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No.37866の一覧
[0] 二つのガンダールヴ、一人は隷属を願い、一人は自由を愛した【ゼロ魔】【才人+オリ生物】[裸足の王者](2016/05/05 15:17)
[1] プロローグ[裸足の王者](2013/06/18 00:06)
[2] 第1話 対話[裸足の王者](2013/08/19 07:22)
[3] 第2話 授業[裸足の王者](2013/08/23 09:53)
[4] 第3話:フーケの雇用条件[裸足の王者](2013/08/19 06:43)
[5] 第4話:トリスタニアの休日[裸足の王者](2013/08/25 22:57)
[6] 第5話:それぞれの思惑と[裸足の王者](2013/08/25 22:57)
[7] 幕間:フーケとジャガナートの作戦名”Gray Fox”[裸足の王者](2014/06/22 09:39)
[8] 第6話:潜入・アルビオン(前編)[裸足の王者](2013/08/25 23:01)
[9] 第7話:潜入・アルビオン(後編)[裸足の王者](2013/10/01 10:50)
[10] 第8話:それぞれの脱出[裸足の王者](2013/08/25 23:07)
[11] 9話:おとずれる日常、変わりゆくもの[裸足の王者](2013/08/25 23:08)
[12] 第10話:鋼鉄の翼、もうひとつのジャガーノート[裸足の王者](2013/10/01 10:37)
[13] 第11話:狂獣たちの唄[裸足の王者](2016/05/05 15:33)
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[37866] 第8話:それぞれの脱出
Name: 裸足の王者◆bf78caa6 ID:b9dddeb4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/25 23:07
二つのガンダールヴ 一人は隷属を望み 一人は自由を願った

第8話:それぞれの脱出


所はアルビオン、ニューカッスル城内に設けられた礼拝堂、ステンドグラスを通した柔らかな日差しが差し込み
空気中の微粒子がキラキラと輝く

遠く、遠雷のように大砲の音や、軍勢の鬨の声が響く
今までここで、死闘が行われていたとは到底思えないほど静かな空間

「ルイズ、大丈夫だったか?」

鉄鋲が打たれた軍靴で石の床を踏みしめる、カチャリカチャリという規則正しい音を立て、才人がルイズに近寄っていく
縁が金で彩られた白銀の鎧に身を包み、こちらに手を差し伸べている

対するルイズは、花嫁の純白のマント、頭には消して枯れぬ永遠の花をあしらった王家のティアラ
ルイズは、まるで自分がとらわれの姫君に、そしてそれを助けるための勇者が、目の前に現れたかのような錯覚を覚えた

そして、安心の余り気を失った

「うわっとと…」

才人は慌てて駆け寄り、その身体をしっかりと抱きとめた

腕の中で気を失っているルイズもまた、格段に美しかった。ピンクブロンドの髪の毛がサラサラと流れる
この腕の中の存在は、日の光に当てれば溶けて消え去ってしまうのではないだろうか
そんな思いさえ頭をよぎるほど、ルイズの姿は可憐だった
純白のマントと、枯れぬ花をあしらった王家のティアラがそれを引き立てていた


"前回"と違い、激しい戦いの中にあっても、ルイズは傷一つ負わなかった
才人が間断なくワルドを攻め続けたため、ワルドは才人の相手をするだけで精一杯だったのだ


「ルイズ…」


才人がルイズの顔にかかった前髪をやさしく横にはらう
だが、才人はふと背中にむず痒いような感触を感じ、思わずその方向を見た


「のわあっ!!」
「……さっさと乗らんか……このたわけが……」


3つの巨大な眼と、そして好奇心で輝くいくつもの小さな眼が二人を見つめていた


いつまで待っても現れない才人に、ジャガナートが業を煮やし、その長い首を伸ばして来ていたのである
割れた窓の隙間から好奇心に輝く目が多数光っている、ウェールズの顔にはニヤニヤ笑いすら浮かんでいた


「いつから見てたんだよ…」


ジャガナートが答える


「さて、何の事か、我は何も見ておらぬ、のうジェームズ殿」
「うむ、ワシもなにも見ておらぬ、なかなかすばらしい見物であったな、勇者が悪を倒し姫を助ける、まるで歌劇の一場面のようであったわ」


それを聞いて才人が不機嫌顔に変わる

「全部見てんじゃねぇか……」

辺りに笑声が響いた

「さて、さっさと乗れ、貴様らが最後だ」


ジャガナートに促され、才人がルイズを抱えたままジャガナートの背に乗ろうとするも、高すぎて届かない
すると、二人の体がふわりと浮き、ウェールズの近くに下ろされた

視線で問いかける才人にウェールズはウィンク一つ、熱いシーンを見せてもらったお礼さ、と気さくに答えた
そして、ゆっくりと崖に向かって歩くジャガナートに、ジェームズ一世が上から声をかける


「のう、ジャガナート殿…」
「なんだ」
「一度…城を飛び去る前に、一度だけ城の上空を回ってくれんか?」
「だめだ、我らのこの姿を見られる訳にはゆかぬ、その苦き思いも胸に秘め、決意の足しにするがよい」


この事件より、アルビオン王ジェームズ一世は、自らを朕と呼ばなくなった。
そんなジェームズ一世を上目に見ながらジャガナートは考える

このような事態をガリアが見逃すはずが無い…

ニューカッスルの城はアルビオン大陸突端に存在している、離陸するにしてもなにも助走する必要はない
めいっぱい翼を広げて下に飛び降りればよいのである


「ゆくぞ、振り落とされぬようしっかりと綱を掴んでおけ」

ジャガナートがその巨大すぎる6枚の翼を少しだけ展開する、背に一列に並んだ、まるで枝の無い大木のような棘に綱が結ばれ
そこに多数の人間がぶら下がっている、そして、王族たち高位の貴族がジャガナートの頭部に乗っていた

刹那、全ての体重が重力から開放され、ふわりと浮かぶような不気味な感触が全員を襲う
しかし、ここは風のアルビオン、精強の竜騎士隊と、最強の空軍の国である
空を飛ぶことを恐れる人間は一人も居なかった、男たちは歓声すら上げている


しばらく滑空し、十分速度が乗ったのを確認したジャガナートは翼を最大に展開する、同時に襲い掛かるGに、乗員は踏ん張って耐える
その巨大な6枚の翼が空気をがっちりと掴み、ジャガナートに自由を約束する
威風堂々たる空の覇者の轟臨である

そのままジャガナートは海面に向かってゆっくり降下し、海面すれすれの高度200メイルを飛行し始める
そして、ガラスの鈴が鳴るような音が響き、その速度は風竜の倍、時速400リーグを叩き出す


「全く、大したものだ、このような巨竜が友とはね…しかもこれほどの速度で飛行しているにもかかわらず、空気が全く動かないとは、いやはや…」

ウェールズが、感心しきりといった様子で才人に話しかける

「サイト君、眠り姫はまだお目覚めにならないのかな?きっと君のキスで目を覚ますよ」

ウェールズが少し気障なしぐさで自分の唇をなぞる
下手な男連中がやると気持ちが悪くなるようなジェスチャーであったが
なかなかどうして"本物"がやると様になるものである

「お戯れを、殿下、そのような事をしようものなら目を覚ましたルイズにボコボコにされてしまいますよ」

唇を尖らせて抗議するサイトの顔を見て、ウェールズははははと楽しそうに笑う
だが、それも長くは続かず、すぐに沈痛な表情がウェールズを支配する

すると、重厚な低音が響き、珍妙な言葉を並べたてる

「本日は、トリステイン魔竜の森、穴倉行き、1680便にご搭乗いただき、誠にありがとうございます
 なお、当機はトリスタニア上空をフライパスし、そのまま目的地へと向かいます
 到着予定時刻は、午後7時を予定しております。現地の天気は快晴……」

とつぜんべらべらとしゃべくり始めたジャガナートに驚き、ウェールズの目が点になる


「一体彼は、何を言っているのかね?」
「さあ…、殿下が沈んだお顔色でいらっしゃるので、気を紛らわそうとしたのではないでしょうか?」
「才人の言うとおりだ、ウェールズよ、必ずやレコン・キスタは滅び、アルビオンの血筋は守られる、今はただ伏し、心と体を休め、戦いに備える時だ」
「…ああ、そうだね、全てはこれからだ」
「なお、現在はキャンペーン期間中につき、当機の進路を妨害した輩には、"始祖の御許への片道切符"もしくは
 "地面とキス(回数券)"をお配りさせていただいております、合わせてご利用ご検討のほど、お願い申し上げます」


ウェールズと才人が、さもうんざりといった表情で応えた


「うわぁ、受け取りたくねぇ」
「全く持って同感だ」


才人と談笑するウェールズの顔から、少しだけ陰りが消えている、その様子をジャガナートは6つの目の内1つを動かして観察していた。


ジャガナート謹製のプレゼントは、上空を警戒していたマンティコア隊が、受け取るハメになった
報告を受けたアンリエッタは、"巨大な何かにぶつかった"という内容に、しきりに首を傾げていたが
その後に飛び込んできたニューカッスル陥落と、王党派全滅の悲報に、全ては吹き飛んだ


■■■


一方そのころギーシュたちは、地中で立ち往生していた
今まで超スピードで地面を掘り続けていたジャイアントモールのヴェルダンデが、突然ピタリと止まってしまったからだ

しきりに鼻をひくひくさせ、何かの香りを捜している様子であるが、未だに見つかった様子はない
そして、ギーシュはその事を、使い魔との意思疎通で知ることになる

「まいったね、どうやらヴェルダンデが目標を見失ったらしい」


キュルケが杖の先に小さな魔法の火を作り、灯り代わりにする


「ねえ、そのモグラの鼻は確かなのかしら?」
「失敬な、ヴェルダンデの鼻は確かだよ」


せっかくの綺麗な顔が台無しになっているキュルケは不満顔、タバサは相変わらずの無表情だ
ギーシュはヴェルダンデに頬ずりしながら、会話をしている


「ふむ、ふむ、今まで嗅いだなかで最高の宝石の香りを追っていたが、香りが途切れてしまったようだ」
「…というと?」


ひょいと顔を上げたギーシュの顔に、べったりと泥がついている


「ああ、君たちは知らないだろうが、ルイズが姫殿下から預かった指輪をはめていたからね、おそらくあれの事だろう」
「ならすでにルイズは脱出したわけね?な~んだ、つまんないの。でも、どうやって?」


タバサがポツリと答える


「恐らく古代竜…」
「僕がサイトであったら、間違いなく竜を呼び寄せるだろうね、ならば僕らも長居は無用だ
 ヴェルダンデ、下に向かって掘ってくれないか、そこからタバサのシルフィードで脱出しよう」

もぐもぐぐもぐも、とくぐもった声が響き
全員が一斉にうなずいた


■■■


某国 某所

蒼を基調とした、高価な石材が敷き詰められた廊下が続く
一つ一つが正確に真四角に切断され、縁取りに光沢のある貝殻がはめ込まれている石材である

通路の端には、10メイル置きに調度品を展示する台が設置され
見事な絵の描かれた大きな壷や香炉が並べられている。
そして、それらは周りをガラス製のケースに囲まれており、手が直接触れられぬように配慮されていた
蒼い髪の毛の偉丈夫の肖像画が並び、その下をたくさんの重装兵や、正装した下僕たちが行き来している

その内の一室、そこは荘厳な雰囲気の通路と打って変わって、室内は雑然とし、遊戯のための玩具がところ狭しと並べられていた
一人の男がチェス盤の前に座り、グラスを左手で弄びながらチェスに興じている
室内には、コトリコトリコトリと、規則正しい音が鳴り止まなかった

もしも誰かが、この男を観察していたのであれば、おそらく眉をひそめ、首をかしげていただろう
男が自分の側の駒を手に取り、コトリと子気味の良い音を立てて盤に置く

そしてすかさず反対側の駒を手に取り、また盤に置く
恐るべきはそのスピードである、その手は決して止まる事が無かった

そして、ブツブツと独り言のような言葉を呟き、時々グラスをあおる
しかし、その左手は淀みなく流れ、盤上では刻一刻と戦況が変わり、一進一退の攻防を繰り広げる


『そうか、ついにアレが動き出したか』
『そうだ、見えているとも、すばらしい体躯の竜だな』

片目を瞑った男の目に尋常ではない光景が広がっている
戦列艦サイズの竜が、その背に大量の人間を乗せ、今まさに崖から離陸しようとしていた


『うむ、始祖の秘宝を得られないのは痛いが、なに、集まってから全ていただけば良い』
『愛しのミューズ、今の手駒ではアレはいかんともし難い、可能な限り追跡し、行き先を突き止めよ』


カッと鋭い音が室内に木霊する
男が左手に持った駒を、自陣のキングの前に置いたのだ


男は流れるような動作で立ち上がり、手を叩いた
すると、どこからともなく執事が現れ、男の前に跪く

男が二言三言執事に告げると、執事は下がり、代わりに数人の屈強な男たちが現れる
男たちは3メイルはあろうかという巨大な彫刻を部屋に運び込み始めた

その彫刻は黒曜石で作られ、ルビーで作られた目が、6つはめ込まれていた
6つの巨大な翼が伸び、大きく開かれた口にはズラリと牙が並ぶ

「そこに降ろせ」

男は、先ほどまで自分がチェスに興じていた机の反対側に、その巨大な彫刻像を配置させた
彫刻像は、チェステーブルの反対側においてあった椅子をべしゃりと踏み潰し、そこに居座る
男は下僕たちを早々に追い払い、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のような目で彫刻像を見上げ
自分の側にだけチェスの駒を並べ始める

「さあ…、滾ってきたぞ!」

そこに、音もなく一人の男が現れる
若草色の服を纏い、帽子を目深にかぶっているため、どのような人物なのか全く分からない
その男が帽子を指で少し上げ、訝しげな表情で問いかける


「なんだ?これは」
「ビダーシャル卿か、見て分からんか?余の新たな遊び相手だ」
「ふむ、エルフの地に伝わる伝承に間違いが無ければ、こいつは"滅びの君"だ
 またの名を"荒野の王"、決して出会ってはならない相手だ」
「エルフともあろうものが、それほど恐れるとはな、ますます興味深い」
「我々とて万能ではない、自然災害は恐れる」


なおも顎に手をやり、彫刻像を見上げるエルフを奇妙に思った男が再度声をかける


「どうした?欲しくなったのか?」
「いや…、鱗の色が金色でないのが妙だと思ってな、伝承と違うようだ」
「カビ臭い伝承などに興味は無い、エルフの地にはこれを倒しうる武器は無いのか?」


その言葉を聴いた男が、いつもの無表情を不快そうに歪め、問いかける


「貴様正気か?…いや、それを問うのも愚かであったな、はっきり言おう"無い"とな
 貴様はエルルの月からティシュリの月の間に襲ってくる大風にどのように対処する?
 まさか大風を消し去るなどとは言うまい?それと同じことだ」
「なら、余が世界で初めてその偉業を成し遂げると言うわけだ」
「…一言忠告しておく、ロバ・アル・カリイエのさらに東に、栄華を誇った帝国があった。
 今そこにあるのはなんだ?…ただの焼き尽くされた瓦礫の山だ
 そもそも意思疎通のできる相手ではない、ただ喰らい、無慈悲に殺し、轢き潰し、焼き尽くす。ゆえに滅びの君と呼ばれた
 かの帝国の滅んだ理由は何か?ただ滅びの君の進路にその国が存在した、ただそれだけの理由だ。
 我々は手を引かせてもらう、貴様の巻き添えを食らってネフテスそのものが灰にされた、では話にならん
 シャイターンやヴァリヤーグどころの騒ぎではないからな」


帽子の男はすたすたと部屋から出て行こうとする、それを面白そうに眺めながら男は声をかける


「エルフともあろうものが、契約を破るのか?」

振り向きもせず男は告げる

「契約とは、生きている者と交わすものだ、今まさに死のうとしている者と交わすものではない
 滅びの君と戦い、なおかつ勝者となったのなら、そのときに改めてここに現れよう」

その言葉を聞き、実に愉快そうな、しかしどこか狂的な笑い声が響く
帽子の男はよどみない動作で部屋を去っていくが、その背中に向けてぼそりと言葉が投げられる
その帽子がピクリと動いたのを男は見逃さなかった
男が去り、部屋の主が一人だけ残された一室に、楽しそうな笑い声が響く

「ふん、カビ臭い伝承など、いつまで当てになると思っているのか、世界は刻一刻と変化している。チェス盤のようにな」

そして、男は椅子から立ち上がり、背後にあった巨大な遊戯盤へと歩み寄っていく
戦略ゲームのように駒たちが並べられ、海、山、陸、さまざまな状況が再現されたミニチュアだ

「さあ、何人の兵を戦わせようか!何隻の戦艦で対峙すれば貴様を倒せる?
 ロマリアの新型砲はどうだ?さあ、さあ、まずは雑魚で小手調べといこうか!」


巨大な竜の彫像の前にひとつのビショップといくつかのポーンが置かれた


■■■


トリステイン魔法学院外れ 通称魔竜の森


辺りに轟々と突風が吹き荒れ、小規模の竜巻が木々を揺らす
小さな石ころが空に舞い上がり、砂埃が視界をさえぎる

そして、地面を激しい揺れが襲い、地割れの出来た地面から岩がめくれ上がる

魔竜の森の王がそのねぐらへと帰ってきた合図である
すでに日は落ち、辺りには闇の帳が下りていた

「ったく、もうちょっと静かに着陸できないもんかね」

スープの鍋を掻き混ぜているマチルダが家の中でぼやいた、ジャガナートの巣穴から離れた場所に家を建てて正解だったのである


そんな事など何処吹く風か、ズシン、ズシンと重量を感じさせる音が辺りに響き渡り、スケイルメイルを来た軍隊が一斉に行進するような音が混じる
ジャガナートの体から順次離脱していくアルビオン貴族たちは、まるで菓子の山に群がる蟻のように小さく見えた

「ここが我のねぐらだ、向こうにある小屋にこの穴倉の管理人が住んでいる。挨拶を忘れるな」

それだけ告げたジャガナートは、地面に寝そべり、魔力切れになった貴族たちが地面に下りやすいように配慮する
ちょうどそのころ、才人の腕の中では、ルイズが目を覚ましていた

「ここは?」

才人に抱きかかえられたまま、目を開けたルイズが一番に見たものは、亡国アルビオン王国の王、ジェームズ一世のドアップであった


「きゃっ」
「おお、すまんすまん、あんまり可愛い寝顔であったのでつい」


まるで孫を見る祖父のような優しい笑顔でジェームズ一世は応えた

「すでにここはトリステインですよ、眠り姫」

隣にはお約束のようにウェールズが居て、気障な台詞を吐く
その顔はニヤニヤと笑っていたが、気品の高い佇まいのせいでいやらしく見えないのが不思議だ
その顔をしばらく見、そして自分が才人に抱きかかえられているのにようやく気づく

「ちょっ、ちょっと、いつまで抱いてるの、よっ!」

ルイズは才人を突き飛ばし、バランスを崩した才人がしりもちをつく
それをみた近衛隊長が豪快に笑う

「スクウェアメイジを軽くあしらう、我らのアルビオン王国救国の英雄殿にも、勝てぬ相手がいたというわけだ!」

その言葉を皮切りに、爆笑が響き渡る
王が、王子が、将軍が、心から楽しそうに笑っていた
ルイズは顔を真っ赤にして不満顔だったが、相手が相手だけに、抗議も出来ずにただうつむいていた

それを勘違いしたのか、ジェームズ一世がさらに囃し立てる

「ささ、英雄殿、彼女に熱い接吻を、どうした、はようせぬか、何ならワシが代わってしんぜよう」

さすがに見かねたのか、頭上から重低音が響く


「はしゃぐのはそれぐらいにしておけ、さっさと挨拶に行って来い、するべき事は山積みなのだぞ
 それと、主らはここではいわば居候の身、管理人に逆らうことは我に逆らう事と同意義と心得よ」

「しゃべった!!」

場違いな声が上がる、ルイズはその鳶色の目を目いっぱい見開き、可愛らしい口はポカンと空いていた

「ああ、そうか、ルイズは知らなかったっけ、ジャガナートは喋れるんだよ」


懸命に説明する才人を尻目に、面白くなさそうに口を尖らせていた亡国の王であったが、すぐに真顔に戻り、将軍たちと王子を連れ、管理人の丸太小屋目指して歩き出した



ちょうどその頃、スープを味わっていたマチルダは、扉をノックする音に気付く

「はいはい、空いてるよ」

しかし、扉は一向に開かない、しかたなく扉を開き、その先で頭を下げている男たちを見、そのまま固まってしまった

「お初にお目にかかる、私はジェームズ、これは息子のウェールズ、こちらの土地の主にご挨拶に参った、以後お見知りおきを」

マチルダの胸中でさまざまな感情が夏季の激流のように渦巻く
言葉は口を突いて出てこず、今取るべき行動も思いつかない

楽しかった思い出、怒り、悲しみ、恨み、疑問、疑問、疑問

問い詰めたい、問いただしたいのに言葉が出てこない
あれほど悩み、考えていたはずの言葉が出てこない
怒鳴り散らしたい、ぐうの音も出ぬほどに論破してやりたい、……でも、言葉が出てこない

不審に思ったジェームズ達が顔を上げ、声を掛ける

「…卿?」

それを迎え撃ったのは、魂から搾り出したかのような、言葉にならない叫びだった

「~~~~~~~~~~~ッ!」

髪の毛を振り乱し、獣のように突進したマチルダは、魔法も使わず、その拳をジェームズに向かって突き出す
だが、その拳は届かず、とっさに立ちはだかったウェールズの左頬を捉えた

そしてそのままウェールズは、木偶の様にただ殴られ続ける
その様子を見て目の色を変えた貴族たちが杖を抜きかけるも、ジェームズ一世が手をかざして制止する


「控えておれ」
「王陛下!しかしっ!」
「しかし……何じゃ?」


そう言いながら、ジェームズ一世がゆっくりと振り返る
その目を見た貴族は、あわてて膝を付き、控える

「いえ!何でもございません、仰せのとおりに」


それを見届けたジェームズ一世は、ゆっくりと歩を進め、ウェールズの肩に手を掛けて、横にのかせた

「ご苦労であった、もうよいぞ、…誰か、水魔法の使えるものをこれへ」

その言葉を聞き、2~3名の将軍が前に進み出、ウェールズに治癒を掛け始める
それを見たジェームズ一世が厳しい言葉をかけた


「誰がせがれの顔を治療せよと言った!この方を癒してさしあげよ!」
「は?ははっ!仰せのとおりに」


命令を受けた将軍たちはしぶしぶマチルダの拳に治癒を掛け始める
ジェームズ一世の目の前で荒い息を吐き、目に涙を一杯にためたマチルダがおとなしく治癒を受けていた
人の顔など殴ったことのない女の拳で、腰をいれず、感情の赴くままに拳を振り回したため
ウェールズの顔よりも拳のダメージのほうが大きかったのである

治療が終わり、ジェームズ一世が再度マチルダに声を掛ける
にっこりと微笑み、まるでお茶にでも誘うかのような気さくな口調で語りかけた

「さあさ、次はこの爺の顔じゃ、思う存分殴るがよい」

いつも纏っている色香が消えうせ、まるで少女のようにしゃくりあげているマチルダに向かってゆっくりと歩み寄り
手を後ろに組んで立ち止まる。それを見たマチルダはしばしの逡巡の後、右の拳を思いっきり振りかぶった

「うわああああああああああああ」

ごつ と鈍い音がし、ジェームズ一世が1歩後ずさるも、決して倒れない
その口の端から赤い筋が引かれる

「こりゃ効くのぅ!!」

軽口を言った後、すぐに将軍たちに目配せをし、拳に治癒を掛けさせる
下手な向きだったのだろう、拳の骨が折れ、殴ったマチルダの方が地面にうずくまっていた

「さあ、再開じゃ、ワシにはこのような事しかできぬが、思う存分やるがよい
 それとも、こちらのほうが良いか?」

あろう事かジェームズ一世は、懐から王家の紋章の入った短刀を取り出し、柄をマチルダに向けて差し出す
貴族、王族にとって、魔法以外で殺されることは、この上ない不名誉であることは周知の事実だ
だが、どれほど待っても、拳も、刃も、再び振るわれることは無かった
そして、拳の代わりに、か細い、しかし重い疑問の言葉がかけられた


「なんで…」
「なんで…か、難しい問いじゃ、あの時、弟を見逃してしまえば、今度はアルビオンそのものが二つに割れていたであろう
 もしくは、国自体が異端認定されていたやもしれん。いま、後ろにいる者たちが、みな冷たい屍になっていたかも知れんのじゃ
 ワシに付き従っておる忠勇の臣たちの信頼を、裏切ることなどできようはずがない」
「なら…あたしの家族なら死んでも良かったってのかい!!」


その言葉に、ジェームズ一世の顔に深いしわが刻まれる


「ワシがどんな思いで……と、語った所で何も伝わることはないじゃろう、全ての人間を救えなかったのはワシの無能さよ
 ゆえに、せめてもの償いじゃ、こんな抜け殻ですまぬが、お主の気が済むようにするがよい」


すると、少し落ち着いて来たのか、マチルダの口を突いて言葉が怒涛のように発せられた


「勝手なんだよ、あんたらはね!!あんたらは責任を取って死んで、はいおしまい!
 あたしらはずっと苦労し続けて、泣き続けて生きていく!そんなのってないじゃないか!」


座り込んでいたマチルダが目元をぬぐって立ち上がり、言葉を続ける


「だから、あんたら王侯貴族にも刻み込んでやるよ!!生き続ける事の辛さをね!!
 覚悟おしよ!もうあんたらの国は無い!もはや王でも貴族でもない!ここでは!あたしが!法律だ!!」
「すまんな、こんな抜け殻にまた機会を与えてくれるとは、心より感謝する
 なにせ、ここでの王はマチルダ、そなたなのじゃからな、ワシらは殺されても文句は言えぬ、…いや、もう死んでおるのか」
「どちらにせよ、今までのような生活ができるなどと思わないことだね!」


そう吐き捨て、マチルダは家に引っ込んでしまった
そして、それを見届けていたジャガナートが頭上から声を掛ける


「ふむ…、それぞれに思うところがあるであろうが、今はこれからの事を考えねばならぬ
 300人分の食料、寝床、そして働き口だ、残念ながら我らの資金は限られている
 イーグル号に搭載されている資金を使わねば、何も出来ぬ」


それを聞いていたジェームズがあごひげに手をやり、ぼやく

「…しかし、ワシらが行って、ほいほい荷物を受け取ると言う訳にもいかんの」

すると、まだ少し顔が腫れたままのウェールズが口を開いた


「だったら変装して強奪すればいい」


■■■


そのころアルビオンの地下では

「あぁ、僕のヴェルダンデ、ここは一体どこなんだい?」

さすがのギーシュも疲れきった様子で、自分の使い魔をなでる

「……」

「……」

キュルケはもはや悟りの境地か、言葉すらない
タバサはもともと無口である

ぐもぐもと鳴いていたヴェルダンデが、さらに土を押しのけると、光がその穴から差し込んだ
それを見たキュルケは急に元気になり、泥にまみれた顔を輝かせてヴェルダンデに続いた

「…なによ…これ」


…………………コォ………………ォ………………オン


………………………………………リィ…………ィ……………ィ………………ィン


静寂の支配する空間に、光がまるで鼓動のように明滅し、時折澄んだ音が辺りに木霊する
眼前には、巨大な蒼い鉱石が壁のようにそそり立ち、ぼんやりと青い光を放っている
相当な高さがあるため、上部はかすんで見えない

「なに…これ」

キュルケのそばに歩み寄ったタバサが答える

「おそらく風石、アルビオンを浮かべている」

何万年もの間に、風石が少しづつ消費されてきた跡なのだろう、岸壁と風石との間に10メイル程度の溝が出来ており
3人と1匹は、そこに立ち、阿呆のように口を開け、眼前の青い壁をただただ見上げるばかりであった


■■■


トリステイン魔竜の森

辺りはにわかに慌しくなり、アルビオン空軍の精鋭たちが、ウェールズの指揮の下慌しく動き回っていた
全員服の手持ちが無かったため、変装することは適わなかったが、勲章や装飾品をはずし、顔に泥や墨を塗りたくったため
とてもこれが空軍士官たちとは思えぬほどのみすぼらしい部隊が出来上がっていた

「いそげ!装備は最低限で良い、服の間に紙を入れろ、ないよりはマシだ!」

事のあらましはこうである、イーグル号は反乱軍の哨戒艇を避けるため、大きくアルビオンを迂回し低高度でトリステインへ向かっている
その船を海上で捕捉し、ジャガナートから乗り移る、残りの風石を全て消費しイーグル号を海面すれすれから上昇させる
限界まで速度を落としたジャガナートが船の下に入り、イーグル号に乗り移ったチームが投下する物資を
ジャガナートの背中に残ったチームがレビテーションで受け取る
その後、舵を固定したイーグル号をトリステインの山肌へ激突させ、爆発炎上、事故を演出するというわけだ

「いそげ!明日の未明までにイーグル号を捕捉する、時間は極めて限られている!」

足元で怒声を上げながら準備を手伝っているウェールズを見ながら、ジャガナートは考えていた
先手を打たれたガリアの狂王が、次に何をしでかすだろうかと、例え彼我戦力差が圧倒的に開いていようとも
あのジョゼフならば、あの狂王ならば、嬉々として立ち向かってくるであろうと

思考の淵から浮上し、ふと目をやると、荷物のそばでルイズと才人が所存なさげに佇んでいる
マチルダは関係ないとばかりに家にさっさと引っ込んでいた


「ルイズ、才人、もう夜も更けた、其の方らは学園に戻れ、明日の朝一番に馬車で王宮へ赴き、顛末を報告する仕事もある」
「でも、どう報告したらいいのよ」
「うむ、ありのままを報告する訳にはいかぬな、主らはシルフィードに乗せてもらって脱出したとでも言っておけ
 裏切り者に関しては我に考えがある、ありのままを報告しておけ、せいぜい追及されて詰まらない様に、今から筋書きを考えよ」

才人はうなずき、それを見たジャガナートも器用にうなずいた


「では、行ってくる」
「ああ、気ィ付けてな!」


その言葉を背に、ウェールズたちアルビオン空軍の少数最精鋭のみを乗せ、ゆっくりと立ち上がるジャガナート
翼を開き、離陸の準備を開始する、だが、人間が居る場所からは距離をおく
それはなぜか、言わずもがなだが、そのまま離陸すると大惨事になるからだ

重低音の足音と振動を響かせ、離陸のため移動しながら頭上のウェールズに話しかける


「イーグル号が陸地に入ってしまえばもはやチャンスは無い、そこで速度を最優先する
 おのおのが風の盾を展開せよ、我は全ての精霊力を速度に回す、振り落とされないようにしっかり掴まっていろ!」
「了解!でも心配無用さ、そんなヤワな男たちはアルビオン空軍にはいないよ」
「頼もしいな、期待している!」


……………リィ…………………ィィ………………ィン…………


詠唱を始めたジャガナートが、その巨大な六枚の翼から、身体から蒼い光の粒子を放ちながら離陸を開始する
出し惜しみ無しの最大戦速である、離陸の際にも風の精霊力をフル活用する

鋼線をよじり合わせたような筋肉が脈動し、後ろ足が力強く地面を蹴り、推進力を倍加する
戦艦の装甲板のような厚みを持った胸筋がうねり、巨大な翼を交互に打ち振るう
ついにその荒々しい力が重力に打ち勝ち、400t近い巨体が空に浮かぶ

地上は大惨事である、巨大な爪によって大地は抉られ、巻き起こる突風と竜巻によって様々な物が宙を舞う
一方、上に乗っている連中も大変だった、ひどい揺れに辟易し、フライで平行して飛んでいる者もいたほどであった


ジャガナートは人目を避けるため、そのまま高度6リーグ付近まで上昇し、海岸線へと到達
そのままの高度を維持し、宵闇の中を6つの目を赤く輝かせて飛行する

最大戦速で飛行することしばし、視界に熱源を発見する

「…捉えた!上方より接近する、船影を確認せよ」

その言葉に答え、全員が目を皿のようにしてジャガナートの進路、やや左下を見つめる
空軍兵士たちは目もよく、夜目が効く、自分たちの乗っていた艦船の船影を見誤ることなど無かった

そしてついに、黒い巨大な影が、船の上空を通り過ぎる


「…あのマストの数、形、船体の色、間違いない!イーグル号だ!」
「うむ!陸地までは約50リーグはある、手はず通り行くぞ!」


アルビオンの兵士たちが拳を空に突上げてその声に応える、そもそも大声を張り上げなければ意思の疎通すら出来ない
ジャガナートは、背にのったウェールズ達に極端なGがかからないように配慮しながら、左に大きくロールし、ターンを行う
同時に翼の角度を調整することによって左に横滑りを起こし、高度を下げる、また角度の付け過ぎによるダッチロールにも注意する

そしてそのままイーグル号の上空で螺旋を描くような機動を行う、スピードを殺さずに高度を下げるためである
落下予測地点を考え、イーグル号の前に出たジャガナートは、ウェールズ達に合図する

「我が尾の先端に切り裂かれぬよう注意せよ!今だ、行けっ!!」

ウェールズを筆頭にアルビオン空軍の精鋭たちが、次々にジャガナートの背から離脱する

だが、ここで予想外の事態が発生する

イーグル号を躁艦している兵士たちが、ジャガナートの巨体と次々に降下してくる兵士たちを発見してしまい
イーグル号はジグザグ航路の回避運動を開始する
それを見たウェールズはフライの魔法を発動し、素早く甲板に降り立った。

「落ち着けっ!私だ、ウェールズだ!回避運動をやめさせろ!」

躁舵手がウェールズの声をよく覚えていたため、程なくして回避運動は止まったものの
着艦に手間取り、フライで進路修正するため予想以上の魔力を消耗させられることとなった
そして、甲板に降り立ったウェールズが矢継ぎ早に命令を下す

「詳しい説明は後だ、総員退艦用意!フライ、またはレビテーションの使える物は私の右へ、
 使えぬものは左へ移動しろ、もたもたするな!」

ウェールズは指示を飛ばしながら彼方へと目をこらす
予定よりも着艦に手間取ったため、水平線にかすかにトリステインが見え始めていた、タイムリミットが近い!

そして、イーグル号は残り少ない風石を振り絞るようにして緩やかに上昇を開始する
精霊力による推進をカットし、上空で旋回していたジャガナートはさらに降下を続け、イーグル号の下に回る
そして、翼面積を限界まで広くし、崩れやすくなったバランスを保とうと呻吟する

上甲板の兵士たちが、ジャガナートの背に居る兵士たちに向けて物資を次々投下し
下の人間はレビテーションを使って物資を受け取る

全ては順調に進んでいるように見えた
だが、運命の女神は、こんな楽しそうなイベントを見逃してはくれなかった

物資がをあらかた投下し終わり、人間の移動も終わりかけたその頃
風石に蓄えられていた魔力が限界をむかえ始めた

船は少しづつ高度を下げ、ついにはジャガナートの背に並ぶ棘と船底が接触を始めたのだ
さびた鉄板をすり合わせるような不快な音が辺りに響き、ジャガナートが一瞬バランスを崩しかける

「グオオオオオッッ!!」

辺りに巨竜の咆哮が轟く、ジャガナートは翼のみの浮力に頼る事をあきらめ
身体から、翼から蒼い粒子を放ち始める

「いかん!ジャガナート殿!加速しては」
「分かっておる!案ずるな!」

ジャガナートは風の精霊による推進力を下に向けて放射し、垂直離着陸機のような芸当をやってのけていた

「……長くは……持たぬぞっ!!」

それを見ていたアルビオン兵たち、それも風メイジの精鋭たちが風石のコントロール室へ飛び込み
ありったけの魔力を風石に叩き込む

船はガクンと大きく揺れ、姿勢が水平に戻るが高度を回復するには至らない
それまでの間に高度は下がり続け、ついにはジャガナートの尾が水面に接触するほどになった

再度怒りの咆哮が響き渡る、ジャガナートが長大な尾を振りたくり、魚のテールウォークの要領で水面をかき回し、浮力を稼ぐ
水面は吹き付けられる精霊力と、ジャガナートの尾で混ぜくり返され、真っ白な泡に覆われ、霧すら発生していた
ついには勇敢な一部の貴婦人までがコントロール室に入り込み、風石に魔力をぶつけ続ける


全員の叫びが重なる


「上がれえええぇ!」


そして、トリステインの岸壁が、誰の目にも見え始める頃、イーグル号は浮力を取り戻し、全員の避難が終わる
残された船内には蓋の開いた火薬の樽が並べられ、全体が満遍なく燃えるように油も撒かれている、当然照明のランタンはつけっ放しだ
そして、舵の固定されたイーグル号が、誰の目にも明らかな衝突コースに入っていく
ジャガナートが身体を最低限ロールさせ、イーグル号から離れてゆく、竜の背の人々はかつての乗艦が消え行く様を見守っていた
あるものは呆然と、あるものは目頭をぬぐい、あるものは船に向かって敬礼し…

ジャガナートは6つの目線を辺りに走らせ、温度をすばやく走査しながら海へ向かって加速を開始する、敵影無し、全速離脱

………………リィ…………ィィ…………

ガラスの鈴を鳴らしたような音と、蒼い軌跡を空に残し、最大戦速で離脱する巨竜
その背には、大量の金銀財宝と、王党派の貴婦人と子供たちが乗せられていた
陸から離れ行く巨竜の燃える目には、山に咲いた小さな火の花が映っていた


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