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Date with mistress Megumi
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さて、翌日の月曜日。
きらめき駅に最初にやってきたのは沙希ちゃんでした。
きらめき駅の前にはバスロータリーがあります。その真ん中には、大きなモニュメントが朝日を反射してきらめいています。
沙希ちゃんはそのモニュメントを、一瞬懐かしそうな目で見ました。
「そういえば、よくここで公くんと待ち合わせしたなぁ……」
と、感傷にふけっていた沙希ちゃんの頭が後ろからいきなりはたかれました。
スパァン
「グッモーニン、沙希。ハワユー?」
「あ、彩ちゃん? んもう、びっくりしたじゃないのぉ」
後頭部を撫でながら、沙希ちゃんは振り返りました。
「ソーリー、ごめんねぇ。沙希が朝からぼーっとしてるから、寝てるのかと思っちゃったわよ」
彩子ちゃんは、軽装で大きなスケッチブックを抱えています。どうやら、これで沙希ちゃんの頭を叩いたみたいですね。ちなみに、沙希ちゃんは大きなリュックを背負っています。
「なぁに、沙希。そのビッグなナップザックは?」
「あ、これ? ちょっと早く目が覚めちゃったから、みんなのお弁当を作ってきたの。列車の中で食べましょう」
沙希ちゃんはにこにこしながら言いました。さすが気配りの人ですねぇ。
彩子ちゃんは時計を見上げました。
「待ち合わせは8時よね?」
「うん。あと10分くらい……」
沙希ちゃんがそう言いかけたとき、駅の出口の方から望ちゃんが飛び出してきました。
「お、早いね、二人とも」
「おはよう、清川さん。今日もロードワークしてきたの?」
そう沙希ちゃんが訊ねると、望ちゃんは当然というように頷きました。
「日々の鍛錬が大切だからね」
「さすが、根性あるわよね、清川さんって」
めぐみちゃんとでぇと カーテンコール
第四話 「わたくし、幸せになります」
「で、後は誰だい?」
望ちゃんに聞かれて、彩子ちゃんは指を折りました。
「あとは、見晴ちゃんと千晴ちゃんと、夕子、かな?」
「そりゃないぜ、セニョリータ。この元・愛の伝道士をお忘れとは……」
そう言いながら、好雄くんが駅から出てきました。おやおや、何となくふらふらしているようですね。
「ど、どうしたの、早乙女くん?」
慌てて沙希ちゃんが駆け寄りました。そのまま転げかかる好雄くんを支えます。
「いや、優美のやつがうるさくてよぉ、ひどい目に遭ったぜ」
そう言いながらも、好雄くんのお顔はゆるんでいます。
小柄な沙希ちゃんが好雄くんを支えてくれているので、好雄くんからは沙希ちゃんの胸元がよく見えるのでした。
(おお、意外とありげ。いやぁ、目の保養目の保養……)
「え? どうしたの?」
見られていることに気づいていない沙希ちゃんが顔を上げました。
「いやぁ、なんでもないですよぉ」
そう言いながらも、目がそこから離せない好雄くんです。
でも、いいんですか? そんなことをしてると……。
「あ! 夕子ちゃん!」
沙希ちゃんは、向こうから歩いて来る夕子ちゃんに気づいて手を振りました。
「げ」
「よっしぃぃぃ」
「わぁっ! エコー付きで迫るなぁっ!」
夕子ちゃんは、ずんずんと迫ってくると、問答無用で技を繰り出しました。
「バカバカバカバカバカ、バカーーーッ!!」
一気に相手の間合いに飛び込み、左右の連打で体勢を崩してから、思いっきり突き飛ばす。夕子ちゃんの奥義“キスキスキッス”です。
「おうわぁぁ!」
そのまま吹っ飛ばされた好雄くんは、頭からゴミ箱に突っ込んでしまいました。
「あー、すっきりしたぁ。おっはよぉー、みんなぁ」
晴れやかに笑ってみんなに手を振る夕子ちゃんを見て、彼女は怒らせないようにしようと思うみんなでした。
駆け寄ってくると、夕子ちゃんは辺りを見回しました。
「あれ? 見晴と千晴ちゃんは来てないの? んじゃ、あたしがラストじゃないわけね。超ラッキー!」
「ホント、珍しいわよね。夕子ちゃんが時間前に来るなんて」
「なによぉ、それ。超ムカァ」
笑って言う沙希ちゃんに、夕子ちゃんはむくれました。
と。
「ごめぇーーん、待ったぁ?」
とててっと見晴ちゃんが駆け寄ってきました。そして、みんなを見て一言。
「あ、ごめんなさい。人違いでしたぁ」
「そうなんだ。それじゃーね」
あっさりと手を振る夕子ちゃん。
「ううっ。ちゃんと突っ込んでよぉ」
「もう、絶対はずすからやめようよって言ったのにぃ」
そう言いながら、千晴ちゃんが大きなバッグを持って、歩いてきました。
「ファースト・オブ・オール、何はともあれ、これで全員揃ったわね?」
彩子ちゃんは一同を見回しました。そして、ぴっと駅を指しました。
「それじゃ、レッツゴー!」
「オーッ!!」
みんな声を上げました。そして、一同はきらめき駅に入っていくのでした。
きらめき駅8時15分発、特急ハイパーときめきスペシャルゴールデン2号。ちなみにネーミングが誰かは言わないでおきましょう。
何故か引率者状態になってしまった彩子ちゃん、列車のチケットを片手に車両の通路を歩いています。
「えっと、あたしが11Dだから……あ、あったあった。ここね」
ちなみに、席はこうなっています。
←進行方向 11 12
D 彩 見
C 沙 千
B 好 望
A 夕 △
「沙希、ほら手伝いなさいよ。椅子回しちゃうから」
「え? あ、うん」
「朝日奈さん達は無理に回さなくってもいいんだぜ」
望ちゃんが笑って言うと、夕子ちゃんは真っ赤になって、無言で椅子を回しました。
「おいおい、夕子」
ちょっぴり残念な好雄くんでした。
と。
「あらぁ? みんな、こんなところでどうしたの?」
聞き慣れた声が聞こえて、みんな驚いてそっちを見ました。
「藤崎さん、それに美樹原さんも……」
通路に立って、みんなを驚いた顔で見ていたのは、詩織ちゃんとめぐみちゃんでした。
「そっちこそ、どうしたの?」
彩子ちゃんが訊ねました。
「え? うん、実はね……」
プァン
汽笛の音を響かせて、列車は走り出しました。
ちょうどその頃、世界のあちこちから、核ミサイルが一斉に発射されました。目標はただ一つ。そう、接近してくる隕石です。
その様子を、レイさんは伊集院家の地下にもうけられた特設司令室で見つめていました。
報告が入ります。
「レイ様。初弾の着弾は22時間35分後。全弾が着弾するのは23時間15分後になります」
「そうですか。ご苦労様です」
「はっ」
と、監視オペレーターの一人が、悲鳴のような声を上げました。
「こ、これは!!」
「どうしました?」
レイさんが訊ねると、そのオペレーターは、数回頭を振って、もう一度画面を確認してから答えました。
「い、隕石が……」
「隕石が?」
「隕石が加速をはじめました」
「?」
レイさんは眉をひそめました。
「加速? 隕石が自然に加速するはずは……」
「ですが……」
「とにかく、事実を確認してください」
そう指示を下してから、レイさんは唇を噛みました。
もし、いきなり加速したのが事実なら、同じ速度で隕石が動いているものとして発射されたミサイルは外れてしまいます。
「確認しました。間違いありません。隕石は加速しています。このままでは、ミサイルは外れてしまいます」
「すぐに各国へ通達。ミサイルのうち、軌道修正が可能なものには軌道修正させてください」
そう命令を下してから、レイさんは考え込みました。
(隕石が突然加速したのは、偶然なのかしら。それとも……。まさか、ねぇ……)
「はぁ、そうですか。いえ、そんな。それでは、失礼いたします」
チン
電話を切ると、ゆかりちゃんはほっぺたに手を当てて考え込みました。
「見晴さんも愛さんも夕子さんもご旅行に行かれてしまったのですか。みなさんをお誘いして、公園にお花見に行こうと思っておりましたのに、残念ですねぇ……」
「ゆかり、どうした?」
「あら、お父さま」
ゆかりちゃんが振り向くと、ゆかりちゃんのお父さんがにこにこしてながら、立っておりました。
「実は、お友達をお誘いしたのですが、残念ながらご旅行に出かけられていらっしゃるとかで……」
「何? 友達とは、ま、まさか、あの主人とかいう奴ではあるまいな? いかんいかん、せっかく無事に卒業してあいつとはもう縁も切れたのだ、いいか、ゆかり……」
「まぁ、そうですねぇ。主人さんをお誘いすれば、よかったのですねぇ」
ゆかりちゃんはポンと手を打ちました。お父さん慌てます。
「い、いや、そうじゃなくてな。儂は……」
「どうもありがとうございました、お父さま」
ゆかりちゃんは深々とお辞儀をすると、にっこりと笑いました。その笑顔を見て何も言えなくなるお父さんでした。
「ゆ、ゆかりぃ〜〜」
情けない声を上げたときには、もうゆかりちゃんはお電話をかけておりました。その様子を見て、お父さんはさらにショックを受けるのでした。
(ゆ、ゆかりが何も見ないで電話をしておる! あいつの電話番号はもう覚えておるというのかぁぁぁぁ)
トルルルル、トルルルル
電話がベルを鳴らしました。公くんは受話器を取ります。
「はい、主人ですが」
「申し訳ありません。わたくし、古式ゆかりともうしますが、主人公さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「あれ? 古式さん? 俺、公だけど」
「まぁ、主人さんでしたか。どうも、ご無沙汰しております」
電話に向かって深々と頭を下げる、礼儀正しいゆかりちゃんです。
とはいえ、昨日が卒業式だったのですから、昨日の今日でご無沙汰っていうのもなんだか変なお話ですね。
「ま、まぁ、それはいいんだけど……。それよりも、今日はどうしたの?」
「はい、実は、主人さんさえよろしければ、今日一日お付き合いいただけないかと存じまして、失礼ながらお電話を差し上げた次第ですのですが、いかがでございますか?」
相変わらず丁寧なゆかりちゃんですね。
公くんはちょっと考えて、聞き返しました。
「もしかして、今日一日どこかに遊びに行こうかってこと?」
「はい、そうですよ」
ゆかりちゃんは嬉しそうに笑いました。
「いいよ。俺も暇だったし」
「まぁ、よかったです。あの、公園にお花見に行こうかと、思ったのですが、いかがでしょうか?」
「お花見? ちょっと早いんじゃないのかな?」
聞き返す公くん。確かに3月に入ったばっかりですから、お花見にはちょっと早いかもしれませんね。
「そうですか? それは残念です……」
哀しそうなゆかりちゃんの声を聞いて、公くんは少し考えました。そして、パチンと指を鳴らします。
「そうだ! ちょっと遠いけど、ゆけむり温泉郷だったら、早咲きの桜が確か咲いてたはずだよ」
「まぁ、ゆけむり温泉郷ですか? 懐かしいですねぇ」
公くんは壁に掛かった時計を見上げました。午前8時35分。
「今からなら、まだ日帰りできると思うけど、どう?」
「そうですねぇ、よろしいですよ」
(うっしゃぁ!)
思わずガッツポーズを取ってしまう公くん。まだ高校時代の癖が抜けないようですね。
「それじゃ、9時にきらめき駅の前で」
「はい、わかりました。遅れないよう、行きますので」
ゆかりちゃんはそう言うと、電話を切りました。
一部始終を聞いていたお父さんは、ゆかりちゃんに言いました。
「ゆかり、まさか本当にそのようなところへ行く気ではあるまいな?」
「お父様」
ゆかりちゃんは深々と頭を下げました。
「今までお世話になりました」
「ゆ、ゆかり!?」
「わたくし、今まで育てていただきましたご恩を一生忘れません」
「な、何を、おい、ゆかり、ちょっと、その、なんだ……」
うろたえまくるお父さんに、ゆかりちゃんはにっこりと笑って言いました。
「わたくし、幸せになります」
ガガーン
真っ白になるお父さんの後ろに、未緒ちゃんがプラカードを掲げています。
「あら、如月さん、おはようございます」
そうなんです。実は昨日、レイさんの家に遅くまでいたせいで未緒ちゃんは終電を乗り過ごしてしまったのです。
未緒ちゃんが困っているところに、ちょうどゆかりちゃんのお家の人が迎えに来たので、ゆかりちゃんの勧めもあって、未緒ちゃんは古式邸に泊まっていくことにしたのでした。
「古式さん、おはようございます。あの、なんだか呼ばれたような気がしたので……」
未緒ちゃんはプラカードを下ろしながらぽっと赤くなりました。どうやら照れくさいようですね。
と、ゆかりちゃんはポンと手を打ちました。
「そうですわ。如月さんも一緒に参りませんか?」
「何処に、ですか?」
「ゆけむり温泉郷にお花見に参りますの。主人さんをお誘いしたのですが、如月さんも一緒にいらっしゃいませんか?」
未緒ちゃんは、一瞬まじまじとゆかりちゃんを見つめました。
「どうして、私を誘うのですか?」
(主人さんと二人きりになれるチャンスだっていうのに……)
セリフの後半を言いかけて飲み込む未緒ちゃんに、ゆかりちゃんはいつものおっとりとした笑顔で微笑みました。
「だって、みんな一緒の方が、楽しいではありませんか」
ガガーン
思わず、自分の後ろにプラカードを掲げる未緒ちゃんでした。ついで、がっくりとその場にひざを付きます。
ぱぁっとスポットライトが未緒ちゃんに当たります。そのライトの中で、未緒ちゃんは顔を上げて言いました。
「私は、その時はっきりと、自分が負けたことを自覚しました。古式さんの人間の大きさの前に、私は自分の卑小さを見せつけられた思いだったのです」
まるで文化祭の時の弁論大会みたいですね、未緒ちゃん。
「では、行って参ります、お母さま」
「はい、行ってらっしゃい」
ゆかりちゃんのお母さんは、カチカチと火打ち石を打って、ゆかりちゃんと未緒ちゃんを見送ってくれました。
並んで歩きながら、未緒ちゃんはゆかりちゃんに訊ねました。
「それにしても、古式さんのお父さまはどうなさったんですか? あのまま固まってしまわれて……」
「はい。以前、夕子さんにお父さまのことでご相談いたしましたところ、お父さまに出かけるのを止められそうになったら、ああ言えばいいと教えていただきましたのですよ」
ゆかりちゃんはそう言ってにっこりと微笑みました。
《続く》

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