アイナとシルフィードに告白された拓也。
しかし、更に難題が拓也達の身に降りかかる。
第九話 使い魔品評会と王女の依頼
フーケの騒ぎから一週間後。
拓也は精神的に疲れ果てていた。
何故ならば、
「タクヤ、新しい料理に挑戦してみたの。食べて」
「タクヤさま、そんなことよりお出かけしましょ。きゅい」
など、アイナとイルククゥに迫られる毎日だからだ。
拓也自身としては、可愛い子2人に言い寄られるのは悪い気はしないのだが、2人が揃ったときにかもし出す険悪なムードには耐えられなかった。
そんなある朝。
「ごめんタクヤ」
いきなりアイナが謝ってきた。
「どうした?」
拓也が聞き返すと、
「今日、使い魔品評会があるんだった」
そう言うアイナ。
「使い魔品評会?」
「うん。毎年恒例の行事で、生徒たちが召喚した使い魔を学院中にお披露目するの」
そう言われ、自分がアイナの使い魔だったことを思い出した拓也は、
「つまり、俺がお披露目されるってか?」
「そう。あと、使い魔が何かを披露するって言うおまけ付き」
「・・・・休めないのか?」
何も考えていない拓也は、そう言う。
「2年生は、全員参加なの」
望みはあっさりと打ち砕かれた。
「そんなこと言われてもな」
拓也は頭を掻きながら考える。
「品評会は午後からだから、それまでに何でもいいから考えてくれないかな」
「まあ、善処はするけど」
2人は朝食のために廊下に出る。
すると、丁度、才人とルイズが部屋から出てきた。
「おはようルイズ」
「おはようアイナ・・・・」
ルイズはなんだか元気がない。
「如何したの?」
アイナは尋ねる。
「使い魔品評会の事、すっかり忘れててさ」
ルイズはそう答える。
「ルイズも?」
「私もってことは、もしかしてアイナも?」
「うん・・・・」
お互いに気落ちする。
「ともかく、お昼までに何か考えないと」
「うん」
ルイズとアイナがそう話をしている間、拓也と才人は、
「おはようございます才人さん」
「拓也、おはようさん」
互いに挨拶を交わす。
「才人さんも使い魔品評会で悩んでるみたいですね」
「拓也・・・・お前もか・・・・・」
「ええ。ですけど、才人さんの顔を見たら、一つ思いつきました」
「奇遇だな。俺もお前の顔を見たら一つ思いついたぞ」
互いにニヤリと笑い、
「考えてることは一緒みたいだな」
「そうですね。でも、これは何も思いつかなかった時の話という事で」
「だな。つっても、その可能性になる確率が高いんだけどよ」
そう言って、互いに笑いあった。
「そういや、デルフの旦那は元気っスか?」
地下水が話し出した。
才人がデルフリンガーを鞘から抜く。
「おう。オメーその話し方も板についてきたじゃねーか」
デルフリンガーが地下水に話しかけた。
「酷いっスよね。初めて会うなり『オメー俺と話し方似てるからかえろ』だなんて」
「年長者の言うことは聞くもんだぜ」
「だからって言ってることが無茶苦茶っス」
この2人(?)は何だかんだで結構上手くやってる模様である。
授業の時間。
拓也は、地下水を貰ってから、魔法の授業をしっかり聞くようにしている。
今回の授業の教師は、ギトーと呼ばれる男だった。
そのギトーだが、長い黒髪に、漆黒のマントを纏ったその姿は不気味で、冷たい雰囲気も相まって生徒たちからは人気が無い。
「では、授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」
教室中が、シーンとした雰囲気に包まれた。
その様子を満足げに見つめ、ギトーは言葉を続けた。
「最強の系統は知っているかね?ミス・ツェルプストー」
「『虚無』じゃないんですか?」
「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いてるんだ」
いちいち引っ掛かる言い方をするギトーに、キュルケはちょっとかちんときた。
「『火』に決まっていますわ。ミスタ・ギトー」
キュルケは不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「ほほう。どうしてそう思うね?」
「全てを燃やしつくせるのは、炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうではない」
ギトーは腰に差した杖を引き抜くと、言い放った。
「試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
キュルケはぎょっとした。
「どうしたね?きみは確か、『火』の系統が得意ではなかったのかな?」
挑発するような、ギトーの言葉だった。
「火傷じゃすみませんわよ?」
キュルケは目を細めて言った。
「かまわん。本気で来たまえ。その、有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないのならね」
キュルケの顔から、いつもの小ばかにしたような笑みが消えた。
胸の谷間から杖を抜くと、炎のような赤毛がぶわっと熱したようにざわめき、逆立った。
杖を振ると、目の前に差し出した右手の上に、小さな火の玉が現れる。
キュルケが更に呪文を詠唱すると、その玉は次第に膨れ上がり、直径1メイルほどの大きさにもなった。
生徒たちが慌てて机の下に隠れる。
キュルケは手首を回転させたあと、右手を胸元に引き付け、炎の玉を押し出した。
唸りを上げて自分目掛けて飛んでくる炎の玉を避ける仕草も見せずに、ギトーは腰に差した杖を引き抜き、そのまま剣を振るようにしてなぎ払う。
烈風が舞い上がり、一瞬にして炎の玉は掻き消え、その向こうにいたキュルケを吹っ飛ばした。
悠然として、ギトーは言い放った。
「諸君、『風』が最強たる所以を教えよう。簡単だ。『風』は全てを薙ぎ払う。『火』も、『水』も、『土』も、『風』の前では立つことすら出来ない。残念ながら試したことは無いが、『虚無』さえ吹き飛ばすだろう。それが『風』だ」
キュルケは立ち上がると、不満そうに両手を広げた。
気にした風もなく、ギトーは続ける。
「目に見えぬ『風』は、見えずとも諸君らを守る盾となり、必要とあらば敵を吹き飛ばす矛となるだろう。そしてもう一つ、『風』が最強たる所以は・・・・「アホらし」なんだと?」
言葉を続けようとしていたギトーが、聞こえた声に反応した。
ギトーが声が聞えた方に視線を向けると、椅子の背もたれにもたれかかり、完全に話を聞く気が失せた拓也の姿があった。
「貴様、今なんと言った?」
ギトーは平静を装い言った。
「アホらしいと言いました」
拓也ははっきりと言った。
実はこのギトー、フーケの騒ぎの時に、拓也に責任を擦り付けようとしていた教師の1人であり、その事を思い出した拓也は、いい気分ではなかった。
「どういうつもりだ!?」
ギトーの声が少し荒くなる。
「自分の系統自慢を聞かされてるだけじゃ、全く勉強にならないって事です」
その言葉には嫌味っ気がたっぷりと含まれていた。
「なんだと!?」
「そりゃそうでしょう。属性に強弱があるわけないじゃないですか。相性はありますけどね。属性は色みたいなもんでしょ」
「もう一度言うが、『風』は全てを吹き飛ばすのだ」
拓也は一度溜息をつく。
「蝋燭の火に息を吹きかければ消えますが、焚き火に息を吹きかければ燃え上がるでしょう?」
「フン!そんなもの更に強い『風』なら・・・・」
「じゃあ、その風で山火事が消せますか?」
「む・・・」
「結局はそういう事です。正面からぶつかれば、力が強いほうが勝つ。さっきのやり取りを見てると、明らかに貴方の魔法の方が力が強かった」
「むう・・・」
ギトーの口数が少なくなる。
「もう一つ言っておきますと、大の大人が女子生徒相手に威張るなんて、かっこ悪いにもほどがありますよ」
その言葉に怒ってか、恥じてか、ギトーの顔が真っ赤に染まる。
その時、教室の扉がガラッと開き、緊張した面持ちのコルベールが現れた。
そのコルベールは、頭に大きな、ロールした金髪のカツラを乗せている。
見ると、ローブの胸にはレースの飾りやら、刺繍やらが躍っている。
「ミスタ?」
ギトーが眉をひそめた。
「あやややや、ミスタ・ギトー!失礼しますぞ!」
「授業中です」
コルベールを睨んで、ギトーが短く言った。
「おっほん。今日の授業は全て中止であります!」
コルベールは重々しい調子で告げた。
教室中から歓声があがる。
その歓声を抑えるように両手を振りながら、コルベールは言葉を続けた。
「えー、皆さんにお知らせですぞ」
もったいぶった調子で、コルベールはのけぞった。
その拍子に頭に乗せたカツラがとれて、床に落っこちた。
教室がくすくす笑いに包まれる。
「滑りやすい」
一番前に座ったタバサが、コルベールの禿げた頭を指差してぽつんと呟いた。
教室が爆笑に包まれた。
キュルケが笑いながらタバサの肩をぽんぽんと叩いて言った。
「あなた、たまに口を開くと、言うわね」
コルベールは顔を真っ赤にすると、大きな声で怒鳴った。
「黙りなさい!ええい!黙りなさいこわっぱどもが!大口を開けて下品に笑うとは全く貴族にあるまじき行い!貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ!これでは王室に教育の成果が疑われる!」
とりあえずその剣幕に、教室中が大人しくなった。
「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」
コルベールは横を向くと、後ろ手に手を組んだ。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます。そして、本日行なわれる、使い魔品評会をご覧になられることになりました」
教室がざわめいた。
「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行ないます。そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること」
生徒たちは、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。
コルベールはうんうんと重々しげに頷くと、目を見張って怒鳴った。
「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ!御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい!よろしいですかな!」
魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れると、整列した生徒たちは一斉に杖を掲げた。
正門をくぐった先に、本塔の玄関があった。
そこに立ち、王女の一行を迎えるのは、学院長のオスマンであった。
馬車が止まると、召使たちが駆け寄り、馬車の扉まで緋毛氈のじゅうたんを敷き詰めた。
呼び出しの衛士が、緊張した声で、王女の登場を告げる。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな―――――り―――――――ッ!!」
最初に現れたのは枢機卿のマザリーニ。
そして、マザリーニは馬車の横に立つと、続いて降りてくるアンリエッタ王女の手を取った。
生徒の間から歓声があがる。
「あれがトリステインの王女?ふん、あたしの方が美人じゃない。そう思わない?」
キュルケがつまらなそうに呟き、タバサに問いかける。
「さあ」
タバサは本を読んだまま、そう答えた。
アイナはただ、ぼうっとアンリエッタを見ていた。
「どうした?」
気になった拓也が尋ねる。
「え?ううん、なんでもない。ただ、なんとなく懐かしい気がしただけ」
「懐かしい?あのお姫さんと会ったことあるのか?」
「会ったことはないはずだけど・・・・・」
「気のせいじゃないのか?」
「うん・・・・そうかもしれない」
アイナは考えるのをやめ、成り行きを見守った。
「只今より、本年度の使い魔お披露目をとりおこないます」
司会役のコルベールが宣言する。
観客の生徒が沸き立つ。
キュルケのサラマンダーが火を吹く。
モンモランシーのカエルがバイオリンの演奏に合わせて芸を披露する。
マリコルヌのフクロウが旗を加えて空を飛ぶ。
その度に歓声が上がる。
なかでも、一際どよめきが大きかったのは、やはりタバサのシルフィードだった。
因みに、拓也と才人の出番は一番最後。
予め、コルベールに頼んでおいた。
何故ならば・・・・・・
「では、最後になりますのは、ミス・ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールとミス・アイナ・ファイル・ド・シンフォニア。このお2人は同時に披露するとのことです」
その瞬間、
――ガキィン
金属がぶつかり合う音が上空から響いた。
コルベールが驚いて上を見上げると、デルフリンガーで斬りかかる才人と、それを手甲で受け止めるアグニモンの姿があった。
2人はお互いを弾き合うと、ステージの上に着地する。
軽いどよめきが観衆から聞えた。
才人は、素早い動きでアグニモンに接近。
縦、横、縦の三連撃を繰り出す。
だが、アグニモンはその全てを防ぐ。
アグニモンは中段回し蹴りを放つ。
才人は飛び退くことでそれを回避、ステージ中央へ着地する。
続けてアグニモンは跳び上がり、空中から拳を振り下ろす。
才人は更に飛び退く。
アグニモンの拳はそのままステージの床に当たり、
――ドゴォ
ステージの床を粉々に砕いた。
観客から驚きの声が上がる。
才人は、その隙に斬りかかったが、アグニモンも一旦下がる。
才人はそれを追撃し、アグニモンの着地を狙って斬りかかるが、一瞬早く、アグニモンが跳んで避ける。
その時の才人の一閃が、ステージの後ろの幕を支える支柱を切り裂いた。
切り裂かれた支柱がゆっくりと前に倒れてくるが、アグニモンが跳び蹴りで弾き飛ばす。
その時に蹴りが当たったところは、粉々に砕けていた。
そして、弾き飛ばされた支柱がステージ後方の地面に落下したとき、才人はアグニモンの首筋に剣を当てており、アグニモンは拳を才人の顔の前に寸止めしていた。
少しした後、お互いが構えを解き、2人揃って一礼する。
そして、控えのテントに戻っていった。
「い、以上・・・ゼロのルイズと灯のアイナでした・・・・・」
コルベールは呆然としながらも、何とか司会を務める。
観客たちは、見るも無残なステージに言葉を失っていた。
そのステージを、30秒足らずの手合わせで破壊した2人の使い魔に声が出なかった。
そのあと、
「やり過ぎよアンタ等ぁぁぁぁぁ!!」
――ドゴォン
と、控えのテントで爆発が起きたのは余談である。(才人は大ダメージで虫の息。アグニモンは小ダメージで問題なし)
結果を言えば、1位になったのはタバサのシルフィード。
戦闘力はともかく、総合的に見て、シルフィードが一番よかったらしい。
その夜。
拓也は風呂上りで廊下を歩いていた。(既に、才人と五右衛門風呂を作ってます)
その時、ルイズの部屋にフードを被った人物が入るのを偶然にも目撃したが、ルイズの知り合いだろう、と、さして気にはしなかった。
拓也はアイナの部屋のドアを開ける。
が、ルイズの部屋のドアにギーシュがはりついたのが見えて、ドアを完全に閉めずに隙間から覗く。
「どうしたの?」
アイナが、部屋の中から歩いてきて、拓也の下から同じように覗く。
ギーシュはルイズの部屋のドアの鍵穴から、中を窺っているようだ。
「何してんだ?ギーシュの奴」
「ルイズの部屋を覗いてるみたいだけど・・・・」
「とりあえず、女子寮でうろついてること自体怪しいな」
暫く様子を見ていたが、ギーシュはルイズの部屋を覗き続けている。
拓也は、地下水を取り出す。
拓也は呪文を唱え、小さな火の玉を作り出した。
それを、ギーシュの頭目掛けて飛ばした。
ギーシュの髪の毛に火がつく。
ギーシュは暫く気付いていなかったが、
「あっちゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
悲鳴を上げて、ルイズの部屋に転がり込んだ。
拓也とアイナは、後を追って、ルイズの部屋を覗いた。
そこには、呆然とするルイズ。
同じく、呆然とした才人。
頭が焦げたギーシュ。
そして、
「ひ、姫殿下!?」
アイナが驚いた口調で言った。
そこには、トリステインの王女であるアンリエッタがいた。
アンリエッタも驚いた顔で2人を見ている。
「何でお姫様がルイズの部屋にいるんだ?」
拓也が疑問を口にする。
「あ、ああ。お姫様はルイズの幼馴染らしいんだ」
気を取り直した才人が言った。
「ふ~ん」
「ところで、コイツは如何したんだ?」
才人がギーシュを指差して言った。
「こんな時間に女子寮で、しかも女子の部屋を覗くという変態行為を行なっていたので、現行犯で火あぶりの刑に」
「なるほど」
才人は納得する。
「そんな説明で納得しないでくれ!」
ギーシュが飛び起きて叫ぶ。
「やかましい!」
才人が拳を振るい、再びギーシュが沈黙する。
更に才人はギーシュを踏みつけると、
「で、どうします?今の話を聞くと、こいつ、お姫様の話を立ち聞きしやがりましたけど。とりあえず、縛り首にしますか?」
才人はアンリエッタにそう尋ねるが、アンリエッタはアイナをじっと見つめていた。
「ひ、姫殿下?どうかしましたか?」
視線に耐え切れなくなったアイナはそう問う。
「失礼ですが、貴女のお名前をお聞かせ願いますか?」
アンリエッタにそう言われ、
「ア、 アイナです。アイナ・ファイル・ド・シンフォニアと申します」
アイナがそう言うと、アンリエッタは少し考え込む仕草をして、
「ルイズ。もしかして、このアイナは・・・・・・」
アンリエッタがルイズに確認するように問いかける。
「あ、はい。姫様が思っている通りのアイナです」
ルイズはそう答えた。
それを聞くと、アンリエッタは顔を輝かせ、
「まあ!やっぱりアイナだったのね!懐かしいわ。すっかり大きくなって!」
アンリエッタはアイナに抱きつく。
「えっ?えっ?えっ?」
訳の分からないアイナは混乱する。
「あ、あのっ、姫殿下?姫殿下は、私をご存知なのですか?」
アイナは何とかそう問う。
そう言うと、アンリエッタはニッコリと笑い、
「ええ、知っているわ。とは言っても、貴女は小さかったから覚えていないでしょうけど」
そう言った。
そこへ、
「あの~、お取り込み中すいません。コイツどうしましょう?」
才人が口を挟んだ。
才人はギーシュを踏みつけたままである。
アンリエッタは、はっとして、
「そうね・・・・・先程の話を聞かれたのは、まずいわね・・・・・・・」
ギーシュは才人の隙をついて立ち上がった。
「姫殿下!その困難な任務是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付けますよう」
「え?貴方が?」
「お前は寝てろ」
才人は足を引っ掛けた。
ギーシュは派手に転ぶ。
「僕も仲間に入れてくれ!」
倒れたまま、ギーシュは喚いた。
「どうしてだよ?」
才人はギーシュに問いかけると、ギーシュの顔が赤く染まる。
「姫殿下のお役に立ちたいのです・・・・・・」
才人はそんなギーシュの様子を見て感づいた。
「お前、もしかして惚れやがったな?お姫様に!」
「失礼なことを言うもんじゃない。僕は、ただただ、姫殿下のお役に立ちたいだけだ」
しかし、そう言いながらも、ギーシュは激しく顔を赤らめている。
「お前、彼女がいただろうが。なんだっけ?あの、モンモンだか・・・・・・・」
「モンモランシーだ」
「どうしたんだよ?」
ギーシュは無言になった。
才人はなるほど、と思った。
「お前、フラれたな?さては、完璧にフラれやがったな?」
「う、うるさい!君の所為だぞ!」
食堂での香水の一件で二股がばれ、ギーシュはモンモランシーにワインを頭からかけられたのであった。
「グラモン?あの、グラモン元帥の?」
アンリエッタがきょとんとした顔でギーシュを見つめた。
「息子でございます。姫殿下」
ギーシュは立ち上がると恭しく一礼した。
「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」
「任務の一員に加えてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」
熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んだ。
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、貴方もその血を受け継いでいるようね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」
「姫殿下が僕の名前を呼んでくださった!姫殿下が!トリステインの可憐な花、薔薇の微笑みの君がこの僕に微笑んでくださった!」
ギーシュは感動の余り、後ろにのけぞって失神した。
「大丈夫かこいつ?」
才人がギーシュをつつく。
「任務って、何のことですか?」
拓也が才人に尋ねた。
「ああ、それはな・・・・・・」
才人が大雑把に説明する。
「・・・・ってわけだ」
「はあ。要するに、ゲルマニアとの政略結婚を妨害できるような内容の手紙が、アルビオンの王子様が持っている。で、そのアルビオンは王党派と貴族派に分かれて戦争中。しかも王子様がいる王党派は敗北寸前。貴族派にその手紙が渡るとゲルマニアとの同盟が白紙になって、小国のトリステインは一国でアルビオンと対峙しなければならなくなる。それを防ぐために、王子様に会いに戦争中のアルビオンに行って手紙を回収して来いと?」
「そういうこった」
拓也の言葉に才人が頷く。
「遠回しに、死ねっていってるようなもんじゃないですか!?」
「まあ・・・・な」
拓也の文句に才人が同意を示す。
「ちょっと、人聞きの悪い言い方は止めなさいよ。これは、トリステインの未来を左右する重要な、しかも、姫様直々の名誉ある任務なのよ!」
ルイズがそう言う。
だが、
「そんな重要な任務を学院の生徒にやらせること自体が間違ってると思うけど」
拓也はそう反発する。
「仕方ないじゃない!これは、姫様が本当に信頼されている者にしか頼めない任務なの!そして、姫様は信頼されている者として私を選んでくださった。これはとても光栄なことだわ!」
「ルイズは光栄かもしれないけど、ルイズのことだから、才人さんも連れてくんだろ?」
「当然じゃない。サイトは私の使い魔なのよ」
ルイズはそんなの当たり前といった表情で答える。
「何でも、使い魔使い魔って。前にも言ったけど、勝手に召喚して、そっちの都合でこき使われて、挙げ句の果てに死地へ赴けだ?ふざけてるとしか言いようがないぞ」
「な、何よ?王族直々の依頼なら、命を懸けて任務を遂行するのが当然よ!」
「・・・・お前たちは簡単に命を懸けるとか言ってるけどな。命の重みをちゃんと理解してるのか!?」
「ッ!?」
拓也の剣幕にたじろぐルイズ。
「命にもう一度は無いんだ!失った命はもう戻らない!王族でも!貴族でも!平民でも!命は一つしかない!それを分かってるのか!?」
「そ・・・・それは・・・・・・」
ルイズは何も言えない。
アンリエッタも何も言えなかった。
「世界には沢山の人がいる。けど、どんなに人がいたって、全く同じ人間は一人もいない。俺も、才人さんも、アイナも、ルイズも、他のどんな人達も。世界には一人しかいないんだ!どんな人にも代わりはいない!」
拓也は言い切った。
アンリエッタは泣き崩れる。
「分かっていたのです!分かっていながら、国を救うために友を犠牲にする選択を私は選んでしまったのです!」
顔を手で覆いながら、アンリエッタは言った。
「大を救うために小を犠牲にする。その選択が正しいものでは無いと分かっていました。ですが、その選択しか、私には残されていなかったのです!」
「姫様・・・・」
アンリエッタの本心にルイズは悲しい顔をする。
「もう一つ言わせてくれ」
「え?」
「選択肢が無いなら作り出せ!道が無いなら切り拓け!」
「な、何を?」
拓也の言葉に、アンリエッタは困惑する。
「お姫様は自分で考えたのか?今まで教えられてきた選択肢の中から選ぼうとしただけじゃないのか?」
「それは・・・・・・・・」
アンリエッタは答えられない。
「選べる選択肢がなかったら、自分で新しく作り出せばいい。自分が納得する選択肢をな」
「そんなこと・・・・・犠牲を出さずに手紙を回収できれば、どれだけ良いか・・・・」
アンリエッタの望みは決まっていた。
だが、これは単なる理想に過ぎない。
そんなことは不可能に近い。
「最初から諦めてたら絶対に出来ない。だったら、俺がその選択肢を選ばせてやる!」
「え?」
「誰一人犠牲を出さずに、手紙を回収する。それがお姫様の望む選択肢なんだろ?」
「そ、それはそうですが・・・・」
「なら、俺が皆を守る!才人さんも、ルイズも、ギーシュも俺が守る!無理矢理でも守ってやる!」
拓也の言葉に全員が呆気に取られる。
「それは・・・・貴方も任務に参加するということですか?貴方のような子供が?」
アンリエッタが尋ねる。
「あ、そういえば言ってませんでしたね。俺はアイナの使い魔です」
「アイナの使い魔?アイナの使い魔は、赤い鎧を着た亜人ではなかったのですか?」
「あれは俺です。俺はあの姿に進化・・・・変身できるんです」
「それは本当ですか?」
アンリエッタはアイナを見て問う。
「はい」
アイナは頷いて答える。
「タクヤの強さは、並のスクウェアメイジを凌ぐと断言できます」
アイナは続けてそう言う。
「・・・・・・ならば、わたくしのお友達を・・・・ルイズ達を守っていただけますか?」
アンリエッタは拓也を見て言った。
「仲間を守り、そして俺自身も生き残る。それが俺の誓いです」
それが拓也の答えだった。
その時、
「タクヤ、私も行くよ」
アイナがそう行った。
「え?アイナ?」
驚いた表情で聞き返す拓也。
「恋人を置いていくの?」
爆弾発言をかますアイナ。
「「「ええっ!?」」」
才人、ルイズ、アンリエッタが驚く。
「ちょっと待て!いつ俺が恋人になった!?」
拓也は慌てて否定するが、
「違うの?」
潤んだ瞳で上目遣いに拓也を見るアイナ。
「うぐっ・・・・」
言葉に詰まる拓也。
先程までのシリアスな雰囲気は既に消え去った。
(ここで、認めたら、イルククゥに殺されるだろうが!)
その後もアイナの追及を受けるが、何とか逃げ切る。
ルイズはアンリエッタからウェールズ皇太子宛の手紙と『水のルビー』を受け取り、明日の朝出発となった。
翌日。
朝もやの中、拓也、アイナ、才人、ルイズ、ギーシュは、校門前にいた。
そこで、ギーシュが口を開く。
「あの、君たち」
全員がギーシュの方を向く。
「アルビオンへ行くって事は、ラ・ロシェールへ向かうんだろ?じゃあ、何で馬を用意しないんだい?まさか、歩いていく心算じゃないだろうね?」
ルイズは一瞬怪訝な顔をしたが、ギーシュは何も知らないことを思い出し、
「そういえば、アンタは知らなかったわね」
そう言う。
「タクヤ、お願い」
「分かった」
アイナに頼まれ、拓也はデジヴァイスを構える。
「スピリット!エボリューション!!」
ビーストスピリットを使い進化する。
「うあああああああああっ!!」
拓也は叫び声を上げ、デジコードの中でスピリットを纏っていく。
「ヴリトラモン!!」
ヴリトラモンに進化した拓也にギーシュは口をあんぐり開けて固まる。
「じゃあ、背中に乗ってくれ」
ヴリトラモンはそんなギーシュを気にせず、姿勢を低くして、皆に乗るように言う。
「お~い、何時まで固まってるんだギーシュ。置いてくぞ」
才人がギーシュに声をかける。
「あ、ああ。全く驚かされるね。・・・・と、そうだ、お願いがあるんだが・・・・・」
「あんだよ」
才人が聞き返す。
「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」
「使い魔なんていたのか?」
「失敬な。いるに決まっているだろう。第一、昨日の品評会にも出てたじゃないか」
「出てたの?」
才人とルイズは顔を見合わせた。
それから、ギーシュの方を向いた。
「連れてきゃいいじゃねえか。っていうか何処にいるんだよ」
「ここ」
ギーシュは地面を指差した。
「いないじゃないの」
ルイズがすました顔で言った。
ギーシュはにやっと笑うと、足で地面を叩いた。
すると、大きなモグラが顔を出した。
ギーシュはそのモグラに抱きつく。
「ヴェルダンテ!ああ!僕の可愛いヴェルダンテ!」
才人は心底呆れた声で言った。
「なにそれ?」
「なにそれ、などと言ってもらっては困る。大いに困る。僕の可愛い使い魔のヴェルダンテだ」
「アンタの使い魔ってジャイアントモールだったの?」
「そうだ。ああ、ヴェルダンテ、君は何時見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」
モグモグモグ、と嬉しそうに巨大モグラが鼻をひくつかせる。
「そうか!そりゃよかった!」
ギーシュは巨大モグラに頬を擦り寄せている。
「お前、実は言うほどモテないだろ?」
才人は呆れた声で言った。
「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」
「そうだ。ヴェルダンテはなにせ、モグラだからな」
「そんなの連れて行けないわよ。私達、竜で行くのよ」
ルイズは困ったように言った。
「結構、地面を掘って進むの速いんだぜ?なあ、ヴェルダンテ」
巨大モグラはうんうんと頷く。
「私達、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れて行くなんて、ダメよ」
ルイズがそう言うと、ギーシュは地面に膝をついた。
「お別れなんて、つらい、つらすぎるよ・・・・・・・・ヴェルダンテ・・・・・」
その時、巨大モグラが鼻をひくつかせた。
くんかくんかと、ルイズに擦り寄る。
「な、なによこのモグラ」
「主人に似て女好きなんかな」
才人が言う。
「ちょ、ちょっと!」
巨大モグラはいきなりルイズを押し倒すと、鼻で体をまさぐりだした。
「や!ちょっと何処触ってるのよ!」
ルイズは体をモグラの鼻でつつきまわされ、地面をのたうち回る。
「いやぁ、巨大モグラと戯れる美少女ってのは、ある意味官能的だな」
「その通りだな」
才人とギーシュは、腕を組んで頷きあった。
「そんなことより、早く助けてあげたほうが・・・・」
アイナが苦笑しながら言った。
巨大モグラは、ルイズの右手の薬指に光るルビーを見つけると、そこに鼻を擦り寄せた。
「この!無礼なモグラね!姫様に頂いた指輪に鼻をくっつけないで!」
ギーシュが頷きながら呟いた。
「なるほど、指輪か。ヴェルダンテは宝石が大好きだからね」
「嫌なモグラだな」
「嫌とか言わないでくれたまえ。ヴェルダンテは貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ。『土』系統のメイジの僕にとって、この上も無い、素敵な協力者さ」
そんな時、一陣の風が舞い上がり、ルイズに抱きつくモグラを吹き飛ばした。
「誰だッ!!」
ギーシュが激昂してわめいた。
朝もやの中から羽帽子を被った、1人の長身の貴族が現れた。
「貴様、僕のヴェルダンテに何をするんだ!」
ギーシュは薔薇の造花を掲げた。
だが、一瞬早く、羽帽子の貴族が杖を引き抜き、薔薇の造花を吹き飛ばす。
「僕は敵じゃない。姫殿下より、君たちに同行することを命じられてね。君たちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ」
長身の貴族は帽子を取ると一礼した。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
文句を言おうと口を開きかけたギーシュは相手が悪いと知ってうなだれた。
魔法衛士隊は、全貴族の憧れである。
ギーシュも例外ではない。
ワルドはそんなギーシュの様子を見て首を振った。
「すまない。婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬ振りは出来なくてね」
「「「え?」」」
才人、ギーシュ、ヴリトラモンの驚きの声が重なる。
「ワルド様・・・・」
立ち上がったルイズが、震える声で言った。
「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」
その言葉に、才人は口をあんぐりと開けた。
ワルドは人懐っこい笑みを浮かべると、ルイズに駆け寄り、抱え上げた。
「お久しぶりでございます」
ルイズは頬を染めて、ワルドに抱きかかえられている。
「相変わらず軽いな君は!まるで羽のようだね!」
「・・・・お恥ずかしいですわ」
「彼らを、紹介してくれたまえ。ああ、アイナは知っているからいいよ」
一応、アイナとワルドは面識があるらしい。
ワルドはルイズを地面に下ろすと、再び帽子を目深に被って言った。
「あ、あの・・・・ギーシュ・ド・グラモンと使い魔のサイトです」
ルイズは交互に指差して言った。
拓也は現在ヴリトラモンに進化しているため、如何紹介をして良いか分からず省かれたようだ。
才人はつまらなそうに頭を下げた。
「君がルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな」
ワルドは気さくな感じで才人に近寄った。
「僕の婚約者がお世話になっているよ」
「そりゃどうも」
才人はワルドを観察するように見ていたが、勝てるところが一個も見当たらずため息をついた。
才人のそんな様子を見て、ワルドはにっこりと笑うと、ぽんぽんと肩を叩いた。
「どうした?もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい?なあに!何も怖いことなんてあるもんか。君はあの『土くれ』のフーケを捕まえたのだろう?その勇気があれば、なんだってできるさ!」
そう言って、ワルドは豪傑笑いをする。
だが、ヴリトラモンはそんなワルドを怪訝な目で見ていた。
(何だ?今の言葉。何かがおかしい?)
ヴリトラモンは今の言葉に違和感を覚えたが、それが何か分からなかった。
(気のせいか?)
結局分からなかったので、気にしないことにした。
ワルドが口笛を吹くと、朝もやの中からグリフォンが現れた。
鷲の頭と上半身に、獅子の下半身がついた幻獣である。
立派な羽も生えている。
ワルドはひらりとグリフォンに跨ると、ルイズに手招きした。
「おいで、ルイズ」
ルイズは、ちょっと躊躇うようにして、俯いた。
ルイズは暫くモジモジしていたが、ワルドに抱きかかえられ、グリフォンに跨った。
才人、アイナ、ギーシュはヴリトラモンの背に乗る。
ワルドは手綱を握り、杖を掲げて叫んだ。
「では、諸君!出撃だ!」
グリフォンが羽ばたき、空へ舞い上がる。
ヴリトラモンもその後を追った。
港町ラ・ロシェールはトリステインから離れること早馬で2日、アルビオンへの玄関口である。
そのラ・ロシェールの一角にある居酒屋で、フーケが傭兵を雇っていた。
その傭兵たちは、王党派に雇われていたのだが、敗北することを悟り、一目散に逃げてきたのだ。
フーケの傍にはフーケを脱獄させた白仮面の貴族がいた。
その男は傭兵たちに言う。
「金は言い値を払う。でも、俺は甘っちょろい王様じゃない逃げたら殺す」
それを聞いた後、フーケは一旦居酒屋から出る。
「やれやれ、あの赤毛のお嬢ちゃんも来るなんて聞いてないよ。だとすれば、当然あの使い魔もいるって事だから・・・・・・はあ。あの程度の傭兵を雇ったって、時間稼ぎになるかどうかすら怪しいよ」
フーケは、呟きながら裏路地を歩いていく。
「強い傭兵をお探しかい?」
突如、そんな声がフーケに聞えてきた。
フーケが顔を上げると、目の前には大きな影があった。
一行は順調に進んでいた。
ヴリトラモンはスピードタイプではないにしろ、グリフォン如きに遅れはとらない。
と、言うより遅すぎる位だ。
日が沈んだ頃、ラ・ロシェールの町が見えてきた。
「そろそろ町の入り口だ。高度を下げよう」
ワルドがそう言い、グリフォンを降下させる。
ヴリトラモンもその後を追い降下する。
「なんで港町なのに山なんだよ」
ヴリトラモンの背に乗っていた才人が言うと、ギーシュが呆れたように言った。
「君はアルビオンを知らないのか?」
「知るか」
「まさか!」
ギーシュは笑ったが、才人は笑わない。
「ここの常識を、俺の常識と思ってもらっちゃ困る」
(確かにな)
才人の言葉に、ヴリトラモンが心の中で同意する。
グリフォンとヴリトラモンは峡谷の間を進んでいた。
「ん?」
ヴリトラモンが崖の上に気配を感じた。
そして、その直後、松明が何本も投げ込まれ峡谷を照らす。
「掴まってろ!」
ヴリトラモンが叫んだ瞬間、何本もの矢が夜風を切り裂いて飛んでくる。
「うおおおおっ!!」
ヴリトラモンが翼を大きく羽ばたかせる。
その時に巻き起こる風圧で矢を全て弾き飛ばした。
「大丈夫か!?」
ワルドの声が聞えてくる。
グリフォンの方はワルドが風の魔法で守ったようだ。
「大丈夫だ!」
ヴリトラモンが叫ぶ。
全員は崖の上を見たが、今度は矢は飛んでこない。
すると、一人の男が高らかに叫んだ。
「は―――っはははは!!個人的な恨みは無いが、お前たちの身包み!剥がさせて貰うぜぇ!!」
「・・・・・着ぐるみ?」
襲撃者の言葉に、アイナが首をかしげる。
男はズッコケそうになるが、気を取り直し、
「違うわい!!身包みだ身包み!!分かりやすく言えば、持ってるものを全部置いてけって言ってるんだよ!」
怒鳴りながらも律儀に意味を教える襲撃者。
ヴリトラモンは少し黙り込む。
「ん?どうした拓也?」
それに気付いた才人が声をかける。
「いや、少し既視感が・・・・・」
そんな事を言うヴリトラモン。
「全く、これだから貴族のお嬢様はぁぁぁああああ!?」
男が言葉を続けようとした時、男達が竜巻に吹き飛ばされた。
「おや、『風』の呪文じゃないか」
ワルドが呟いた。
崖の上の男たちが転がり落ちてきて、地面に体を打ちつけ、うめき声を上げた。
すると、空から見慣れた幻獣が姿をみせた。
ルイズが驚いた声を上げる。
「シルフィード!」
それは、タバサの使い魔シルフィードだった。
地面に降りると、キュルケがぴょんと飛び降りた。
「お待たせ」
ルイズがグリフォンから飛び降りて、キュルケに怒鳴った。
「お待たせじゃないわよッ!何しに来たのよ!」
2人が言い合うなか、シルフィードは、
「きゅいきゅい(ヴリトラモンさま~)」
ヴリトラモンに頭を擦り付けていた。
シルフィードは竜形態で甘えられることはめったに無いので、ここぞとばかりにヴリトラモンに甘えていた。
「シ、シルフィード・・・・・」
ヴリトラモンは少し焦る。
そんな時、
「あっはっは!なんだい君。もしかして、シルフィードに好かれているのかい?これは傑作だ!お似合いじゃないか!」
ギーシュが空気を読まずに大笑いする。
その時、
「ギーシュ・・・・・・」
大笑いするギーシュに、アイナが絶対零度の言葉で呟く。
アイナから立ち上る黒いオーラに、ギーシュの笑いが止まり、変わって冷や汗がだらだらと流れていた。
「な、なんだいアイナ?」
「冗談でも次にそんなこと言ったら、問答無用で灰にするから」
その言葉は冗談でもなんでもなく、本当と書いてマジと読むぐらいに本気だった。
その言葉にギーシュは声を失う。
アイナはシルフィードに視線を向ける。
アイナの目が語る。
(何でいるのよ、このアーパー韻竜!)
シルフィードの目が語る。
(抜け駆けは許さないのね!)
アイナとシルフィードの視線が交差し、中央で火花が散ったように見えた。
何故2人と1匹がここにいるのかを要約すると、まず、朝の出発をシルフィードが目撃。
すぐにタバサを叩き起こして、着替えを急かす。
丁度着替え終わったときに、同じく朝の出発を目撃していたキュルケが乱入。
そのまま、便乗して後をつけてきた、という事らしい。
ラ・ロシェールで一番上等な宿、『女神の杵』亭に泊まることにした一行は、一階の酒場でくつろいでいた。
そこに、『桟橋』へ乗船の交渉に行っていたワルドとルイズが帰ってきた。
ワルドは店に着くと、困ったように言った。
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに・・・・・」
ルイズは唇を尖らせている。
「あたしはアルビオンに言ったことがないからわかんないけど、どうして明日は船が出ないの?」
キュルケの方を向いて、ワルドが答えた。
「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近付く」
「ふ~ん」
キュルケは相槌をうった。
「さて、じゃあ、今日はもう寝よう。部屋を取った」
ワルドは鍵束を机の上に置いた。
「4つ部屋を取った。そして、僕とルイズが同室だ。残りは君たちで好きにしたまえ」
才人はぎょっとして、ワルドの方を向いた。
「婚約者だからな。当然だろう?」
「そんな、ダメよ!まだ私達結婚してるわけじゃないじゃない!」
才人は頷いた。
しかし、ワルドは首を振って、ルイズを見つめた。
「大事な話があるんだ。2人きりで話がしたい」
結局ワルドに押し切られ、ルイズとワルドの同室が決まった。
そして、残りの部屋は、才人とギーシュ、キュルケとタバサ、拓也とアイナという部屋割りとなった。
拓也とアイナは毎日一緒の部屋だから大丈夫だろうという意見で決まった。
ふと、ワルドが立ち上がる。
「すまない。少し夜風に当たってくるよ。ルイズ、先に部屋で待っててくれ」
そう言って、ワルドが宿から出て行った。
人通りの少なくなった町を歩くワルド。
そこに、
「ワルド・・・・」
ワルドの名を呼ぶ声が聞えた。
建物の影に誰かがいた。
「おや、ブラック。君も来ていたのか」
ワルドに声をかけた者は、建物の影に隠れてハッキリとは見えない。
ワルドにブラックとよばれたそれは、長身のワルドより、更に一回りか二回りほど大きく、月の僅かな光に照らされ、黒い鎧のようなものを纏っていることがわかった。
「何を企んでいる?」
「フフフ・・・・戦争というものはただ敵を倒せば良いというものではない。ゆえにこんな所で暴れるのはやめてくれたまえ」
「わかっている。弱い奴と戦ってもつまらんだけだ。だが、俺はお前たちの統一とやらにも、目的にも興味はない。俺が求めるのはただ、強き者との戦いのみ。お前たちに手を貸すのは強い奴と戦える可能性が高いからだ。それを忘れるな」
「我々と共にいれば、強敵と戦えることを約束しよう。君は先にアルビオンに行っておいてくれたまえ。私も明後日の朝にアルビオンに行く予定だ」
ワルドがそう言うと、ブラックと呼ばれた影は空中に飛び上がると、猛スピードで夜空に消えた。
「フ・・・彼がいれば、負けることは有り得んな」
ワルドは怪しい笑みを浮かべ宿に戻っていった。
次回予告
アルビオンに向かう船を待つため、ラ・ロシェールの町で一日を過ごす一行。
ワルドとの決闘に敗北し、落ち込む才人。
だが、その夜、傭兵たちの襲撃を受ける。
一行は無事アルビオンに迎えるのか!?
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第十話 風のアルビオン
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
第九話です。
やりたいこと詰め込んだら言葉のつながりに違和感ありまくりですかね?
とりあえず、ギトーのやり取り。
始めはスルーして、拓也に心の中で「アホらし」と呟くだけの予定でしたが、書いていくうちに、妙にムカついてきて、言葉で言い負かすことに。
本当なら、アグニモンかアイナで燃やしたかったところですけど、流石にそこまでやると色々問題になると思ったので。
次に品評会。
結局、皆様の意見にもあったアグニモンVS才人となりました。
ただ、戦うだけではつまらないので、ステージ破壊しときました。
アニメで見る限りは、恐らく木製だと思ったので。
アンリエッタの依頼。
ちょっと言葉が纏まってないかな。
依頼を受ける拓也の言葉も、結構矛盾してる気がしないでもないですが。
それは、自分の未熟さです。
申し訳ありません。
そして、フーケに話しかけた謎の影。
コイツは次回出てきます。
自分の思いつきで出演決定です。
誰なのかは・・・・・・今回の話の中にヒントがあります。
最後にワルドに話しかけた奴。
アイツです。
分かってるかと思いますが、まだ秘密です。
言葉遣いが少しおかしいかな?
話の組み立ても滅茶苦茶だし。
ごめんなさい。
では、次も頑張ります。