前略、お母様。
このたび我々「女王陛下銃士隊」は、
トリステイン学園警護の任を与えられました。
没落以降、戦いにばかり生きてきた私にとって、
こういう平和な場所で書類整理が増えるのはむしろ苦しいことです。
他の隊員たちは、学園と王宮と街とを行ったり来たりしているのに、
私はデスクワークのせいでほとんど学園を離れられません。
街のほうでドンパチがあったと聞くと、仲間はずれにされているみたいで、ちょっと寂しいです。
……。
「ミシェルさん、なにやってるんですか?」
「ああギーシュ君か。王宮に提出する日誌を書いているんだ。陛下が、平時の隊員の様子などを知りたいと仰せでな。
これは本来なら隊長の仕事なのだが、実際はほとんど私が書いている」
「へぇ、ちょっと見せてもらっていいですか?」
「かまわんぞ」
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□月Δ日 ミシェル
朝、チャンコナヴェを食べている時、みんなで弱点の話をしました。
するとアニエス隊長が「私の弱点か……。ハシバミ草が苦手ということかな……」と言ったので私はおどろきました。
私は言いました。
「苦手だったんですか?!私はいつも入れてましたけど、ひょっとするとアレってイヤだったんですか?!
そうならなぜイヤと言ってくれなかったんですか!!」
隊長は言いました。
「いや、すまん。実はすごくイヤだったんだが、隊員の中には好きな者も居るかもしれないと思うと、言い出しずらくてな」
隊長にも、意外と気を使う面があるんだと知りおどろきました。
私は、そういえば自分の弟もハシバミ草が苦手だったな、と思い出し、提案しました。
「では、これからは分からないようにハシバミ草は細かく刻んでおきましょうか?」
隊長は言いました。
「あ、それやられるとかえって困る!!よけにくくなるからな」
こっそり刻んで入れてもバレないんじゃないかなと思いました。
夜、外出していた隊長が、疲れた顔をして戻ってきました。
私が「何があったのですか?」と聞くとアニエス隊長は
「勅命によりリッシュモンを誅殺した。少し疲れた。休ませてもらうぞ」と言いました。
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「……どうだ?」
「……荒削りだけどいいと思いますよ。特に、このリッシュモンのとこがいいですね」
「そこは割りとどうでもいい部分なんだが……。何かアドバイスはあるか?」
「そうですね、丁寧語をやめて三人称で書いたらどうですか?」
「なるほど。他にはないか?」
「うーん、しいていうなら勅命以外にも動機が欲しいですね。あの人は、リッシュモンに何か恨みとかお持ちじゃないですか?」
「聞いたことがないが、うむ、参考になったよ。少し考えてみる」
~数時間後~
「なにやってるんですか、ミシェルさん」
「ああ、レイナール君か。日誌を書いているのだが、ちょっと見てくれるか?」
「いいですよ」
「……」
「……」
「……どうだ?」
「面白いと思います。特にこのリッシュモンのとこが気に入りました」
「またそこか……」
「そこをもっと重点的に書いたほうがいいんじゃないですか?アニエスさんが何を思い、どう戦ったとか。
むしろ前半は短くしたほうがいいでしょう」
「……しかし私はその場にいなかったし、隊長の心理描写なんて分からんぞ」
「分からないのは読者も一緒ですよ」
「それもそうか……」
~1時間後~
「それは何?」
「タバサ君か。君は読書が好きらしいな。ちょっと読んでみてくれ」
「見せてもらう」
「……」
「……」
「……」
「……悪くない。でも贅沢を言えば、戦闘シーンにもう少し工夫が欲しい。このキャラなりの戦い方になっていない」
「やはり分かるか。私もそこが物足りなかったのだが、どうしていいか分からなくてな……」
「例えば、突拍子もない切り札を使って勝つとか。ちょっとくらい強引な展開になっても、むしろそのほうが皆の記憶に残る。
時間がたっても話題にあがるのは、そういう作品」
「大丈夫かなぁ……」
「不安なら、目的を果たすことで内面的にも成長する、という要素を織り込むといい。何かを克服するとか。それで綺麗にまとまる」
「そういうものか……」
「キメゼリフも忘れてはいけない。それと……」
~3時間後~
「……」
「……」
「……どうだシエスタ」
「あの髪型ってそういう意味があったんですね……。はい、かなりいいと思います」
「そうか!!次はどこを直せばいいと思う?」
「うーん、私にバトルモノの意見を求められても……。
そうですね……。ちょっとこの原稿お借りしていいですか?皆に聞いてきます」
~3時間後~
「というわけでアンケートをとってきました」
「ア、アンケート?!」
「そうです。今後読者がどのような展開を望んでいるか、アンケートをもとにまとめてみました」
「今後の展開って……。とりあえずあれで終わりなんだが……」
「悪い冗談言わないでください!!みんなあの後のアニエスさんが気になってしょうがないんですよ?!
私がみんなに怒られるじゃないですか!!」
「そ、そんな事態になっているのか?……良くわからんが、よし、とりあえずアンケートの結果を聞かせてくれ」
「はい。皆の望む今後の展開第一位は『アニエスさんがどんどん強くなる』ですね」
「……やっぱり待ってくれ。そんな皆の思うように書いていったら、それはもはや私の作品ではなくなるのではないか?
それに百歩ゆずってそこに眼をつぶったとしても、読者の言うとおりにして本当に面白くなるのか?
いきなり隊長が強くなるより、過去の悲しみを乗り越えたりとか、そういう風にしないとストーリーにふくらみが出ないだろう?」
「言いたいことは分かりますし、私も同感です。でも、それは理想ですよ。まずは人気を取らないと話にならないじゃないですか」
「……分かった。次は隊長を強くする」
~翌日~
「新しいアンケートの結果はどうだった?」
「うーん……それが」
「……」
「『つまらなくなった』という意見が増えています」
「な、なんだと?!」
「その理由の一位が『安易にアニエスさんが強くなった』ですね」
「だから言ったじゃないか!!どうしてくれるんだ!!」
「すみません……。でも、不思議ですよね。皆の要望通りに書いたのに」
「取り返しのつかないことになった……」
「大丈夫ですよ。こんなのを王宮に提出したら、そのほうが取り返しつかないですし」
「……いきなりマトモな事を言わないでくれ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「アニエスさんに恋人ができるってのはどうでしょう?」
「あ、それいいな」