ゼロ魔SS投稿掲示板




No.10793の一覧
[0] 天使を憐れむ歌 【ゼロ魔×エヴァ】【オリ設定の嵐】[エンキドゥ](2014/03/14 23:48)
[1] プロローグ 赤い海の畔で[エンキドゥ](2009/08/15 09:27)
[2] 第一話 召還[エンキドゥ](2013/03/09 22:48)
[3] 第二話 見知らぬ世界[エンキドゥ](2013/03/09 22:56)
[4] 第三話 2日目 その1 疑惑[エンキドゥ](2013/03/09 22:51)
[5] 第四話 2日目 その2 探知魔法[エンキドゥ](2013/03/09 22:54)
[6] 第五話 2日目 その3 授業[エンキドゥ](2013/03/09 22:57)
[7] 幕間話1  授業参観[エンキドゥ](2013/03/09 23:00)
[8] 第六話 2日目 その4 決闘?[エンキドゥ](2013/03/09 23:04)
[9] 第七話 2日目 その5 決意[エンキドゥ](2013/03/09 23:14)
[10] 第八話 3日目 その1 使い魔の1日[エンキドゥ](2013/03/09 23:09)
[11] 第九話 3日目 その2 爆発[エンキドゥ](2013/03/09 23:13)
[12] 第十話 虚無の休日 その1 王都トリスタニア[エンキドゥ](2013/03/09 23:18)
[13] 第十一話 虚無の休日 その2  魔剣デルフリンガー[エンキドゥ](2013/03/09 23:23)
[14] 第十二話 土くれのフーケ その1 事件[エンキドゥ](2013/03/09 23:40)
[15] 幕間話2 フーケを憐れむ歌[エンキドゥ](2013/03/10 05:17)
[16] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔[エンキドゥ](2013/03/10 05:19)
[17] 第十四話 平和なる日々 その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:21)
[18] 第十五話 平和なる日々 その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:23)
[19] 第十六話 平和なる日々 その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:24)
[20] 第十七話 王女の依頼[エンキドゥ](2013/03/10 05:37)
[21] 第十八話 アルビオンヘ その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:39)
[22] 第十九話 アルビオンへ その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:41)
[23] 第二十話 アルビオンへ その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:43)
[24] 第二十一話 アルビオンへ その4[エンキドゥ](2013/03/10 05:44)
[25] 第二十二話 アルビオンへ その5[エンキドゥ](2013/03/10 05:45)
[26] 第二十三話 亡国の王子[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[27] 第二十四話 阿呆船[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[28] 第二十五話 神槍[エンキドゥ](2013/03/10 05:53)
[29] 第二十六話 決戦前夜[エンキドゥ](2013/03/10 05:56)
[30] 第二十七話 化身[エンキドゥ](2013/03/10 06:00)
[31] 第二十八話 対決[エンキドゥ](2013/03/10 05:26)
[32] 第二十九話 領域[エンキドゥ](2013/03/10 05:28)
[33] 第三十話 演劇の神 その1[エンキドゥ](2013/03/10 06:02)
[34] 第三十一話 演劇の神 その2[エンキドゥ](2014/02/01 21:22)
[35] 第三十二話 無実は苛む[エンキドゥ](2013/07/17 00:09)
[36] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ[エンキドゥ](2013/07/16 23:58)
[37] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム[エンキドゥ](2013/10/16 23:16)
[38] 第三十五話 許されざる者 その1[エンキドゥ](2014/01/10 22:30)
[39] 幕間話3 されど使い魔は竜と踊る[エンキドゥ](2014/02/01 21:25)
[40] 第三十六話 許されざる者 その2[エンキドゥ](2014/03/14 23:45)
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[10793] 第二十六話 決戦前夜
Name: エンキドゥ◆37e0189d ID:130becec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/10 05:56


「聞け!始祖ブリミルの血に仇成す逆賊ども!今のは我がアルビオン王家”のみ”に伝わる大魔法『ブリューナク』!今までは同じ国の民よ、元は我が臣下たちよと使わなかったが、度重なる挑発に堪忍袋の緒が切れた!貴様ら、ことごとく藁のように死ぬが良い! 
だが、もしこれにて我が王家への忠誠を思い出したなら、最後の慈悲をくれてやろう!このウェールズ・テューダーに降伏せよ!さもなくば一族郎党死をくれてやる。さあ、選択せよ!!」



あたりはもう日暮れ前、城の中はいずこの部屋も廊下もランプが明々と輝いている。それは、この部屋の中も例外ではない。
その部屋には、二本の杖(スタッフ)が交差してかけられており、壁にはアルビオン空中大陸の地図が広げられている。 その地図の右端の一点には小さな旗が掲げられていた。そこの一点こそは、王党派最後の砦「ニューカッスル」城だ。他にもその地図には、部隊名が書かれた小さな旗が何十と突き立てられ、それ以外にも膨大な細々とした書き込みがなされていた。

その隣にあるのは縦長の、ぱっと見には姿見の鏡にしか見えない魔道具。言わずと知れた「遠見の鏡」である。それが5つほど並べられ、ここに在らざる遠き戦場を映し出していた。
そして、部屋の中央には大きな丸いテーブル。テーブルの周りにはいずれも、一目見ただけで高級軍人、あるいは大貴族とわかる格好をした者たちが集まり、驚愕の表情のまま固まっていた。

「ぐううう、なんだ、なんだアレは『ブリューナク』など見たことも聞いたこともないわ!」
「王家の秘技だと、あんなとんでもないものを隠し持っていたと言うのか!」
「い、いかに『王家のトライアングル』とはいえ、あれほどの魔法を使い、立っていられるわけも無い、攻めるなら今です」
「阿呆か貴様。たった今、城壁に立って演説したのが誰なのか見えなかったのか?どう見てもウェールズ王子だったぞ。見たところ汗一つ掻いておらぬわ!」

それは、同じ威力の魔法をあと何回放つことが出来るのかわからないということ。しかし、いかに王族の血が特別とはいえ、鏡越しに見た。否、見せつけられた魔法の威力、飛距離共に彼等には信じられないものであった。おまけに、その威力を確かめたのが、彼等の虎の子たる『レキシントン』である。
驚愕と失望が彼等を包み込んでいた。

「我々が失った金と時間、人、船、最新の大砲、兵たちの気勢、信頼、信用、そして畏怖。いずれも馬鹿にならん」
「と、とりあえず総司令官をお呼びせよ。対抗策を考えなくてはならぬ。あるいは、閣下の「虚無」であれば、かの「ヘキサゴン・スペル」もなんとかしてくれるかも知れぬ」
   



「……はい、閣下、敵は未知の魔法、もしくは魔法兵器を使い、『レキシントン』の船底を削り取り自壊させました。……映像の通りに」

彼等「レコン・キスタ」の上層部はそう言って、その男を見た。
年のころは三十台半ば、頭にはすっぽりと丸帽子をかぶり、濃い緑色のローブとマントをつけている。一見すると聖職者のようなその格好。しかしながら、物腰は軽く、軍人のようである。 高い鷲鼻に理知的な色を蓄えた碧眼、帽子のすそからはきれいにカールした金髪が覗いていた。 
その彼、レコン・キスタ総司令官オリバー・クロムウェルはいささか無感動の面持ちで「遠見の鏡」の再生画像を見ていた。そしてゆっくりと情報を精査していく。
やがて、にっこりと笑う。

「なぜ、真っ二つでは無いのでしょう?」
「……?」
「なに、私は皆も知っての通り、軍事にはほとんど無知だ。ただ虚無の威光を持って総司令官などと言う大層な地位に座っているだけの男だ。だが解る事もある。心理的に言って、王と皇太子があの魔法を撃ったのなら、憎い敵の象徴である『レキシントン』を真っ二つにしたいのではないかとね」
「それは……」
「今数えていたところ、ゆっくりと指を折っていき7本目であの魔法は止んだようです。おそらくはあれが限界なのでしょう。もう他に王党派も王族も残ってないしね。ここらで彼等を楽にしてあげようじゃありませんか」

オリバー・クロムウェルはそう言って自分の手元に視線を落とす。そこには大ぶりの宝石をあしらった指輪がはめ込まれていた。彼は、なにか考え事をする時にはその指輪をいじり眺めるのが常である。

「九人のナイト・オブ・ラウンズの内、何人かは捕らえてありますね。その中の一人に「コックマー」(知恵の座)に座るかの老人がいたはずです。彼なら何か知っているのでは?」
「知っていたとしても、おとなしく喋るでしょうか?」
「その心配には及びません、みな『虚無』の前にはお友達ですよ。そう、……」

そう言って、彼は右手の薬指にはめた指輪を前に突き出した。透明な宝石の奥の方に、かすかな光が灯る。するとその部屋にいた十数人の『レコン・キスタ』の重鎮たちの目から理性の光が消える。

「……皆さんのようにね」


第二十六話 決戦前夜


気絶したシンジを城の一室に休ませると、ルイズとワルドは、そのままウェールズに付き従い、城内へと向かった。他の皆、ギーシュはシンジのそばに付いていることを志願し、モンモランシーも自動的にそばに付いていることになった。
タバサは「イーグル」号に置き去りにした自分とギーシュの使い魔を引き取りに、お付の兵士と共に地下の秘密の港へ。一緒にキュルケもついていくかと思われたが、彼女は城内の見学を望んだ。普段なら絶対に許可をされないであろう他国の砦城の内部に興味があるらしい。
彼女もまた兵士を一人伴い、見学に出かけた。

「じゃーねー、ギーシュ、モンモランシー。彼が起きたら教えてよ。聞きたいことが山ほどあるから」

扉から出る寸前にそう言って、返事を待たずに出て行った。

「モンモランシー。君も少し休んだ方がいい。彼は僕が見ているから」

ギーシュはそう言って、モンモランシーにも別室で休むことを促した。





ワルドとルイズはウェールズに連れられてニューカッスル城の天守の一角にあるその部屋に入った。 そこは、まるで何十人もが会食を出来るような部屋であった。
中央には大きな丸いテーブル。そしてそのテーブルを囲むように十一脚の椅子があった。
ルイズはこれが有名な円卓の部屋かと、心を躍らせる。
アルビオン王国の重要な十人の騎士、円卓に座ることを許された十人の騎士を円卓の騎士(ナイト・オブ・ラウンド・テーブル)と呼ぶ。
もっとも、すでにウェールズ以外に椅子の主はおらず、そこはがらんとしたただ丸い大きなテーブルが置いてあるだけの部屋である。
無論、貴族にとってはアルビオンの皇太子がいると言う、まさにそのことが、唯の大きなテーブルをして意味を持たせていると言えた。

「とりあえず、座りたまえ」
「はい、失礼をいたします」

ワルドはすばやく、ルイズの前に回ると、ウェールズの座る「ケテル」(王冠の座)の向かい側「マルクト」(王国の座)にある椅子を引き、ルイズを促す。特に意図したものは無い、単に「ケテル」(王冠)の真向かい側は「マルクト」(王国)になるというだけの話だ。

「ワルド子爵、君も……」
「いえ、殿下。 わたくしはあくまで護衛ですので……」
「卓越した風メイジたる君には、少々居心地が悪いかな?しかし、まあガマンしてくれたまえ」

そう言われワルドは盛大に眉をひそめる。彼の鍛えられた五感が彼に教える。自分と同等かそれ以上のメイジが、自分を見ていることを。

(いる、円卓の騎士は全滅などしていない。すべてが裏切ったわけでも……)

ワルドは自分の背中に嫌な汗を感じた。

「さて、大使殿。まずはありがとうと言っておこう。我が父たるアルビオン王に成り代わり礼を言わせて貰う。あの忌々しい「レキシントン」を文字通りへし折ってくれたのだからな。しかもたった一人の犠牲も出さずに」
「い、いえ、そんな」
「それで、アレは一体何かね?トリステイン王国には、我々の知らない魔法があるのだろうか?それとも貴国のアカデミー(王立魔法研究所)が何かとんでもない技術的ブレイクスルーを果たしたのかな?」
「……」

黙っていたワルドが口を開く。

「皇太子殿下、畏れ多い事ながら申し上げます。先ほどのことは我がトリステイン王国の秘儀にて最高機密に属することにございます。申し訳ないのですがご返答は出来かねます」

ルイズはその意外な口上に、あっけにとられワルドを見ていた。その視線にかまわずワルドは口上を続ける。

「ですが、今回のことで我がトリステイン王国は、友好国アルビオンに対し一定の義理を果たした。そうお考え下さい!」

一気にそうまくし立てる。ウェールズもいささか気押されたようだ。

「そ、そうだな。よくわかった。……では彼に関してはどうかな?」

彼とは、シンジのことだ。シンジに関しては少し前に船上で後で話すことを約束している。

「彼についてですが……」
「子爵殿、少し黙りたまえ。私は大使殿の話を聞きたいのだ。聞けば彼は彼女の使い魔とのこと、君が喋るのは話が違うであろう」
「は…、これは失礼いたしました、しかしながら彼女はこのような場に慣れておりません。多少の手助けは我が職務のうちであると信じております」

トリステイン王国魔法衛士隊の一角、グリフォン隊。その隊長となれば、唯の乱暴者に勤まる様なものではない。アルビオン王国の総司令官たる皇太子を前に一歩も引けを取るものではなかった。
しかしルイズは違う。唯でさえ正真正銘の王族を前にして緊張気味であったのだ。話を振られさらに緊張が高まってしまった。だが、確かに国を代表する使者として選ばれたのは自分なのだ。このまま頭越しに話を進められて面白かろうはずが無い。

「ジャン、ありがとう。でもどうか私に話をさせて」
「大丈夫かい?」
「ええ、今だ未熟な大使だけど、どうか信用して欲しいわ」




「ふーむ、伝説の使い魔とはね……そうすると君は、必然的に「虚無」の才能を持つことになるが」
「それは私も考えましたが、伝説を信用するのなら系統魔法をもすべて使えなくてはなりません。ところが現実には私は…「ゼロ」…です。やはりご始祖さまにおかれては「オール・ドット・スクエア」(すべての系統を持つもの)のオーバークラスだったのでしょう。考えてみれば固体、液体、気体、炎、それ以外に思いつくエレメント(元素)など此の世にはありませんもの」
「すべての系統をバランスよく持ちえれば、どれほどの奇跡が可能だったろうね。……待ちたまえ、君が「ゼロ」とはどういうことか?!」
「お聞きになられた通り、……魔法の才能が……「ゼロ」……と言うことです……殿下」

少し言いずらそうにルイズはそう告げた。

「では、あの……勝手に命名して悪かったが「ブリューナク」はどういうことかね?!」
「殿下……」
「……ああ、聞かない約束だったね、すまない」
「…いえ…、私には一応王家の血が少しは入っています。それが自分の場合には悪く出てしまったのでしょう。殿下やアンリエッタ姫様のように魔法の発現力を持ち上げるのではなく、一点集中的な才能の偏りが起こってしまったのだと考えています」

王家に連なる血をもつものは、異常なほどの魔法の才能を見せることがある。ルイズの幼馴染でもあるアンリエッタ王女も、さほど厳しい訓練をせずとも、すでに「トライアングル」だ。
また、ガリア王国の現王ジョゼフ・ド・ガリアの王弟、故シャルル・ド・オルアレン公爵などは十二歳にてすでに、グラン・トロワ・ド・スクエア(三つの系統を持つメイジ。非常に希)であったと言われている。

「つまりはそれが……」
「はい、魔法精神量とサモン・サーヴァント、それにコントラクト・サーヴァントです」

それを聞き、ウェールズは、しばし天井を見上げ、目を瞑る。今は昔、遠き伝説の始祖ブリミルの時代に心を彷徨わせているようだった。

「我らが始祖の従えた四体のしもべたち。その中でも最強を謳う神の盾「ガンダールヴ」に、百の幻獣を従えし神の笛「ヴィンダールヴ」……か。
我が、遠きいとこ殿、久しぶりに楽しい時間をありがとう。彼が目覚めたらぜひ教えてもらいたい。伝説と口を聞くなどめったに無い経験だろう」





さて、と言いウェールズ皇太子はテーブルの下より宝石のちりばめられた小箱を取り出した。首にかけられたネックレスを外すと、そこには小さな鍵がついている。その鍵を小箱の鍵穴に刺しこみ、箱を開けた。その中には一通の手紙が入っていた。 それが王女アンリエッタの言っていた手紙なのだろう。
その手紙を取り出し、愛しそうに口付けると、開いてゆっくりと読み始めた。何度もそうやって読まれたらしい手紙は、既にボロボロになっていた。ウェールズは、再びその手紙を丁寧に折り畳み、封筒に戻すと、また小箱にしまいこみそのままルイズに手渡した。

「これが姫からいただいた手紙だ。この通り、確かに返却したぞ」
「ありがとうございます」

ルイズは深々と頭を下げると、その小箱をうやうやしく受け取った。そして、その小箱から手紙のみを取り出しジッと見詰めていたが、その手紙のみを自分のポーチにしまうと、また小箱を恭しくウェールズに返却した。

「どうやら、姫のご依頼の手紙は宝物庫放り込まれ、探すのに三日はかかりそうですわね」
「おいおい、ルイズ……」

慌てた様子でワルドはルイズを止めようとする。

「大使殿、さすがにそれは許可しない!」
「なぜですか!」
「君とシンジ君のおかげで、こちらの溜飲は下がった。だが敵の数も戦力もさほど落ちたわけではないのだ。正直、君のあの力を見て何がしか利用しようと思ったのは子爵殿の案じている通りだが、利用できるような類のものではないことがわかった。コツでどうにかなるようなものでもなかろう」
「殿下それは……」
「余が話しておる」

そう言われては、黙るしかない。

「明日、「マリーガーランド」号が非戦闘員を乗せ、ここを出港する。われらは「イーグル」号で派手に暴れて敵の目をひきつけるゆえ道中の心配は要らん。うまくすれば2~3日は敵の攻撃もないだろう。もし万が一の時は君の護衛が君を守る。 
……ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵、君に友人としてお願いしよう。大使殿を守りトリステインに帰りたまえ」
「はっ、我が命に代えましても!」
「ジャン!」
「ルイズ、君の使命は何か、忘れたわけではあるまいね」

ルイズはうつむき唇を噛み締める。

「夜には我らの最後のパーティを開く。君達は、我らが王国が迎える最後の賓客だ。是非とも出席してほしい」


☆☆☆

ワルドは、それでは、と言って会議室を退去した。扉の外には、すでに部屋に案内するためのメイドが控えている。ルイズはシンジの様子を見てくると言い、扉の前でワルドと別れた。

「それでは、ご案内いたします」

そのメイドは恭しく一礼し、ワルドの前を歩く。用意された部屋の前まで来るとまた一礼し、扉を開きながらささやくようにこう言った。

「リパブリク・アルビオン・グランツェ」(アルビオン共和国よ栄光あれ)

ワルドは「うっ」と唸り、メイドを見る。

「おまえか」

ワルドはメイドを伴い、急いで部屋に入る。そして、急いで扉を閉め「ロック」の呪文を唱える、急いでもう一つの魔法も。

「おまえか?じゃ無いだろう。なぜこんなところにいる“スクウェア”の小僧」
「その格好で人を“小僧“呼ばわりするなよ、”地下水“。それにスクウェアじゃないスクエアと呼べ!そのイントネーション嫌いなんだ」
「バカヤロウ!「サイレント」をかけろ、いやかけても言うな!」
「もうとっくにかけているよ、……しかし、会うたびに姿が違うな。どんな魔法だ?」
「誰が言うか!だいたい“スクウェア”は王室御用達の正式なイントネーションだ!」
「わかってるよ、それくらい」

姿は妙齢の女性のソレであるが。 しかしワルドには彼女の正体がわかるらしい。
メイドは、その言葉使いとは裏腹ににっこりしながら、優雅に紅茶の用意をしている。
ワルドも手近な椅子に座り、ゆったりとくつろいでいるように見えた。

「たしか、俺がお前に伝えた使命は……」
「機会を待って、アンリエッタ王女を誘拐。もしそれが困難なようなら殺すこと」
「こんなところにいて、どうやってそれをするつもりだ!」
「宮仕えの悲しささ。突発の命令があったんだ。まさか“あなたを誘拐するのに不都合ですから、その命令は聞けません“とは言えんよ。……ああ、ありがとう」
「ケッ」

メイド姿の“地下水”と呼ばれたその女は、ワルドの座るテーブルの上のカップに紅茶を注いでいる。もちろん笑顔で。

「ところで、お前さんがここにいることは、上には伝えてあるのか?」
「無茶言うなよ。と言いたいとこだが、まあ一応な」
「『偏在』か、便利だな。……当面のお前さんの役目だが……」
「おいおい、夕べからどれだけ魔法を使っていると思ってるんだ。今、すっからかんだぜ。『フライ』ひとつ満足に唱えられんよ」
「チッ、役にたたねーな。これでも飲んどけ」

そう言って地下水は、エプロンの前ポケットからビンを取り出し、ワルドの飲む紅茶になにやら怪しげな秘薬をまぜこんだ。

「なんだい、せっかくのロイヤル・アルビオン・ティーに変なものまぜるなよ」
「バーロー、取って置きの秘薬だぞ。精神力高揚剤だ、魔法のつかえんメイジなぞ屁のツッパリにもならん」

そう言われワルドは眉をしかめる。カップの中の紅茶の色も香りも変化した様子は無い。
カップは手に持っているが、しばらく眺めていることにしたようだ。

「なんだよ。さっさと呑め」
「得体のしれんものを、はいそうですかと飲めるもんか」

地下水は、またケッと吐き出して、先ほどの透明な水薬の入ったビンを口にあて、そのまま上を向いた。ビンはコポリッと小さな音を立てその中に丸い気泡を送り込んだ。メイドの喉は、ゴクリと動く。
一応、ワルドはそれを見て納得したようだ。カップを傾け始めた。
しばらく経つと、紅茶の中の秘薬が効能を発揮し始め、ワルドは自分の中に急速に精神力がたまり始めたのを感じた。

「ふん、まあまあって所か」
「それは、味のことか、それとも秘薬の効能の話か?」

ワルドはそれに答えることは無かった。

「……一応こちらの状況を伝えておく」

ワルドが国を離れ、この国に来たのはアンリエッタ王女の使いである大使の護衛であること。
中身はわからないが、おそらくは王女よりウェールズ皇太子へのラブレターであること。などを伝えた。

「しょぼい情報だな。トリステインとゲルマニアの同盟にちいっと嫌がらせが出来る程度のもんだ」
「だが、そう考えないものが一人いる。誰あろうアンリエッタ王女だ。こちらは手紙を手に入れ、それとなく王女に伝えてやれば、あの姫様のことだ。誰にも相談できず、こちらの思うように踊ってくれるだろう」
「マジか?あの姫様そこまで世間知らずなのか!」

ワルドはそのセリフに、さすがにイヤそうな顔をしたが、それだけで特に反論はしなかった。
ついでに、先ほど「レキシントン」が「皇太子の魔法」で沈んだことを伝えると、こちらはびっくりしたようだ。

「マジか?」
「なんだよ、城内にいて知らなかったのか?」
「こっちは表向きメイドだからな、そうそう窓の外ばかり見てられん。むしろ城内の方を探るのが俺の役目だ。しかし、そうなると王ではなく、皇太子を殺らなくてはならんな。
……あの恐っそろしい『王家のトライアングル』を……」

王家に繋がるものに、系統やレベルを聞くことは大変に不敬な行為である。そのため生まれたのが「王家のトライアングル」と言う言葉だ。
公式には、王家のものは十歳を超えたものはすべて「トライアングル」と称されるのだ。
たとえ、その者が実際はドットだろうとあるいはスクエアだろうと。あるいはそれ以上だろうと。

「恐ろしいと言えば、円卓の騎士で城内に残っているのは誰だ?」
「王の親衛隊たる9人の円卓の騎士は、すべて裏切るか殺されるか捕らえたれたはずだが?」
「いや、そんなはずは無い。少なくとも俺クラスのヤツがいたぞ」

ワルドはトリステイン王国の魔法衛士隊の隊長である。自分と真正面から戦ってまともに立っていられる奴などどの国に行っても五人はいないはずだとの自負もある。

「ふーん、じゃ一人だけだな」
「誰だ!」
「決まってんじゃねえか。ウェールズ王子だよ」
「皇太子が!?」
「何を驚くことがある。円卓の騎士は家柄を取っ払った実力主義だ。王族が入っていても可笑しくは無いだろう」
「今、目の前で会ってきたばかりだ。それに円卓の騎士が実力主義なのは遠い昔の話じゃなかったか?そんな感じじゃ……『偏在』か。くっ、俺が気づかんとは!」
「まあ、世の中広いって事さ。だがその様子じゃ、あんたじゃ無理かな。……うお、コエエ!」

瞬間、ワルドの全身から凄まじい殺気が放射される。その相貌は地下水の挑発に赤く染まり、見るものの内臓を縮こませるに十分であった。

「いいだろう。その挑発に乗ってやる。ヤツは俺がやる」
「お、落ち着け、別に挑発したわけじゃ無いって。俺らみたいな暗殺者はとにかく機会を待つんだ。誰もがいつかは油断する。そのスキをねらう」
「どうせ上層部の結論は総力戦だろう。それもそんなに時間は無いぞ。それよりも良い考えがある」




「そこまでして、自分の手でやりたいもんかね」
「暗殺者じゃなかったのか?」
「勘弁してくれ、こちとら快楽殺人者とかじゃねーんだよ」


☆☆☆


☆☆☆

シンジは夢を見ていた。見ていたように思う。
夢とわかる夢、白昼夢。 
何か大きな水たまりに漂うように浮いて、体は動かないわけではないが、動かそうと思う気力が無かった。
彼の周りには、十何人もの気配。 シンジの目は開かれている。 いや、横たわる自分を上からの目線で見ているのが自分だ。これも夢ではよくあること、行動する自分を傍で見ている自分。 それならば気配の正体もわかるはずだが自分のみが鮮明で、それ以外がぼやけた世界。

水面より、細く長い藻のようなものが、シンジの指に絡まる。
それがうっとうしく、軽く指で弾き飛ばす。軽く動かしたはずの指がちぎれ、そのまま遠くに飛んでいく。ほんの足元ほどで、指の着水音がする。
まるで昔見たゾンビのコメディ映画のようだ。腐っている体で人を襲うから、人を殴れば手がつぶれ、人を蹴れば足が折れ、噛み付こうにも下顎が無い。人を襲えるのは死に立ての新鮮なゾンビだけ。そいつらだって行動がやたらゆっくりだから、どんなに大勢で主人公を追い詰めてもゾンビとゾンビの間をひょいひょいと逃げられる。道具を使うような脳みそも残っちゃいない。

くすくすと笑った。

手を持ち上げようとすると、肩からボキンとはずれ、水面の底に沈んでいく。足もそう、注意して首を動かし胸を見れば大きな大きなひび割れ、ふうっと息を吐いて頭を戻すと首が折れた。
別に恐怖は無かった。このまま粉々になれとも思った。

(だって、人を殺したんだもの。僕も同じように死ななきゃ……)

もうまともに思考することすら億劫だ。体から外れた頭はどんどん水底に沈んでいく。
体から首が取れたときの衝撃で首はクルリと回り、水面に残った体を見た。
手足はちぎれ胴体だけが残っていた。それも見る間に四分五裂にばらばらになっていく。そして沈むにつれ、そのさまも見えなくなる。闇がシンジを包む。

(さようなら、ルイズさん。どうかお幸せに……)

残った思考力でぼんやりとそう思った。やがてそれも消える。
存在の輪郭が保てなくなる。眠りに落ちるように意識が途切れ、混沌、闇、死。











音、声、呼びかけ、光、白い光、丸い光、白い月、赤い月、余計な月、引力、重力。電磁気力、核力、弱い力、S2(スーパーソレノイド)力、精神力、魔法。昔の友達。今の知り合い。知っている人。知らない人。
他人のような父、自分を憎んでいた父、顔も思い出せない母。赤城博士、加持さん、ミサトさん、僕を利用した大勢の大人たち。
戦い、異形の天使たち、敵、僕らの敵。……カヲル君。人工の使徒、母のクローン、綾波レイ。 セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー。フォースチルドレン、スズハラ・トウジ。僕が殺した、大勢の人たち。守りたかった、大勢の人たち。僕を知らない、大勢の人たち。

そして赤い海。

粉々になったカケラの一つ一つが思考し、試行し、集中し、結集し、集結し、結実し、回復する。 ツギハギとひび割れだらけの、今や粉々になったはずの自分の命?魂?心?そんなものが。 再生し、再構成し、交差し、逆行し、復活し、蘇生する。

(やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!……)

小麦粉に水を混ぜたように、粉々になったはずの心が固まり、また一つに戻っていく。目には見えない無数の手によって。

(彼が死ねば、もう代わりはいないわ……)
(彼には使命がある……)
(世界は再生した。彼の願いどうりに……)
(それは、やつらの計画……)
(生きてさえいれば、どこだって……)
(ひとつでいましょう。孤独はとってもイタイから……)
(彼はどうも自分以外のものに興味を持ちすぎる……)
(仕方あるまい、ヒトとはそういうものだ……)
(ヒト?……)
(この力は都合がいい、彼の壊れた心を補完してくれる……)
(人の新しい力だな。痛みも、辛さも忘れられる……)
(だが、一定の制御は必要だ……)
(わかっている、だから”三つ“に分け、真性の力を出せないようにしているのだ……)
(また少し、抑えを緩めなければならない……)
(それは危険ではないか?……)
(このままのほうが、はるかに危険だ……)
(絶望は、彼を簡単に死に至らしめるからな……)



(彼は……私たちの依り代……)



複数の声が割り込む。男か女かわからない。若いのかどうかも。言葉だったのかさえ。

(いやだ!いやあだ!いいやああだああ!いいいやあああだあああ!いいいいやあああああああだああああああああ!)

生まれ出る苦痛。拒絶される悲しみ。侵食される恐怖。

絶叫。

白く光る鎖が、彼の手足に食い込んで、その体を二重に三重に四重に五重に六重に七重に、無数に巻いていく。


そして、目もくらむような輝き。


☆☆☆


「お、起きたかシンジ」 
「ギーシュ!ここは?ルイズさんは?“敵”はどうなりました?」
「少し、落ち着け」

ギーシュは、そう言って読んでいた本でシンジの頭を軽く叩く。

「大丈夫か。少しうなされていたんで起こしたんだ」
「う、うん。大丈夫、少し夢見が悪かったみたい」
「へえ、どんな?」

そう言われ、シンジは少し頭をひねる。

「試験勉強をしてるルイズさんに、紅茶を入れてたんですけど。手がすべってちょっとこぼしちゃって、それですごくルイズさんの機嫌が悪くなって。なぜか、犬の首輪をかけさせられて……」
「それで、校内をルイズと共にねり歩くわけだな。なぜか全裸で」
「う、うん」
「まあ、良くある夢だな。夢占い的には欲求不満と、ひねりの無い答えしか出てこないよ。……ぷぷ」
「笑わないでよ」

力なく、抗議の声をあげる。

「悪い悪い。 しかしまあ少し安心した。君みたいにやたらお行儀がいいと、本当に人間か?とか、ルーンの洗脳力スゲエとか思っちゃって、使い魔を見るのが少し辛くなる」
「……え」
「ああ、つまり僕はヴェルダンデを親友だと思っているが、ヴェルダンデの方は単にルーンの洗脳力で僕に従っているだけじゃないかと不安になるのさ。無論、ルーンの効能があるのだから、それがゼロとはいわないよ。それでも魂の奥底で僕と使い魔は繋がっている。そう信じたいのさ。ルーンは唯、魂と魂をつなぐためのパス(経絡)だとね」
「パス?」
「そう、見えない心の糸さ。君とルイズのようにね」
「僕、と、ルイズさんの様に?」

シンジはオウム返しのようにギーシュの言葉を繰り返した。

「君ぐらいの歳で、ルイズみたいな女の子に普通に従ってるのは軽く違和感があってね」
「違和感ですか」
「そう、僕や他のみんなを振り返っても、なんなら平民でもいいが、いきなり呼び出されてキスされて『よーし、今日からあんたは使い魔だ!黙って俺について来い!』なんつって素直に従うやつなんかいないよ」
「そう……ですか」
「ま、ちょっと位は反発するものだ。……いやいやふたりが納得しているのに僕は余計なことを言っているな。悪い、忘れてくれ……ところで話は変わるが、アレはどうやるんだ?」
「……さっきの砲撃魔法のこと?」
「いや、君のもう一つの魔法。君は奇妙な壁を作りだせるだろう。イメージ的なもので良いから教えてくれないか」
「僕自身、良くわかっていないけど説明は出来ます。それでよければ」

ギーシュはそれでかまわないと、先を促した。
シンジは目の前に、小さなATフィールドを展開する。目には見えないため手の平を押し付けて場所を示した。

「これは、現象的には空間を折りたたんでいるんです。折りたたむことによってその空間の密度が異様に上がるから壁のように感じるだけで実際はものすごく粘度のたかい液体のような空間が出来るんです。そして空間をずらすことで位相の空間を挟み込む領域を作り出すんです」

ギーシュは恐る恐ると言った態で、その空間にあるATフィールドを指先でつついた。

「普通の空間が水蒸気とすると、これは水か氷のようなものか?とすると折りたたまれた空間があった場所はどうなる?真空になるか、その領域の外側が折りたたまれた際に引っ張られるんじゃないか?」
「それは、折りたたんだ空間がものすごく薄くて、問題にならないレベルだからって聞いてます」
「へえ、どのくらい?」
「たしか、数ミクロン……。あ、こちらの言い方だと一サントの数千分の一ですね」
「たったの!」
「ええ、そう聞いています」
「ふーん、……。一サントの数千分の一の折りたたまれた空間か。僕にも出来るかな?」
「できます。というか、すでにやっていますよ。たぶんだけど」
「え、……それは、魔法という事かい」
「魔法も含めて……これはすべての生物が持っている根源的な力、自分と他人を分ける心の壁。そして、肉体を形作る魂の手段……」

シンジはそこまで言って黙り込んだ。急に恥ずかしくなったのだ。半分寝ぼけた頭でえらそうに説明している自分を。

「ごめん、忘れて!」

そう言って、毛布を頭からかぶる。ギーシュには、何を恥ずかしがっているのかはよくわからない。まあ、目覚めたばかりだから混乱しているのだろう。

「空間を曲げる力……か」

ギーシュはブレイド用に持ってきている、二十サントほどの杖をいじりながら考えに沈んだ。
やがて復活したのか、おずおずと毛布を降ろし顔を出したシンジが聞いてきた。

「ねえギーシュ」
「ん」
「ギーシュの魔法はどうやってるの?」
「んんー。まあ簡単に言えば、だ」
「うんうん」
「円錐の理(ことわり)、螺旋の導き、心の形を結界とし。然る後に心力を注いで魔法となす。
まあ、一年生の基礎だけどね。円錐の理ってのは精神力を杖に集める際に行う基本的な……」

ギーシュの話は面白く、また、わかりやすい。彼が女性にもてるのは、顔のためだけではなく、こういった女性を飽きさせない話術も要因の一つだろう。サービス精神も上々である。
程なくして、扉の外から声が聞こえてきた。

(タバサったら、何やってんの?こんなところで)
(しー)

キュルケの声だ。どうやらタバサもいるらしい。扉を開けて二人が入ってきた。タバサの顔が心なしか上気しているように見える。

「はーい、シンジ君起きたー!早速だけど、おねーさんと、「ウル・カーノ」(発火の呪文)しない?!」
「だめ、彼は私と「イル・ウインデ」(風を吹かす呪文)をする予定」
「いやいや、ここは間をとって私と「イル・ウォータル」(水を操る呪文)と行きましょう」

いつの間に入ってきたのかモンモランシーも居た。

「何言ってんのよ、あんたらは!」

入り口にはルイズが仁王立ちしている。もちろん手は腰だ

「あら、ルイズいたの」
「いたの?じゃ無いわよ。あたしの使い魔を勝手に使わないで頂戴」
「ケチねぇ。だって考えてみて頂戴。ルイズでさえあの威力よ。トライアングル・クラスのあたしとコラボレーションしたら、大陸に穴が開きそうな炎が出せると思わない?」
「五万の敵を吹き飛ばす風を」
「雲をつくようなゴーレムを」

「……無理ですよ」

それまで黙っていたベッドの中のシンジが口を挟んだ。

「無理?やってみなけりゃわかんないじゃ無い。なんでそう思うのよ」
「わかります。言葉では説明しきれないけど、皆さんとルイズさんは違う、違う気がします。なんていうか、根本的なところが。……だからおそらく、キュルケさんとやってもなにも起きないか、せいぜいが倍ほどになるだけでしょう」

そう言って、シンジは口元を押さえ、目線を皆から外す。だが、それを聞いたルイズは満足気だ。

「その通りよ。使い魔と心が通じ合って始めてあの威力になるんだから!あんたらじゃ無理無理」

シンジはそっと、(そう言う意味じゃ無いんだけどな)と思った。
それを聞いたキュルケはつまらなそうに唇を尖らせる。

「倍になるなら、すごいけど」

(でも、何にも起きないって事はないわよねえ)





ドアにノックの音がした。
ウェールズは、「アンロック」の呪文を唱え、ついでに「念力」で扉を開く。
その先には、ワルド子爵が立っていた。

「どうしたね?子爵殿」
「恐れながら、殿下にお願いしたい議がございます」
「何なりと伺おう」

ワルドはウェールズに、自分の願いを語って聞かせた。 
ウェールズはニッコリと笑った。

「それは何ともめでたい話ではないか。喜んでその役目を引き受けよう」





パーティは、城のホールで行われた。
簡易の玉座が置かれ、玉座にはアルビオンの王、年老いたジェームズ一世が腰掛け、集まった貴族や臣下を目を細めて見守っている。
明日で自分達は滅びるというのに、随分と華やかなパーティであった。王党派の貴族達は、まるで園遊会のように着飾り、テーブルの上には、この日のためにとって置かれたのであろう様々なごちそうが並んでいる。

ウェールズが現れると、貴婦人たちの間から歓声がとんだ。若く凛々しい王子様は、どこでも人気者の様だ。
彼は玉座に一人座る父王に何事かをささやくと、アルビオン王ジェームズ一世は豪奢な椅子から立ち上がり、「うぉっほん」と皆の注意を促した。
すると、ホール内の貴族、貴婦人、様々な雑用をこなしていたメイドたち、下男たちが一斉に王のほうを向いて姿勢を正した。

「忠勇なる我が臣下たちよ。いよいよ明日、この「ニューカッスル」の城へと総攻撃が加えられるとの情報が入った。しかしながら……」

老いたる王の演説が続く、逃げたいものは逃げよ。ご婦人方の参戦は認めない。希望者でも十二歳以下のものはこれを許可しない。メイド下男には退職金と暇を与えるゆえ、明日の朝「マリーガーランド」号に乗り城を離れよ。等のこまごまとした指示を練りこむ。
皆、王の最後の直言を真摯な面持ちで聞いていた。

「……明日、わしと皇太子が「イーグル」号の船上より「ヘキサゴン・スペル」を雲霞のごとき敵どもに放ち、それが最後の戦いの始まりとなるであろう。……諸君らに命じる。全軍、この王に続くが良い!」

それが合図であったかのように、皆が一斉にかかとを打ちならし、杖を胸に掲げる。

「「「ご命令確かに!」」」

ジェームス一世は、その一糸乱れぬ様を見て、にかっと人懐こい笑みを浮かべた。

「さて、堅い話はここまでじゃ。今日はよき日である!重なりし月は始祖よりの祝福。おまけに「レキシントン」やら言う、敵の戦艦が一艘二つに割れたらしいではないか」

ホールのあちこちから屈託の無い笑い声がもれ出た。

「空を知らぬ無粋者には過ぎた船でしたからな!おおかた王子の魔法に慌てて取り回しでもとちったのでしょう」
「殿下、次に放つときには、それがしを是非そばに置いてくだされ。ヴァルハラにて仲間に自慢しますでな」

辺りは喧騒に包まれる。そしてこんな時にやってきたトリステインからの客が珍しく、また美しい女性が多いこともあって、王党派の貴族たちはかわるがわるルイズたちの元へとやってきた。
彼等は悲嘆にくれたようなことは一切言わず。また先ほどの「レキシントン」轟沈に関わっているであろう事はうすうす感じていたが、それらをおくびにも出すことは無かった。
唯、4人の女性に明るく料理を勧め、酒を自慢し、冗談を吹聴した。
一番人気は、やはりキュルケだった。次から次へとダンスを申し込まれ、それをすべて受けていた。
モンモランシー、ギーシュの二人もそうである。二人は、しょうがないね、目配せをして、貴婦人たちや若い貴族たちに囲まれた。
タバサは、体の大きな貴族相手に大食いくらべをしているようだ。どんな魔法を使っているのか?彼女の小さな体に大量の食事が吸い込まれていく。相手取った貴族たちは、次々に、ギブアップを宣言していく。



シンジは、壁に寄り掛かりながら、「アルビオン万歳!」と騒ぐ人々を眺めていた。

ルイズを見ると、ルイズはどうやらこの場の雰囲気に耐え切れなかったようで、外に出て行ってしまった。今はルイズを追い掛ける気になれなかったところに、ちょうどワルドの姿を見付けたシンジは、ワルドに目と手で促した。ワルドはそれに頷くとルイズの後を追い掛けていった。

一人でチビチビと薄いエールを飲んでいるシンジに、座の真ん中で歓談していたはずのウェールズが近寄ってきた。

「よう、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔君。しかし、人を使い魔に呼ぶとは珍しい。彼女は変わっているな」

陽気にウェールズが声をかけてくる。

「シンジです。トリステインでも珍しいそうですよ。そして、変わっているのは僕で、ルイズさんは関係ないと思います」

シンジも微笑み返した。そして、ウェールズに問い掛けた。

「失礼ですが、死ぬのが、怖くないんですか?」
「案じてくれているのか、私達を!君は優しいのだな。それは怖いさ。死ぬのが怖くない人間なんているわけがない。王族も、貴族も、平民も、それは同じだろう」
「それでは、なぜ?」
「守るべきものがあるからだ。守るべきものの大きさが、死の恐怖を忘れさせてくれるのだ」
「愛する人を残してもですか?」
「愛する人を、守るためさ」
「おこがましいようですが、僕も少しは王子様のお気持ちが分かります。でも、出来ればほんの少し、残された者のことを考えてみて下さい」

我ながら、空々しいセリフだな。そう思いながらも言葉は途切れない。

「残念ながら、それは出来ないんだ」
「どうして!?」
「簡単だ、勇気を示すのは王家に生まれた者の義務だからさ。内憂を払えなかった王家に、最後に課せられた義務。逃げるな。戦え。勇気を示せ。それをせねば、きやつらにハルケギニアの各王家、そしてロマニアにおわす始祖の魂までもが舐められる」
「トリステインのお姫様は……」

シンジが何か言おうとするのを、ウェールズは手で制した。

「愛するがゆえに、知らぬ振りをせねばならぬ時がある。愛するがゆえに、身を引かねばならぬ時がある。私がトリステインへ亡命したならば、貴族派が攻め入る格好の口実を与えるだけだ!」

ウェールズはにやりと笑い、ウインクをしてきた。シンジは黙ってウェールズを見つめる。
彼は彼なりに考え抜いた結果、王家の人間としての自分を選んだのだろう。ならばシンジには止める権利も、止めるべき理由も無い。

「…分かりました。王子様、どうぞ御武運を、出来れば無理はしないで下さい」
「ありがとう。それと、今言ったことは、アンリエッタには黙っていてくれたまえ。不要な心労は、美貌を害するからな。そう、できればこう伝えてくれたまえ。ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいった、と。それで十分だ」

シンジは黙って、ウェールズの言葉を聞いていた。

「さて、君にはもう少し頼みがある。良いかね」
「え、ええ。僕に出来ることでしたら」

それを聞くと、ウェールズはにやっと笑い、シンジの手を取って再び座の中心に入っていった。

「さて、諸君。我らが始祖はこの哀れな子孫を憐れみ、ヴァルハラへの導き手を一人よこしてくれた。彼だ!」

皇太子の口上を聞いていた貴族たちは、いぶかしい顔を向ける。歓談の中央に連れてきた少年は、どう見ても弱弱しく、当たり前だが男だ。ヴァルハラへの導き手は、女神ブリュンヒルデに代表される美しき乙女戦士のワルキューレ姉妹たち。つまりは女性であることがほとんどである。だが、ウェールズはそんないぶかしい顔を気にせず口上を続ける。

「使い魔君、左手を貸してもらえるかな」
「あ、はい」

(何?)(皇太子はなんといったのだ?)(使い魔?)(この少年が?)

周りのざわめきが広がっていく。
ウェールズは左手の皮手袋をはずし、そこに目当てのものを見つけにんまりと笑った。そして、手の甲を皆にわかるよう高く掲げたのだ。

「え、あの、ちょっと?!」

少年の掲げた左手の甲には、その中央にまるで槍が貫通したような大きな古傷。その次に目を引くのが焼きゴテを押し付けたような文字状のひきつれたやけど跡、使い魔のルーンである。

「わが揺籃の師にして、ホグワーツ魔法学院学院長パリーよ、このルーンを読んでくれ」

どれどれと言って、その老メイジは少年の手の甲に顔を近づける。

「ふむう、古代ルーンとは珍しい。…ガンド(魔法)…アーレヴ(妖精)。ガンダールヴと読めますな。…ガンダールヴ…えーと、どっかで聞いたような。……っ始祖級の!……いやいや級どころではない。御始祖の4の使い魔」

驚く老メイジ。それを聞いていた周りの貴族達からは、驚くもの、失笑を漏らすものと反応は様々である。
だが、大方の貴族は、皇太子が最後に何かしらのイベントを仕掛けたのだろうと推測し、ニヤニヤしながらも何も言わなかった。しかし、そうは行かないものが、この場には複数名いた。

「その通り、我らが御始祖の使い魔の一人。今に至るまで最強の称号を外したことのない使い魔『ガンダールヴ』だ。と、言うわけで諸君。始祖の加護は我らにあり、皆、杖を出したまえ。 最強の使い魔からの祝福をその杖に宿らせるのだ」

そう言われ、シンジは戸惑う、いきなり祝福をと言われてもどうした良いのかわからない。

「あの、えっと」
「……心配するな。ちょいと杖先をさわってやればいい」

そう小声で、ウェールズが助け舟を出した。しかし 。

「ギーシュ。ちょっとこっちに来て」
「シンジ!お前『ガンダールヴ』だったのか!」

それを聞いて、(アチャーしまった!)と顔を覆う。みれば驚いた顔でキュルケ、タバサ、モンモランシーもこっちを見ていた。

「う、うん。それよりもちょっといいかな。ギーシュの『ブレイド』用の杖を触らせて欲しいんだ」
「お、おう。いいぞ」

『ブレイド』用の杖は、刀剣のように持ちやすい柄、少し長めの丈夫な杖身、そして発動のための先端で出来ている。もちろん固定化のかかった鉄芯入りだ。それを触りながら、小声でギーシュと何事か相談をしていた。

「あー、そろそろいいかな。シンジ君」

ちょっと痺れを切らした顔でウェールズがこちらを見ていた。

「は、はい、すぐに、…よし…お願いギーシュ。『ブレイド』の呪文を」

シンジに促され、ギーシュは『ブレイド』の魔法を唱えた。杖先に展開される『ブレイド』は、土メイジの証である黄色く光る精神力の高圧結界だ。

「へえ、これは……」
「どう……かな?」
「うん、なるほど。これはいい」

何がどういいのか?それを聞く前にシンジはウェールズに引っ張られ、貴族の歓談の輪に戻っていた。
三十数人ほどが、ウェールズに促され、ニヤニヤと笑いながら杖をシンジの前に差し出す。
先端を触るように言われたシンジだったが、彼は杖身のほうを両手で挟み、撫でるように触れていく。杖を撫でられた貴族たちは、皆一様に「アルビオン万歳!」と叫び、部屋を出て行った。

並んでいた人のほとんどが「ガンダールヴの祝福」を受け、部屋を出て行ったころだろうか。
最初のころに祝福を受け出て行った若い貴族の一人が血相を変えて戻ってくる。

「殿下!」
「どうした、敵か!」
「いや、そうではありませんが……。彼は、かの少年は、まさか……本物の……?」
「無論、本物に決まっておる。どうした、何があったか明瞭に答えよ」
「は、はっ。申し訳ありません。こちらをご覧下さい」

その貴族は、火メイジだったようだ。バルコニーに出ると腰に下げた軍杖剣を空に向け、「発火」の呪文を唱えた。その当然の帰結として杖先一メイルほど先に、目もくらむような“うすい黄色”の炎が現れた。
まずまず“白炎”と言ってよいレベルの炎である。
火は温度によりその色を変える。一般的なドットの火メイジが出せるのが赤い炎、レベルが上がるにつれ、その収束率が上がり温度は高く、そして炎の色は赤からオレンジへそして白へと変わっていく。白炎を出すのは火メイジのステイタスの一つだ。

「見事な白炎だな。君はライン・メイジだったと記憶しているが、いつトライアングルに昇格したのかね?」

ドットやラインのメイジでは出せない“白炎”だった。

「わたしは未だラインであります。昇格などはしておりません。これは杖のおかげであると思われます。つまり精神力の抜けがほとんど無く、そのまま魔法力に換算できるのです」
「君が伝説級の杖を自慢しているのでなければ……」
「我が軍杖は、王より下賜された名誉ある…こう言ってはなんですが、ごく普通の軍杖剣であります。言ってしまえば彼の『祝福』が、この杖にこのような効果をもたらしたのではないかと思っております」

想定の斜め上の効果に、さしものウェールズも焦眉を上げる。

「バランスはどうか?発動時間、取り回し(魔法操作)に異常は?」
「バランスは変わりなく、発動時間は心持ち早くなったような気がします。取り回しはいささかピーキーで恐ろしいぐらいですな。まさに「ガンダールヴ」の杖」

窓辺にて、杖を振り回し、それに合わせきゅんきゅんと炎が動く。トリッキーな動きを難なくこなしていた。
すでに、周りには人だかり。その光景を目の当たりにして驚愕の表情だ。

「使い心地に、問題はありませんか?」

くだんの少年が聞いてくる。 

「君は……いや、あなた様はまことの……」
「僕は、ただの使い魔です。……それでどうでしょう?」

そう言われ、少年の質問に答えていなかったことに気が付き、慌てて返事を返す。

「最高です。まさかこのような杖で戦えるとは思っても見ませんでした。……こうしてはおれません」

問題が無いわけではないだろう、いきなりハーフ・トライアングルクラスの魔法が使えるようになったのだ。本来ならそれなりに細かく調整しなければならないはずだ。
それでもなお、この杖はありがたかった。 
今は戦争中で、それほど精緻で複雑な魔法を使う必要は無い。単純で威力の大きい魔法のほうがありがたいのだ。その男は身を翻し急いで持ち場に戻ろうとし、扉のところで振り向いた。

「ガンダールヴよ、どうか我が友人たちにもその『祝福』を授けたまえ!」

現在、このパーティには、城の人員の三分の二ほどしか出席していない。見張りをすべて使い魔たちに任せるわけにも行かないからだ。彼はその友人たちを呼ぶべく戻ったのであろう。
それまで、遠巻きに“皇太子の仕掛けたイベント”を見ていた貴族たちが一斉にシンジに群がってきた。

「ガンダールヴよ、どうか私の杖にも『祝福』を」
「私の杖にも」
「私にも、お願いしたい」

もみくちゃにされるシンジ。

「おちつけ、おまいら。彼は一人だ。並べ並べ」

ウェールズが慌てて、群がった貴族たちの整理を始める。
しばらくして、戻ってきた人員は百名ほど、合計で三百人もの杖に『祝福』をかけ続けた。





へとへとになったシンジは、部屋に戻ることにした。
部屋への帰り道、ワルドがシンジを待ち構えていた。

「君に言っておかねばならぬことがある」
「何でしょう?」
「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」
「えっ!?ええっと、おめでとうございます…。だけど、何でまたこんな時に?」
「是非とも僕たちの婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。 皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕達は式を挙げる。君も出席してくれるね?」

シンジは少し考えると、首を横に振った。

「…それは、遠慮しておきます」
「ならば、明日の朝、すぐに出発したまえ。私とルイズはグリフォンで帰る」
「いえ、残ります。僕は彼女の使い魔ですから。二人の結婚は祝福します。だけど、式には出られないだけです」

何か理由があることだけは察したワルドは「分かった」と短く言うと、去っていった。

真っ暗な廊下を歩いていると、窓から差し込む月の光が、涙ぐむ少女を映し出していた。
ルイズは、シンジの姿に気付くと、目頭をゴシゴシと拭った。しかし、ルイズの顔は再び崩れてしまう。シンジが慌てて近付くと、力が抜けたように、シンジの体にもたれかかる。シンジは何も言わず、ルイズの体を両手で支えた。
泣きながらルイズは言う。

「嫌だわ…、あの人達…、どうして、どうして死を選ぶの?訳分かんない。姫様が逃げてって言ってるのに…、恋人が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ様は死を選ぶの?」
「大事なものを守るためって言ってた」
「何によそれ。愛する人より、大事なものがこの世にあるっていうの?」
「ちがうよ、愛する人が大事なものなんだ」
「だったら……。わたし、説得する。もう一度説得してみるわ」
「それは駄目!」

シンジは強い口調でルイズを引き留めた。

「どうしてよ?」
「王子様が簡単に死ぬって決めたと思うの?王子様だって死ぬのは怖いんだよ。誰が好き好んで、愛する人と離れ離れになりたいもんか。だけど、あの人はそれを選んだ。ルイズさんが説得すればするほど、王子様を苦しめるだけだよ。それを見過ごすわけにはいかない。それに、手紙を姫様に届けなくちゃいけないでしょう。ルイズさんは大使なんだから」

涙がルイズの頬を伝う。ルイズは、呟くように言った。

「…早く帰りたい。トリステインに帰りたいわ。こんな国嫌い。嫌な人と、お馬鹿さんでいっぱい。 誰も彼も、自分のことしか考えてない。あの王子様もそうよ。残される人のことなんて、どうでもいいんだわ」
「…生き残った方が辛いってこともあるんだよ」
「なによ、わかったようなことを……」

そこでルイズは口をつぐむ、彼もすでに滅んだ国の最後の生き残りであることを思い出したのだ。

「ワルドさんから聞きました。明日結婚式を挙げるって。花嫁が式の前にそんな哀しそうな顔をしてちゃだめだよ」

シンジはそう言いながら、ルイズの頭を優しく撫でた。

「まだ結婚なんかできないわよ。立派なメイジにはなれてないし。それに…」
「そんなこと無い!ルイズさんは立派だよ。誰よりも立派だったよ!メイジだなんだとか、魔法がどうのこうのなんてのより、人として、貴族として。僕だったら、内戦の国になんて、怖くて怖くて行きたいなんて絶対思わない。でもルイズさんは困ってる姫様のためそんな気持ちを押し殺してここまで来たんだ。すごいよ!誰よりも立派だよ!きっといつか教科書にのるよ」
「……バカ」

ルイズにはわかっている、誰のおかげでここまで来れたのか。ラ・ロシェールの入り口での襲撃にいち早く気が付き、撃退したのが誰か?ラ・ロシェールの宿屋で、敵に取り囲まれ、囮となり自分とその仲間を逃がしたのが誰か?空賊船での襲撃で、反撃の糸口を作ったのは誰か?
みんな、使い魔たるシンジと友人たちの活躍や、ワルドの的確な指示のおかげではないか。
周りばかりが立派で、自分は相変わらず「ゼロ」のままだ。

「なんで……」
「えっ」
「なんで、あんたみたいな使い魔が来たんだろう」(ゼロの私に)

それは、誰に聞かれるはずも無い小声の独白だった。
少なくともルイズはそのつもりだった。
シンジは何も言い返すことはなかった。その代わり別のことを言った。

「ルイズさん、安心して」
「えっ」
「ワルドさんと結婚したら、ちゃんと出て行くから。いままでありがとうね」
「な、何を言って……」
「いままで、いっぱい迷惑をかけたよね。ゴメンね」

彼女は責任感が強い、学校を卒業するか自分が立ち行くようになるまで結婚を断り続ける可能性がある。自分なんかを召喚してしまったため、ずいぶんと恥も掻いたことだろう。
もう十分だ。彼女の負担となるのは、ここらで終わりにしよう。 
そう考えた。

「あんたは、私の使い魔なのよ!勝手なことを……」
「明日まではちゃんと、君の使い魔だよ。いや、帰るまでが任務だから、その後かな。それまでは、ガマンしてくれる?」

言葉が出ない、頭が働かない。いや、働いている。唯ひたすらグルグルと。
引き止める言葉だけが喉の奥に引っかかり、出てこようとはしない。無理に引き出せば胸が破れ痛みに呻き、転げまわるだろう。唯の人間同士というだけではない。使い魔とその主人なのだ。 

まだ、時間はある。そんな余裕が返って彼女を行動させなかった。

「じゃあ、おやすみルイズさん。別々の部屋で眠るのは久しぶりだね」

昨日と変わらぬ明日が来る、そんな保障などどこにも無いと言うのに。





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