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 Date with mistress Megumi
Curtain-Call
 Date with mistress Megumi
Curtain-Call
 Date with mistress Megumi
  Curtain-Call

「おや、詩織。久しぶりだね」
 その声の主は、笑みを含んだ声で詩織ちゃんに話しかけました。
 詩織ちゃんは、両手で自分の肩を抱くようにしながら、ゆっくりと振り返りました。
 そこには、くすんだ金色の短い髪の少年が立っていました。
 彼は、眼鏡の位置を直すと、爬虫類を思わせる笑みを浮かべました。
「こんなところで、君に逢えるとはね」
 詩織ちゃんは、一歩後ずさりました。そして、ふるえる唇で呟きます。
「し……島田……、島田雄二……」
 その少年は、肩をすくめました。
「心外だね。呼び捨てとは」
「ど……どうして……?」
 さらに一歩後ずさる詩織ちゃん。
 彼は、そんな詩織ちゃんを無視して、視線を見晴ちゃんに向けました。
「それにしても、君には困ったものだね。大人しくしていてくれれば、僕も手荒なことはしなかったのだが」
「あなたには、関係ないでしょ」
 見晴ちゃんは憤然と言い放ちました。
「ほっといて!」
「そうもいかない。さっきも言ったように、僕には僕の計画があるんだから」
「計画? どういうこと?」
 聞き返す見晴ちゃん。
 彼は、もう一度肩をすくめました。
「そこまで言う必要もないだろう? とにかく、君たちは拘束させてもらう」
 そう言って、パチンと指を鳴らす彼。
 ザザッ
 不意にまわりの茂みから、変な連中が立ち上がりました。身体は筋肉隆々の男性のようなのですが、頭はコアラなのです。
「!」
 みんな、思わず息を呑みました。その隙をつくように、そのコアラ頭達は一斉にみんなに飛びかかってきたのです。


 めぐみちゃんとでぇと カーテンコール
  第拾弐話 「俺が言うよ」



「あー、ひでぇ目にあったぜ。誰も解いてくれないんだもんなぁ」
 首をコキコキと鳴らしながら、好雄くんはホテルの廊下を歩いていました。
 どうやら、簀巻き状態から一人で脱出することに成功したようですね。
「ま、夕子の奴の焼き餅と思えば、可愛いもんかな。えへ、えへへへ」
 おやおや。鼻の下がでれぇんと伸びていますね。
 と、そんな彼の前を、ホテルの従業員の服を着た男の人たちが10人ほど、大きな袋を抱えて無言で通り過ぎていきます。
「なんだろう? ゴミ掃除か?」
 それを何となく見送っていた好雄くんの顔に、袋からこぼれた何かが引っかかりました。
「なんだ?」
 それを取って、好雄くんは舌打ちします。
「髪の毛じゃねぇか。掃除したゴミをまたまき散らすなよな」
 そう呟いて、ぽいっと捨てようとした好雄くんの手が、ぴたりと停まります。そして、好雄くんはそれをもう一度、じぃっと見つめました。
 ちょっと硬めのまっすぐな赤い髪の毛です。
「まさか、なぁ」
 肩をすくめて、好雄くんはそれをぽいっと放り捨てました。
 その頃。
 ホテルの一室に、見晴ちゃんと島田くんはいました。
 コアラ男2人がかりで、見晴ちゃんは椅子に押さえつけられています。
 その前の椅子に座って足を組みながら、島田くんは笑みを浮かべます。
「まさか、君が持っていたとはね」
 その手でもてあそんでいるのは、見晴ちゃんが晴海さんからもらったあのペンダントです。
「返してよぉ!」
 立ち上がってそれを取り返そうとする見晴ちゃんですが、後ろからコアラ男に肩を押さえつけられていて、立つこともできません。
「長かったよ。これを手に入れるまで、ずいぶんかかったからね」
 そう言うと、島田くんは立ち上がり、窓に歩み寄りました。
 窓の外には、ゆけむり温泉郷の夜景が広がっています。
 その夜景を見下ろしながら、彼は独り言のように呟きました。
「精霊石。無限のエネルギーを秘めたこの石を手にしたものは、世界をも支配できるという……」
「違う! その石はそんなためのものじゃないもの!!」
 見晴ちゃんは叫びました。
 島田くんは振り返りました。
「いや、違わないさ。君はこの石の本当の価値を知らないだけだ」
 見晴ちゃんはひるまずに言い募ります。
「それに、それはあなた達には使えないものよ! どうしてそれのことを知ったのか知らないけど、あなたには……」
「そう、確かに地球人にはこれを使うことはできないよ。こういう風には、ね」
 そう言うと、島田くんはペンダントを握りしめ、目を細めました。
 ビシッ
 かすかな音がしたかと思うと、見晴ちゃんの着ていたブラウスが、一瞬にして裂けて飛び散ります。
「きゃぁ!」
 見晴ちゃんは、上半身下着だけというあられもない姿にされてしまい、思わず悲鳴を上げました。
 薄く笑う島田くん。
「安心しなよ。君には興味はない。どちらかといえば詩織の方が好みなんでね」
「ひ、ひどい……」
 真っ赤になって島田くんを睨み付ける見晴ちゃん。そんな見晴ちゃんに、島田くんは笑みを浮かべて言いました。
「そういえば、君のお友達は今頃大変だろうなぁ」
「え?」
「いや、僕の部下達が彼女たちを欲しいって言ってたから、あげたんだよ」
 その言葉を見晴ちゃんが理解するのに、一瞬間が空きました。
「あげたって……」
「ああ。今頃お楽しみだろうね」
 島田くんはそう言って、くすくすと笑いました。見晴ちゃんには、そんな島田くんを睨み付けることしかできなかったのです。
 ホテルのパーティールームには、内側から鍵がかけられていました。
 どさっ
 床に投げ出された大きな袋の数は10あまり。それを見下ろして、男達は頭にかぶっていたコアラのマスクを脱ぎました。
「まったく、楽じゃないなぁ」
「でも、金は十分もらえるし、こんなお楽しみもあるしなぁ」
「そうだな。あ、俺その青いショートがいいな」
「じゃ、俺はこのお下げの娘な」
 そう言いながら、男達は袋から中身を引っぱり出します。
「ん〜〜〜!!」
 猿ぐつわをされて、動けないように縛り上げられた彩子ちゃんたちが、袋から引きずり出されます。
「それじゃ、いただくとするかな」
「じゃ、俺から」
 そう言うと、男の一人がナイフを出します。そして、夕子ちゃんの傍らにかがみ込みました。
「おっと、暴れるんじゃないぜ。暴れると、血を見るぜ」
「どっちにしても、血は出るんだけどな。おっと、出ないのかな?」
 そう言って、下品な哄い声をあげる男達。
 夕子ちゃんの顔が真っ赤に染まります。
「ん〜〜〜!!」
「さて、と」
 その瞬間、ドアの外から声が聞こえました。
「グレート好雄キィーーーーック!!」
 その瞬間、夕子ちゃんの瞳が喜びに見開かれました。
(よっしー!! 助けに来てくれたんだ!!)
 ポキ
「痛ぇぇぇーー! 骨が折れたぁぁ!!」
 がっくりと肩を落とす夕子ちゃん。
(……そういうやつだったぁ……)
「おい」
「ああ」
 男達は顔を見合わせて、ドアを開けました。そして、好雄くんを引きずり込みます。
「てめぇ、来い!」
「痛い痛い! ちょっとやめてぇぇ」
 情けない声を上げてながら、引きずり込まれた好雄くんは、部屋の中を見回して、夕子ちゃんに視線を止めました。
「夕子!!」
 叫ぶと、好雄くんは男の手を振りほどこうとしました。
「おっと。そうか、知り合いってか」
「さしずめ、お姫様を助けにきたナイトってところか。けなげなことだよな、おい!」
 ガツッ
「ぐふっ」
 お腹に蹴りをたたき込まれ、好雄くんは身体をくの字に折って呻きます。
「そうだ。こいつの目の前で、この娘を犯っちまうってのはどうだ?」
「へへ、いいかもしれねぇなぁ」
「んん〜〜〜〜〜!!」
 男達は頷きあうと、夕子ちゃんに手を伸ばしました。
「や、やめろぉっ!!」  好雄くんはお腹を押さえながらも、よろよろと立ち上がろうとします。でも……。
 ドカッ
「ぐぅっ」
 その後頭部に、別の男が組んだ両手を振り下ろしました。好雄くんは、そのままその場に崩れ落ちるように倒れてしまったのです。
「うぅ〜〜っ!!」
 夕子ちゃんは叫びながらもがきますが、固く縛られた縄も猿ぐつわも解けません。
「へっへっへ。それじゃぁ、お楽しみたーいむ」
 下品に笑いながら、男が夕子ちゃんの服に手を掛けようとしました。
 その時です。不意に部屋の隅の方からよく通る声がしました。
「お待ちなさい!!」
 男達が一斉に声の方を見ます。そして思わず声を失います。
 そこには、原色バリバりのヒラヒラした服をまとい、目にバタフライマスクを付けた小柄な女の子が立っていました。
「だ、誰でぇ?」
 ようやく一人が声を出します。
 彼女は颯爽と答えます。
「通りすがりの魔法少女です!」
「な、なんだとぉ!?」
 彼女は、手にしたこれまた原色バリバリ、ご丁寧に先にハートマークの飾りまでついたステッキをぴっと男達に向けました。
「純真無垢な乙女達への乱暴狼藉、たとえ作者が許しても、この私が許しません! 愛と正義の魔法少女マジカルカレン、正義の名の下に、可憐に見参っ!!」
 おお、ぴしっとポーズまで決めていますね。
 思わず拍手する男達。
 魔法少女マジカルカレンは、ステッキを一振りします。
「プリティーハート、ラブリーシェイキング!!」
 バラバラバラッ
 ステッキの先から、ハート型をした光の玉がばらまかれ、男達に命中したかと思うとバリバリと電流を流します。
「ぎゃー」
 次々と倒れる男達を見やって、彼女はびしっとポーズを決めます。
「おしおき完了! さて、みんな大丈夫? いまほどいてあげるね」
 そう言いながら、ステッキをひと振りすると、みんなを硬く縛っていた縄と猿ぐつわがぱらりとほどけます。
「花恋ちゃん!」
 縄を払い落として立ち上がった詩織ちゃんが声をかけます。ぴしっと凍り付く魔法少女。
「わわわわ私は稀城花恋ではないわ! 魔法少女マジカルカレンよ!!」
 みんな顔を見合わせました。そして、代表して詩織ちゃんが言います。
「誰もフルネームなんて言ってないんだけど……」
「え? そ、そうかな? 忘れちゃった。それじゃ、私はこれで。あ、私は花恋じゃないわ。魔法少女マジカルカレンだから、そこのところ、間違えないようにね! それじゃ!!」
 ぼうん、と煙が上がったかと思うと、花恋ちゃ……もとい、魔法少女マジカルカレンの姿はかき消えました。
(そういえば、日本に帰ってきてるって水野くんが言ってたなぁ。花恋ちゃんったら、魔法の腕は上がっても、相変わらずなんだから)
 思わずくすっと笑ってしまう詩織ちゃんでした。
「よっしー!!」
 夕子ちゃんは、好雄くんに駆け寄りました。
 好雄くんは弱々しく笑いました。
「ざまぁねぇな。やられちまったぜ」
「ホントに、ウルバカなんだから!」
 そう言いながら、傍らにひざを突くと、夕子ちゃんは好雄くんをそっと抱き上げました。
 そして、きゅっと抱きしめます。
「でも、ちょっとカッコよかったぞ」
「へへ」
 照れたように笑う好雄くん、そのまま夕子ちゃんの胸に顔を埋めます。
「あ、あん、やだ、こんなところで……」
「もう少し、このまま……」
「ちょいなぁー!!」
 ドゲシィィ
 いきなり脇から蹴り飛ばされて、好雄くんは吹っ飛びました。
 優美ちゃんが腰に手を当てて言います。
「朝日奈先輩。騙されちゃだめれすよ。お兄ちゃん、優美のもっとすごい技だって平気な顔して受けてるんれすから!」
「へ?」
 一瞬虚を突かれた顔をした夕子ちゃん、優美ちゃんの言葉の意味を悟って眉をしかめます。
「そ〜〜〜か。お芝居だったってわけね」
「あ、いや、マジに痛かったって。こら、ここ靴跡がついてるだろ?」
「この、ぶぁかぁ!!」
 どっかぁん
 好雄くんは吹っ飛ばされました。夕子ちゃん、憤然として腕を組みます。
「心配して超損したぁ!」
「で、これからどうすんの?」
 しばらくして、好雄くんをしばくのにも飽きた夕子ちゃんが訊ねました。
「見晴さんが、心配ですねぇ」
 ゆかりちゃんが、のんびりと言いました。
 詩織ちゃんは部屋を見回します。
「館林さん以外は全員いるわよね?」
「はーい、優美もいまぁす」
 まだのびている男達を望ちゃんと一緒に縛り上げながら、優美ちゃんが手を挙げました。
「ところでさ、藤崎さん」
「え?」
 聞き返した詩織ちゃんに、夕子ちゃんは訊ねました。
「さっき、島田のやつに逢ったとき、妙にうろたえてたじゃん。前に何かあったの?」
「!!」
 不意に、詩織ちゃんは目を見開いてその場に立ちつくしました。
「わ、わたし、……何もない、何もないよ!」
「詩織ちゃん!」
 めぐみちゃんが駆け寄りました。
 詩織ちゃんは、糸が切れたマリオネットのようにかくんとその場に膝をつきます。そして、自分の顔を両手で挟んでがたがたとふるえ出しました。
「あ、ああ、あああ……、い、いや、いやぁぁぁ!」
 どすっ
 重い音と共に、詩織ちゃんはその場に倒れ伏しました。めぐみちゃんはびっくりして、顔を上げました。
「ゆかりちゃん……」
「当て身ですから、心配はないですよ」
 ゆかりちゃんはにっこりと笑いました。そして、意識を失った詩織ちゃんをゆっくりと丁寧に床に寝かせ直すと、首を傾げました。
「それにしても、何があったのでしょうか? 藤崎さんは、あの男の方をずいぶんと怖がっているような印象を受けるのですが……」
「夕子は何か知ってるの? あたしは、あの人、よく覚えてないんだけど……。前に学校で何回か見たことはあるような気がするんだけど、きらめき高校の生徒だったの?」
 沙希ちゃんが夕子ちゃんに訊ねました。
 夕子ちゃんが答えようとしたとき、不意に夕子ちゃんの右手がぎゅっと握られました。
「夕子、俺が言うよ」
「よっしー……」
 夕子ちゃんの手を握ったまま、好雄くんは身を起こしました。そして、静かに話しはじめました。
「あいつの名前は島田雄二。俺達と同じきらめき高校の生徒だった。1年前までは、な」

《続く》

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