ゼロの使い魔 新世紀エヴァンゲリオン クロスオーバー
天使を憐れむ歌
第一話 召還
「……この『世界』のどこかにいる、『強大な力』を持ち、『美しく』、そして『聡明』なる使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」
ルイズは、召還の呪文を唱えた瞬間、目をつむった。
これが泣きの一回だ、なんとしても成功させなければならない。
いでよ召還の鏡、そして私に使い魔を!
爆発音なし、周りがざわめく、ルイズはゆっくり目を開ける……目の前には何もなし、がっくり。
「ルイズ~!上上、うーえー!」
と、同級生達が慌てたように声をかけ、上空を指差す。
「はぁっ、上になにが……」
見上げれば、そこには……白黒のまだら模様を表面に貼り付けたような巨大な玉が浮かんでいた。
「ええええええ~!!!!こっ、これは、バクベアーの中でも最大種バックベアード様……・かしら?……う~ん、名前と寝床どうしよう。」
ルイズが少々ずれたことで悩んでいると、 人垣の中から、頭頂部がやたらと寂しい中年男性が出てきた。
眼鏡をかけ、落ち着いた物腰で、黒いローブに身を包み、その手には大きな木の杖が握られている。
教職で今は、この「春の召還の儀」の監督役であるミスタ・コルベールである。
ニコニコしながら近ずいて来た。
「おめでとう、ミス・ヴァリエール、さあコントラクト・サーヴァントだよ」
「ミスタ・コルベール、届きません」
その直径3メイルほどのゼブラ球体はしかし、10メイルほど上空に浮かんでいた。
「おおそうか、ミス・ヴァリエール呼んでみたまえ。サモン・サーヴァントで呼ばれたものはその時点である程度言う事を聞くはずだからね。」
「はい、ミスタ・コルベール。おーいお前を呼んだご主人様はあたしよー!ここまで降りてきなさーい!」
ゼブラ球体は、呼びかけに応えるように徐々に降りてきた。それはいいのだが、高度が下がるたびにその直径を小さくしていく。そして、ルイズのまん前に降りてきた時にはその直径を1メイルほどに縮小していた。
「うーん、バックベアードでもなさそうね。」
本来のバクベアー種の特徴である大きな目も、その周りすべてに生えている植毛も無い、ただの球体だ、その異様な文様を除けば。第一バクベアー種には大きくなったり小さくなったりといった特技は無い筈である。
「まぁ、いいわ、え~と口はどこ、口はどこ、きゃっ」
ルイズは驚いた、この球体の口相当の部位を探していたら、いきなり球体がはじけるように消え、代わりに少年が現れたのだ、それも生まれたままの姿で。
「ミミミミスタ・コルベール!ああああ、あたしの、あたしの??????が消えてしまいました!」
あわててそちらを振り向くと、先ほどのゼブラ球体は消え、代わりに裸で座り込んでいる少年?がいた。
顔はうつむいていて見えないが、黒い髪で身長は160サント程であろうか、なで肩でやや黄色い肌。
「ありゃ、ミス・ヴァリエール先ほどの白黒の玉はどうしたね?」
「それがいきなり消えて、代わりにこの子が……」
「へっ!」
コルベールは、我ながら間抜けな声を出ししてしまったな、と思い。すぐさま、
「うーん、仕方がない、ルイズその少年にコントラクト・サーヴァントを行いたまえ」
「えっ、……でも平民です。いやそれ以前に、人間です」
「決まりは知っているね。二年生に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する。君も承知しているだろう?」
ぐ、とルイズは詰まる。それが成せねば退学。それ故に、この召喚の儀式には誰よりも重い気持ちで臨んでいた。
「それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。
一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。何故なら、春の使い魔召喚は神聖な儀式だからね。 好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかない」
一息ついて、コルベールは続けた。
「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。彼はただの平民かも知れないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければならない。古今東西人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する 」
「でも!平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」
その悲痛交じりの一言に、周りの同級達がどっと笑い出した。 ルイズは連中を睨みつけるが、それでも笑いは止まることはない。その様子に、コルベールもほかの生徒たちをたしなめる。
「君たち、笑うのをやめたまえ!神聖な儀式の最中ですぞ! さて、では、儀式を続けなさい」
「えー……この平民と?」
ルイズは、眉をしかめ、いかにもいやそうな顔をする。
「早くしたまえ!次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚にどれだけ時間をかけたと思っているんだね?何回も何回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」
憂いを含んだ声で、コルベールはルイズにそう諭した。
ルイズは、あきらめ、うつむいている少年に呼びかける。
「ちょっとあんた、どこの平民、……ちょっと、聞いてんの!?」
ところが、少年に何の返事も反応もない。いぶかしく思い、近づいて少年の頭髪をつかみ顔を持ち上げると、……寝ていた。
「起きろ―――!!!!」
少年は、うっすらと目を開け、ルイズを見た。
「……」
少年は目覚めたようだが、無表情にこちらを見ているだけで反応らしい反応をしない。
「おーい、目ぇさめたぁ!」
ルイズはもう笑われる事に関してはあきらめた。それよりも早く済ましてしまおうと思い定める。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
契約の呪文をやや投げやりに唱え、まだ寝ぼけマナコの少年の額につえを置く。そして、キス。
「……終わりました」
ルイズはコルベールへ向き直る。
「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」
嬉しそうにコルベールは肯いた。これでルイズは進級できる。
「相手がただの平民だから契約できたんだよ」
「そいつが高位の幻獣だったら、契約なんかできないって」
何人かの生徒が笑いながら言った。
「バカにしないで!わたしだって、たまにはうまくいくわよ!」
「ほんとにたまによね。ゼロのルイズ」
見事な巻き髪を持った女の子が、ルイズをあざ笑う。
「ミスタ・コルベール!洪水のモンモランシーが私を侮辱しました!」
「誰が洪水ですって!わたしは香水のモンモランシーよ!」
「あんた子供の頃、洪水みたいなおねしょしてたって話じゃない。洪水の方がお似合いよ!」
「よよよ、よくも言ってくれたわね!ゼロのくせに…!」
「こらこら、貴族はお互いを尊重しあうものだ」
いきなり諍い始めた二人を、コルベールが宥める。
その時―――――、
「ぐあああああああああああああああああああ……」
呼び出した少年にルーンが刻まれる、それは焼き火箸を押し付けられるような痛みなのだ。どうしようもない痛みに、苦しみのた打ち回る。
「あああああああああああああああ……」
裸で転げまわる自分の使い魔になる少年を見苦しく、またみっともなく思い。ルイズは苛立たしい声で言った。
「すぐ終わるわよ。 まってなさいよ。 『使い魔のルーン』が刻まれてるだけよ!」
しかし、通常数秒で終わるはずのその痛みは、中々治まる様子を見せない。
「いかん、このままでは精神に異常をきたす、水系統の諸君、こちらに来てくれたまえ」
コルベールは、今もなお苦しみ続ける少年に近づこうとした。そう、近づこうとしたのだ。
だが一定の距離から透明の壁の様な物に阻まれどうしても近づけない。そうこうしているうちに、いきなり壁は消え、見ると少年は気絶していた。
「はぁ~どうしましょ、これ」
「ミス・ヴァリエール、ちょっとその少年を見せてもらえるかな」
そう言ってコルベールは、その少年に刻まれたルーンをまじまじと見た。
「ふむう、珍しいルーンだな、ミス・ヴァリエールちょっと写しとるから、待っていてくれたまえ」
そう言って、先ほどの指示により、集まっていた7~8人ほどの学生たちの一人に声をかけた。
「ミスタ・コレッキリ、来てくれたまえ」
呼ばれたのは、集まった水メイジの中では優秀とされるラインメイジの少年。
「はい、どれどれ、えっ、……ミスタ・コルベール」
少年は何かに驚いて、声を上げた。
「何かね、コレッキリ君」
「すいません、今日はどうも調子が悪いようです。……コントラクト・サーヴァントのせいで疲れてるのかもしれません」
「ふむ、具体的には?」
「彼の、容態が読み取れません、私の『治癒』も『診断』も入っていかないんです」
「仕方が無い、誰かほかの者を……」
「では私が」
とは、先ほどルイズと口喧嘩をしていた少女が進み出た。
「うむ、たのむよ」
だが、こちらもお手上げのようだ、しばらく呪文を唱えた後、コルベールを見て首をふった。
「もうしわけありません、コルベール先生」
「なんと君もか!仕方が無い久しぶりに軍隊式でやるか」
そう言った後の彼の行動は、少年を仰向けに寝かせ、手首を軽く握ったり、胸に耳を押し付けたり、まぶたを手で無理やり開いたりと何のためにするのか学生たちには良くわからない行動だった。……ややあって、
「命に別状は無いな、おっと忘れるところだった、……まあこれも決まりだからね」
コルベールはルイズに目配せをして、ルイズがうなずくと「ディテクトマジック」と呼ばれる探知魔法をかけた。
「パターン・オレンジ、不明か、(まあ、問題あるまい) ミス・ヴァリエール待たせたね、きみの使い魔だ、ああ、また忘れるところだったルーンのメモメモ、……ふぅ、これでよしと」
「あの、目を覚ましません」
「心配はいらんよ、ミス・ヴァリエール、彼は眠っているだけだ、さてとみんな、教室に戻るぞ!」
少年は目を覚まさないため、ルイズと使い魔の少年の二人をコルベールは学院までレビテーションで運んだ。