<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

ゼロ魔SS投稿掲示板


[広告]


No.37866の一覧
[0] 二つのガンダールヴ、一人は隷属を願い、一人は自由を愛した【ゼロ魔】【才人+オリ生物】[裸足の王者](2016/05/05 15:17)
[1] プロローグ[裸足の王者](2013/06/18 00:06)
[2] 第1話 対話[裸足の王者](2013/08/19 07:22)
[3] 第2話 授業[裸足の王者](2013/08/23 09:53)
[4] 第3話:フーケの雇用条件[裸足の王者](2013/08/19 06:43)
[5] 第4話:トリスタニアの休日[裸足の王者](2013/08/25 22:57)
[6] 第5話:それぞれの思惑と[裸足の王者](2013/08/25 22:57)
[7] 幕間:フーケとジャガナートの作戦名”Gray Fox”[裸足の王者](2014/06/22 09:39)
[8] 第6話:潜入・アルビオン(前編)[裸足の王者](2013/08/25 23:01)
[9] 第7話:潜入・アルビオン(後編)[裸足の王者](2013/10/01 10:50)
[10] 第8話:それぞれの脱出[裸足の王者](2013/08/25 23:07)
[11] 9話:おとずれる日常、変わりゆくもの[裸足の王者](2013/08/25 23:08)
[12] 第10話:鋼鉄の翼、もうひとつのジャガーノート[裸足の王者](2013/10/01 10:37)
[13] 第11話:狂獣たちの唄[裸足の王者](2016/05/05 15:33)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[37866] 第7話:潜入・アルビオン(後編)
Name: 裸足の王者◆bf78caa6 ID:b9dddeb4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/01 10:50
二つのガンダールヴ 一人は隷属を望み 一人は自由を願った

第7話:潜入・アルビオン(後編)


才人たちが無事に脱出したのを確認したキュルケはタバサを促す

「ねえタバサ、台所に油の入った大なべがあるのが見えるかしら?」

パジャマにナイトキャップ姿のタバサはこくこく頷く

「あれをレビテーションで、傭兵さんたちの所へ届けていただけるかしら?」

手鏡を出して化粧を直しながらキュルケがタバサに依頼する
ギーシュはというと、目を瞑って集中し、鋼のゴーレムを生成する呪文を一心不乱に唱えている

タバサは小さく杖を振り、油の入った大きななべが、たぷんたぷんと揺れながら出入り口へと近づく
全身鎧を纏った兵たちは、自分達の目の前に来たなべを見て一瞬立ち止まる

「な…なんだ?」

途端になべの中身が傭兵達にぶちまけられ、立ち上がったキュルケの杖の先から小さな火の玉が放たれた
たちまちのうちにあたりは一面炎に包まれ、火に巻かれた傭兵たちが悲鳴を上げながら逃げ惑う

さらにそこに、火を煽るかのような絶妙な量の風が吹き、火の勢いは増すばかり
ついには火は轟々と音を立てて燃え盛る、キュルケとタバサの阿吽の呼吸が織りなす技だ。

ギーシュの呪文も完成し、優美な鋼のゴーレムが1体現れる
今回のゴーレムは、両手がトゲトゲのメイスになっており、プレートメイルを着た相手であろうとも、そのすさまじい衝撃は内部へ浸透する。

そして、ゴーレムの後ろに隠れるようにキュルケが立ち上がる
たちまち数本の矢がキュルケに向かって飛んでくるが、鋼のゴーレムに当たって跳ね返る

「名も無き傭兵の皆様がた、あなたがたがどうして、あたしたちを襲うのか、まったくこちとら存じませんけども、あなた方の不運を、心から嘆かせていただきますわ、恋に破れて傷心の私に出会った不運をね!」

キュルケの髪の毛が炎のように逆立ち、揺れる、まるでキュルケが熱気の塊にでもなったかのように



傭兵達の後ろには、白い仮面をつけた男が陣取っていた
すこし高くなっている場所から、傭兵達の大騒ぎを冷静に観察している
見れば、炎の壁が立ち上がり、身体に火の付いた男達が地面を転げ回っている
炎はまるで生き物のように伸びて、傭兵達をあぶり、焼き焦がしていく

そして、炎の壁を突き抜けて突進してきた半人半馬のゴーレムが、腕と一体化した鋼のメイスで、当たるを幸いに傭兵の頭を叩きまくった
後ろからゴーレムに近づこうとしていた傭兵は、鋼鉄の馬の足で蹴飛ばされて気絶している

さらに、小さな竜巻が発生し、逃げ惑う傭兵達を巻き込んでいた

辺りには、金属兜をベコベコにされて痙攣する傭兵と、所々コゲてピクリとも動かない傭兵
胸に馬の蹄鉄型のへこみをつけ、同じくピクリとも動かない傭兵が地面を占領し
逃げようとして互いにぶつかる傭兵達の怒声と悲鳴で溢れていた

「……金で雇った連中など、所詮こんなものか」

白い仮面の男は、自分の雇った傭兵達の阿鼻叫喚を尻目に、ラ・ロシェールの町に向かってすべるように移動していった

そして、女神の杵亭の1階には、キュルケの哄笑が響き渡る

「おっほっほ!おほ!おっほっほ!さあさあ、火傷したくなかったらさっさとお家へおかえりなさい!」

ギーシュがその後を続ける

「もっとも……帰れたらの話だがね!!」

ギーシュのゴーレムの下半身は鋼の馬、当然スピードも人間より遥かに速い
弓を放り投げて逃げようとした弓兵に肉薄し、猛悪なトゲトゲメイスで思う存分にぶん殴る。
傭兵達も応戦するものの、いかんせん相手は鋼で出来ている、まさしく刃が立たない

何とか酒場内の物陰に隠れて、魔法の猛威をやり過ごそうと震えていた傭兵達は、自分に近づいてくるパジャマ姿の女の子を見つける
傭兵達は、愛想笑いを浮かべながら、その女の子に手を振った、対する女の子は、小さく首をかしげて傭兵達を見る
だが、その手に握られている大きな杖を見て、傭兵達の顔がいっせいに引きつった
かわいらしい桜色の唇が動き、ルーンをつむぐ、傭兵達に次々と竜巻が襲い掛かった

傭兵達は空中をきりもみ回転させられながら上下に激しくシェイクされ、反吐を吐き散らしながら連続脳天杭打ちを強制される
中には、樽や大理石の柱を相手に、強制的に回し蹴りの修行をさせられている者もいた

そして、炎と旋風と鉄馬はひとしきり暴れまくり、辺りに動くものが無くなったとき、ようやく活動をやめた


キュルケとタバサ、ギーシュが協力して傭兵達をボコボコにしている頃、才人たちは桟橋へと急いでいた
ラ・ロシェールの桟橋は、大樹をくりぬいて作られ、枝の先には船がまるで果実のようにぶら下がっていた

ワルドはそのうちの一つの階段を駆け上がる

才人は、目に意識を集中し、時々後ろを振り返りながら警戒を怠らない
視界にオレンジ色の影は見当たらない

しかし、階段の踊り場に差し掛かってきた時に、後ろから追いすがる足音を聞いた
才人は狼狽し、影がルイズの後ろに降り立つのを許してしまった
当然の事だが、偏在に温度は無い、才人はそれを知らなかったのである


「ルイズ!」
「きゃあ!」


ルイズは反応する暇も無く、仮面の男に抱え上げられてしまう
才人は歯噛みした、未来を知っていたのに、対処できなかった自分の不甲斐なさに

そして、隠された毒手裏剣に手をやるものの、手札を何も見せたくない才人は、尻込みしてしまう
なにせ相手はワルドの偏在、手札を見せれば当然本体もそれを知ることになる

そうしている間に、ワルド本体が、偏在からルイズを奪い返し、再び才人と偏在が対峙し合う

才人は雄たけびを上げながらデルフで切りかかるも、偏在はフライを上手に使い、階段の手すり等の足場を自由に飛び回る
そして、一定の距離が開いたその瞬間、例の現象が起こる

「くそっ!」

才人の周りの空気が冷え始めたのである

「やべぇ、でかいのが来るぞ!相棒!構えろ!」

デルフの警告を聞いたサイトは、デルフを地面に突きたて、ジャハンナムを両手で構える


瞬間


空気が弾けた


偏在の周辺から稲妻が伸び、才人を焼き尽くさんと迫る
しかし、稲妻も電気であることに変わりは無い、魔力による誘導が切れた後は、最も手近な所から地面へ帰ろうとする


ライトニング・クラウドは轟音を立ててデルフに落雷した


「うべべべべべべべ!」


デルフの柄の辺りから白い煙が一筋立ち上り、つんとオゾン臭が鼻をつく
意識(?)を取り戻したデルフが才人に猛烈に抗議した

「なにすんだ!相棒!コゲたじゃねぇか!……だが、この感触……何か懐かしいような」

だが、実際にはデルフはコゲておらず、その魔力のほとんどは吸収されていた

デルフが感電している間に、才人は間合いを詰め、ジャハンナムで偏在の喉元に突きを入れる
しかし、手ごたえを感じなかった、まるで、熱したナイフでバターを切るような、そんな感触であった
そして致命傷を負った偏在は掻き消える

それを見たワルドは唸る

「むうっ…偏在か!」

懐に抱かれているルイズが聞き返す


「偏在?」
「ああ、高位の風の使い手は、偏在を操れる、いわば分身のようなものだ、どこかに本体が潜んでいて、いずれまた襲ってくるぞ」


本体ならそこにいるだろうがと突っ込みたい才人は、黙ってジャハンナムを鞘に収める
そして、熱くなったデルフの柄を上着で包み、どうにか鞘に収めた


そして、ルイズを下ろしたワルドが才人に声を掛ける


「使い魔君、大丈夫かい?」
「ええ、なんとか」
「しかし、咄嗟とはいえ大した機転の効きようだ、是非とも君のような優秀な人間をわが隊に迎えたいものだな!君が貴族なら、うーむ、実に惜しい…」


そう告げながら、ワルドは才人の背中をばしばしと叩く
才人は営業スマイルを浮かべて対応していた

"前回"は、才人は本当に悔しい思いをさせられた、ルイズの前で、徹底的に無様な姿をさらけ出すハメになったからだ
だが、それらが全てワルドの仕組んだ舞台だと言う事が分かったため、実力を隠しつつ、あえてその舞台上で役を演じていた

その後、ワルドと船乗り達の交渉が続き、船は無事に出港する

その船の甲板上で、才人は頭を抱えて座り込んでいた
なんせ、大任である、ジャガナートと合流するまでの間に、ウェールズ王子を説得し、ワルドを退けなければならない
心は千々ちぢに乱れ、プレッシャーが才人の心にのしかかる
頼れる親友は今はそばに居ない、ワルドにはもちろんの事、ルイズにも相談できない

その状況が、才人から余裕を奪っていた
そんな時、師匠の言葉を思い出す

(身体は火の如く、心は澄み切った水面みなもの如く)

才人は結跏趺坐けっかふざを組み、静かに目を閉じ、心を一度リセットした
次に、するべき事、それも取り組みやすい事を1番に思い浮かべ、その対策を思い浮かべる、そして徐々に困難な事に切り替えて行く

そんな才人の様子を心配してか、ルイズが声を掛ける

「ねえサイト、大丈夫?」

その声に応え、才人は徐々に思考の深淵から浮上する
ゆっくりと目を開いた才人は、少し前までの取り乱した様子が消え、泰然としていた

「大丈夫だ、問題ない」


■■■


航海は順調に進み、翌日の昼過ぎにスカボローの港へ着いた
これは、才人にしてみれば想定外の事である

下船した3人は、近くの宿屋の1階で昼飯を取りながら相談を開始する

1番年長のワルドが話を取りまとめる


「さて、ここからニューカッスルまでは馬で約1日の道のりだ、全速で飛ばして半日だね」
「ワルドのグリフォンを使えば?」


ルイズが無邪気な意見を出すが、すぐにワルドに否定される


「いや、目立ちすぎる、何より2名以上の騎乗は難しいだろう」
「と言う事は、やはり陸路になりますね」


才人がマグカップから果汁を飲みながら会話に加わる


「情報によれば、王党派はすでに追い詰められ、周りで出くわす連中は全て貴族派と考えていいだろう、となれば、街道は使えないな、夜の移動も危険だ、場合によっては火も炊けないだろう」
「でしたら、商人に変装しましょう、3人とも馬に乗り、グリフォンを引き、商売用の品だと言えば良いのでは?」
「そんな!平民の格好をするなんて!いやよそんなの」


ルイズは嫌がっているが、才人の意見にワルドは頷き、補足を加える


「ああ、良いアイデアだね、だが、略奪を働こうとする傭兵達などもいるだろう、僕のグリフォンは僕以外に懐かないので特に心配は無いが、どうしてもいざこざが起きてしまうだろう、そして、ルイズ、僕のルイズ、これは姫殿下から賜った任務だ、あまり我侭を言ってはいけないよ」

ワルドに諭されたルイズは渋々といった表情で引き下がる

そして、ワルドは全員平民名を名乗ることを提案する、ワルドは本名のジャン、才人はシモン、ルイズは男性名のルイ
咄嗟に名乗るときに貴族名を名乗るわけには行かないからだ

そして、ワルドは言葉を一旦切り、才人の目を真直ぐに見据えて尋ねた

「使い魔君、君は必要な時に相手の命を奪う覚悟はあるかね?」

才人は突然の事で狼狽する、剣の訓練はしてきたし、師匠から人を切ったときの事も聞き及んでいた
だが、自らの手で人を屠ほふったことは一度も無かった、平和な日本にいたのだから当然といえば当然である

再度ワルドが聞いてくる

「君は、君の主人の命を守るために、これから先出会う敵を確実に殺す覚悟はあるかね?君にその覚悟が無ければ、ルイズは危険に曝されてしまうかもしれない」

しばしの逡巡の後、才人は答えた

「あります……」

ワルドはその答えに微笑み、期待しているよ と付け加えた


それから3人は、グリフォンの胸の紋章、ワルドとルイズのマント、羽帽子、貴族の服を荷物としてグリフォンにくくり
ワルドは剣の鞘を購入し、それに剣杖を入れる、これで杖とは分からない

2人は平民の服を着込み、ルイズは髪の毛を服の背中に隠し、頭にバンダナを巻かされた

ぱっと見、子連れの商人が護衛を連れて歩いているように見えた


そして、3人はニューカッスルへ向けて出発した
途中でルイズに男言葉を使わせようと試みたが、ぎこちないので、しゃべらないようにとワルドは言い渡した

街道を避け、可能な限り全力疾走である。しかし、路面は悪く、思ったほど速度は上がらない

そして、さらに悪いことに、戦乱にかこつけて荒稼ぎを企む悪党共が、道で検問を行っている場所にさしかかる
貴族派について傭兵を行っていたものの、この方が手っ取り早く甘い汁を吸えると思ったのであろう

10人程度の傭兵崩れがたむろし、戦乱から逃げ惑う人々から金品を巻き上げていた


ワルドと才人、ルイズは互いに目配せをし、にわかに緊張感がただよう


槍を構えた3人ほどの男が、才人たちの進路を塞ぐように立ちふさがる、道の両側には木で出来た粗末な柵があり
物見櫓のような物も設置されていた、勝手にこしらえた関所といった所だろう

「止まれ!」

才人たちは、指示通りに停止する

「おめえらは何者だ?何を運んでる?」

ワルドが答える


「ああ、俺はジャン、商人でね、こいつはシモン、小さいのがルイ、3人で儲からない商売をやってんだ」
「そうかい、荷を改めさせてもらうぜ?それと、通りたきゃ通行税を払いな、といっても、俺達が欲しいと思うものを支払ってもらうがな」


男達はゲラゲラと下品な笑い声を上げながら荷物を突きまわす


「なんだこりゃ?貴族様の帽子じゃねえか」
「ああ、見ての通りだ、貴族の旦那にグリフォンと服を届けなくちゃならなくなってね、こちらは言われたものを届ける、御代をもらう、まいどありってな」
「ハハハ、ちげぇねえ、じゃあ売上げの幾らかを貰うぜ?先払いでな」


ワルドが男に何枚かの金貨を支払う、才人たち3人は、無事に抜けられそうだと安堵していた


だが、物見櫓の奥から、でっぷりと太った男が現れる、手には大きな酒ビンを持ち、目は酒で濁っている

「待ちな、俺はそこのボウズが欲しくなった、カワイイお口をしてやがる、下の穴はまだ使えねえだろうが、口は使えるからな、こいつを置いていけ、さも無きゃお前ら永遠に商売できなくなるぜ?」

周りの男たちがゲラゲラと下卑た笑い声をあげ、似たような卑猥な言葉を口走る。
ルイズがその言葉を聞き、柳眉がつりあがり、形の良い口がへの字に曲がる、何かを言おうとするのを才人が手を出して制した
そして、ワルドが、さも困ったという顔を作り、両手を空に向ける

「いやいや、ルイは俺達の帳簿係だ、シモンも俺も計算ができないからな、置いていったら商売あがったりだ、それは勘弁してもらえないか」

太った男がニヤニヤと下卑た笑いを浮かべて告げる

「だめだ」

ワルドが真顔になる


「どうしてもか?」
「どうしてもだ」
「わかったよ」


ワルドはそういいながら才人に目配せし、ひらりと馬から下りる

「なら、代わりにお前らの商売も今日限りだな」

そして、目にも留まらぬ速さで杖を抜き、エア・ニードルの呪文が完成する
ショタ趣味の太った傭兵は、声を上げる暇も無く額を貫かれて絶命する

隣では才人が2つの魔剣を抜き放ち、馬から飛び降りざまに漆黒の魔剣を横薙ぎになぎ払う
刃は澄んだ音を立て、2人の男の胴体を、その構えていた槍と、鎧もろとも真っ二つに両断した

才人は、相手の武器を切り裂いて、無効化しようと考えていたのだが、あては外れ、2名の人間の命を瞬時に刈り取った
そして、その事に戸惑っていた才人にワルドが檄を飛ばす


「シモン!ぼさっとするな!ルイを守りながら全部片付けるぞ!」
「分かった…」


才人のガンダールヴのルーンが力強く輝き、心を高揚感が包む、ルイズを守る、それだけで才人は強くなれた

異変を感じて飛び出してきた男達に向けて、ワルドがエア・ハンマーを放つ
手加減無用のフルパワーで放たれた魔法が、男達を壁のシミに変える

才人はデルフで傭兵の剣をなぎ払い、ジャハンナムの内側の刃で首を刈り取る
その様子はまるで、死神がその鎌で魂を刈り取っているかのようだった

ワルドが閃光のように突進し、呆然と立っている男の胸を貫く
そのワルドに切りかかろうとしていた男の背中に、才人が斬り付ける
だが、その傷は浅かった

「ぐぎゃああああああああ!」

才人が傭兵の悲鳴に驚いて見れば、ジャハンナムで斬られた傷口から、異臭を放つ煙が一筋立ち上っていた
傷口は酸で焼いたかのように焼け爛れ、一滴の血も漏れていなかったが、徐々に青紫に変色していき、それが広がっていった
そして、斬られた男は、気を狂わさんばかりの激痛に、泡を吹きながら地面をのたうち回る

"苦痛地獄" それがジャハンナムの銘の所以である

ジャハンナムは、斬った相手の出血を瞬時に止め、延命する
そして毒が切れるまで、数時間もの間相手に苦痛地獄を味わわせる、だが、その余りの切れ味の為、よほど浅く斬らなければ相手は瞬時に絶命してしまう

生き地獄か、安らかなる死か、漆黒の魔剣は2つの選択肢を相手に与える
才人は、その剣の効能を初めて知り、顔が青ざめ、2歩ほどよろよろと後ずさった

「シモン!敵を全滅させるまで気を抜くな!」

最後の一人をウィンド・ブレイクで仕留めたワルドが現れ、のた打ち回っていた男に止めを刺す

見れば、傭兵達は全員死体になり、あたりに動くものは何も居なかった
凄惨な光景だった、これが火メイジによる攻撃であれば、黒焦げになった死体のたんぱくの焼ける臭いが充満していたであろう。
だが、現在才人の目の前にあるのは、圧殺され、内臓や目が飛び出した死体、半分に切り裂かれた死体
それらからこぼれ出た血や内臓で、辺りには言い得ぬ不快な臭いが漂っていた。
才人は内心動揺しつつも、鋼の精神力を持ってそれを抑え込む。
その顔は、能面のように無表情に塗り固められていた。


ふと眼を上げればルイズは木陰に隠れて吐いていた

「娘っ子は、まあしょうがねえだろうな…」
デルフの呑気な声が風に乗って消えた


ワルドが、嘔吐を続けるルイズの隣に行って背をさすり、大丈夫かと声を掛けていた

「さあ、急げ!さらに面倒なことになる前にここを離れるぞ!」


■■■


3人は必死に馬を走らせ、余計なことで費やした時間を取り戻そうと走っていたが、すでに日は暮れ、その日の到着は絶望的であった
しばらく走る内に、視界に小さな村が見えてくる、3人は仕方なく、そこに留まる事にした


村にはヘレンという名の一人の老婆しかおらず、泊まるための部屋を貸してくれという才人達を快く歓迎してくれた

こんなものしかありませんがと、薄いスープが出された、その味は、胃の荒れた二人には優しかった
うつむいて言葉の無い二人に代わり、ワルドが口を開く

「ところで、若者達はどこへ?この村には貴女しかいないようだが?」

その言葉を聞いて、ヘレンの顔が曇る

「レコン・キスタじゃ」

その言葉を聞き、ワルド、才人、ルイズの顔が真剣なものになる

「レコン・キスタが全部持っていってしもうた、食い物も、男達も、女達も、後に残ったんは役に立たん私と、荒れ果てたぶどう園だけ」

そういって寂しそうな笑顔を浮かべる
その言葉に、ワルドは思うところがあったのか、真剣な表情で考え込んでいた

その夜、外で月を眺めていた才人にワルドが声を掛ける


「気分は良くなったか?使い魔君」
「おかげさまで、子爵閣下、それに俺は才人という名前がありますから」
「それは失礼した、サイト君、僕の事は気軽にジャンと呼べばよい、もちろん、公の場所ではワルド子爵と呼んで欲しいが」


ルイズも堅苦しくワルドとしか呼んでくれないしなと言いながら、地面に座り込んでいる才人の横に、ワルドも腰を下ろす
そんなワルドに才人が話しかける


「ご主人はどうしてますか?」
「ルイズなら、先ほどようやく寝ついたよ」
「そうですか」


二人の間にしばしの沈黙が訪れ、虫の声だけが静かに夜空に流れる
沈黙を破ったのは、ワルドの方だった


「先ほど、村の中を見回って来たよ、酷い物だった、ヘレンさんの話では、放置した田畑は再度使い物にするためには倍の努力が必要らしい」
「……」
「貴族とは、平民とは、何なんだろうとね、考えさせられたよ、では、貴族が無くなればそれも解決するのか、そうとは思えないしな」
「レコン・キスタは共和制を掲げていますよ?」
「だが、現実はこうだ」
「そうですね…」


才人はこの時、ウェールズ以下、アルビオンの貴族を説得するための、パズルの最後のピースを手に入れた、そんな気がした
人間誰しも、これだ!という閃きを得る瞬間というのはあるものである

ワルドの声に、才人は現実へと戻ってくる


「そうだ、君は今回始めて人を殺めたようだね、最悪の気分だろう」
「ええ…」
「だが、僕一人ではルイズを守りきれなかっただろう、君の行動はルイズの命を救った、婚約者として改めて礼を言うよ、ありがとう」
「どう致しまして」


それからワルドは夜空を見上げ、静かに語り始めた


「僕も初めて人を殺した時は、最悪の気分だったよ……今もそれを引き摺っている」


視線は下を向き、思わずその手は胸のペンダントを押さえる
そして、微笑みを浮かべ、こう告げた

「必要なら、殺すことをためらってはいけない、でなければ、君の周りの誰かが、代わりに死ぬことになる。だが人殺しに慣れてはいけない、殺しを楽しむようなものたちはすでに人じゃない」

その言葉にハッとする才人、"前回"コルベール先生が教えてくれた言葉と似通っていたからだ

「分かりました、肝に銘じておきます」

その様子を見てワルドは満足げに頷く

「さあ、もう寝たまえ、明日は早いぞ」



家に入っていく才人の背中を見送ったワルドは、誰に言うでもなく呟いた

「これから殺すかもしれない相手に…つくづく甘いな……俺も」

そして、目を瞑り、再度目を開いたワルドの顔には、固い決意と、氷のように冷たい表情が貼り付けられていた


■■■


翌日、ヘレン婆さんに多額のお礼をしてびっくりさせた才人たち一行は、レコン・キスタの監視を掻い潜ってニューカッスルにたどり着いた
兵士達に信じてもらえず苦労したもののルイズの指にはまった水のルビーが証明となり、無事に城に入ることができたのであった
最も、監視の目を掻い潜れたのはワルドの差し金であったわけだが…


応接室に通された才人達は、その質素な雰囲気に驚く
高価な調度品などは全て軍資金になってしまっていたのである

そういった事からも、この戦が勝ち目の無いものであることが読み取れ、才人は少し悲しくなった

やがて、3人の目の前に、金髪碧眼の美男子が現れる

「やあ、始めまして大使殿、僕がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

3人は礼を行い、頭を垂れる
そして、3人の中で最も位の高いワルドが口を開いた


「私は、トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長 ワルド子爵と申します。アンリエッタ姫殿下より密書を言付かって参りました」

続いて、ルイズ達をウェールズに紹介した


「そしてこちらが、姫殿下より直々に大使の大任をおおせつかった、ラ・ヴァリエール嬢と、その使い魔の少年にございます、殿下」
「なるほど!君のようにりっぱな貴族が、私の親衛隊にあと10人ばかりいたら、このように惨めな今日を迎えることもなかったろうに!して、その密書とやらは?」


その言葉に応え、ルイズが恭しくウェールズに近づく
そして、胸ポケットから手紙を取り出すと、それをウェールズに渡した

ウェールズは愛おしそうにその手紙を見つめ、花押に接吻すると、封を解き、手紙を読み始めた

やがて顔を上げ、寂しそうにこう言った

「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は」

ワルドは無言で頭を下げ、それを肯定する

そして、最後の一行を読んだ時、ウェールズに少しの変化が見られた
横っ面をいきなり張り飛ばされたような顔をし、その口は少し開いている

しかし、再び真顔に戻り、ワルド達に向かって微笑んだ

「了解した、姫は、あの手紙を返して欲しいと、この私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みでもある、そのようにしよう、ついてきたまえ」


ルイズ達は、ウェールズに付き従い、城内の一番高い塔にある彼の部屋へと向かう
道中才人は、周りに目を配り、観察する

しかし、どの通路も綺麗に整えられてはいるものの、ほとんど何も無く、殺風景であった
そして、それはウェールズの部屋も同じであった

とても王族とは思えぬ、粗末な木のベッド、椅子とテーブルが一組
家具はそれだけであった

椅子に腰掛けたウェールズが、宝箱を取り出し、中から手紙を取り出す
すでに擦り切れてぼろぼろになっている手紙に愛しそうに口付けをした後、その手紙に再度目を通しはじめた

そして、それを封筒に入れ、ルイズに手渡す

「これが姫から頂いた手紙だ、このとおり、確かに返却したぞ」

ルイズが頭を下げ、恭しくその手紙を受け取る


「ありがとうございます」
「さて、大使殿、明日の朝、非戦闘員を乗せたイーグル号がここを出港する、君達はそれに乗って、トリステインへ帰りなさい」


ルイズはそれを聞き、わずかに目を見開く

勝ち戦に、非戦闘員を脱出させる必要など無い、それはすなわち、負け戦の準備、それはルイズにも理解できた

「では……殿下、王軍に勝ち目は…」

ためらいがちに問うルイズに、ウェールズははっきりとこう答えた

「ないよ、わが軍は三百、敵軍は五万、万に一つの可能性もない、我々に出来ることは、はてさて、勇敢な死に様を連中に見せる事だけだ」

才人はその言葉を聞いて思う、"前回"と全く同じだと、そして、更なる決意を心に固めた

そうしているうちに、ルイズがウェールズに熱烈に亡命を薦め始める
そして、アンリエッタから亡命を薦められていないかとも問うが

ウェールズは答える、始祖に誓ってそのような文は書かれていないと
事実である、アンリエッタはマザリーニに国の現状を聞かされ、今レコン・キスタに攻められればトリステインも落ちる事も知った
そのため、"必ず生き延びて下さい、アルビオンの民全ては、貴方の帰還を待ちわびているはずです"と記した
まず間違いなく、亡命を薦めてくるであろうと予想していたウェールズは、アンリエッタの成長に驚き、同時に嬉しく思った

そして、ウェールズはルイズ達にパーティへの出席を勧め、ワルドを残して、二人は退出した


「まだ何か、御用がおありかな?子爵殿」
「恐れながら、殿下にお願いしたき儀がございます」
「なんなりとうかがおう」
「勇敢なるアルビオンの皇太子、ウェールズ殿下に、私とラ・ヴァリエール嬢の婚姻の媒酌をお願いしたく存じます」


ウェールズはにっこりと微笑み、こう述べた

「なんともめでたい話ではないか、喜んでそのお役目を引き受けよう」


才人は、部屋の外から、熱源が二つ、部屋の中でうごめく様子を観察していた
"前回"ワルドが、不自然にウェールズの部屋に残っていた、恐らくこのときに結婚式の件を頼んだのであろうと思っていた
そこで、ルイズを会場にエスコートし、自分はウェールズの部屋付近へ戻っていたのだ

そして、ワルドが退出するのを、気配を殺してやり過ごし、部屋のドアをノックした


「誰かね?」
「はっ、ラ・ヴァリエールが使い魔、サイト・ヒラガにございます。使い魔に過ぎぬ身で、殿下にお願い申し上げる無礼をお許しください」
「はは、そう畏まらずともよい、入りなさい」
「はい、失礼致します」


部屋に入った才人は、ウェールズに一礼する

「で、願いとは何か?」


才人は結婚式でウェールズの安全を最優先して欲しいことと、自分の願いとを告げた


「願いを聞き届けてくださり、ありがたき幸せに存じます」

作戦の第一段階が成功した才人は、ひとまず安堵のため息を漏らした


■■■


その夜、アルビオン王国最後の晩餐が盛大に行われていた
ホールの上座には、簡易の玉座が据えられ、現アルビオン王、ジェームズ一世が座し、王侯貴族達を見守っていた

全ての紳士、淑女達は例外なく着飾り、明日滅びる国のパーティーとは思えぬほどの華やかさであった
才人はその中にあって、大仕事を前に今までで一番緊張していた

そんな才人の様子を見て、ワルドが声を掛ける


「どうした、サイト君、疲れて気分でも悪くなったか?」
「いえ、ただ…明日で終わりだと言うのに、ずいぶん派手だなと思って」
「明日終わりだからこそ、ああも明るく振舞っているのだ」


そして、ウェールズが登場すると、黄色い歓声が辺りを包む
美形の王子様は、どこへ行っても人気者のようだ

ウェールズは玉座に近づくと、父王に何か耳打ちした
ジェームズ一世は、威厳のある態度で屹立しようとしたものの、よろけて倒れそうになってしまう
それを見た貴族達から、失笑が漏れる


「陛下!お倒れになるのはまだ早いですぞ!」
「そうですとも!せめて明日までは、お立ちになってもらわねば我々が困る!」


ジェームズ一世は、それに応えて人好きのする笑みを浮かべる

「あいやおのおのがた、長く座っていて、ちと足がしびれただけじゃ」

ウェールズがすぐさま父王をフォローし、その身体を支えて立たせる
その姿を見たホールの全ての貴族がいっせいに静まり、直立不動の姿勢で王の言葉を待つ

「諸君、忠勇なる臣下の諸君に告げる、いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我ら王軍に
 反乱軍であるレコン・キスタが総攻撃を行うと通達してきた、この無能な王に、諸君らは良く従い、よく戦ってくれた
 しかしながら、あすの戦いは戦いとは呼べぬだろう、恐らく、一方的な虐殺となるであろう
 朕は、諸君らが傷つき、斃れるのを見るに忍びない、したがって、朕は諸君らに暇を与える
 長年、よくぞこの王に付き従ってくれた。厚く礼を述べるぞ
 明日の朝、わが軍最後の船イーグル号が、女子供を乗せてここを離れる。
 諸君らも、この船に乗り、この忌まわしき大陸を離れるが良い」

ホールは静まり返り、誰も応えるものは居ない
その瞬間を狙い、才人が声を張り上げる

「アルビオン王ジェームズ1世陛下、ウェールズ皇太子殿下、ならびにアルビオンの真の貴族の方々、どうか私の言葉をお聞きください!」

いきなりの言葉に、一体何事かと、出席者達の視線が集まる
そして、才人に王の言葉がかけられる


「そのほうは?」
「私は、トリステイン王国大使、ラ・ヴァリエールの使い魔、サイト・ヒラガにございます」


そう言って才人は左手のグローブを外し、ルーンを見せる
貴族達にどよめきが走る、トリステインでは人を使い魔にするのかと、にわかにざわつき始める

「今宵…このアルビオンには、そのほうの無礼をとがめる者は居らぬ、何なりと申してみよ」

王の許可を得たサイトは礼を述べ、考え、考え続けた言葉をつむぐ
ルイズも、才人をとがめようと近くに歩み寄ってきたが、王の許可を得てしまったので、それを止めることは出来ない

「アルビオン王ジェームズ一世陛下、ウェールズ皇太子殿下、そして真のアルビオン貴族の皆様方、あなた方は、自分の仕事を果たさぬまま、始祖の御許へ旅立とうとなさるおつもりですか?」

この才人の言葉に、ますますざわめきが強くなる
だが、王が手を挙げ、皆を制し、才人の質問に応える


「我々は、明日、その仕事を果たすつもりなのだ、少年よ」
「恐れながら申し上げます、レコン・キスタと戦い、討ち死にをなさったのでは、何も果たされぬのと変わりはありません」


再度ざわめき始めた貴族を王が制し、再び問いかける

「では少年よ、そのほうの述べる我らの果たすべき仕事とは何か?」

才人は、その言葉に直接応えず、近くの器から果物を取り、すぐそばに居た老貴族に問いかける


「閣下、この果物は閣下が自ら育て、収穫なさった物ですか?」
「いや、違う」


老貴族から期待通りの答えを聞いたサイトは王に向き直る

「そうです、これらの食物は全て、陛下を愛するアルビオンの民、平民が心血を注いで育てた物です、この鳥も、そこのパイもです」

そして、いったん言葉を切り、注目を集めてから再度話し始める

「今、民草はレコン・キスタのせいであえぎ、苦しみ、悲しんでおります。私はここに来る途中、村に泊まりました
 そこには老婆一人しか居らず、他のものは全てレコン・キスタに徴収されたと言っておりました
 畑は荒れ果て、家は朽ち、やがて村は跡形も無く消え去るでしょう
 陛下、ならびにここに居られる真の貴族の方々、あなた方は、これらの心血を注いだ作物を献上した民に対し
 死と、奪略と、暴虐をもって報いるおつもりですか?」

会場は静まり返り、誰も声を上げようとしない

「先ほどの村で、ヘレン婆さんがスープを飲ませてくれました、何も具の無い塩味のスープです
 ぜひとも、皆様もあのスープを飲んでください、そしてその苦味をかみ締め、必ずこの地に返り咲くと誓ってください
 レコン・キスタを放置し、愛する民に暴虐と死をもって報いるようなことはなさらないで下さい!
 例え飲むものがスープではなく泥水となろうとも、生き延びて下さい!!」

目を瞑って才人の言葉を聞いていたジェームズ一世が、ゆっくりと目を開く


「実に耳の痛い話だ…少年よ、だが朕にはもはや力無く、退路も無く、忠勇の臣に暇を与える事もできぬのだ」
「まだ手はあります!ぜひとも、わが友!竜の王、ジャガナートの背に乗り、その巣穴へと避難なさって下さい!
 何人たりとも許可無く、その巣に立ち入ることは許されません、家具も無く、日の光も当たらぬあなぐらですが、潜むには最適です!」


そして、好機と見たルイズがその後をフォローする

「陛下!私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、この者の主です、始祖に誓って申し上げますが
 この者の述べる言葉は真実です!」


その言葉が終わらぬうちに、突如として突風が吹き荒れ、ホールの窓を揺らす、窓がいくつか壊れ、風が中に吹き込み、燭台の火を揺らす
ついで、地震の無いはずのアルビオンの王城、ニューカッスルに激震が走った

ジャガナートがタイミングを見て、城の裏庭に強行着陸したのだ

机が倒れ、グラスが割れ、料理はひっくり返り、貴婦人達は悲鳴を上げる
ホールの端にあったシャンデリアが落下し、けたたましい音を立てて砕け散った

そして、扉を蹴破るようにして、見張りの兵士が部屋に文字通り転がり込んでくる


「こここここっこここっこここここここここおっこおまおまおま!」
「落ち着かんか!馬鹿者!」


ウェールズがその兵士を叱咤するも、兵士はがくがくと震え、まるで言葉が口から出てこない
見かねたウェールズがワインの並々と入ったグラスを手渡すと、兵士はそれを一気に飲み干し、しゃっくりを一つする


「申し上げます!裏庭に!裏庭に!みみみ見たことも無いような大きさの韻竜が!」

それを聞いた才人は、心の中で喝采を上げる

(ドンピシャだぜ!ナイスタイミングだジャガナート!)

鬱々と沈んでいたルイズの顔色は、今や花でも咲かんばかりになっている、対して、ワルドの顔には焦りの色が浮かんでいた


辺りは騒然とし、もはや収拾がつかぬほどになった


ジェームズ一世が咳をしながら貴族達に呼びかける

「静まれ!皆のもの!静まらんか!パリー!パリーは居らぬか?」

すると、侍従長の老貴族が現れ、王の前に跪く


「御前におります!陛下」
「裏庭に行き、事の真偽を確かめてこい」
「かしこまりました!」


勢い良く出て行ったパリーは、しばらくして、腰を抜かし、部下に担がれて帰ってきた

パリーはぜいぜいと肩で息をし、言葉がなかなか出てこない


「どうした、報告せぬか」
「すべて、真にございます!恐ろしい!恐ろしい六つの目を爛々と光らせた竜が、穏やかな声で話しかけて来ました!
 六つの翼を持ち、その大きさたるや、イーグル号をも上回っております!」


またもや一同にどよめきが走る、そして、水を一杯飲み干したパリーが言葉を続ける

「明日、イーグル号の出港を見届けた後、ここを立つと、それまでの間、闘いたければ好きに闘うが良いと
 そのように申しております」


ジェームズ一世はその言葉に深く頷き、拳を握り締め、号令を下す

「おのおの方!聞いたとおりだ!始祖は我らを見捨てなかった!
 草を食らい、泥をすすろうとも!必ずや生き延びて、必ずや!逆徒共に鉄槌を下そうぞ!!」

その言葉に、貴族達全員が口々に気勢を上げる、中には号泣し言葉になっていないものもいた


「アルビオン万歳!!」
「ジェームズ一世陛下!万歳!!」
「始祖に栄光あれ!!」
「うおおおおおおおおーーーっ!!」
「急げ!イーグル号にありったけの風石を積み込め!財宝を、物資を全て積み込め!レコン・キスタの連中には紅茶一杯たりとも残すな!
 場所が無いなら大砲など外せ!どうせ避難船だ!」


空軍大将であるウェールズが大声で指示を飛ばし、貴族達があわただしく動き始める
と、その近くにワルドが近寄り、一礼する

「ワルド子爵、心配せずともよい、式は予定通り執り行う」

その言葉を聞き、再度ワルドは優雅に一礼する
その口元は、三日月のように歪んでいた


才人は、夜の間に、ジャガナートの所へ来ていた


「よう、親友!」
「全ては手筈通りか?」
「ああ、たぶん大丈夫だ」


しばらくの間、親友同士は話し込む、その目に決意の光を秘めて


■■■


イーグル号への積み込みは夜を徹して行われ、貴族達は疲れきっていたが、新たに沸いて出た希望に
その目は輝いていた

翌朝、朝早く起きた才人は、用意された儀仗兵の鎧兜を着込み、マントの下に双剣を帯びる
そして、盆に紫の布を敷き、その上に祈祷書を乗せたものを持ち、ウェールズに付き従っていた

そして、二人は礼拝堂に付き、ウェールズは始祖の像の前に立ち、才人はその横に控える
ウェールズは皇太子の礼装に身を包んでいた

しばらくの後、礼拝堂の扉が開き、ワルドとルイズが現れる
ルイズはしぶしぶといった様子でワルドに付き従っているものの、その顔は不満そうだ

その顔には"なぜこんな大変な時に"と書いてあるかのようであった

「では、式を始める」

その声に応え、才人が進みでて跪き、祈祷書の乗った盆を恭しく差し出す
ウェールズがそれを受け取ると、才人は元の場所に下がり、儀式用の杖を掲げて直立不動の姿勢を取った

「手の空いている者が一人しかいなくてね」

ウェールズが微笑みを浮かべる

そして、真剣な表情に戻ったウェールズは、祈祷書を開き、朗々たる声で詔を読み上げた

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とする ことを誓うか」

ワルドは重々しく頷き、杖を握った左手を胸の前に置き、口を開く

「誓います」

ウェールズはニコリと笑い、次にルイズのほうを向き、再度詔を読み上げる

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、汝は始祖ブリミルの名において このものを敬い、愛し、そして夫とすることを誓うか」

だが、ルイズはうつむき、唇をきゅっと結び、下を向いている


「新婦……?」
「どうしたね?ルイズ、気分でも悪いのかい?」
「違うの、ごめんなさい……ワルド、わたし、あなたとは結婚できない。わたし、あなたと釣り合うメイジじゃない」


その言葉に、ウェールズは首をかしげる


「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません」


ウェールズは残念そうに、ワルドに告げる

「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」

しかし、ワルドはウェールズに見向きもせず、ルイズの手を取り、語りかける


「…緊張してるんだ、そうだろルイズ、きみが僕との結婚を拒むわけがない」
「ごめんなさい、ワルド、わたし、あなたに憧れていた、恋してたかもしれない、けどこの旅でさらに実感したの
 私は貴方のような立派なメイジには釣り合わない、いつもサイトと貴方に護られっぱなしのゼロのルイズよ」


その言葉に、ますますワルドの剣幕は激しくなり、今度はルイズに掴みかかる勢いだ

「ルイズ!いつか僕が言ったことを忘れたか!きみは始祖ブリミルに劣らぬ、優秀なメイジに成長するだろう!きみは気付いていないだけだ!その才能に!」
「痛い!離して!ワルド」

そして、その時ワルドはようやく気付く、自分の喉元に突きつけられた漆黒の曲刀に
そして、その刀身からは、黒い霧のようなオーラが立ち上っていた

そこには先ほどの儀仗兵が立っていた
そして、その兵士は剣を構えながら、静かに話す

「そこまで聞きゃ、もう十分だよな?」

そして、左手でゆっくりと兜を掴み、外す
ガランガランと金属製の兜が地面を転がる音が響き、中の人間の顔があらわになる

「サイト!!」

礼拝堂のステンドグラスから朝日が差し込み、その人物の精悍な顔を照らし出す
白銀の鎧に身を包み、マントを身に付け、後光を背負い、右手に握るは漆黒の曲刀、その姿は、何かの物語に登場する英雄のような
そんな錯覚すら覚える

飛び退って逃げようとしたワルドの左肩を、ジャハンナムの切っ先が掠める

「ぐうあっ!!!」

ほんの少しのかすり傷であるが、左肩を押さえたワルドが膝を付く
押さえた手指の隙間から煙が一筋立ち上る、苦痛に顔をゆがめ、脂汗を浮かべたワルドが才人を下から睨みつける
そんなワルドに、才人が言葉をかける

「そこから先は、俺が代わりに話すよ、ジャンさん」

才人は指を三つ立て、ゆっくりと折りたたむ

「あんたには三つの目的…いや、任務があった」

人差し指を立て

「一つ、ルイズを手に入れること」

中指を立て

「二つ、ウェールズ殿下から回収したアンリエッタ姫殿下の手紙を手に入れること」

薬指を立て

「三つ、ウェールズ殿下を暗殺すること」

そしてその三本指を前に差し出し

「そうだろ?アルビオン貴族派のスパイ、レコン・キスタのワルド子爵閣下?」

それを聞いたウェールズが声を上げる

「なんだと!真か?」

そして、それに応えるかのように、乾いた笑い声が響く


「くく、くくく、はは、貴様!ガンダールヴ!そこまで知っていて、なぜ?
 そうか…そうだったのか!俺は!泳がされていたというのか!くく、くはははは
 たかだか17のガキと侮っていた俺が、くく、まるで道化ではないか!」
「そうとも、涙ぐましい努力だったぜ、全部無駄に終わるがな」


そして、才人はデルフリンガーを左手で抜き放つ
デルフリンガーは、早速抗議を始めた


「ひっでえ相棒!俺を最初に抜いてくれよお」
「デルフ、サビサビのお前じゃ格好つかねえだろ」
「ひっでぇ、でも許す、相棒だからな」

そして、才人は背後のウェールズ殿下とルイズに声を掛ける


「ウェールズ殿下、お願いがございます、ルイズを連れて、ジャガナートの元へお逃げください」
「分かった!武運を!」


だが、ルイズは従わなかった


「いやよ!私も闘うわ!」
「ルイズ……、頼むよ」
「いやよ!才人、あなたを戦わせて私だけ尻尾を巻いて逃げるなんて、そんなのこと、できるわけないじゃない!」


才人はため息をついたが、ルイズの言葉を聞くと、ルイズを背後に守っていると力が倍化することも知っていた
ウェールズは、立場をわきまえ、すぐに撤退したものの、ルイズは杖を抜き、ワルドを睨みつける

そんなルイズに、ワルドが再度声を掛ける


「おいで、ルイズ、僕と一緒に世界を手に入れよう」
「死んでもいやよ、わたし、世界なんていらない!」
「交渉決裂だ、子爵様」


その言葉に、ワルドの顔が悪鬼のように歪む、対する才人は無表情、だが、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった


「11年間だ……」
「何?」
「11年間、待ち続けた…、…今までの借りを、ここで兆倍にして返してやらぁ!!!」


才人が咆哮し、ワルドの鋭敏なセンサーが、周りの空気の変わったことを感じ取る
背中に冷や汗が伝い、肌がぴりぴりとしびれるような錯覚を覚える
才人は己の体内で、漆黒の狼が、鋼鉄の鎖を砂糖菓子のように噛みちぎるのを確かに感じた。

「この殺気…、なるほど、あの時の視線は貴様だったか!ガンダールヴ!
 童貞をようやく捨てたぐらいで調子に乗るなよ!!」

ワルドが顔に狂的な笑みを貼り付け、人差し指を立てる

「さて、調子に乗るのもここまでだ、ガンダールヴ、『閃光』の本気を見せてやろう」

そして、ワルドは精神を集中し、ルーンを紡ぐ

「ユビキタス・デル・ハガラーーーーーーーーーーーーッ!!」

その言葉にデルフが茶々を入れる

「ふがはははは、子爵さんよ、俺様が呪文を教えたらぁ、ユビキタス・デル・ウィンデ、と、ラグーズ ウォータル イス イーサ ハガラースだぜ、混ぜたら発動しやしねえよ!!」

咳き込むワルドに向けて才人がさらに言葉をかける

「ゲルマニア産の香辛料の味はどうよ?」

見れば、ジャハンナムを地面に突き刺した才人が、右手に持った小さな袋をもてあそんでいる、ルイズと一緒に屋台で買ったあれだ
ワルドがせっかく搾り出した魔力は、先ほどのスペルミスで露と消える

幼さの残る澄んだ声が教会の壁に反響し、響く

「イン・エクス・ベット・フレイム!ファイアボール!」

だが、火の玉は飛ばず、代わりに才人とワルドの間の空間が大爆発を起こし、ステンドグラスが木っ端みじんに吹っ飛ぶ
その余りのパワーに、二人とももんどりうってひっくり返る

二人が同時に起き上がり、爆風を突き抜ける形で伸びてきたデルフリンガーの一撃を、エア・ニードルを纏わせた杖で迎撃するワルド

「ふん、性懲りも無く、突進しか脳の無い猪武者が!」

だが、才人の剣は思わぬ方向から伸び、ワルドはそれを必死で迎撃する

デルフの一撃は余裕を持って受け止めるものの、ジャハンナムの一撃は、回避しようとする
人間は本能的に痛みを避ける、それはいかに訓練をした人間でも同じであった

だが、回避するには余計な動きが必要になる、ついに、切っ先を回避しきれずに、むこうずねにかすり傷を作る

「ぐあああっ!」

訓練された軍人が思わず叫び声を上げるとは、一体どれ程の苦痛なのだろう
だが、ワルドは苦痛をこらえ、ウィンド・ブレイクを詠唱する

才人はインパクトの瞬間、両手と剣を交差させて受け止めるも、パワーを殺しきれず、吹っ飛ばされる

さらに、起き上がり際に、エア・ハンマーが才人を打ち据える

瓦礫を押しのけて立ち上がった才人の額から、一筋の血が流れた
歯を食いしばり、揺れる視界を納めようと呻吟するも、すぐには立て直せない

「そうだ、思い出した!俺もこんな格好しとる場合じゃねぇ!」

そのとき、デルフリンガーが光り輝き、今まさに研ぎ上げられたかのような、鋭い光を放つ剣に姿を変える


「遅ぇよ、相棒!」
「すまねぇ、完全に忘れてた!」
「おかえり、デルフ」
「ああ、ただいま相棒」


二人(?)が会話している隙にワルドはあろう事かルイズに向かってエア・ハンマーをぶっ放す
だが、空を切り裂いて現れた才人がデルフリンガーをかざすと、ワルドのエア・ハンマーは吸い込まれ、消えうせた

「バカな!?」

ワルドがルイズを狙ったのを見て、才人の胸の中に青い焔が灯る


「てめぇ……やっぱりてめえの心は理解できねぇ、ルイズはお前の婚約者だろうが!」
「ふん、言う事を聞かぬ小鳥は、首をひねるしかないだろう?」
「そうかよ……目的のためには手段を選ばないってか?」
「その通り、サイト君、君とは気が合うね?もうすぐお別れなのが残念だが」
「ああ……俺もそのつもりだ」


才人が右手に握ったジャハンナムを、背の刃で撫で斬る方向に持ち替える
ガンダールヴのルーンは今までに無く煌々と光り輝き、ジャハンナムはそれに呼応するようにどす黒いオーラを纏う

瞬間、二人の姿が礼拝堂から掻き消えた

しかし、時々金属の打ち合う音が響き、柱や床、椅子が木っ端微塵に吹き飛ぶ

『閃光』と『伝説』の手加減抜きの一騎打ちであった


才人の目が赤く輝き、薄闇と月光の中に赤い軌跡を描き、その体は野生の狼のように疾駆する
才人の視界はモノクロームになり、昼間のように全てが見通され、閃光は鈍重な牛のようにスローモーションに見えていた。
そして、いかに激しく動こうとも、その身体には活力が漲り溢れ、息が切れる事すらない。


そのため、当初、互角に思えたその戦いも、徐々にワルドが押され始める
ワルドの口を突いて呪詛の言葉が流れる

「これでもまだ疲れを見せないだと……化け物め!!」

ワルドの唇は紫色に変わり、チアノーゼの様相を呈している、酸素不足である
だが、才人が再度構えを取り、その姿が掻き消えると、同じようにワルドも掻き消える

それを何度か繰り返した後、ついにワルドの杖が、主より先に限界を超えた
キィンと澄んだ音を立て、高級な剣杖の切っ先が転がり、青く輝いていた魔力が霧散する


そして、神速で突き出されたジャハンナムの切っ先が、ワルドの右肩を貫く
ワルドの肩から一際盛大に煙が上がり、悲痛な叫びが響き渡った

「ぐぎゃああああああっ!!」

今までに味わったことの無いような激痛が走り、ついに『閃光』はその動きを止める
才人はデルフをワルドの眼前に突きつけ、悠々と告げる

「勝負ありだな」

ワルドは、失いそうな意識を無理やりつなぎ止め、下から才人を睨みつける

「……殺せ!」

だが、才人はそれに応えず、双剣を鞘に収める


「…何のつもりだ?俺を生かしておけば、何度でも貴様らの命を狙うぞ?」
「ジャガナートからてめぇに伝言がある」
「なに!」
「『レコン・キスタに踊らされている、哀れで愚かなピエロよ、聖地の真実を知りたくば、我が元へ来い、だが、このまま我に楯突くならば、虫ケラの如く踏み潰してやろう』だそうだ」


それを聞いたワルドは、ギリと奥歯をかみ締める、だが、それも長くは続かず、意識を失った身体はそのまま前のめりに倒れた


■■■


余談


その日、レコン・キスタの軍勢は、三千名という少なくない大損害を被った
対する王軍の被害はゼロ、反乱軍が城内に突入した時には、すでにニューカッスルはもぬけの殻になっていた

文字通り金貨一枚、絵画一枚残されていなかったのである

事の経緯はこうである、連絡員として残っていたワルドの偏在が掻き消え、異変を感じた反乱軍が突撃を開始する
密集隊形で押し迫る反乱軍に、王軍からの猛烈な砲撃と魔法による攻撃が行われた
精神力や弾薬の残量などまるで考慮に入れていないかのような、猛烈な攻撃であった
しかし、数で勝る反乱軍は、そのまま進軍し、城門を破城槌で攻撃する
すると、それを合図にでもしていたかのように、王軍からの攻撃が途絶えた

堅牢なニューカッスルの城門も、ついにはその道を反乱軍に明け渡す、しかし、城内には人っ子一人居らず
金貨一枚たりとも残されては居なかった

裏庭に回ると、そこは散々に踏み砕かれ、ジェームズ一世の銅像がパンケーキのようになっていた
反乱軍の首脳陣は、しきりに首をかしげ、また与えられた被害の余りの大きさに頭を抱える事となった

そして、スパイとして送り込んでおいたワルド子爵は、礼拝堂で倒れていたところを発見された
任務は全て失敗に終わり、王党派の行方はまるきり分かっていなかった

そして、現在、ワルド子爵はというと





トイレに篭っていた





貴族用のトイレが遠かったため、野営地の仮設トイレを使ったのだが、これが運のつきであった
朝からずっとトイレを占領しているワルドを珍しく思ったのか、傭兵の幾人かが集まり、ワルドのトイレがいつ終わるかで賭けを始めていた

今も、トイレからは異臭が漂い、完全無欠の下痢サウンドがサラウンドで流されていた
それを聞いた傭兵達は声を殺して笑い、ひそひそ話しを行う


「…おい、例の旦那、まだ篭ってんのかよ」
「…ああ、さっき出てきたがな、3秒と立たない間にもどっちまったぜ」


その会話が終わるか終わらないかの内に、扉が開き、憔悴しきったワルドが顔を見せる
しかし、よろよろと歩き出した3秒後には、うほ~と奇声を上げて尻を押さえ、トイレに戻る

そして、ぶびっ、びちょるるるる、といった様な、聞くだけで臭ってきそうなサウンドが響き渡る

流石に耐えられなくなったのか、一人の傭兵が口を押さえて陣の外れまで走り、腹を抱えて笑い転げる
他の連中は、顔を真っ赤に染め、青筋を立て、その場で口を押さえひくひくと痙攣する

なぜこんな事になったのか、原因はジャハンナムの毒にあった

哀れな犠牲者の自由神経終末、およびルフィニ小体とクラウゼ小体を散々に狂わせ、熱感、冷感を逆転させ、散々な激痛を味わわせた毒素は
体内を駆け巡り、自律神経をも狂わせる
犠牲者の腸は蠕動をはじめ、糞便を出来るだけ早く排泄しようとする
そして、それは、毒素が完全に代謝されるまで続くのである

その日一日、ワルドはトイレで生活する事を強いられた


レコン・キスタ陣地では、ワルドを捜し歩くクロムウェルの姿がたびたび目撃されたという


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.038083076477051