私はラリカ。
極貧貴族のメイルスティア家の長女。
幼いころ両親に売られかけたこともあるし、隣の寮まで食べ物を恵んでもらいに行ったことまである。
こんな私が貴族だなんて、なんだか場違いな気がして恥ずかしい。
魔法学園に入れられて、もう1年経つがこの暗い性格のせいか、親しい友達はいない。
肝心の魔法の成績も、下から数えた方が早い。
いつも部屋にいるんだから、もっと勉強したら?と、誰かに言われたこともあるが、これでも一生懸命やっていると言いたい。
私は、いや私の家系は才能がないのだ・・・。
せっかくの虚無の曜日だが、なんの予定もない私は昼頃までベッドで寝ていたが、さすがにこのままじっとしているのはダメだと判断し、学園の中庭へ出る。
周りには友達と、恋人と楽しく休日を謳歌する生徒たちがいる。
気晴らしにと出て来たはいいが、こんなことならやはり部屋にいた方がよかった・・・。
ラリカは、適当な日陰を探すとそこに座り込んだ。
雲1つない空を見上げてため息をつく。
明日はサモン・サーヴァントの日。
これから一生付き合うことになる使い魔が決まるわけだ。
ネコみたいに可愛い動物がいいな。
もしくは、人型で私の友達になってくれるような・・・。
サモン・サーヴァント。
ゼロのルイズが平民を召喚したのとほぼ同時。
それ故に、ラリカの召喚は目立たなかった。
同じイレギュラーでも、扱いがここまで違うのか、というほどだ。
そう、彼女もまた平民を召喚したのだ。
「・・・え?」
思わず漏れる声。
そこには、上半身が異様に発達した筋肉ぎゅうぎゅうのお人形さんのような男が立っていた。
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オレは無能な兄とは違う。
ヤツは己が能力に傲り、その力だけでのしあがっていった。
自身に従わない者を容赦なく焼き殺すその姿に、いつからか闇の貴公子と呼ばれるようになった兄に、オレは心底イラついていた。
我が父、アブダビからヤツの消滅を聞かされた時は耳を疑ったが、所詮そこまでの器だったのだろう。
聞けば、異世界に召喚されたうえに、ビームを出せなくなって死んだとのこと。
やはり、天性の能力に傲った者の末路はなんともあっけない。
闇の貴公子・デュマの弟、デューオがニヤリと笑みを浮かべる。
「これで、このオレが・・・最強だ!!」
3メートル近くある巨大な身長に、膨れあがった筋肉。
胸筋と腕の筋肉が発達しすぎたせいで、すでに『きょうつけ』ができないほどだ。
もちろん筋肉に埋まって首が見えない。
「オレは天性の能力に傲り、努力しなかった兄貴とは違う!極限まで鍛えたこの肉体で全てを恐怖で支配する!!フハハハハハハ!!」
高笑いするデューオに、兵士の一人が駆け寄ってくる。
「デ・・・デューオ様!敵の軍勢がせまっっ!!ぷげぇっ!?」
兵士は最後まで話し切る前に、デューオの拳に押し潰されて死んだ。
地面にめり込んだ状態で絶命する兵士を軽く見やるデューオ。
「おっと、うっかり殺してしまった。」
やれやれと、首を振ろうとしたが、肩の筋肉が邪魔で動かすことができなかった。
デューオは、殺してしまった兵士の言い残した言葉を思いだし、ゆっくりと体を動かした。
敵の軍勢が迫ってきている。
闇の帝王が息子、闇の貴公子デュマの死を知った隣国が攻めてきているのだ。
その討伐のために、デューオは今この地に来ている。
「この討伐で、オレの圧倒的なパワーを示さねばならん。」
彼の立つ崖からは、ゆっくりと敵軍が近づいてきているのが見える。
「デューオ様!情報によれば敵軍は10000、対して我が軍はわずか200です!」
後方で別の部下の報告が聞こえる。
「ほう。それで?」
「はっ!このままぶつかるのは無謀かと!」
そう進言した部下は、次の瞬間地面にめり込んで死んだ。
「ん~?聞こえんなぁ?」
拳に着いた血を拭い、自身の目の前に並ぶ部下たちを見回すデューオ。
「さて貴様ら、他に何か言いたいことはあるか?」
目の前で二人殺されているのだ、この期に及んで言葉を発せられる者などいない。
「くくく・・・、なんとも勇猛な部下たちよ!!」
笑いながら、ゆっくりと隊列へと近づくデューオ。
部下達の顔が更に引き締まるのが分かる。
「敵軍は我等の50倍。この圧倒的に不利な状況で、勝てると思うか?」
間髪入れずに返事をする部下たちに、デューオの顔がさらに明るくなる。
「フハハハハ!良いぞ貴様ら!それでこそ、このデューオの部下よ!!」
ひとしきり笑った後、デューオは最前列の部下の肩に手を乗せる。
そして・・・
「ぎゃぁああああ!!」
悲鳴を上げる兵士の一人に、隊がざわつく。
そう、デューオが兵士の肩を握り潰したのである。
「デュ・・・デューオ様なにをっ!!」
肩を押さえて崩れる兵士に、デューオは満面の笑みを浮かべた。
「このデューオの伝説はここから始まる!!勇敢な部下と共に1万の兵に勝った英雄達ではなく、1万の兵をたった1人で滅ぼした英雄としてだ!!」
言い終えるか先か、肩を負傷した兵士をひねり潰すデューオ。
「この戦場で生き残っていいのは、このオレ、唯一デューオのみだ。貴様らはここで死んでくれ。」
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積まれた死体の山。
最後の兵士がデューオの巨大な拳に握られている。
「デューオ様・・・やめっ!?」
プチッという音がして、兵士はあっけなく潰れてしまった。
デューオの体は兵士達の血で真っ赤に染まっている。
「フハハハハ!!これで準備は整ったぁ!!」
拳の肉片を投げ捨て、彼はゆっくりと体を反転させた。
切り立った崖の下、1万の兵が土煙を上げて迫ってきている。
「兄よ!我が愚かな兄、デュマよ!!このデューオの伝説をあの世で見物するがよい!!」
そう叫び、デューオは崖から飛んだ。
崖の下に着地した時、自らの伝説が幕を開けると確信して。
しかし・・・、彼が1万の兵と合間見えることはなかった。
着地の瞬間、空気の歪みに飲み込まれてしまったのだ。
そう、あのデュマが何度も遭遇した、異世界へ通じる扉に・・・。
『ムカデの代わりの男』Episode2
~闇の貴公子の弟・デューオ~
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つづく