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No.16701の一覧
[0] 今日も、この世界は平和だ (ゼロの使い魔 オリ主・転生)[石ころ](2018/07/27 01:05)
[1] 01 エピローグ(1)[石ころ](2018/07/27 00:38)
[2] 02 エルフと吸血鬼(1)[石ころ](2018/07/27 00:39)
[3] 03 エルフと吸血鬼(2)[石ころ](2018/07/27 00:40)
[4] 04 エルフと吸血鬼(3)[石ころ](2018/07/27 00:40)
[18] 05 エルフと吸血鬼(4)[石ころ](2018/07/27 01:38)
[19] 06 エルフと吸血鬼(5)[石ころ](2018/07/27 00:42)
[20] 07 微風の騎士(1)[石ころ](2018/07/27 00:43)
[21] 08 微風の騎士(2)[石ころ](2018/07/27 00:43)
[22] 09 微風の騎士(3)[石ころ](2018/07/27 00:44)
[23] 10 微風の騎士(4)[石ころ](2018/07/27 00:45)
[24] 11 微風の騎士(5)[石ころ](2018/07/27 00:45)
[25] 12 微風の騎士(6)[石ころ](2018/07/27 00:46)
[26] 13 微風の騎士(7)[石ころ](2018/07/27 00:47)
[27] 14 微風の騎士(8)[石ころ](2018/09/07 05:06)
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[16701] 01 エピローグ(1)
Name: 石ころ◆3b8a8997 ID:ecb31cdf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2018/07/27 00:38

 白い空間だった。
 ただそこにあるのは、二つの椅子と一つのテーブルだけ。それ以外には何もない。本当に何もなく、白で塗り潰されているだけなのだ。
 そんな奇妙な場所に、俺はいた。気づけば、椅子に腰かけていたのだ。そして、いつ現れたのだろうか――見知らぬ青年が一人、対面の椅子に座っていた。
 金髪の西洋人だ。歳は二十を過ぎたくらいだろうか。その碧眼の瞳は俺へと向けられ、口元には微笑が形作られていた。

「初めまして。私の名前はローラン・シャルル」

 流暢な日本語だった。いや、そういうふうに“聞こえた”だけだ。おそらく実際には、彼は別の言語を口にしていたに違いない。だがこの時、俺にとってそんな疑問は些細なものだった。
 ローラン・シャルル。彼はそう名乗った。ローラン、と俺は口にし、そして彼に尋ねた。ここはどこなのか。どうして俺は、ここにいるのか。
 そんな質問をあらかじめ予想していたのか、ローランはよどみなく回答した。

「ここは二つの世界の狭間。時間にも空間にも囚われない、虚無の世界だ。通常、ここには誰もやってくることができない。だが――たまに、きみのような人物が紛れ込んでくる。肉体を失い、魂となった存在が、ふらりとここに彷徨いこむ。そして往々にして、ここに来るのは特別な力を持ち、そして“あちらの世界”の知識を持った人間だ。たぶん、もしかしたら……私が知らず知らず、そういった類の人間を引き寄せてしまっているのかもしれないが」

 ローランが口にしたことは、ある部分は理解できていた。
 俺は覚えていた。不慮の交通事故で、自らの肉体が死を迎えたことを。彼の言葉を信じるならば、肉体を失った俺はもはや魂だけの存在となり、この空間にやってきたらしい。
 そしてローランの言う、「特別な力」と「“あちらの世界”の知識」。後者についてはわからないが、前者についてはなんとなく心当たりがあった。

 俺には奇妙な力があった。言うなれば、超能力とか魔法とかいう類だ。
 最初に気づいたのは、中学の頃だった。退屈な授業の最中、俺は消しゴムを床に落としてしまった。消しゴムは前方の座席の下にあり、ぎりぎり手を伸ばせば届きそうだった。俺はシャーペンを持ったままの右手を、机の下に伸ばした。シャーペンの先端で消しゴムをこちら側に転がせば、すぐに手に取れると考えたのだ。こっちに来い、と思いながら消しゴムを引き寄せようとした時――その現象は起こった。
 動いたのだ、消しゴムが。
 シャーペンを当てて、消しゴムを転がしたわけではない。その前に、消しゴムが勝手に手前に引き寄せられたのだ。物理法則に反した、ありえない現象だった。
 それをきっかけに、俺は自分に特別な力があることを知った。とはいえ、いわゆる“念力”と呼ばれる程度のものでしかなかったが。おまけに理屈はわからないが、長年使っていたあのシャーペンを手に持っている時しか念力は使えなかった。

 大層な能力ではないものの、おそらく「特別な力」とは、そのような超常的な力を指しているのだろう。だが……「“あちらの世界”の知識」とは? すぐには思い浮かばなかった。

「きみは知っているはずだ、“向こう側”を。現に目にしたわけではないが、ある書物から、“あちらの世界”の情報を得ている。多少の脚色はあるが、それらの大方は事実だ」

 ――知っているだろう、ハルケギニアという名前の土地を。

 その言葉を聞いた時、俺は大いに戸惑った。まさかフィクションだと思っていたものが、ここで唐突に出てくるとは予想外すぎたのだ。
 それでも、得心できる部分はあった。もし俺の「力」が「魔法」だったとすれば、あのシャーペンが俺にとっての「杖」だったと理解することができる。それにあれを読んだ時、どこか不思議と惹かれるところがあったのだ。もし俺がメイジの血を引いていたのだとしたら、本能的に共感していたのかもしれない。

「馬鹿げたご先祖様だよ。あんなものを、わざわざ地球に遺すなんてね。でも――嫌いじゃない。私はあらゆる時代の担い手を“見て”きたが、幾多もの苦難を乗り越え、生き抜いた彼らとその仲間たちがいちばん気に入っているんだ」

 笑いながらそう言ったローランだったが、その顔はすぐに真剣なものになった。

「……だからこそ、心残りでもある。そんな彼らの努力も、結局は実らなかった。大陸は大隆起とたび重なる戦争で荒れ、ハルケギニアの民にとっては最悪の結末を迎えた。私はそんな世界で生まれ、いつしか究極とも呼べる虚無の境地に達した。時間と空間という概念を超越し、世界を観測できる存在となった。そう――私は観測者となったのだ」

 そして、と続けるローランの言葉には、どこか寂しそうな声色が含まれていた。

「代償として、私はこの場所に囚われる身となった。ここは入るのは簡単でも、出るのは極めて難しいところだ。……まったく、初めからわかっていれば、こんなところには来なかったんだがね」

 苦笑まじりに嘆息するローランに、俺はふと湧いた疑問をぶつけてみた。
 ここから出ることが困難ならば、迷い込んでしまった俺はどうすればよいのか。まさかローランと同じように、俺もここに留まりつづけなければならないのか。
 そんな質問に、ローランは「いや」と否定の言葉を述べた。

「きみの場合は、存在が希薄な状態でここにやってきた。よほど死後の念でも強くないかぎり、いずれきみの魂は自然消滅するだろう。実際、これまで何人かはここに留まることを選択したが、皆しばらくして消えていった」

 死後の念、か。あまり生前のことを気にかけていない今の自分を考えると、この魂が消えるのもそう遠くはないのかもしれない。それでも、ローランのように延々とここに閉じ込められることよりはマシなのかもしれないが。
 ……それにしても、ローランは奇妙なことを言ったな。

 ――これまで何人かはここに留まることを選択した。

 ということは、ここに留まらない何らかの選択肢があったということか? それならば、その選択肢とは?
 俺がその質問をすると、ローランはイタズラっぽい笑いを浮かべた。まるで、聞いてくれるのを待ちわびていたかのようだった。

「そう、きみが虚無を使わずともここに来れたように、希薄な存在ならばここの出入りは不可能ではない。私の虚無の力によって手助けすれば、きみだけ“外”に送ることも可能だろう。あるいは、その魂を“何か”に再結合させることもできよう。長き時によって蓄えられた私の精神力ならば、それだけの虚無を使うことはできる」

 反魂――そんな言葉が思い浮かんだ。生まれ変わりなど信じていない人間だったが、こんな超常的な状況では考えを改めなければならないようだ。
 なるほど、ローランが俺の魂をふたたび人の身に戻せるとしよう。だが、その目的とはなんだ? わざわざ有限の精神力を消費してまで、俺に何をさせようと言うのだ?
 俺はそのことをローランに尋ねた。すると彼は真摯な顔つきに変えて、おもむろに口を開いた。

「――誰も救われない悲劇など、もうたくさんだ」

 悲劇――それが意味することは、なんとなく察しがついた。ハルケギニアの辿った道筋、そして報われなかった虚無の担い手たち。そういったものを指しているのだろう。
 ローランは俺の顔を見つめていた。その眼差しに込められているのは、ある種の期待だった。

「そして私は見てみたいのだ、彼らが不幸にならない結末を」

 ……そうか、そういうことか。ようやく、俺はローランの意図が理解できた。
 じつに単純なことだった。そう、彼は悲劇が気に入らないのだ。だから、その筋書きを変えたいのだ。

「たとえ自己満足な改変だとしても、観客が私ただ一人だとしても、その舞台劇を心残りなく見届けたい。そのために――」



 ――役者になってほしい。



 そんなローランの願いに、俺は静かに頷いた。



   ◇


 物語を根底から覆すのは、並大抵のことではない。たとえ魔法の才に恵まれた身体に生まれ変わり、これから起こるであろう未来を知っていたとしても。

 始祖暦6219年。それが俺の誕生した年だった。ハルケギニアにとって重大な転換点を目前にした時代だ。
 初めにそれを知った時、俺は不安と焦燥を抱かざるを得なかった。あまりにも時間がなさすぎたからだ。たとえ知識や経験があっても、行動を起こすには肉体の成長が必要だ。地方領主の子弟という有利な出自とはいえ、これからのことを考えると楽観はできなかった。
 目下、懸念すべきは次代のガリア王のことだった。俺の持っている知識では、遠くないうちにジョゼフが王位につくことになっていた。問題は、彼がハルケギニアを戦乱の渦に巻き込むほどの狂気を持ちうるということだ。できることならば、それを防がなければならない。

 幸いながら、俺が生まれたのはガリアの土地。そして貴族――メイジであるという身分。ガリア王周辺に近づくための手段としては、もっとも単純で効果的なものが一つあった。
 そう、騎士である。東薔薇花壇騎士団、西百合花壇騎士団――あるいは、“北”花壇騎士団でもいい。幼い頃から魔法の訓練に身を置き、すでに十の齢でスクウェアに達していた俺にとって、騎士となることは高いハードルではない。騎士として名声を高めれば、王家の人間との邂逅も十分に実現可能だろう。
 とはいえ、考慮すべき事案はジョゼフだけに留まらない。その先には“大隆起”への対処という難題が待ち構えているし、それに絡んだロマリアの動きにも注意しなくてはならない。前途は多難というわけだ。

 いかに“知識”を活かし、“舞台”で活躍をするか。
 俺はそのことをずっと考えてきた。
 ――王都に行き、騎士となるまでは。

 後にして思えば、それらはまったくの杞憂だった。俺の考えは、じつに滑稽だったと言えよう。
 俺は大事なことを忘れていたのだ。



 そう――役者は一人ではないということを。



   ◇



「――遅いッ!」

 穏やかな春の日差しのもと、理不尽な怒鳴り声が浴びせられる。
 つきそうになった溜息を我慢しながら、俺はゆっくりと口を開いた。

「…………予定の時刻には遅れずに、参ったはずですが」
「どうせなら三十分くらい前に来ていなさいよ。気が利かないわね」
「……申し訳ございません」

 相変わらず無茶を言うな、このお嬢さんは。まあ、彼女の性格なんて騎士になってから痛いほどわかっていたことなのだが。
 俺は使い魔の火竜に命令し、その尻を地に着かせ、背に乗りやすいようにして、彼女に言った。

「それでは、お乗りください――イザベラさま」
「言われなくとも、そうするさ」

 どこか嬉しさが見え隠れするような口調で、イザベラは俺の後ろに座った。たぶん、これから会う相手が楽しみで仕方ないのだろう。そう考えると、ちょっとかわいいとも思える……のか?
 そんな疑問に苦笑しながら、使い魔に行き先を伝える。火竜は承知の一鳴きをすると、目的地へと疾駆を始めた。
 しばらく無言のまま空の旅を続けるなか、なんとなしに俺は口を開いた。

「ところでイザベラさま。最近の魔法の練習具合はいかがですかな?」

 何も会話がないというのも気まずいので、とりあえず話題を出してみたわけだが、ぴしりと空気が張り詰めて余計に気まずくなった気がする。
 ……この小娘、もしかして何も進展していないのかよ。

「イザベラさま――」
「あー、うっさいうっさい! だいたい、練習してもちっとも変わらないんだから、仕方ないじゃないか!」
「そんなことを言っていたら、宮廷のやつらを見返せませんよ。それに、ちゃんと実力はついてきているではないですか」
「……ふん。明日からはちゃんとやるさ」

 ぷいとそっぽを向いて、イザベラは答えた。

 いつだったか、宮廷を出歩くイザベラの目付け兼護衛として俺が随従していた時、魔法の苦手な彼女を前にして悪意ある皮肉を叩いた貴族がいた。
 ……それはイザベラにとって、さしてめずらしいことでもなかったようだった。才のないジョゼフの、才のない娘イザベラ。それが宮廷での、彼女に対するほとんどの人間の見方だった。才のあるシャルルの、才のある娘シャルロットと比べられていたこともあってか、とくにイザベラは見下されがちだった。
 当時、俺は東薔薇騎士団に入ったばかりで、そういう宮廷事情には詳しくなかった。おまけに、そういった才能云々の非難を好まぬこともあって、柄にもなくその貴族に皮肉で仕返ししてしまったのだ。
 今にしてみれば迂闊で思慮に欠けた行動だったが、結果的にはよかったと言うべきか。その時のおかげで、俺はいたくイザベラから気に入られたようで、その後はほとんど専属の従者のような扱いになっていった。花壇騎士がそれでいいのかとも思うが、周囲からは「あの面倒くさい娘を御してくれる騎士」と見られたせいで、呆気なく黙認されたというわけである。

 まあ、それも悪くはないと、俺は思っていた。イザベラに近づけるならば、その父であるジョゼフにも近づけると打算的に思っていたからである。……“あの時”までは。
 今となっては、ジョゼフのことなんて、もうどうでもいいことだろう。いやまあ、イザベラの父親として重要ではあるのだが。
 ……もう少し、娘のことに関心を持ってくれれば、と思う。それでも、“前”よりは親子らしくなったと言えるのかもしれないが。

「……はあ」
「何? 信用できないってわけ?」
「いえ、違いますよ。ただ、なんというか――」



 ――夢のようだ。

 あるいは、今でも信じられないのかもしれない。

 このハルケギニアで起こったこと。
 俺なんか足下にも及ばない、“彼ら”の行なったこと。



「……夢のよう? 何が? ああ、わたしみたいな美人に従僕できているってこと?」

 ふふん、と艶やかな青髪を掻き上げるイザベラ。……そりゃまあ、確かに美人だが、自分で言うなよとツッコミたい。

 俺は苦笑しながら呟いた。


「平和がいちばん、ってことですよ」


 やがて、リュティス東端に位置する宮廷群が見えてきた。目的地は、ガリア王――シャルルのいるグラン・トロワではなくて、そこから少し離れたプチ・トロワ。
 その薄桃色の宮殿の、中庭の芝生の上に降り立った俺たちは、一人の少女がこちらへと駆け寄ってくるのを見た。

 長く、美しい髪。その色は、ガリア王家の血筋を示す、空のような青だった。
 彼女は俺の後ろにいるイザベラを見つけると、はつらつとした笑みを浮かべて叫んだ。

「――イザベラ姉さま!」
「ったく、お前はいっつも忙しないね」

 お前が言うなよ、それは。まあ顔を少し背けているのを見ると、照れ隠しのようだが。
 王女として自由があまりないこともあってか、やはりシャルロットはイザベラと会えることが嬉しいようだ。同じように、この数ヶ月でいろいろと変わったイザベラも、数少ない“身内”と遊べることが大切だと理解している。
 だが、妹想いなのも大概にしてほしいところではあるが。この前、シャルロットを宮殿外のリュティスに連れだして周囲を騒がしてくれたのは、記憶に新しいことだ。



 ……それでも。





 やっぱり、平和だよなぁ。




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