話の途中、おじいさんは気づいていた。
孫が、またヴェルタース・○リジナルの味に酔いしれて自分の話を聞いていないことに。
だが、彼は止めなかった。
なぜなら、思いはきっと届くと信じていたからだ。
孫が自分にとって特別な存在であるならば、自分も孫にとって特別な存在であると。
話終わると、孫は彼の思いを察するように口を開いた。
「おじいさん…、とっても良かったよ。」
「孫よ…。」
安堵と共に、自然に涙が零れるおじいさん。
「どうじゃ孫よ。闇の貴公子の生きざま、お前の心にどう響いたのか教えておくれ。」
頬を伝う涙を拭いもせず、おじいさんは孫に微笑みかける。
「おじいさ…、いや…!じじい!!」
急に目を見開き、立ち上がる孫。
おじいさんが椅子から転げ落ちそうになったのは、それだけが理由ではなかった。
孫の額に、何か違和感があったのだ。
そう、卵のひび割れのような違和感が。
「ま…孫よ!?どうしたと言うんじゃ?!」
「じじい、テメェのおかげでようやく思い出せたぜ…。」
可愛かった孫の声が、こしゃまっくれた声に変わっていく。
さらに、彼女の額の「ひび」が顔全体に行き渡っていくではないか。
「な…なんじゃあああああ!?」
今度こそ椅子から転げ落ちそうになりながら、叫ぶおじいさん。
そんな彼の目の前で、孫は少しずつ姿を変えていった。
いや、姿を変えるのではなく、まるで卵から産まれるように「孫」という殻を破って新しい何かが誕生したのだ。
「ま…、まごぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ヒィヤァ~ッハッハッハッハッハァ!!」
逆立ったトサカの様な髪、そして蛍光ピンクのボディスーツ。
そう、闇の貴公子「ダイ・ユマ」である。
「デュマ様ふっかぁぁつ!!」
椅子から転げ落ちたおじいさんを見下し、デュマがニヤリと笑う。
「ま…孫は?ワシの可愛い孫はどこへ行ってしまったんじゃ?」
震えながら聞くおじいさんに、デュマの顔が更に明るくなる。
「ククッ、孫ねぇ…。」
「ま…孫は…!」
「テメェの孫は、オレの養分になって死んだ。」
「なっ!?」
「安心しろ、すぐにテメェも後を追わせてやるぜ。」
ニヤリと微笑むデュマを睨み付け、おじいさんは立ち上がった。
目を充血させ、額に血管を浮き立たせ拳を振り上げる。
「孫のかたきじゃあああああ!!」
おじいさんの魂の叫び、渾身の拳がデュマを襲う。
だが、所詮は老人の攻撃。
デュマは軽くかわすと、おじいさんに足をかけて転ばした。
渾身の拳が空振り、足をかけられた事で勢いよく地面に倒れるおじいさん。
「ぐぅ…っ!」
「ヒャハハハハハ!トロい!トロい!トロいぜぇ!!」
畳み掛けるように言うと、デュマは苦痛に悶えるおじいさんの頭を掴んだ。
「このまま、テメェを吸収するのは簡単だ。だが、オレはそうしねぇ。」
「なにをする気じゃあああああ!」
「このデュマ様の最後を知るテメェの博識な脳味噌は使える。」
「孫のいない世界など興味はないわぁ!後生じゃから一思いに殺してくれぇ!!」
「ダメだ。」
「ひぃぇええええええ!!」
叫び声と同時にデュマの腕が光り、ゆっくりとおじいさんは取り込まれてしまった。
「ヒャハハハハハ!どうだじじい!このデュマと同化した気分は!?」
一人になったデュマが、誰もいない部屋で語りかける。
自らの右手に。
そこには、おじいさんの顔があった。
そう、デュマのパワーによって、おじいさんは彼の右手と同化したのだ。
高笑いするデュマの手のひらで、おじいさんが目を開ける。
「気持ちいい…、気持ちいいですぞデュマ様ぁ!!」
「ヒャーッハッハッハァ!!じじい、貴様の知識、今後はこのデュマの右手として役立てるが良いわ!!」
「御意。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
つづく