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No.844の一覧
[0] 屍山血河 【Fate/sn再構成】【微クロス】[東雲](2015/01/03 05:23)
[1] 屍山血河[東雲](2005/07/22 22:25)
[2] 1/或る前夜(1)[東雲](2005/09/10 02:59)
[3] 1/或る前夜(2)[東雲](2005/09/10 03:00)
[4] 1/或る前夜(3)[東雲](2013/04/27 21:21)
[5] 1/或る前夜(4)[東雲](2013/05/05 04:47)
[6] 2/水月(1)[東雲](2013/04/27 21:43)
[7] 2/水月(2)[東雲](2013/04/27 21:48)
[8] 2/水月(3)[東雲](2013/05/01 04:45)
[9] 2/水月(4)[東雲](2013/04/29 21:28)
[10] 2/水月(5)[東雲](2013/05/03 03:51)
[11] 2/水月(6)[東雲](2013/05/04 03:09)
[12] 2/水月(7)[東雲](2013/05/05 04:47)
[13] interrudeⅠ/Fate[東雲](2014/12/29 03:55)
[14] 3/Insomniacs(1)[東雲](2014/12/29 06:02)
[15] 3/Insomniacs(2)[東雲](2014/12/30 01:39)
[16] 3/Insomniacs(3)[東雲](2015/01/03 05:07)
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[844] 1/或る前夜(4)
Name: 東雲◆aee59cba 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/05 04:47

「……何よこれ」
「見ての通り血痕のようだな。いや、血溜まりというのが正しいか、これは」

 遠坂凛とアーチャーの主従がその場を訪れたとき、校舎の三階、長い廊下の中ほどは控えめに言って惨状の様相を示していた。
 教室のドアが一箇所、粉砕されて瓦礫と化している。
 さらに天井や壁にはいくつもの傷が残っている。
 それらの傷口は細長く小さいものであるにもかかわらず、傷自体は深い。
 つまりこれは何か尖ったものが刺さった痕跡なのだろう。たとえば剣のような。

 しかし極めつけは、床に撒かれた生臭い赤い液体、つまり血液である。新しいものなのだろう。血は固まっていない、どころか生暖かい。
 溢れるほど廊下の床を満たした血溜まりに踏み込むと、粘りつく湿った音がした。
 血液は一箇所へ大量に溜まっていて、そこから点々と少量が零れている。
 廊下の向こうへと赤い雫が短い間隔で滴っている様は、小動物の足跡に見えないこともない。

 そして問題はこの先なのだが。
 血痕の主はおそらく、先程アーチャーとランサーの仕合を見て逃げ出した、不幸な一般生徒なのだろう。
 しかし奇妙なのは、その姿がどこにもないということだった。

「これって、ここで誰かが襲われたのよね」
「そうだろうな。そして襲った方は立ち去り、襲われた側は止めを刺されぬままここを離れたか。ならば半死半生というところだな」
「なんで半死半生ってわかるのよ」
「それだけの血を溢れさせる傷だ。加えて、見たところ動脈からの出血だな。そのうえ手当てをした痕跡もなく、さらに出血は続いている。この場に死体が転がっていてもおかしくないが、そうでないのなら半死半生がいいところだろう」

 アーチャーの言い分はもっともである。凛は反論しなかった。
 する必要もない。
 どのみちサーヴァントに追われて助かる人間がいるはずもない。
 わかりきった質問をしたのは、最後のあがきのようなものなのだろう。
 つまりは自分の不注意で、無関係な人間を死なせたかもしれない、ということに対する。

 後悔するつもりなどない。
 改められない過去を悔やめるほど遠坂凛は聖人君子ではない。
 それでも身近で人が死ぬのを眉一つ動かさず看過できるような冷血でもない。
 冷血であることができるのならそれに越したことはないのだろうが。迷わずに済むのだから。
 だが事実として、おそらくは大して離れていない場所で、その彼は死んでいる。
 ならばせめて見届けなくてはならない。
 それはわかっている。
 だというのに、人の死を認めたくはなかった。
 凛はそこまで簡単に諦められるほど、死に接して生きては来なかった。
 だから、口をついて出たのは違う言葉だった。

「……負傷の程度によっては治療できるかもしれない。血痕を辿るわ。アーチャー、あなたはランサーを追いなさい」
「いや、私も凛についていこう」

 主の言葉が本意でないのなら、従者の返答が予想外なのもおかしなことではないのかもしれない。
 何にしても、アーチャーは渋面で答えてきた。

「アーチャー、ランサーを何の手がかりも無しに帰すつもり?」
「奴の方が速度では上だ。今から追いつくのは難しいだろう。それに私が君から離れたところを他のサーヴァントに襲われても困る」

 アーチャーが反論する。彼の言い分はもっともな内容ではある。

 凛は先刻見た戦いを思い出す。
 アーチャーとランサーとの剣戟は、命のやり取りでありながら見惚れるほどの美しさだった。
 サーヴァントの戦いは人間とは桁が違う。
 たった一度とはいえ、実物を知る凛はそれを理解している。

「それに」

 とアーチャーは、取って付けたように加えた。

「君は繊細だからな。人死にで動揺されても困る。私がいれば君も取り乱すわけにはいくまい?」
「褒められてるのか貶されてるのか今ひとつわからないわね、それ」

 凛は指摘してみせたが、案外それはアーチャーの本心なのかもしれなかった。
 この男は捻くれ者でありながら時折度を過ぎて率直な物言いをする。
 要するに彼なりの思いやりということなのだろう。

「そうね、命令は訂正するわ。アーチャーはわたしの護衛をしてもらう」
「了解した」

 アーチャーが霊体になって姿を消す。彼を背後に従えて、凛は血の跡を追い、長い廊下を歩き出した。

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 予想に反して、血痕は廊下を抜け、階段を降り、校舎を出てもなお続いていた。
 校門をくぐって学校の外に出る。
 時折雲の切れ目から顔を出す月以外は、明かりといえば所々に立つ街灯のみだった。魔力を通して強化した視力は、夜道に相変わらず点々と続く血を捉えた。

 それをさらに追っていく。
 ひとけのない夜の街である。そもそも通行人とすれ違うこともまれだが、今夜は特に人影を見ることもなかった。

 幸運といえば幸運だろう。
 十代の少女が独り、点々とつたう血痕を追いかけているなどという光景は決して常識的なものではない。
 もっとも非常識すぎて、彼女が何をしているかを一目で看破できる一般人などいるはずもないのだが。

 などと無為な思考を重ねていくうちに、交差点へとたどり着いていた。
 遠坂凛の通学路のさなか、住宅地の和洋を分ける境界となる交差点。足を止めて地面を見下ろす。
 そこで、唐突に血痕は途切れていた。

 血で濡れた足跡であるとか、傷口を押さえたハンカチであるとか、そういったものが残っていないか確認したが、何もない。
 今さら傷を塞ぐことを思い出したのなら、何故それまでにしておかなかったのか謎ではある。

 ともあれ、凛は周囲を見回した。
 アーチャーに指示して彼の鷹の目で闇夜を見通させる。
 相変わらず、人影というものは一つたりとない、冷たい夜だった。

「ちょっと、これ流石におかしいわ」
「ああ。いつ死体が転がっているかと思いながらここまで来てしまったが、ここに来て痕跡が消えている。さりとて屍になったわけでもないようだ」
「そもそもこんな怪我してる相手に、わたしたちが追いつけないのも変よ」

 考えてみれば、最初から奇妙な状況ではあった。
 普通人ならサーヴァントに襲われた時点で即死だろう。
 そうでなかったという点、これだけでも奇跡に近いというのに、あまつさえこの相手はまだ生きている。
 それどころか傷を押して脱出を果たした。

 これを不自然と言わずしてどうするのか。ならば、考えておくべき可能性は――

「……まさか、罠?」

 呟く凛。
 何せ学校に皆殺しの結界を張るような外道がいるのだから、どのような状況が待ち受けていても驚きはしない。
 しかし。

「いや、それにしては不自然だ。罠であるのなら、すでに次の手が打たれているべきだろう。この事態は最初の段階で異常だった。ならば我々がそれに気付く暇を与えては片手落ちだ。だが目下、そのような様子は見られない」
「それじゃアーチャー、なんだって言うのよこれ」
「凛。人の身でありながら奇跡を体現する者を、君はよく知っているだろう」
「……魔術師。まさか、そんな」
「聖杯を求めてやってきたマスター志望なのか、それとも本当に通りすがりの間抜けなのかは知らないが。血の跡を辿られるような手落ちをしているのなら、少なくともサーヴァントを連れてはいないだろう」
「それなら、こっちに来たのは正解だったわね」
「ふむ、それはどういう意味だ、凛」

 これも話しかけたつもりはない、ただの呟きだったが。やはりアーチャーは問い返してきた。

「貴方についてきてもらって正解だったってこと。ランサーはわたしたちと戦うことよりも目撃者を消しに行ったんだから、仕留め損なったとわかれば追ってくるでしょう。そうしたら鉢合わせするかもしれないじゃない」
「なるほど、それは確かに正しいな。私のお節介もあながち無駄ではないということだ」
「そうね」

 軽口には応じない。短く答えて凛は足元に意識を戻した。
 いくら目を凝らしても最早血痕はない。それは手がかりを失ったということだが。
 凛は歩みを再開した。足を向けた先は和風の住宅街である。

「凛、何か気付いたのか」
「あいにくだけど何もないわ。だけど、ここで立ってるだけじゃ始まらないでしょう」
「ふむ、しかし何か当てがあるのかね」
「……勘よ」
「……そうか」

 納得したのかそれとも呆れでもしたのか。アーチャーはそれきり口を閉じた。
 沈黙が支配する。
 これといった理由があるのでもなく、何とはなしに気まずくなった空気が重い。
 無闇に会話を再開することもできず、口をつぐんだまま凛は記憶を頼りに進んでいった。
 向かう先はある知人の家である。
 もっとも凛自身は数度言葉を交わした程度の仲でしかない。

 どうして彼の家へと向かったのか。
 その理由は本当に勘だったが。
 足を運んだ先で何の進展もなければ、少なくとも自分の身の回りの人間がわずかとはいえ安全になるだろう。
 その程度の打算すらなかったわけではない。

 無言の歩みはひどく長いように感じたが、実際長い距離を歩いてはいたのだろう。
 街の外れに位置する広い日本家屋。
 長く続く、白い土塀。
 もともとは武家屋敷だという彼の家に差し掛かったとき。

「え――?」

 凛は、思わず間の抜けた声を上げていた。
 屋敷の中から白い光が奔る。
 何かが変わり何も変わらない。
 一瞬はそれだけで過ぎ去っていく。
 あとには静寂と、決して看過することのできない存在感だけが残っていた。

「七人目か」

 アーチャーは抑揚のない声で呟いた。
 その声は凛の耳にも届いたが、動揺している彼女は動かない。
 動くことができない。

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 その後の出来事は語るまでもあるまい。
 遠坂凛は一個の宝石と二つ目の令呪を失い、
 彼女の従者は深手を負うことになる。
 ――そしてついに戦争は幕を開けるのだ。


1/或る前夜――了


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