ると、中央のテーブルに二人の人間が座っているのが見える。
どうやらその二人は、カードゲームに興じているらしい。

机の上には山のように金貨が積まれていた。
コール!だのレイズ!だの声を張り上げて、相手を追い詰めているのが、魔法使いの凛であった。

「ようやく来たわね。レイズ!」
コインを集めて袋に詰め始めた凛だった。
少し大きめの宝箱にぎっしりと詰まるほどの量であるそれらは、おおよそで10万G程度はあるだろう。
一体どれだけの男達を倒して巻き上げたのか知らないが、ルイーダの酒場には人影がない。
どこかの盗賊の頭といったこわもてのおっさんが、最後の金貨を大事そうに胸に抱えて凛を睨んでいた。

「おいおい、ねえちゃん…。
まさか、これで終わりってわけじゃないだろうな!」
取られてばかりではたまるか!と最後まで食い下がってふっかけてくる。
そこで凛は、金貨を適当にドサァアアアとテーブルにこぼした。
3千Gぐらいはばら撒いただろうが、10万Gという総量からすれば微々たるものであるし、端金だと気にすることもなく、そのおっさんの想像した数倍の量が袋から飛び出したのだった。

テーブルに齧りついたおっさんが、俺のだからな!と独りで声を張り上げ、金貨を拾わずにはいられないわけだが、ポケットや財布に収まらない量に、ありがてぇと頭を下げて凛を見上げたのだった。
それを上から憐れに見下ろしていた凛が、ふんっと鼻息をついては、優雅に歩きだした。
ツインテールを手で掻き揚げて、カツ、コツと足音を立てながら、取り尽くしたなぁーと呟いて手を上げる仕草は、熟練の勝負師のような貫禄がある。

「ちょっと、怖いんだけど…。」
「うん…。」
「そうですか?彼女がそれだけ強いというだけのこと。頼もしいではありませんか?」
三人は遠巻きに凛を眺めては、それぞれが思うことを口にした。

凛は、こちらに向かってくる前に、酒場のマスターに歩み寄っていった。
「ここからいなくなった皆さんから頂いた金貨は、私が有用に使ってみせるわ。
どこかの街にカジノでも作ろうかしら?
その時は遊びに来てね。」

一握りの金貨を店主に投げ渡して、それから颯爽とこちらへ歩いてくる。
「セイバー。ここの料理はピザが美味しいから、はい。一枚持ってきたわ。」
「お心遣い感謝致します。凛。」
「あと、ワインもあるわよ。」
「至れり尽くせり、というやつですね。いやはや、私は今、幸せだと言わざるを得ない…。」

『魔法使い凛が仲間になった』

いつの間に食べ終えたのか、手ぶらのセイバー、士郎、イリヤ、凛という順番で、酒場の入り口から四人は出てきた。
ピカリと太陽が空に高く眩しい…。
四人は横一列に並び、それぞれが胸に秘める思いを乗せて、ゆったりとした速度で街の外へと続く道を進み始めた。

わーいと、道を走る子供が前を横切っていく。
幼子にとっては、大人がどうあろうとも関係なく、それよりも夕方までどう遊ぶかが重要で、木の枝を組み合わせた玩具を片手に、ただ一日を生きるのだった。
老人の手から餌を貰っていた鳩達が、そんな子供達の突進に危機を感じたのか、空に向けてパタパタと羽音を立てて飛び立っては、彼方へと遠く消えていく。

「嗚呼。平和っていいなぁ・・・」
士郎は独りごちて、やはり旅立たねばならぬのだと、その子供達の背に向けて温かい視線を送っては見送った。

そうこうしている内に、街の出口へと至る。
並んだ四人の瞳には、希望が溢れている一方で、これから何が起こるのだろうか?という不安も存在するらしく、全員が爽やかな笑顔というわけにはいかなかった。
凛と士郎という現実派の二人は、鋭い視線で先を臨み、青い草原がどこまでも広がっている彼方を訝しむ。
冒険が始まるのだという予感だけが、全員に共通した期待の予兆で、ただただ、大きく膨らんでいくのだった。

さあ、胸を高鳴らせて、フィールドに踏み出すときがきたのだ。


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