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 Date with mistress Megumi
Curtain-Call
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「レイ様、失礼いたします」
 未緒ちゃんと楽しくお話ししていたレイさんの所に、外井さんが歩み寄ってきました。
「何です、外井?」
「少々重要な案件が発生いたしました。お耳を」
 外井さんは、レイさんの耳に二言三言囁きました。レイさんは眉をひそめて呟きました。その声は、すぐ近くにいた未緒ちゃんにしか聞こえませんでした。
「隕石……だと?」
 外井さんは、辺りをちらっと見てから、再度レイさんに囁きました。
「そのことで、御前がレイ様にお話があると」
「お爺様が? わかりました」
「あと、このことはくれぐれも内密に、との事です」
「……ちょっと遅かったですね」
 レイさんは、ちらっと未緒ちゃんを見ました。
(彼女にしか聞かれていないはず……。秘密が漏れたときの方法は二つ。前に早乙女くんにしたように、強制的にこちらでコントロールするか、あるいは……)
 一瞬、目を伏せて、レイさんはあの時のことを思い出していました。
(もう、あんな思いはしたくありません……)
「外井、すぐに伺いますとお爺様にお伝えください」
「は」
 一礼して、外井さんは歩き去っていきました。
 レイさんは、未緒ちゃんに近寄りました。
「聞こえてしまいましたね」
「はい」
 頷く未緒ちゃんに、レイさんは言いました。
「一緒に来ていただけませんか?」
「秘密を知った者を黙らせるには、その人を仲間に引き込むこと、ですね」
 未緒ちゃんは微笑みました。でも、それは幾分硬い微笑みでした。


 めぐみちゃんとでぇと カーテンコール
  第弐話 「仕事上の機密は守ります」



「レイです。失礼します」
 重厚そうなドアをノックして、レイさんは声をかけました。
 と、そのドアが音もなくすっと開きます。その中は小さなエレベーターになっています。
「如月さん、どうぞ」
「ここは?」
「お爺様のお部屋に通じる直通のエレベーターです。このドアは声紋登録された声にしか反応しないようになっているんですよ」
 そうレイさんが説明している間にも、エレベーターは静かに降りていきました。
 どれくらい潜ったのか、未緒ちゃんにもよくわからないくらいたってから、ドアが静かに開きました。
 そこは、意外に質素な事務室風のお部屋です。
「ここが、ですか?」
「ええ。お爺様はあまり派手なのは好みじゃないんですよ。落ち着かないとおっしゃいまして」
 そう答えながら、レイさんはソファを未緒ちゃんに勧め、自分もその隣に腰掛けました。
 と、奥の扉が開いて、一人の老人が出てきました。
「レイ、そして如月くん、よく来てくれたな」
「理事長さん、お世話になりました」
 未緒ちゃんは立ち上がると深々と頭を下げました。それから訊ねます。
「でも、私の名前をご存じでしたか?」
「無論だ。きらめき高校の全生徒の名前は儂の頭の中に収まっておる。今年の卒業生の名も、A組の相沢弘からJ組の渡辺慧子までちゃんと覚えておるぞ」
 そう言って笑うその老人こそ、きらめき高校の理事長にして伊集院コンツェルン総帥のレイさんのお爺さんです。
 お爺さんは笑いを止めると、二人の前に腰を下ろしました。
「早速だが、まだ箝口令がひかれて一般には知られておらぬのだがな、巨大な隕石が地球に向かっておるという報告が入った。NASAやロシア国防省、スイスのチューリッヒ天文台でも確認しておるそうだ」
 そう言うと、二人の前のテーブルにポンと紙束を放り出します。右上に麗々しく丸秘マークやらTOP SECRETやらEYES ONLYやらのハンコがぺたぺた押してあるそれを見て、未緒ちゃんは聞き返しました。
「拝見してもよろしいのでしょうか?」
「うむ」
 そう頷いた時、不意にノックの音がしました。
「あのぉ、どなたかいらっしゃいますかぁ?」
 その声を聞いて、レイさんと未緒ちゃんは顔を見合わせました。
「古式さん!?」
 お爺さんは立ち上がると、ドアを開けました。そして顔をほころばせます。
「古式のお嬢ちゃん、ひさしぶりじゃのう」
「あらまぁ、これはレイさんのお爺様ではありませんか。ご無沙汰しております」
 ゆかりちゃんは丁寧に頭を下げました。
 そんな二人を見ながら、レイさんは首をひねるのでした。
「ここに来るまでに何重ものセキュリティがあるはずなのに……。どうやって来たのかしら?」
「美味しかったね」
「ああ。またいつかみんなで食べに来ようぜ」
 焼き肉屋から出てきて、沙希ちゃんたちは道を歩いていました。
「じゃ、これからカラオケ行こっか?」
 夕子ちゃんが言うと、彩子ちゃんと優美ちゃんが両手をあげて賛成しました。
「ソーグッド! 行きましょう」
「優美だって負けないもん! こないだ覚えたんだからね。あっにっめーがなんだぁ〜」
「こら優美、こんなところで歌うなよ!」
「ふーんだ、お兄ちゃんのケチィ」
「まぁまぁ。沙希はどーすんの?」
 夕子ちゃんに聞かれて沙希ちゃんは考え込みました。
「うーん。あんまり歌は上手くないんだけど……。ま、いいかぁ」
「よし、決まりぃ。望は?」
「そうねぇ。明日は練習も休みだから、付き合ってもいいぜ」
 望ちゃんは笑って言いました。夕子ちゃんはパチンと指を鳴らしました。
「これでバッチね。んじゃ、さくっと行ってみよう!」
「おー!」
 みんな声を合わせて叫びました。
「あ、そーだ!」
 不意に夕子ちゃんはポンと手を打ちました。そして振り返ります。
「みんな、先に行っててくれる? あたし、見晴呼んでくっからさ」
「見晴ちゃん? いいわよ」
 沙希ちゃんは笑って頷きました。
 夕子ちゃんは好雄くんに言いました。
「んじゃ、カラオケ7のパーティールーム取っといてね」
「オッケイ、任せとけ」
 好雄くんは答えました。夕子ちゃんは電話ボックスに走ります。
 トルルルル、トルルルル
「見晴、電話よぉ」
 晴海さんはそう言うと、くいっとワイングラスを空けました。
「んもう、お姉ちゃんったら、すぐにかーいそうな妹を使うんだからぁ。それにお姉ちゃんの方が近いでしょ!」
 右手にバンデージを巻きながら、見晴ちゃんは言い返しました。
「ちぇー、もう見晴のケチ」
 そう言いながら、晴海さんは受話器を取りました。
「はい、館林です。こないだ大通りの角に美味しいケーキ屋さん見つけちゃった。目つきが怖いの」
「わぁーっ! やめてぇぇ!!」
 慌てて見晴ちゃんは、ダイニングキッチンを飛び越えて駆け寄ると、晴海さんから受話器を奪い取りました。
「あ、もしもし、失礼しましたぁ」
「今の先生? もう、超びっくりしたぁ」
 受話器の向こうから聞き慣れた声がして、見晴ちゃんはちょっとホッとしました。
「あん、なんだぁ、タコかぁ」
「タコタコ言うなぁ!」
 夕子ちゃんは電話ボックスの中で拳を振り上げました。
「ええー? だって似合ってるじゃない」
 笑いながら答えた見晴ちゃんに、夕子ちゃんの声が聞こえました。
「そんなこと言っていいのかなぁ? コ・ア・ラ・のリ・ボ……」
「きゃあきゃあやめてぇぇぇ!!」
 慌てて叫ぶ見晴ちゃん。夕子ちゃんはちょっと受話器を耳から離して、本来の用件を思い出したようです。
「そーだそーだ。見晴をからかうために電話したんじゃなかったんだっけ。あのさ、あたし達、今からカラオケ行くんだけど、見晴も来る?」
「え? カラオケ? うーん、どうしようかなぁ」
 ピクリ
 晴海さんがワイングラスを傾ける手を止めました。美鈴ちゃんと千晴ちゃんも、サラダボールにフォークを突っ込んだまま、動きを止めます。
 そう、我らが館林一家は、無類のカラオケ大好き一族だったのです。しかも、ここのところ千晴ちゃんが受験だったので、しばらくカラオケには行っていません。
「見晴、ちょっと貸しなさい」
 晴海さんは、受話器を見晴ちゃんからひったくりました。
「もしもし、朝日奈さん? 私、保健室のアイドルだけど」
「へ? 誰だっけ?」
「ほほー。そーゆーこと言っていいのかなぁ? そういえば、2月だったかしら。確か前の日と同じ服で登校したカップルがおりましたわねぇ。一体何をしてらっしゃったのかしら?」
「きゃーきゃーきゃー! ごめんなさい、お姉さまっ!」
 卒業してもやっぱり晴海さんには逆らえないようですね。
「じゃ、私と見晴と美鈴と千晴の4人で行くから。朝日奈さんってことはカラオケ7でいいのね?」
「そーそー。そーくると思ったから、パーティールーム取ってあるから」
「任務了解。じゃ、すぐに行くわね!」
「あーっ! センセ、センセ!」
 切ろうとした晴海さんを夕子ちゃんは呼び止めました。それから小声で言います。
「あのことは、みんなにチクっちゃやだかんね! 絶対だよ!」
 おやおや。お顔が真っ赤になっていますね。
 晴海さんはにっこりと笑って答えました。
「仕事上の機密は守りますって。お姉さんを信じなさい」
(それが一番信用できないんだけどなぁ)
 3人の妹達は同じことを思うのでした。
「んじゃ、すぐ行くわ」
 そう言って電話を切ると、晴海さんはポケットから東方不敗キーホルダーを出しました。そのキーホルダーに愛車ミニクーパー、通称“たてばー丸”の鍵がついているのです。
「おねーちゃん!」
 慌てて見晴ちゃんが叫びました。
「車で行くの?」
「そーよ」
「飲酒運転はダメです!」
 美鈴ちゃんがきっぱりと言いました。そして千晴ちゃんがうるうるします。
「ああ、せっかくこれから希望に満ちた高校生活が待っているっていうのにぃ。千晴、不幸だわぁ」
「あーもうわかったわよ。歩いて行くわよ、歩いて」
「……せめて電車使おうよ、晴海姉ぇ」

《続く》

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