~~~~ side タバサ ~~~~
今さらだけど私の名はシャルロット。
またの名を雪風のタバサ。
誕生パーティーを開いてくれるというので、ノコノコ出張ったのが運のつきだった。
まさか船上パーティー(しかも飛空艇)とは……。
船で飲み食いして騒ぐなんて、
乗り物酔いする人間への嫌がらせとしかおもえない。
しかも目下のところ、さらにもう一つ大変な問題にさらされている。
それは、現在ハイジャックされているということだ。
チョビヒゲのオカシラが、
バンダナ+曲刀の子分らを率いて現れ、
乗船前から泥酔していたみんな(最低)をあっさり縛り上げた。
もうどうにでもしてくれと思わないではない。
しかし、幸いにも船はまだ離陸していない。
また賊は裏家業に慣れていないらしく、
私の見立てでは、恐らく彼らの企ては失敗する。
……パーティーを開いてくれた皆には悪いが、
船に揺られてお酒を飲むなんて、絶対にイヤだ。
このまま全てウヤムヤになるなら、正直それが一番望ましい。
まさかいくらなんでも、
ハイジャック直後にパーティー再開ということはないだろうし。
……この連中ならやりかねないか?
~~~~ side ウェールズ(空賊コス)~~~~
えらいことになった。
あの小柄な子の髪は『ガリア王家の青』だ。
あっちはどう見ても烈風の娘だし、なぜかエルフも居るし、
あれはしょっちゅう烈風と小競り合いしているゲルマニアのツェルプストーだろう。
ここまで来ると、他の連中にもどんなのが紛れ込んでいるか知れたものじゃない。
というかなんでこんなにゴリラだらけなんだ……?
「カシラ……やばいっすよコレ……知りませんでしたじゃ通じませんよ……」
「確かにそうだが、しかしどうしたものか……」
「もう投降しましょう。こんなとこで死ぬのはゴメンですぜ」
こいつらの言うとおりだ。
「そうだな……。よし!!イカリをあげろ!!離陸するぞ!!」
「フザケないで!!」
うわっ、ビックリした!!
ガリアンブルーの子が、突然キレた。
「なんなのソレは?!今のあなたたちの会話の流れなら、投降する感じだったでしょ?!
どうしてそこで離陸になるの?!飛空艇だけに話が飛んでるとでもいうつもり?!
そんなの通用しないから!!」
物凄い勢いでまくしたててくる。怖い。
というか、おっとり系の子が怒ると強烈だな。
こんなにキツいのは、ヴァリエール家の次女にギャグをスルーされて以来かも。
あの慈しみに満ちた表情で無視された時は、本当に辛かった。
あれ?今何してたんだったかな?
そうだ、この子に睨まれてるんだった。
アウアウ……。
「あ……い、いや。君の言うとおりだ。
すまなかった。でも、なんかその、混乱してて……」
~~~~ side タバサ ~~~~
カシラが、頭を抱えて泣き言を言い始めた。
「もうどうしたらいいのか……。
そもそも冷静に考えたら、なんで私が先陣きってこんなマネを……」
私は理解した。
こいつらは、バカだと。
しかも、まるで滅亡寸前みたいにマイナス思考になっている。
どのワラにすがって溺れようかと焦っているような状態だ。
これならいくらでも誘導できるだろう。
……よし。
「あなたたちの計画は、あまりに適当。
そもそも人質を使った交渉で弱気になれば、その時点で負け。
私なら、とんでもなくムチャな要求をする」
「無茶ってどんな……」
「例えば『人質を開放して欲しければ、アンリエッタを代わりによこせ』とか」
「な、なるほど……。それでいこう!!」
よし、やっぱりバカだ。
よもやこうまでスムーズに踊ってくれるとは。
もはやこの素直なオカシラがカワイクすら見えてきた。
……ちょっと天然のカリスマなのかもしれない。
まあ兎に角、これで時間をかせげる。
十分に練られた強行突入作戦で、無能なコイツらは一毛打尽だろう。
「カシラァ!!返信がきました!!『オッケー』だそうです!!」
「ウソ?!」
誤算……。
トリステイン王家もバカとまでは読めなかった……。
ごめんなさい、アンリエッタ姫。
でも、なんでこんな……。
そもそも本当は私の誕生日は先月だし、みんな勘違いしてるし、
でも祝ってくれるっていうから嬉しくなって、それに気を使わせたらって、ああもう。
「へへヘ。オジョウ、次はどうしやしょう?」
……。
こ、このカシラ……!!
まさか私に責任者の座を押し付ける気?!
タバサ、アンリエッタ、アルビオン王党派を乗せ、
船は一路戦乱のアルビオンへ――――