前略、お母様。
晴れて私は国立トリステイン魔法学園に入ることができました。
一日も早く学校に慣れて、健やかな日々を送りたいと思います。
ですが・・・。
見慣れない貴族たちに囲まれ、いささか戸惑っています。
バラでキャラを立てようとして失敗し、キャラを立てるというよりただの浮いた存在になってしまった貴族様。
バラどころか、縦ロールなどというありえない暴挙に走ってしまったその恋人。
マゾデブ。ピンクの淫乱ペタンコ。
誰も彼も、お母様が言っておられた"近寄ってはいけない人たち"に思われてなりません。
でも、私はこの学園で、もう一年だけ頑張ってみようと決意しました。
真に敬愛すべき貴族様に出会ってしまったからです。
あれは先月のこと。
「ルイズ様。この学園の貴族様って、将来、この国を運営していかれるエリート候補なんですよね…?」
「…シエスタ、あなたの言いたいことは分かるわ」
「ルイズ様…」
「私も以前はこう思ってた。貴族なんて、傲慢さをうわべの礼儀で誤魔化すだけの道化ばかりってね」
ルイズ様は、どこか尊い諦めを宿したような表情で微笑まれました。ピンクのくせに。
「でもねシエスタ、貴族を見捨てないで。私たちは、とても孤独なのよ。
人を敬うか見下すかばかり教えられてきて、対等の友達なんてほとんど居ない。
私は貴方に出会えて、まだ幸運なほうだわ」
「ああ、私もですルイズ様。私もあなた様がおられなければ、とうにここの仕事を止めていたことでしょう。
あなたのような方を、あんな酷い二つ名で呼ぶ人たちが、私は憎くて仕方ありません」
ルイズ様は、うつむく私にどう声をかけようか悩んでおられるようでした。
しばしの静寂。すると、遠くから聞きなれた騒ぎ声が。
「ええい、お黙りなさいコワッパども!!シャイニングコルベール!!」
「ぎゃああああああああ!!目がぁ!!目がァァァァ!!」
「……」
「ああ、シエスタ!!お願いだから、トリステイン貴族を見限らないで!!
あの先生もこうおっしゃられてたわ。『使い魔は一生をささえあってゆく対等なパートナーだ』って。
きっと皆、来月の使い魔召還で人生を変えてゆくのよ。初めての対等な友達と出会ってね」
ルイズ様は両の手をささやかな胸の前に組んで、
とてもほがらかな声で私にいい聞かせました。
その様子は私にとって、
まるで慈母象のように尊いものに見えました。ピンクのくせに。
「ルイズ様…一つだけお願いがあるのです」
「なに?」
「ルイズ様がどんなステキな使い魔を召還しても、
それがどれだけ大切な存在でも、どうか私とも、ずっと友達でいてください」
「ああシエスタ、私の大切な友達!!そんな悲しい不安を抱かないでちょうだい!!」
そう言うと彼女は、私の体をかき抱かれました。
二人はともに涙声で、なけなしの希望をゆずりあうかのようでした。
「あなたも私の使い魔と友達になってね。私はきっと宇宙一の、気高く美しい使い魔を召還するわ」
「…はい…はい」
私のその涙は、なんだったのでしょうか。
芝居のような友情への罪悪感だったのか、そんなものにすがろうとする自身への誤魔化しだったのか。
しかしそれでもルイズ様は、
震える私をぎゅっと抱きしめながらこうおっしゃりました。
「シエスタ、大好きよ」
それは、絶対に聞いてはならない言葉でした。
私の嗚咽は、とうとうかざりを失い、はじけるような泣き声に変わりました。
私の頭をそっと撫でながらルイズ様がつぶやかれた「だいじょうぶ、だいじょうぶ」という声と、
自身のわんわん泣く声が、今も耳から離れません。
そしてその記憶こそが私に、この学園で頑張っていこうと誓わせたのです。
この方と一緒なら、どんな苦難も乗り越えてゆけると、そう確信したのです。
私は、自分のその決断に、なんらの後悔もありません。
誤算があったとすれば、それはただ一つ。
ルイズ様が使い魔を召還できず、退学なさったことです。
まさかそこまでゼロだったなんて…。