シェフィールドを退けた一行。
無事に国境を越えて・・・・・
第四十話 『烈風』カリン
「我が名はアイナ・ファイル・ド・シンフォニア。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
国境を越えた馬車の中では、アイナが拓也へ『コントラクト・サーヴァント』を行なっていた。
アイナが拓也へそっと口付ける。
その瞬間、シャルロットとイルククゥが、ムッとした事はお約束である。
そして、
「ぐっ・・・・」
拓也が、ルーンを刻まれる痛みに耐える。
拓也の右手には、以前と同じルーンが刻まれていた。
「ふう・・・・・・」
拓也は一息つく。
その顔は真っ赤だ。
何故ならば、そのキスした光景は、馬車の中にいる全員にまじまじと見られていたからだ。
「とりあえず、これで元の鞘に収まったわけだ」
ギーシュがそう言う。
「そうね。それよりも私としては、何であんな姿になってたのかが聞きたいんだけど」
キュルケがそう拓也に問いかける。
「え~と、それについては、何となくだけど・・・・・・多分、スピリットが俺を守ってくれたんだと思う」
「スピリットが?」
アイナが聞き返した。
「うん。俺はあの時、魔法の集中攻撃を受けた。その時のダメージは確実に致命傷を超えてたし、多分、死ぬ寸前か、少なくとも心臓が止まるまでまで行ったんだ。きっと、そのときに使い魔のルーンが消えたんだと思う。けど、完全に死ぬ前にスピリットが俺を守ってくれたんだ。俺の身体をデジモンに変換して、力の大部分を俺の身体の治癒に当ててたんだ。だから、フレイモンの姿になったんだと思う」
「記憶を無くしてたのは?」
シャルロットが尋ねる。
「それは単純に、攻撃を受けたときのショックだと思うよ。記憶を無くすメリットが無いから」
「そう・・・・」
シャルロットは頷く。
「もう!そんなことはどうでもいいのね!タクヤさまがこうして戻ってきた。シルフィはそれだけでいいのね!」
そう言ってイルククゥは拓也の背に抱きつく。
「お、おい!イルククゥ!」
拓也は顔を赤くして慌てる。
「それもそうだね」
「同意」
そう言って、アイナとシャルロットも拓也の両腕に抱きつく。
「お、おい!」
拓也は更に顔を赤くする。
「ちょ・・・・離れてくれよ・・・・」
拓也はそう言うが、
「「「嫌(なのね)」」」
3人揃ってそう言われた。
静かだが、妙に迫力のあるその言葉に、拓也は何も言えなくなってしまう。
そこに、
「あのさぁ~~~~~~~~~~」
重々しい声が響く。
嫉妬魔人ことマリコルヌであった。
「この僕の前でイチャイチャイチャイチャ・・・・・・それは僕に対するあてつけかぁ!!!」
そのマリコルヌの迫力にルイズや才人達は怯える。
今のマリコルヌのオーラは、伝説ですら怯えて縮こまるものらしい。
「何でサイトやタクヤばっかり・・・・・・・・」
マリコルヌが鬼の形相で拓也を睨む。
「そんなけしからん奴には、このマリコルヌが神の鉄槌を「「「うるさい(のね)!」」」すいませんでした!」
アイナ、シャルロット、イルククゥの一喝で土下座するマリコルヌ。
ズッコケる才人達。
どうやら嫉妬魔人の負のオーラも、恋する乙女の怒りには全く通用しないらしい。
そのまま馬車は進んで行き、キュルケの実家に着くまでアイナ達は拓也から離れることは、殆ど無かった。
キュルケの実家に着いた時、ルイズはアンリエッタ宛にフクロウで手紙を出した。
内容は、シャルロットを無事に救出できた事に始まり、次に無断で国境を越えた事に対するお詫び、拓也が見つかったこと、最後に2、3日中に帰国するので裁きを受けたいとの旨を記した。
すると、1日で返事は返ってきた。
その内容は、“ラ・ヴァリエール領で待つ アンリエッタ”の一行だけであった。
その一行を見たルイズとアイナは震えだし、怯えだしたのだった。
ラ・ヴァリエール領へ向かう馬車の中。
「なあルイズ。お前、如何したんだよ?」
才人は怪訝な顔でルイズを見つめた。
ルイズとアイナは、ずっと震えっぱなしなのである。
同時に、激しく落ち着きがない。
「あなた達、熱病にでもかかってるの?寒いの?」
呆れた声で、才人の隣に座ったキュルケが、気だるげに髪をすいていた手を止めて尋ねた。
「ねえシャルロット、あなたもルイズとアイナ、変だと思うでしょ?」
シャルロットは、震えている2人を見て、
「怯えてる」
と呟いた。
「アーハンブラ城に乗り込むときより、怖がってるじゃない。特にルイズ、そんなに実家に帰るのが嫌なの?変な子ね」
才人は、ルイズの家族を思い出して、家族に責められるのが怖いのだろうかと予想した。
「でもまあ、取って食われるわけじゃないだろ。この間、参戦の許可を貰いにいくときだって、そんなに怖がってなかっただろ」
「事情が違うわ」
ルイズが、震える声で呟いた。
「事情?」
「この間は参戦の許可を貰いに行ったのよ。“規則”を破ったわけじゃないでしょ」
才人は、ルイズの肩を叩いた。
「規則というか、法律を破って怒るのは姫様や王政府だろ?そりゃ、お前の父さんや姉さんも怒るだろうけど」
「・・・・・ルイズの家には、規則を破る事が、死ぬほど嫌いなお方がおられるの」
ルイズと同じく、震えていたアイナが声を発した。
「そうなのか?けど、前に見た限りじゃ、確かにキツイ人は多かったけど、そこまで怯えるほどじゃなかったと思うけど・・・・・」
前に見たルイズの家族を思い出しながら、拓也が言った。
「か、かかか」
「か?」
「母様よ」
ルイズの言葉で、拓也と才人はルイズの母親を思い出す。
だが、確かに物凄い高飛車オーラを放ってはいたが、やはりそこまで怯えるほどのものなのかと首を傾げる。
「お尻でも叩かれんのか?」
才人がそう言ったら、ルイズはとうとうお腹を押さえてうずくまる。
「ルイズ!ルイズ!何なんだよ!」
「へええ、ルイズの母君って、そんなに怖いのかい?」
マリコルヌが惚けた声で言った。
呪詛の言葉を吐き出すような声で、ルイズが呟く。
「あんた達・・・・先代のマンティコア隊隊長、知ってる?」
「知ってるも何も有名人じゃないか!あの“烈風”カリン殿だろ?常に鉄のマスクで顔の下半分を覆っていたという・・・・・王国始まって以来の、風の使い手だったらしいね。その風魔法は、烈風どころか、荒れ狂う嵐のようだって」
マリコルヌの言葉で、ギーシュも思い出したらしい。
「エスターシュ殿が反乱を起こしたときに、たった1人で鎮圧してのけたという、あの“烈風”殿だろ?そういや父上が言っていたよ。まだ若かった頃の父上が、一個連隊率いて前線のカルダン橋に赴いたら、カリン殿の手で既に鎮圧された後だったってね。あの“烈風”だけは相手にしたくないって、いつも言っていたな。それに、同じ時期の竜騎士隊の隊長も『神風』と呼ばれ、カリン殿と同等の風の使い手で、『烈風』と『神風』の2人を合わせて、トリステインを守る『風の守護者(ウインドガーディアンズ)』なんて呼ばれていたそうじゃないか」
口々に、彼らは昔の英雄の話をし始めた。
「1人でドラゴンの群れをやっつけた事もあるんだろ?」
「ゲルマニア軍と国境付近で小競り合いになったとき、烈風殿が出陣した、という噂が立っただけで、敵が逃げ出したらしいよ」
「でも、とっても美しいお方だって話ね。噂では、男装の麗人とか・・・・・」
「まさか。あんなに強い女性がいるもんか・・・・・・って、男装?」
ギーシュはその言葉で、とある仮定に行き着く。
「・・・・・・今思い出したけど、アイナの父さんのゲイルさんが、ルイズの母さんの事を「カリン」って呼んでたような・・・・・」
拓也も、そのときのことを思い出し、つぶやく。
「そういえば、ジャンから聞いたんだけど、アイナのお父上の二つ名って『神風』じゃなかったかしら?」
「元竜騎士隊隊長とも言っていた」
キュルケが思い出したように呟き、シャルロットが補足する。
ここまで言えば、馬鹿でもわかるだろう。
「も、もしかして、あの“烈風”カリン殿って・・・・・」
「母君よ」
馬車の中の一同は、顔を見合わせ、ついで困ったようにルイズに尋ねた。
「うそ」
「ほんとよ。で、当時のマンティコア隊のモットー、アイナ以外で知ってる人いる?」
その場の全員が首を振った。
「“鋼鉄の規律”よ。母様は、規律違反を何よりも嫌っているの」
女王の馬車がラ・ヴァリエールの屋敷の跳ね橋を渡ったのは、トリスタニアを出発して2日目の昼のことであった。
お忍びの訪問であるので、取り巻きはアニエス以下、大きなフードを被ったコルベールと、銃士が5名のみ。
一行が跳ね橋を渡りきり、城門をくぐると、集まった屋敷中の下僕たちが一斉に礼をした。
中庭のポールに、するすると小さなトリステイン王家の百合紋旗が掲げられる。
お忍びの女王を迎えるための、ささやかな礼である。
アニエスはウマを下りると、馬車の扉を開けた。
城の本丸へと続く階段の真ん中に立つ魔法衛士隊の制服を見つけ、アニエスは目を細めた。
「どうなさいました?隊長殿」
アンリエッタは、階段の真ん中に立つ騎士を見つけ、驚いた声を上げた。
「マンティコア隊の衛士ではありませんか」
騎士は、幻獣マンティコアの大きな刺繍が縫いこまれた黒いマントを羽織っていた。
「マンティコア隊は、現在城勤めのはずですが。おまけにあの羽飾り。隊長殿の帽子ですぞ」
「しかし、ド・ゼッサール殿にしては、身体がほそいですわね」
「というかここにおられるはずがありますまい」
ゆっくりと衛士は階段を下りてきた。
銃士たちが警戒して、女王の周りを取り囲み、腰の拳銃に手をかける。
アニエスは一歩進み出ると、騎士の前に立ち塞がった。
騎士の羽飾りのしたの顔は、下半分が鉄の仮面に覆われている。
その鋭い眼光に一瞬気圧されそうになり、アニエスは剣の柄を握り締めた。
「ラ・ヴァリエール公爵ゆかりの者か?陛下を迎えるというのに、なんとも過ぎた悪ふざけだ。名乗られい」
しかし、騎士はアニエスの言葉に応えず、膝をつくと深々と礼をした。
「お久しぶりでございます、陛下。とはいっても、私を覚えているはずはありますまい。私がお城に奉公していたのは、それはもう、30年も昔の事でございますから」
「まあ」
「先代マンティコア隊隊長カリーヌ・デジレでございます。とはいっても、当時は借りの名を名乗っておりました。王家に変わらぬ忠誠を」
それを聞いて、アンリエッタの顔が綻んだ。
「では、あなたがあの“烈風”カリン殿!?」
「はい。その名をご存知とは、光栄でございます」
「ご存知も何も、有名ではありませんか!アニエス殿、この方が伝説の魔法衛士隊隊長の“烈風”カリン殿です!彼女の数々の武勇伝を聞きながら、わたくしは育ったのですわ!」
アンリエッタは、おてんばだった頃のキラキラした顔に戻り、カリーヌの手を取った。
「わたくし、子供の頃大変憧れましてよ。火竜山脈での竜退治!オーク鬼に襲われた都市を救った一件・・・・・きらびやかな武功!山のような勲功!貴族が貴族らしかった時代の、真の騎士!数々の騎士が、あなたを尊敬して、競って真似をしたと聞いております!」
「お恥ずかしい限りです」
「何をおっしゃるの!で、わたくし、そんなあなたの秘密を1つだけ知っておりますのよ!実は女性、そうよね?引退後は風のように消えたと聞きましたが、ラ・ヴァリエールにおられたのですね。現在は何をしておられるのですか」
カリーヌは、すっとマスクを外した。
その下の顔を見て、アンリエッタは目を丸くした。
「公爵夫人!公爵夫人ではありませんか!」
アニエスも驚いた顔になった。
「ではこの方が・・・・・・」
「ラ・ヴァリエール公爵夫人、つまりルイズの母君だったとは・・・・・」
「結婚を機に、私は衛士の隊服を脱いだのです。その時の話は、離せば長くなりますゆえ、ご容赦願います」
「了解しました。でもなぜ・・・・・・・・」
アンリエッタは尋ねる。
カリーヌは立ち上がった。
「今日の私は、公爵夫人カリーヌ・デジレではございません。鋼鉄の規律を尊ぶ、マンティコア隊隊長カリンでございます。国法を破りし娘に罰を与え、もって当家の陛下への忠誠の証とさせていただきます」
「罰ですって!?烈風殿が、ルイズに罰をお与えになるですって!」
アンリエッタは物々しい戦支度のカリーヌを見つめ、首を振った。
「乱暴はいけません!わたくしは、その、あのですね、ルイズに罰を与えにやってきたのではありませぬ。わたくしも若いゆえ、当初は憤りもいたしました。しかし、よくよく考えてみたのです。確かにルイズはわたくしの許しなく国境を越えましたが・・・・・それも友人を案じての行為。厳しく注意はするつもりですが、激しい刑罰を与えるつもりはありません」
「陛下のお優しい言葉、痛み入ります。しかしながら、陛下の王権は始祖により与えられた神聖不可侵のもの。ならばその名において発布された国法もそうであらねばなりませぬ」
カリーヌはさっと右手を上げた。
城の天守の影から、黒い、巨大な影が飛んでくる。
着地と同時に激しい砂埃が巻き起こる。
老いて巨大な、幻獣マンティコアであった。
「尊ぶべき国法がなおざりにされては、陛下の王道が立ち行きませぬ。それを破りしが、我が娘達となれば、なおさら許すわけには参りません」
カリーヌは50過ぎとは思えない軽やかな身のこなしで、マンティコアに跨った。
「カ、カリン殿!」
マンティコアはワシの形をした翼を羽ばたかせる。
目を見張るようなスピードで、主人を乗せた幻獣は、大空に舞い上がった。
ラ・ヴァリエールの城は、王都よりゲルマニアの国境に近い。
国境を越えて3時間も行くと、城の高い尖塔が見えてきた。
「な、なあルイズ・・・・・お前の母さんが、そのマンティコア隊の“烈風”殿だとしてもだよ?」
重苦しい雰囲気を破って、才人が口を開いた。
しかし、ルイズは何も応えない。
その頃、ルイズは震えるのを通り越し、ぽかんと口を開けて天井を見つめていた。
「30年も経てば、人間も変わるだろ?な?確かに昔は怖い怖い騎士様だったかもしれないけど、今はいい年なんだから、そんな無茶しないよ。罰って言ったって、せいぜい納屋に閉じ込められるぐらいだよ」
「・・・・・あんたは、わかってないわ」
臨終の床の重病患者のように、ルイズは言った。
「若い頃の激しさを、維持できる人間なんてそうそういないわよ」
モンモランシーがわかったようなことを呟く。
「・・・・・・あんたたち、わかってないわ」
「そんなに心配するなよ」
「・・・・・わかりやすくいうと、私の母よ。あの人」
その言葉に、馬車の中の全員が緊張した。
才人はその空気に耐え切れなくなり笑った。
空元気である。
「あっはっは!そんなに心配するなって!」
「そうそう!いくら伝説の烈風殿だって、今じゃ公爵夫人じゃないか!雅な社交界で、戦場の垢や埃もすっかり抜け落ちてしまったに違いないよ!」
その時、窓の外を指差して、シャルロットがポツリと呟いた。
「マンティコアに跨った騎士がいる」
ルイズは跳ね起きると、パニックに陥ったのか、馬車の窓を突き破って外に逃げようとした。
「ルイズ危ない!」
ルイズと同じように震えていたが、若干冷静だったアイナがルイズにしがみ付いて止めようとしたが、ルイズはアイナごと引きずって外に飛び出す。
その瞬間、
――ゴォオオオオオオオオオオオッ!!
巨大な竜巻が現れ、逃げ出したルイズと引きずられたアイナを絡め取る。
「な、何だあれ」
才人が唖然とした瞬間、竜巻は大きく膨れ上がり、馬車全体を包み込んだ。
激しい勢いで、馬と馬車を繋ぐハーネスが吹き飛び、逃げる間も無く馬車は地上に馬を残して空へと跳ね上がった。
「なんだこりゃあああああああ!」
「マジかぁあああああああああ!」
才人と拓也が怒鳴る。
「ぎぃやああああああああああ!」
ギーシュが絶叫する。
「「うわぁあああああああああああ!」」
ギルモンとマリコルヌが叫ぶ。
「いやぁああああああああああ!」
「なんなのねぇええええええええ!」
モンモランシーとイルククゥが喚く。
「参ったわねぇ・・・・・」
キュルケがぼやく。
「・・・・・・・・」
シャルロットは無言であった。
馬車はまるで、巨人の手につかまれたかのように空中で翻弄された。
馬車の中はまるシェーカーに入れられたカクテルだった。
唐突に竜巻が止み、馬車は空中から地面へと落下する。
「落ちる!落ちる!落ちる!」
地面に激突する寸前で、ふわりと馬車が浮かぶ。
騎士が『レビテーション』をかけたのだ。
ゆっくりと馬車は地面に着地するが、散々にシェイクされた一行は、馬車の中でぐったりとしていた。
才人と拓也は必死の思いで、馬車から這い出た。
ルイズとアイナの横には、幻獣に跨った黒いマントの騎士がいた。
倒れたルイズとアイナの近くに立ち、2人に呼びかける。
「起きなさい。ルイズ、アイナ」
2人はがばっと身を起こすと、
「母様・・・・・」
「カリーヌおば様・・・・」
と呟き、ガタガタと激しく震え始める。
「あなた達、何をどう破ったのか、この私に報告しなさい」
「その・・・・・む、無断で国境を、その」
「えと、あの、その」
ルイズの声は小さく、アイナにいたっては呂律が回っていない。
「聞こえませんよ」
「む、無断で国境を」
竜巻が飛んだ。
2人は一瞬で上空200メイル近く放り投げられ、ちっぽけな落ち葉のようにくるくると回転しながら落ちてきた。
「拙いっ!」
見ていられなくなった拓也は飛び出した。
「ダブルスピリット!エボリューション!!」
拓也がデジコードに包まれる。
「ぐっ・・・・あああああああああっ!!」
叫び声を上げて、スピリットを纏う。
「アルダモン!!」
アルダモンに進化した拓也は飛び立ち、落ちてきたアイナとルイズを受け止めた。
2人を抱きかかえ、アルダモンは地面に降りる。
「いくらなんでもやりすぎだぞ!」
2人を下ろしたアルダモンが叫んだ。
「あなたは確かアイナの使い魔の少年でしたね。なるほど、そのような能力があったのですか」
カリーヌは、一度頷くと、
「使い魔という事は、主人の盾も同然。盾を吹き飛ばすのは、これも道理。恨んではなりませんよ?」
巨大な竜巻がカリーヌの背後に現れる。
先程、馬車を包み込んだものと同じぐらいの規模だ。
『風』のスクウェアスペル、『カッター・トルネード』である。
この魔法は竜巻の間に真空の層が挟まってて、触れたものを切断してしまう恐ろしい魔法。
その竜巻は、アルダモンに近付いてくる。
だが、アルダモンは覇竜刀を上段に構える。
「はぁああああああああっ!!」
そして、気合を込めて振り下ろした。
そのときに生じた衝撃波で、『カッター・トルネード』は真っ二つになり、消え去る。
アルダモンはカリーヌに向きなると、
「確かに俺達は法律を破って、無断で国境を越えた。確かにそのことは悪い事をしたと思ってる」
そう話し出す。
「けど!間違った事をしたとは思っちゃいない!!」
アルダモンは言い放つ。
「仲間の命がかかってたんだ!規律を守って後悔するぐらいなら、規律を破って後悔しない道を選ぶ!」
「結果として、それはさらに多数の人間を不幸にしてしまう可能性があるのですよ」
カリーヌは静かに、しかし、重みのある声で反論する。
「それでも・・・・・記憶を取り戻す前の出来事だけど、俺は自分の選んだ道に後悔は無い!」
その言葉を聞いたカリーヌは、杖を構え、再び呪文を唱えようとした。
その時、後ろから抱きすくめられる。
「おやめください!もう、結構です!おやめください!」
ラ・ヴァリエールの城から、馬で駆けつけてきたアンリエッタであった。
後ろにはアニエスも見える。
「これ以上、わたくしの前で争うことは赦しませぬ!」
女王のその言葉で、カリーヌは杖を収めた。
それを確認したアルダモンは、進化を解く。
拓也に戻ると、アイナの様子を確認する。
アイナとルイズは目を回していたが、特に怪我は無い様だった。
無茶苦茶な様に見えて、カリーヌはちゃんと手加減していたのだ。
その事に安堵する拓也。
そして一行は、再びラ・ヴァリエールの屋敷に向かうのだった。
次回予告
ラ・ヴァリエールの屋敷で、シンフォニア一家も含め話をする一同。
ルイズが王家のマントを受け取り、丸く収まり、拓也もシュヴァリエとなる。
だが、何故か拓也はゲイルと試合する事になり、気付けば才人も巻き込まれる。
今ここに、英雄『風の守護者(ウインドガーディアンズ)』と伝説が激突する。
次回!ゼロの使い魔と炎の使い魔
第四十一話 伝説VS英雄
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
祝!四十話達成~!
これだけ続くとは思いませんでした。
で、今回約3週間遅れた理由ですが、GWの超ハイペースの反動なのか、スランプ・・・・といいますか、小説を書く集中力が湧かなかったのです。
元々自分、集中力が持続しない方なんですが、それが更に酷かった。
今回、結構頑張って書いたのですが、短いです。
もしかしたら、次も結構遅れるかもしれません。
さて、一応拓也の再契約から、カリン登場まで書きました。
VSカリンは拓也に竜巻ぶった切って貰いました。
それ以外はあんまり変化なし。
では、次も頑張ります。