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Date with mistress Megumi
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「んじゃ、すぐ行くわ」
そう言って電話を切ると、晴海さんはポケットから東方不敗キーホルダーを出しました。そのキーホルダーに愛車ミニクーパー、通称“たてばー丸”の鍵がついているのです。
「おねーちゃん!」
慌てて見晴ちゃんが叫びました。
「車で行くの?」
「そーよ」
「飲酒運転はダメです!」
美鈴ちゃんがきっぱりと言いました。そして千晴ちゃんがうるうるします。
「ああ、せっかくこれから希望に満ちた高校生活が待っているっていうのにぃ。千晴、不幸だわぁ」
「あーもうわかったわよ。歩いて行くわよ、歩いて」
「……せめて電車使おうよ、晴海姉ぇ」
めぐみちゃんとでぇと カーテンコール
第参話 「温泉かぁ」
見晴ちゃんたちがカラオケ7に着いたのは、そんなこんなで、夕子ちゃんの電話を受けてから1時間ほどたってからでした。
一同がパーティールームに近寄ると、みんなが合唱してるのが聞こえてきました。
♪キラキラと木漏れ日の中で
二人の時が流れていくわ
あんなにもあこがれ続けた
笑顔のそばに私がいる
「おお、304−35」
晴海さんはポンと手を叩きました。そして、ドアの外で立ち止まりました。
「晴海姉ぇ、入らないの?」
「基本的には、歌ってる最中に乱入するのはマナーに反するのよ。歌い終わるまで待つのが基本」
美鈴ちゃんの質問に、もっともらしいことを言う晴海さんです。
と、パタンとドアが開いて、夕子ちゃんが顔を出しました。
「あ、来た来た。はい、見晴。これ」
「え?」
見晴ちゃんは急にマイクを渡されてあたふたしています。そんな見晴ちゃんを夕子ちゃんはお部屋に引っぱり込みました。
「ほら、ちょうどいいとこじゃん」
「え? あ、うん」
ちょうど間奏が終わるところでした。この曲はよく知っている見晴ちゃん、マイクを両手できゅっと握って歌います。
♪不思議な運命の 巡り合わせに
心から感謝したい
まだ二人は始まったばかり だけど
この想い 変わらない 永遠に
みんなが一斉に合唱します。ちなみにバックコーラス担当は、二人のカラオケ巧者夕子ちゃんと彩子ちゃんです。
♪この胸のときめき(ときめき)
溢れる思いを(思いを)
抱きしめてたい いつまでも
あなたと二人きりで
きらめく二人の時
最後にみんなで歓声を上げるのは、foreverバージョンの基本ですね。
みんなでパチパチと手を叩く中、晴海さんが見晴ちゃんからマイクを取り上げました。
「みんな、今日は私のために集まってくれてありがとう! それじゃ、不肖私、館林晴海が大人の女の魅力を存分に見せてあげるわね」
「待ってました!」
「おねぇさまぁ!」
みんなやんやの喝采です。晴海さんは、リモコンのボタンをぴっぴっと入れて、言いました。
「じゃ、いくわよぉ! “納豆の歌”!」
「……?」
みんな、思わず顔を見合わせました。さすが晴海さん、レパートリーが広いですね。
♪納豆を美味しくたーべるにはhaha
納豆を美味しく食べるにはぁ
その頃、伊集院邸の地下では、もっと差し迫った会話が交わされていました。
レイさんは、見ていた書類から顔を上げました。
「この書類に記載された報告が事実なら……。この隕石は、地球に落下する可能性が高いということですね。まだ何処に落下するかは判らないけれど、このままの軌道を取った場合、地球に到達するのは1週間後……」
「何か方法はないのですか? 隕石を破壊するとか」
未緒ちゃんが訊ねました。
「そこでだ、レイ」
お爺さんは、レイさんに言いました。
「はい、何でしょうか?」
「おまえにこの隕石に対する対応をすべて任せる」
「……今、なんと?」
思わず、目をぱちくりさせて、レイさんは聞き返しました。
ゆかりちゃんがぽむと手を打ちました。
「まぁ、伊集院さんが、この隕石をどうにかしてくださいますのですね」
「ゆかりさん、それは……。お爺様、ご冗談はおよしになってください」
「冗談ではないぞ」
お爺さんは、レイさんに鋭い眼光を向けました。
「レイ、よく聞きなさい。おまえはいずれ、この伊集院財閥を背負っていかねばならん。それは、我が伊集院財閥の関係者と、その家族のすべてを背負うということじゃ。人の命を背負うということじゃよ。
おまえは高校を卒業した。この3年の間、ただ高笑いしていたわけでは無かろう? だったら、それなりのことを、この爺に見せてくれ」
お爺さんは口調を和らげました。
「もっとも、そのレポートに対処方法はいくつか載っておる。おまえはその中から選べば良いだけじゃよ。もっとも確実な方法をな」
レイさんは少し目を閉じて考え込みました。
ゆかりちゃんは、レイさんの膝の上に置いた手が、ぎゅっと固く握り締められているのに気がつきました。そっと、その手を握ります。
「……ゆかりさん」
「伊集院さん、わたくしたちが、きらめき高校で学んだことって、何だったと、思いますか?」
「きらめき高校で、学んだこと?」
「勉強ばかりしてたわけじゃ、ないですよね」
未緒ちゃんも、微笑みました。
レイさんは頷きました。そして、お爺さんに言います。
「わかりました。微力を尽くします」
カラオケ7では、晴海さん達を迎えてますます盛り上がっています。
今おりしも夕子ちゃんが歌い終わったところでした。
「あー、疲れた。この歌呼吸困難になるっぽいのよねー。はい、次は沙希ね」
「え? ちょっと恥ずかしいな」
夕子ちゃんにマイクを押しつけられて、沙希ちゃんは頭を掻きました。
「あたし、そんなに歌うまくないし」
「ワッツセイ、またまたぁ。じゃあ、沙希の18番、行ってみよう! ポチッとな」
そう言いながら、彩子ちゃんがリモコンを押します。
「へぇー。虹野さんの歌って、初めて聞くなぁ」
「ちょっとしたもんだから」
夕子ちゃんは、好雄くんの隣りに座りながら笑いました。沙希ちゃんがぷっと膨れます。
「んもう。ひと事だと思ってぇ」
「聞こえない聞こえない。んじゃ、サクッと行ってみよう!」
「笑わないでよぉ」
沙希ちゃんがそう言うと同時に、画面に映っていた「検索中です」の文字が消えました。
大きく息を吸い込んで、沙希ちゃんは歌います。
♪Revvin' up your engine
Listen to her howlin' roar
Metal under tension
Beggin' youto touch and go
Highway to the Danger Zone
Ride into the Danger Zone
「ほへぇ〜」
「うわぁ、虹野先輩、すごぉい」
初めて沙希ちゃんが歌っているのを聞いた見晴ちゃんと優美ちゃんは、びっくりしています。
そして、好雄くんはいつもの癖でチェックしようとポケットに手を伸ばしかけて、苦笑しました。
「そうか。手帳はもうないんだっけ」
そんな好雄くんを、夕子ちゃんはにこにこしながら見つめていました。
♪Headin' into twilight
Speasdin' out her wings tonight
She got you jumpin' off the deck
And shown' into overdrive
沙希ちゃんは、気持ちよさそうにシャウトしてます。ちょっといつもの控えめな沙希ちゃんからは想像できませんね。
さてこちらはめぐみちゃんのお家。
めぐみちゃんがいつも寝ている大きなベッドは、ぬいぐるみを全部片づけると、詩織ちゃんと二人で並んで寝ることができます。
二人は一つ毛布にくるまって、おしゃべりしていました。
「そうなんだ。旅行かぁ」
詩織ちゃんの羨ましそうな声に、めぐみちゃんは微笑みました。
「うん。卒業記念に……。だけど、あのね……」
「え? どうしたの?」
「詩織ちゃん、実は今日詩織ちゃんを呼んだのはね……」
「ははぁ、わかったわ。公くんと一緒に行きたいから、私から公くんに伝えてほしいってことね。やぁね、メグってば」
「ち、違いますぅ」
「隠さなくってもいいのよ。そっかぁ、メグもいよいよ大人の階段を登っていくのねぇ。やっぱり親友としては応援しなくっちゃ……」
そこまで言って、詩織ちゃんは慌てて手を振りました。
「冗談、冗談よ。冗談だからムクは置いておきなさいって!」
めぐみちゃんは無言で抱き上げていたムクを、ベッドの下のバスケットに戻しました。そして、詩織ちゃんに言いました。
「だから、もし良かったら、詩織ちゃんも一緒に行かないかなって思って」
「いつなの?」
「急なんだけど……明日から、2泊3日で……」
「そっかぁ」
詩織ちゃんは少し考えて、めぐみちゃんの方に顔を向けました。
「いいわよ、メグ。確か、別に用事も入ってなかったしね。で、何処に行くの?」
「あ、そっかぁ。見晴ってば、もうすぐ誕生日だったよね」
夕子ちゃんはポンと手を打ちました。
「うん。3月3日、ひなまつり生まれなんだ」
見晴ちゃんはこくりと頷いて、ウーロン茶を飲みました。
「そっかぁ。こりゃ、お祝いしなくっちゃね!」
「え? いいよぉ、別に」
「遠慮なんてしなくてもいいわよ」
沙希ちゃんがにこにこ笑いながら言いました。そして、夕子ちゃんに訊ねました。
「で、どうするの?」
「うーん、どうしよっかぁ」
考え込む夕子ちゃんの前に、晴海さんがポケットから出したものを見せます。
「じゃじゃーん」
「え? なになに、それ?」
「チケットね。何のチケット?」
脇から彩子ちゃんがのぞき込みます。
夕子ちゃんはそのチケットを受け取って、読み上げました。
「“超極上高級ホテル・ゆけむり第一ホテル2泊3日宿泊券”あーんど“ゆけむり温泉郷共通温泉入浴券”セット?」
「はいはい、ずらずらと10セットほどありまぁす」
トランプのカードを広げるように広げて見せる先生です。
「先生、どーしたんですか、これ?」
沙希ちゃんが訊ねました。先生は肩をすくめました。
「伊集院くん……もとい、伊集院さんにもらったのよ」
晴海さんはご存じの通り、きらめき高校の保健教諭です。当然レイ“くん”の秘密を知っていたのですが、お約束通り3年の間ちゃんと隠し通してきました。
最初、伊集院家からは特別謝礼としてかなり高額のお金が渡されるはずでしたが、晴海さんは「そんなものいらないわよ」と一蹴し、その代わりにレイさんは、この宿泊券セットを渡したのでした。
もちろん、そんな裏事情は説明したりしない晴海さん。オトナですねぇ。
「私は仕事があって暇がないのよ。みんなで行ってらっしゃいよ」
「超ラッキー! ちょうど暇だったんだ!」
「おまえはこれからずっと暇だろうが!」
歓声を上げる夕子ちゃんに、横から好雄くんが突っ込みます。そうです、三流大学の試験にも落ちちゃった夕子ちゃんは、これから1年予備校通いが決まってしまったのでした。
「あー、よっしーだって同じじゃないのぉ!」
ぷっと膨れる夕子ちゃんに、その部屋に集まったみんなはどっと笑いました。
二人を除いて。
「いーもん。優美はまだ学校だもん」
「強く生きようね、ゆー」
「うん、みーちゃん」
部屋の片隅で手を取り合う、まだ2年生で明日からも授業がある早乙女優美ちゃんと館林美鈴ちゃんでした。
ちなみに、千晴ちゃんは一緒にきゃいきゃいと喜んでいます。どうやら一緒に温泉に行くつもりみたいですね。
「温泉かぁ。いいわねぇ」
めぐみちゃんのお話を聞いて、詩織ちゃんは両手を組んでその上にあごをのせると、うっとりと目を細めました。
「ちょうどね、お母さんが商店街の福引きで招待券を当てたの。それでね、私がちょうど卒業だったから、卒業旅行にちょうどいいから、お友達と行ってらっしゃいって」
めぐみちゃんはそう言うと、ぽふっと枕に顔を埋めました。そして小声で何かつぶやきます。
詩織ちゃんはそのめぐみちゃんの頭をぐりぐりしました。
「聞こえたわよぉ、メグぅ」
「え? や、やだ、詩織ちゃんってばぁ」
めぐみちゃんは真っ赤になってしまいました。一体何を言ったんでしょうね?
「核ミサイルを使う、ですか?」
未緒ちゃんは聞き返しました。
レイさんは頷くと、報告書をポンと叩きました。
「核ミサイルを隕石に一点集中させ、隕石そのものを破壊します。このレポートにも、それがもっとも確実性の高い方法として載っています。それに、今は核の削減がトレンドですから、各国も協力してくれるでしょう」
「してくれますか?」
「というよりも、せざるを得ないでしょうね。アメ○カもロ○アも、○国や北○鮮だって、地球そのものが消滅しては意味がないでしょうしね」
そういうと、レイさんはお爺さんの方に向き直りました。
「お爺さま。各国へのホットラインをお願いします。残念ながら、私が話したのでは、まだ発言を真摯に受け止めてもらえないでしょうから」
「ほっほっほ。餅は餅屋に、じゃな、レイよ。それで良いんじゃ。自分に出来ることと出来ないことの見極めは大事じゃからな」
お爺さんは笑い声をあげました。
こうして、“プロジェクト・メテオバスター”は、一般市民の知り得ないところで、密かに開始されたのでした。
しかし、後にレイさんは後悔することになります。
ある知り合いに相談しなかったことに。
ピーッ
コンピュータのたてる微かな音に、結奈さんは眉をひそめました。
「ペンタゴンからノーラッドへの緊急通信?」
ディスプレイに文字が並びます。
「暗号電文……“月は出ているか?”……馬鹿なことを」
そう呟くと、結奈さんは鎧戸を押し開けました。
そこからは、満月がよく見えます。
そのお月様を見上げながら、結奈さんは呟きました。
「私が世界を革命……もとい、征服するまでは、保ってくれないと困るのだけどね」
《続く》

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