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 Date with mistress Megumi
Curtain-Call
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 卒業式の終わった夜。
 詩織ちゃんは、ぽてんとベッドに倒れ込みました。そしてため息を一つ。
「終わっちゃったね……。高校生活も……」
 と。
 トルルルル、トルルルル
 電話のベルの音が鳴り響きました。詩織ちゃんはもう一つため息をつくと、電話を取りました。
「はい、藤崎です」
「あ、詩織ちゃん?」
 電話の向こう側から声が聞こえました。
「メグ? どうしたの?」
「うん……。何となくだけど……」
 めぐみちゃんはそう言うと、黙ってしまいました。
 詩織ちゃんはふふっと微笑むと、明るい声で言いました。
「ちょっとお話したいな。出てこられる?」
「うん」
 めぐみちゃんも同じ思いだったのでしょう。ちょっと声が弾んでいます。
「それじゃ、えーとね。そうだ! メグの家にお泊まりに行っていいかな?」
「うん、大丈夫よ」
「それじゃ、そうするね。久しぶりにムクにも逢いたいし」
「ありがとう。ほら、ムクもお礼言いなさい」
 ワンワン
 いつものムクの声を聞いて、詩織ちゃんは我知らず微笑みました。
「じゃあ、そうねぇ、30分くらいしたらそっちに行くね」
「うん」
 詩織ちゃんは電話を切ると、何気なく顔を上げました。
 窓の向こうには、緑色のカーテンが掛かった窓があります。
 少しためらってから、詩織ちゃんはピンクのカーテンをしゃっと引きました。そして、カーテンのはしを握りしめてつぶやきました。
「昨日までの私には、もう戻れないもんね、……公くん」


 めぐみちゃんとでぇと カーテンコール
  第壱話 「隕石……だと?」



 ジュージュー
 鉄板の上では、お肉が美味しそうな音を立てて焼けています。
「ワァオ、美味しそうねぇ」
「彩ちゃん、そんなに急がなくても、まだまだあるのよ」
 まだ生焼け気味のお肉をお箸でつまみ上げる彩子ちゃんに、せっせとお肉を鉄板に並べながら沙希ちゃんが言いました。
「ノンノン。ちょっとレアな方が美味しいのよぉ」
「そうだよなぁ。焼きすぎると硬くなっちまってさ」
 そう言いながら、望ちゃんがその隣のお肉を拾い上げます。
「そうれすよね」
 優美ちゃんはそう言いながら、ウィンナーをお箸で突き刺してぱくぱく食べています。
 この4人、卒業記念(もちろん優美ちゃんは除く、ですよ)及びフランス留学が決まっている彩子ちゃんと実業団入りが決まっている望ちゃんの壮行会ということで、焼き肉屋に来ているのです。
 奥のお座敷で、テーブルを囲んで4人はお話ししていました。
「でも、ちょっぴり優美寂しいなぁ。もう先輩たちと逢えなくなっちゃうんだもんね」
 ふとお箸を止めて、優美ちゃんはしんみりと言いました。
「そうね。彩ちゃんはフランスだし、清川さんは実業団だから、もうなかなか逢えないわよね」
 沙希ちゃん、そう答えながらもせっせとお野菜を鉄板に並べています。本当に面倒見がいいんですけど、こういう時は損な性分ですね。
「確かにそうかもしれないけど、でも絶対逢えないってわけじゃないしさ」
 ごくんとお肉を飲み込んで、望ちゃんは答えました。もうそのお箸には次のお肉がゲットされています。さすがに早いですね。
「そうそう」
 と、はぐはぐと焼けたモヤシを食べながら彩子ちゃんがうなずきました。
 優美ちゃんは沙希ちゃんに視線を向けました。
「優美ね、結局虹野先輩には勝てなかったな」
「え?」
 ピーマンを並べながら、沙希ちゃんは聞き返しました。
 優美ちゃんは、焼けたタマネギの薄切りをタレにつけながら言いました。
「前に虹野先輩が教えてくれたじゃないれすか。お弁当って相手の人のために作るんだって。優美ね、あれから一生懸命主人先輩のことを考えながらお弁当作ってきたつもりなんれすよ。でも、結局虹野先輩が主人先輩のことを考えながら作るお弁当にはかなわなかったような気がするんれす」
「そ、そんなことないよぉ」
 沙希ちゃん、真っ赤になって脂身をグリグリと鉄板にこすりつけました。
「でも!」
 優美ちゃん、ぴしっとお箸を沙希ちゃんに突きつけました。
「優美はね、想いが負けてたんじゃないれす。想いをお料理に変える腕で負けただけれすからね!」
「アイシンクソー、あたしもそう思うわ」
 モヤシを食べ終わって、鉄板の上でお箸をさまよわせながら、彩子ちゃんも言いました。
「みんな、想いは互角だったってね」
 と。
「いたいた、捜したぜ」
「もう、どーしてあたし達も誘ってくんないのさぁ。超むかぁ!」
 その声に、4人は入り口の方に視線を向けました。
「夕子ちゃん?」
「お兄ちゃん、どうしたのぉ?」
「どうしたもなにも、俺達を仲間外れにするなよなぁ」
「そーよぉ。優美ちゃんがおばさんにここに来てるって言ってきてたからラッキーだったけどさぁ、そうでなかったら何処に行ったかわかんなかったっしょ?」
 そう言いながら、2人は座敷に上がってきました。
 彩子ちゃんが笑いながら言いました。
「オーマイガッ! せっかくあたし達が気を利かせて二人だけにしてあげようと思ってたのにねぇ」
「ば、馬鹿なこと言うなよ片桐ぃ」
 好雄くんが顔を赤くして声を上げます。
 そんな好雄くんを、優美ちゃんがびっくりしたように見ました。
「ええーっ!? お兄ちゃんと朝日奈先輩、ちゃんと付き合うことにしたのぉ!?」
「こ、こら優美!!」
「優美ちゃんやめい! 超はずいんだからぁ!」
 慌てて二人がかりで、大声で叫ぶ優美ちゃんの口をふさぐ好雄くんと夕子ちゃん。
 今度は沙希ちゃんが目を丸くして二人を見比べました。
「本当なの? あたし全然知らなかった……」
「あたしも。こりゃ一本取られたぜ」
 望ちゃんが笑いました。
「でも、本当に驚かされましたよ」
 未緒ちゃんは、頭一つ高い相手にそう言うと、微笑みました。
「わたくしは、知っておりましたから。でも、よかったですねぇ。やっと、本当の姿にもどることができまして」
 ゆかりちゃんは、にっこりと微笑みました。
「伊集院家の家訓だったのです。みなさんを騙してきたことについては、申し訳ないと思っています」
 頭を下げたのは、レイくん、いえ、今は本当の姿に戻ったレイ“さん”です。
 未緒ちゃんは訊ねました。
「でも、よろしいんですか? 私みたいな者がお招きいただいて」
 そう、ここは伊集院家のお屋敷です。今日はレイさんが無事に卒業したというので、パーティーが開かれているのです。
 レイさんはにこっと笑いました。
「いえ、如月さんとはいろいろとお話ししたいことがありましたから、特にお招きしたんです。本当は片桐さんもお招きしたかったのですが、予定があるとかで……」
「!」
 未緒ちゃんは、眼鏡の奥の瞳を見開きました。
「それって、もしかして……、アレのことでしょうか?」
「誰が作ったのか、我が伊集院家の力を持ってしても、突き止めるのは大変だったんですよ」
 そう言って笑うレイさん。
 未緒ちゃんは、慌てて頭を下げました。
「ごめんなさい。でも、あの話は私が作ったものですから、片桐さんには責任はないんです。ですから……」
「違いますよ。責めてなんかいないです」
 レイさんは手を振りました。そして、訊ねました。
「ああいうお話って、どうやって考えるんですか? 何か参考にしているものがあるとか?」
 責任を追及されるわけではないとわかって、未緒ちゃんもほっとしたようです。
「そうですね。私の場合は……」
 二人は仲良さそうにおしゃべりを続けるのでした。そんな二人から少し離れて、ゆかりちゃんは窓から夜空を見上げました。
 夜空には、大きな月がかかっていました。
「お姉ちゃん、おかわりぃ!」
「はいはーい!」
 こちら、館林家ではいつもと同じ大騒ぎの夕食風景が繰り広げられていました。
 見晴ちゃんの卒業記念あーんど千晴ちゃんのきらめき高校合格祝いということで、食事はいつもよりもちょっぴり豪勢です。
 主賓ということで、クリスマスのときにかぶるような三角帽子をかぶらされた見晴ちゃんは、始終にこにこしています。いえ、にこにこというよりもでへでへですね。
 一人優雅にワイングラスを傾けながら、晴海さんはつぶやきました。
「で、結局見晴は主人くんを追いかけるわけかぁ」
「うん。だって、好きなものは好きなんだもの。それに、お互いのことはこれから知っていけばいいし」
「お互い、じゃないよね、見晴姉ぇ。日本語は正しく使わないと」
 美鈴ちゃんがつっこみます。千晴ちゃんがさらに追撃します。
「見晴姉ぇは、主人さんのことはすべて知ってるもんね」
「やだぁ、恥ずかしいじゃないのぉ。もう、この二人はぁ!」
 とっさに飛び退く二人の間を通り抜けて、壁に鉄山こうを決める見晴ちゃん。
「痛い……」
「ま、いいけどね」
 くぃっとワイングラスをあけると、晴海さんは徳利から日本酒をワイングラスに注ぎます。
 お昼は湯飲みでワインを飲んでましたし、侮れませんね。
 鏡家でも、いつもと同じ夕食風景が繰り広げられています。
「こら、明! ピーマンを残したらダメでしょ!」
「はぁい」
「なにすんだよ、光! 俺の空揚げ取るなよ!」
「うるさい! もう食っちまったもんねぇ」
「こらこら、騒ぐんじゃありません」
 そうたしなめてから、魅羅さんは物思いに沈むのでした。
(本当によかったのかしら……)
 魅羅さんは、卒業後はモデルになってお金を稼ぐことにしました。これから弟たちの学費もますます大変になって、とても魅羅さんを大学に行かせるなんてできる余裕がないのは確かですし、魅羅さん自身も特に大学に魅力を感じていないので、
モデルの誘いが来たときに一も二もなく引き受けたのですが、今になってちょっと不安を感じ始めた魅羅さんでした。
 とはいっても、自分がモデルとして成功するかどうか、なんて心配してるわけではないんですよね。
(私が仕事についたら、今以上に自由な時間が無くなってしまうわ。そうしたら、
この子たちをちゃんと見ていけないかもしれない。もし私が見ていないばっかりに何かあったらどうしたらいいのかしら?)
「おねーちゃん! 醤油とってよぉ」
「……え? あ、はいはい」
 魅羅さんはお醤油を取ると、小皿に入れて渡します。
「はい」
「ありがとー」
 笑う弟たちの顔を見て、魅羅さんも笑いながら思うのでした。
(この子たちのためにも、頑張らなくちゃね)
 カチャカチャ……カチャ。
 結奈さんは、キーを叩く手を止めると、無造作にハンガーに掛けて吊ってあったきらめき高校の制服に視線をとめました。
「特に感傷があるわけでもないわ。ただ、高校の間に世界征服ができなかったのが心残りね」
 そう言うと、ディスプレイに向き直りました。そして、キーを叩きます。
 ディスプレイの画面上に、いくつかのデータが表示されます。
「でも、彼の研究の方が面白かったわね。いつでもできる世界征服なんかよりも」
 そうつぶやくと、結奈さんはかすかに笑みを浮かべるのでした。
 ディスプレイ上には、一枚のスキャナで取り込んだ写真が表示されていました。
「……そうね、しばらくは彼の追跡調査でもしましょうか」
 結局沙希ちゃんがお肉と野菜を追加注文して、焼き肉屋の宴は続行されていました。
「ま、なんだかんだ言っても終わってみればなかなか面白かったよな」
 好雄くんはそう言って、肉を取りました。
「あ、おにーちゃんずるいぃ! それ優美が狙ってたのにぃ!」
「へへーん。取った者勝ちだよーん」
「もう、優美怒ったぞ! アックスボンバー!!」
「ぐへぇ」
「暴れるな、二人とも!」
 望ちゃんが声を荒げます。
「ほこりが立つだろう!」
「ごめんなさぁい、清川先輩」
「悪い」
「わかればよろしい。虹野さん、どんどん放り込んじゃえよ」
「うん。それじゃ、どんどん食べてね」
 沙希ちゃんがお皿からどんどんお肉を鉄板の上に移します。
 それを見ながら、夕子ちゃんは言いました。
「ほんとに、超早かったって感じ」
「そうね。入学したのがついこの前みたい」
 沙希ちゃんも頷きました。
「それだけ充実してたってことかな?」
 望ちゃんは、お肉を取って満足げに頷きました。それから優美ちゃんの頭をぐりんとなでます。
「優美ちゃんも、来年の今頃は『短かったねぇ』なんて言ってるぜ、きっと」
「そうかなぁ?」
 首を傾げる優美ちゃんに、彩子ちゃんが笑いながら言います。
「アイシンクソー、きっとそうよ。ファイト、がんばれ」
「あー、彩ちゃん、それあたしのセリフよぉ」
 沙希ちゃんの声に、みんなどっと笑いました。
 この宴、まだしばらくは終わらないようですね。
 ピンポーン
「あ、詩織ちゃん。いらっしゃい」
「お邪魔します」
 詩織ちゃんは、大きめのバッグを持って、めぐみちゃんの家に上がりました。
 奥からムクが転がるように駆け出してきたかと思うと、詩織ちゃんの足にまとわりつきます。
 ワンワン
「あら、ムク。お久しぶり」
 詩織ちゃんはバッグをそこに置くと、ムクを抱き上げました。
 ムクはご挨拶の代わりに詩織ちゃんのお顔をぺろぺろと舐めはじめました。
「きゃ、くすぐったい」
「こら、ムク! やめなさい」
 ムクの歓迎の後で、詩織ちゃんはめぐみちゃんのお部屋に入りました。
「ここにくるのも久しぶりだけど、変わらないね」
「そうかな?」
 自分のお部屋をくるっと見回すめぐみちゃん。
 詩織ちゃんはバッグを置くと、ベッドに腰掛けました。
「ねぇ、メグ」
「え?」
 めぐみちゃんも、詩織ちゃんの隣に腰掛けました。
 詩織ちゃんは、静かに微笑みました。
「終わったと、思う?」
「何がなの、詩織ちゃん?」
「うん……」
 詩織ちゃんは頬杖をついて、床を見ながら言いました。
「きらめき高校は卒業したわ。でも、結局何も変わらないんじゃないかな。私、そう思うの」
「……」
「だって、今の私って、今までの私の上にあるんだもの。メグだって、そうでしょ?」
「そうですね」
 めぐみちゃんは頷きました。
「だからね」
 詩織ちゃんはめぐみちゃんに視線を向けました。
「みんな、公くんに恋してる。その想いは変わらないんじゃないかな。卒業したって、それぞれの道に進んだって……。だって……」
『公くんってとってもステキなんだもの』
 詩織ちゃんの声とめぐみちゃんの声がきれいにハモリました。二人は顔を見合わせて笑いあうのでした。
「ねぇ、覚えてる? メグったら、入学式の時に掲示板の前で……」
「あーん、詩織ちゃん、言わないでぇ、そのことはぁ」
 二人は仲良く、夜が更けるまでお話を続けるのでした。
 さて、その頃公くんはというと、自分のお部屋で膝小僧を抱えて小声で歌っているのでした。

 ♪変わらぬ胸の内 届かない溢れる想い
  孤独な時の中 いつまでもさまようのか……

 と、ドアが開いてお母さんが入ってきました。
「なんだい、この子は。可愛らしい彼女を作っておいて、何いじけてるんだよ」
「ほっといてくれよぉ」
 公くんはそう言うと、壁に向かってぶつぶつ呟くのでした。
「せっかくの卒業式の夜だっていうのに、誰も誘ってくれないんだもん。いいもん、いいもん。僕はいらない子なんだ……」
「レイ様、失礼いたします」
 未緒ちゃんと楽しくお話ししていたレイさんの所に、外井さんが歩み寄ってきました。
「何です、外井?」
「少々重要な案件が発生いたしました。お耳を」
 外井さんは、レイさんの耳に二言三言囁きました。レイさんは眉をひそめて呟きました。その声は、すぐ近くにいた未緒ちゃんにしか聞こえませんでした。
「隕石……だと?」

《続く》

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