昔話をしよう。
ある二人の少年が旅に出た。
一人はお人よしで正直者、しかし致命的なまでに運が悪かった。
一人は口は悪いが人が良い、しかし決定的なまでに縁が無かった。
何が悪かったというのか。否、悪いものなど何もない。
何故ならば。
こんな二人が災厄に巻き込まれるのは、物語の必然というものだからである。
空には孔が開いていて、黒い物が流れ落ちてくる。
旅先で立ち寄っただけの街は炎に包まれていた。
阿鼻叫喚の焦熱地獄が広がっている。
その中で、生きて動いていたのは彼らだけだった。
一人は自分の身体が焼けることも厭わずに、生き残りを探して火の中に飛び込んでいった。
その身はとうに死んでいる。自分を殺しても、他の誰かを救いたいと思っただけだった。
それはそうだ。彼は運が悪いのだから。
自分と他人、その両方を救うことなど出来はしない。
もう一人の少年は、その光景を、ただじっと見つめていた。
彼は何もしない。何も出来ない。
それはそうだ。彼には縁が無いのだから。
自分を救うことも、他人を救うことも、出来るはずがない。
その眼差しは、羨望でもなく呆然でもなく。
絶望のそれであった。
かくして、幕は上がった。
一人は今も演者として踊り続け、
一人は今も観客として舞台を眺め続ける。
これは、それだけの話である。