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めぐみちゃんとでぇと
最終話 伝説の樹の下で待ってます

日曜日は、良く晴れた小春日和になりました。
公くんは、プラネタリウム前でうろうろとしています。
そう、今日はめぐみちゃんとデートの約束をしているのです。
ちらっと腕時計を見る公くん。服もちゃんと好雄くんの言うとおりのコーディネートで結構決まっていますね。
「10分前かぁ。まだ、来ないのかな?」
何気なく通りの方を見る公くん。その顔がひきつりました。
向こうから、自転車に乗って見慣れた娘がやってくるのです。
「げ! し、詩織!? やばい!」
逃げようと振り向きかけた公くんの背中に、声がかけられました。
「あら、公くんじゃない」
キィッ
ブレーキの音がして、公くんはその姿勢のまま凍り付きました。
(万事休す!)
「ねぇ、どうしたの?」
「あ、あの、人違いではないですか、お嬢さん」
咄嗟にポケットからサングラスを出してかけると、公くんは言いました。
「何言ってるのよ。それとも、約束、忘れちゃった?」
「え? 詩織とは今日は約束してないけど」
思わず言ってから、公くんはしまったと口を押さえました。
おかしそうに笑う詩織ちゃん。
「やっぱり公くんじゃないの」
「あ、あの、えーと」
公くんは向き直ると、両手を振り回しながら言い訳しようとしました。
そんな公くんに、詩織ちゃんは笑いながら言いました。
「冗談よ。今日はメグとデートでしょ?」
「え?」
ズリッと公くんのサングラスがずり落ちます。
詩織ちゃんはそんな公くんの眉間にぴっと指を突きつけました。
「メグって繊細なんだから、この前みたいに襲ったりしちゃダメよ」
「な、なんだよ、おい」
「それに、公くんは忘れたいかもしれないけど、明日から学期末テストなんだから、あんまり遅くまで遊んでたらダメよ。公くんはいいかもしれないけど、メグの点が下がったら公くんのせいだからね!」
「げ!」
浮かれまくってすっかりそのことを忘れていた公くん、思わず後頭部に大きな汗を浮かべてしまいました。
「あらあら。衿が曲がっちゃってるわよ」
詩織ちゃんはそんな公くんの曲がってしまった衿をきゅっと引っ張って直すと、自転車に乗りました。
「それじゃね、公くん」
「え? 詩織は何処に?」
「デートよ」
「そっか、デートか……。ええっ!?」
思わず大声を上げる公くん。詩織ちゃんはくすっと笑いました。
「冗談よ、冗談。私は誰かさんと違って真面目なんですから、これから図書館でお勉強ですのよ、おっほっほ」
「し、詩織ぃ……」
思わずその場にへなへなと座り込む公くんに、詩織ちゃんは笑いかけました。
「びっくりしちゃった? あ、公くん! メグが来たわよ!」
「え?」
振り返ると、めぐみちゃんが走って来ます。
「主人さぁん!」
「あ、めぐみちゃん?」
めぐみちゃんは、二人の前まで来て、苦しそうに息せききりながら言いました。
「ご、ごめんなさい。遅れちゃって……。ま、待ちましたか?」
「いや、全然」
公くんは首を振りました。めぐみちゃんは顔を上げると微笑みました。
「よかった」
「メグ」
詩織ちゃんが声をかけました。めぐみちゃんは詩織ちゃんに視線を移しました。
「詩織ちゃん……」
「がんばってね」
詩織ちゃんは、笑顔で言いました。めぐみちゃんも笑顔で頷くと、公くんの腕に自分の腕を絡ませました。
「み、美樹原さん?」
「い、行きましょう、主人さん。それじゃね、詩織ちゃん」
「うん。あとで報告してよね」
そう言うと、詩織ちゃんは軽く手を振ってから自転車を漕ぎだしました。
それを半ば呆然として見送る公くんでした。
(ど、どうしたんだ、詩織のやつ。そういえば、ここの所なんだか大人しいなぁ……)
「どうしたんですか?」
その声に、公くんはめぐみちゃんに視線を落としました。
めぐみちゃんは公くんと腕を組んではいるのですが、それがとても恥ずかしいのか、真っ赤になって俯いています。
公くんは辺りをきょろきょろと見回しました。
「あの……」
「あ、いや。今日はムクは連れてきてないんだね?」
「あ、はい。今日はプラネタリウムですから」
「そっか。よし、今日も全開、あ・ゴー!!」
「は、はい」
公くんとめぐみちゃんは、仲良くプラネタリウムに入っていきました。
時は流れ、あの日から数カ月がたちました。
そう、今日は3月1日。きらめき高校の卒業式の日です。
式も終わって、公くんは自分の教室に戻ろうと廊下を歩いていました。
「ったく、校長の話が長すぎるんだよなぁ。如月さん、倒れなかったかなぁ」
そんなことを呟いていた公くんの後頭部がいきなり叩かれました。
ポコォン
「て! 誰だ?」
「よ!」
振り返ると、好雄くんが卒業証書を入れる筒を片手でポンポンと叩きながら笑っていました。
「好雄かぁ」
「何だかんだ言っても、もう卒業かぁ」
「そうだよなぁ」
好雄くんは、廊下の窓を開けると、外を眺めました。公くんもその隣で同じように外を眺めます。
「色々、あったよなぁ」
「ああ……。そうだ、好雄。これからパッとカラオケにでも行かないか?」
「悪い!」
好雄くんは公くんに両手を合わせました。
「なんか予定があるのか?」
「ま、まぁな。へへ」
ばつが悪そうに笑う好雄くん。公くんは頷きました。
「ははぁん、そういうことか。しょうがねぇなぁ」
「今度埋め合わせすっからよ」
そう言う好雄くんに、公くんは笑いかけました。
「しかし、やっぱ納まるところに納まったよな、おまえは」
公くんは、数日前の事を思い出していました。
数日前の放課後、帰ろうとしていた公くんに、好雄くんが珍しく真面目な顔で話しかけてきたのでした。
「おい、公。ちょっと話があるんだ」
「なんだ?」
気軽に聞き返した公くんに、好雄くんは言いました。
「ちょっと、ここじゃなんだからさ、伝説の樹の下まで来てくれよ」
「……へ? ま、まさか好雄、俺に愛の告白を!?」
「ばーんなっこー!」
ドッゴォーン
吹っ飛ばされた公くんに、好雄くんは怒鳴りました。
「誰がおまえに! あ、いや、それよりとにかく来いよな!」
そう言い残して、教室を飛び出していく好雄くんを、机に埋もれたまま、公くんは見送りました。
「好雄、何時の間にあんな技を?」
「うぉーい、好雄ぉ! 来たぞぉ!」
伝説の樹の下で、公くんは声を上げました。
「大声で怒鳴るなよ、恥ずかしいだろ」
そう言いながら、好雄くんが木の陰から出て来ました。
その顔を見て、公くんは思わず訊ねました。
「好雄、おまえ何か悪いものでも食ったのか? 顔面崩壊しているぜ」
「ほっとけ。おい、来いよ」
その声に、姿を現した女の子を見て、公くんは腕を組みました。
「そっか」
「ああ。俺、夕子とちゃんと付き合うことになったんだぜ」
「もう、超恥ずかしいんだから、さっさと行こ、よっしー!」
夕子ちゃんは真っ赤になって好雄くんに言いました。
好雄くんは笑いながら言いました。
「おまえにだけは話しておこうと思ってな。じゃ、行こうか」
「うん。じゃーね、主人くん」
歩いていく二人を見送りながら、公くんはぐっと拳を握り締めました。
「ぬぅぅ〜〜。好雄の奴、燃えとるなぁ、男として! よぉし、俺も負けんぞぉ!!」
そんな公くんは、校門を出た二人の会話なんて知る由もなかったのです。
「あーん、もう。超恥ずかしかったんだからね、よっしー」
校門を出たところで、夕子ちゃんは真っ赤になって好雄くんを見上げました。
「ゴメン」
好雄くんは珍しく素直に謝りました。そして、そこからも見える伝説の樹を眺めました。
「でもさ、3年間、一応親友付き合いしてきたからな、あいつとは。やっぱ、ちゃんと言っておかないとなぁ」
「ふーん」
夕子ちゃん、そっぽを向いてしまいました。慌てる好雄くん。
「お、おい、夕子」
「……初めてだったね」
「え?」
「あたしのこと、夕子って呼んだの」
くるっと向き直って、夕子ちゃんは笑いかけました。
「そうだっけ?」
顎をポリポリと掻きながら、好雄くんは照れくさそうに笑いました。
「そーよ。ずうっと朝日奈、朝日奈ってさ。えへへ」
夕子ちゃんは、好雄くんの腕に自分の腕を絡ませました。
「さ、行こ!」
「へ? 何処に?」
「ほらぁ、マクドで驕ってくれるって言ったっしょ?」
「あれ? そうだっけ? わわっ、引っ張るなぁ!!」
そのまま、引っ張って行かれながら、好雄くんはもう一度伝説の樹の方に視線を向けて、心の中でつぶやいたのでした。
(公、おまえも決めなきゃならないぜ、もうすぐな……)
「とはいえ、はぁぁぁ」
突然ため息を付く公くんに、好雄くんは笑いかけました。
「どした、突然」
「いや、俺は今、人生について考えてるんだよ」
「そっか。じゃ、俺は人生を謳歌するか。じゃな、後で電話するぜ! ♪あ〜きぃみの〜ほーほえみがぁ〜 ぼくのものなら〜ば〜っと」
そう言って、好雄くんは歌いながら歩いていってしまいました。
それを見送って、公くんは肩をすくめました。
「どうして好雄に彼女が出来て俺には……、なんて言っても仕方ないか。ふぅ」
さて、その頃、保健室には、勝馬くん達が挨拶に来ていました。
「そっかぁ、もう卒業よねぇ。ま、一杯どーぞ」
先生は、湯飲みを4つ出して、皆に勧めます。
「いえ、そんな」
「ま、そう言わないの」
そう言いながら、冷蔵庫を開けると、先生はワインの瓶を出してきました。
「この日のために取って置いた1886年もののシャトーワインよぉ」
「先生、あたし達まだ未成年なんですけど」
奈津江ちゃんが声をかけますが、先生は笑って手を振りました。
「気にしない、気にしない」
「そーよぉ、奈津江ちゃん。美味しいよぉ」
「こ、こら十一夜!」
淳くんが慌てますが既に遅し。恵ちゃんは真っ赤な顔で湯飲みを傾けていました。
「うーん。おいし(はぁと)」
「そういえば、今日稀城さん帰って来るんだったっけ?」
先生は奈津江ちゃんに湯飲みを渡しながら訊ねました。
「うん。水野くん、式が終わったら速攻で成田まで行っちゃったしね」
「そっかぁ。で、奈津江ちゃん達は、何処まで行ったの?」
ブーッ
後ろで思わずワインを吹き出してしまう勝馬くん。
奈津江ちゃんも声を上げます。
「だ、誰がこんなやつと! あたしはこいつとは単なる幼なじみで!」
「お、俺だって!」
恵ちゃんがけたけた笑います。
「この二人ってば、照れ屋さんなんだからぁ」
『違〜〜う!!』
二人の声が綺麗に唱和るのを聞いて、他のみんなは笑い声を上げるのでした。
「先輩達も、卒業かぁ」
グラウンドを見おろす土手に寝転がって、将くんは呟きました。
と、
「やっぱりここにいたか、将」
「和人か?」
顔を上げると、和人くんが土手を駆け下りてきました。そして、将くんの隣りに腰を下ろします。
「いよいよ俺達が3年かぁ。……将、いいのか?」
「何が?」
「何がって、おまえ……」
「あ、将先輩見つけた!!」
その声に、二人は土手の上を見上げました。
「本郷か」
将くん達の後輩の本郷南ちゃんです。
「本郷か、じゃないですよ! テニス部の追い出し会の準備さぼって! 連尺先輩カンカンですよぉ」
指を顔の横に立てて、鬼の顔真似をする南ちゃんに、二人は苦笑しました。
「しょうがない、行くか。和人、おまえにも付き合ってもらうぜ」
「今日だけだからな」
そう言いながら、二人は立ち上がって、土手を駆け昇っていきました。
公くんは教室に戻ってきました。
途中で道草してたせいもあって、もう人もあまりいません。
「さっさと帰ろうっと」
そう独り言を呟きながら、公くんは鞄を取りました。
と、その弾みに、机の中から一通の手紙が落ちました。
「あれ?」
公くんはそれを拾い上げました。封筒の表には、『主人公さま』とあります。
裏返してみますが、他には何も書いてありません。
「誰からだろう?」
公くんは封を切ってみました。中からは、綺麗に折り畳まれた便せんが一枚だけ。
「?」
それを広げる公くん。
そこには、一文だけが記されていました。
『伝説の樹の下で 待っています』
「これは!?」
公くんは、駆け出していきました。
伝説の樹の下に向かって。
果たして、伝説の樹の下で、公くんを待っていたのは誰なのでしょうか?
それは……。
《続く》

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