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Date with mistress Megumi
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「朝日奈さん、伊集院さんの電話番号知ってる?」
「うん、知ってるけど。ちょい待って」
詩織ちゃんの質問に答えて、夕子ちゃんはウェストポーチからアドレス帳を出してめくり始めました。
「詩織ちゃん……」
心配そうに詩織ちゃんを見るめぐみちゃんに、にこっと笑って詩織ちゃんは答えました。
「大丈夫よ、メグ。私、もう泣かないわ。公くんを助けるまで!」
そして、拳をぎゅっと握って、詩織ちゃんは窓の外を見つめました。そして、自分に言い聞かせるように繰り返します。
「絶対に、助ける! 私の大切な人だもの!」
めぐみちゃんとでぇと カーテンコール
第拾壱話 「地球は私のものよ」
「レイさま、お電話が入っておりますが」
伊集院家地下の特設司令室では、隕石が実は巨大な宇宙船らしいという事実でパニックに近い状況に陥っていました。
そんな中、外井さんが豪華で華麗な携帯電話を持って、レイさんのところにやってきたのです。
「このようなときに申し訳ありません。是非にとのことで……」
「誰からですか?」
電話を受け取りながら、レイさんは聞き返しました。
外井さんは答えます。
「はい、藤崎詩織さまです」
「藤崎さん?」
眉をひそめながらも、レイさんは受話器を耳に当てました。
「もしもし、伊集院ですが」
「あ、レイさん? 私、藤崎詩織です。実は……」
しばらく詩織ちゃんからの話を聞いていたレイさんは、いきなり立ち上がりました。
「何ですって!? 主人さんが!? ……外井!」
不意にレイさんは外井さんを呼びました。おや? 口調は、高校生の時に戻っていますね。
「はっ」
「あの隕石に対する監視は続いているか?」
「はい、勿論です」
「何らかの物体が隕石に接近した様子は?」
「いえ、今のところはそのような報告はありませんが」
と、外井さんが言いかけたとき、オペレーターの一人が声を上げました。
「報告します! 小型の金属反応が、隕石に急速に接近中! この反応は、地球のものではないようです!」
「何?」
「あ! レ、レーダーからは消失! 肉眼でのみ確認できています!」
「何とも非常識な」
呟きながら、レイさんはスクリーンに目をやりました。
小さな光が、隕石に接近していきます。かと思うと、ふっと消えました。
「小型の物体、隕石に吸収されました」
「吸収?」
「そうとしか見えませんでしたが……」
レイさんは、電話を取り直しました。
「もしもし、今確認しました。ええ、間違いなく隕石の中に……」
ガシャン
片足を失った真・世界征服ロボは、ゆけむり温泉郷を見下ろす山の中腹に着陸しました。
結奈さんは、ロボの肩から飛び降りると、左足の様子を見て舌打ちします。
「朝日奈があれほどの攻撃をするとは、予想外だったわ。データの修正が必要ね」
その後ろで、見晴ちゃんがロボの手のひらから降ります。
「あの、紐緒さん。晴海姉ぇは?」
「ここよ」
林の中から、晴海さんが出てきました。その後ろに美鈴ちゃんと千晴ちゃんもいます。
見晴ちゃんは、晴海さんに言いました。
「公さんが、UFOに連れて行かれたって……。詩織ちゃんやゆかりちゃんが止めようとしたけど、できなかったって」
「やっぱり……」
晴海さんは舌打ちしました。そして、見晴ちゃんに言います。
「とにかく、ちょっと早いけど、みんなが来たのは間違いないわ。見晴、戻るわよ」
「……」
見晴ちゃんは、黙って首を振りました。そして、晴海さんの瞳をじっと見つめて、きっぱりと答えます。
「私は……、残る」
「見晴!?」
「見晴姉ぇ?」
「決めたの」
そう言うと、見晴ちゃんはくるっときびすを返しました。
「何処に行くの?」
「戻る。みんなのところに」
晴海さんは、傍らの木に手をついて、見晴ちゃんに言いました。
「見晴、考え直しなさい。今私たちと帰れば、主人くんとはずっとあなたの……」
見晴ちゃんはきっと振り返りました。
「いくら、晴海姉ぇでも、それ以上言ったら許さないから!」
「見晴……」
「じゃ」
見晴ちゃんは軽く手を振って、向き直りました。
チャキ
無言で、結奈さんが見晴ちゃんの正面で、銃のようなものを構えます。
「結奈さん……」
「紐緒さん、構わないわ。行かせてあげて」
後ろから、晴海さんが言いました。振り返る見晴ちゃん。
「晴海姉ぇ……」
「行きなさい、見晴」
晴海さんは、笑みを浮かべていました。
「これで、私たちは敵味方かもしれない。でも、忘れないで。私たちはこの銀河でたった4人の姉妹だってこと」
「……これ」
見晴ちゃんは、ペンダントを見せました。さっき、結奈さんが見晴ちゃんに渡したペンダントです。
「これ、精霊石でしょ? どうして、私に?」
「見晴が持っているのが一番だって、千晴が言ったのよ」
肩をすくめて、晴海さんは言いました。
「千晴……」
「なぜ? なんて聞かないでよ。私にもわかんないんだから」
ぺろっと舌を出して、千晴ちゃんは笑いました。
「でも、そうするのが一番って気がするのよ。それだけ」
「……千晴……」
「見晴姉ぇ」
美鈴ちゃんが言いました。
「ゆーに、優美っぺによろしくって言っておいて。いつまでも、友達だよって」
「……ん、わかった」
見晴ちゃんは頷くと、振り返って歩き出しました。
その姿が林の中に消えてから、結奈さんは晴海さん達に訊ねました。
「そろそろ、説明してもらいましょうか? あなた達は誰なのかを」
「もうちょっと姉妹の涙の別れに浸らせてくれたっていいじゃないの」
苦笑する晴海さんでした。
チン
詩織ちゃんは電話を切りました。戻ってきたテレホンカードを取ると、振り返ります。
「UFOらしい金属反応を示す物体が、あの隕石の中に入ったって」
「アンビリーバボー!」
彩子ちゃんはペシンと額を叩きました。
「宇宙って、パリよりソーファー、遠いでしょう?」
「どうやって行けばいいのでしょうか?」
未緒ちゃんも腕を組んで考え込んでしまいました。
「いくら伊集院さんのところでも、個人所有の宇宙船なんて持ってないでしょうし……」
「結奈なら何とかしそうだけど……、さっきの今で『おねがぁい、手伝ってぇ』なんてわけにもいかないか」
夕子ちゃんはお手上げっていう感じでソファにもたれて天井を仰ぎます。
「主人さん、ご無事だとよろしいですねぇ」
ひとりのんびりと梅こぶ茶など飲みながら、ゆかりちゃんは言いました。
「そうね……」
沙希ちゃんは、なんとなくそのゆかりちゃんの隣に座ってため息をつきました。
詩織ちゃんは、無意識に電話をこつこつと指先で叩きながら考え込みました。
「何か、何か方法はないのかしら……」
重苦しい沈黙が、ロビーの隅を支配しかけたとき、不意に夕子が素っ頓狂な声を上げます。
「見晴!?」
「え?」
皆が一斉に、ホテルの玄関に視線を向けました。
そこに見晴ちゃんが、照れたように頭をかきながら立っています。
「てへ。戻って来ちゃった」
「見晴!」
夕子ちゃんが駆け寄ります。
「超心配したんだからぁ!!」
「ごめ……げふぅ」
そのまま見晴ちゃんにヘッドスライディングをかます夕子ちゃん。まともにぶつかって、見晴ちゃんもその場にこけます。
夕子ちゃんは顔面を押さえながら立ち上がります。
「超痛い」
「痛いなら、するな!」
全員の声がみごとにはもりました。
地球から遠く、数千万パーセクの彼方に、その星はあった。
幾多の偶然の果てにその星に生まれた知的生命体。その進化は地球のそれと酷似していた。そして、その進化は人類をわずかに上回っていた。
だが、進みすぎた科学故に、その星は……死んだ。
かろうじて脱出したその星の生き残り達は、新しい故郷となる星を求め、銀河をさまようことになる。
どれくらい放浪したことか……。
彼らは、彼らが生存するに足る条件を満たした星を見つけた。確率を考えると、まさに奇跡と言ってもいいだろう。
しかし、その星にはすでに別の知的生命体が存在していた。
彼らは相談の上、調査隊を派遣することに決めた。
「というようなストーリーが大まかにあるって考えてくれればいいわよ」
「……くだらない小説の前置きみたいね」
結奈さんはあっさりとそう言って、晴海さんに尋ねました。
「で、あなた達はその調査隊だっていうの?」
「まぁ、そんなもんよ」
「正確に言えばちょっと違うけどね」
後ろから美鈴ちゃんが付け加えました。
結奈さんは眉をつり上げました。
「で、あなた達は地球を占領しようというわけ? 冗談じゃないわ。地球は私のものよ」
「まぁ、聞きなさいよ」
晴海さんは肩をすくめました。
「確かに最初は私たちもそう考えてた。今でも、あそこに残ってる連中はそう考えてると思うわ。でも、少なくとも私は考えを変えたわ。私たちはこの地球を間借りさせてもらえば十分じゃないかって。それでね、この前そういう趣旨の報告書を送ったのよ」
「そうしたら、その連中は慌てて地球にやってきた……。なるほど、それで私に声をかけたわけね」
「ええ。敵の敵は味方。少なくとも貴女は、連中が地球を支配するのは賛成できないでしょう? 私たちも、そう」
「だから、手を貸せってわけね。連中を排除するために」
「損じゃないはずよ。私たちは内部情報を知ってるわ。何も知らずに戦うよりは……」
「でも」
晴海さんの言葉を断ち切るように、結奈さんは言いました。
「保証はないわね。あなた達が裏切らないっていう保証は。もしかしたら、今でも私に嘘をついているかもしれない。最初からでたらめを言ってるかもしれない」
「そんな!」
後ろで叫びかけた美鈴ちゃんを制して、晴海さんは苦笑しました。
「保証は、確かにできないわね。残念だけど、信用してって言うしかないわ」
「どうして、藤崎さん達には言わないの?」
「……」
晴海さんは、肩をすくめました。
「あの娘達には、無理よ。主人くんが連中に捕まっちゃった以上、あの娘たちは主人くん第一にしか動けないでしょ。それなら、それに専念させてあげたいわ。変なことを横から言って、混乱させるよりもね。
だから、見晴も行かせたのよ」
「情に棹させば流される、ってことね」
「あら、紐緒さんが夏目漱石を知ってたとは、意外だわ」
「宇宙人に言われたくないわね」
結奈さんは苦笑しました。
「う、宇宙人? 見晴が宇宙人?」
こくりと頷く見晴ちゃん。
夕子ちゃんは爆笑しました。
「きゃははは、何それぇ! 冗談ぽいぽいよ。何言ってんだか、見晴ってば!」
「ホントよぉ」
そう言うと、見晴ちゃんは詩織ちゃんに目を向けました。
「藤崎さんなら、信じてくれるよね?」
「……ぷっ」
不意に詩織ちゃんは吹き出しました。
「ご、ごめんなさい、ククッ、で、でも、クスクス」
「ゆ、ゆかりちゃんなら信じてくれるよね!」
焦ってゆかりちゃんの方に視線を向ける見晴ちゃん。
「はぁ」
「よ、よかったぁ。うん、やっぱりゆかりちゃんお友達だよね!」
「はい。ですが、宇宙人さんとは、どちらの国の方を指すのでしょうか? わたくし、中国人とか、韓国人とかいう言い方は聞いたことがございますが、宇宙というお国は存じ上げませんので……」
ほっぺたに指を当てて考え込むゆかりちゃんの隣で、沙希ちゃんがお腹に手を当てて、肩を振るわせています。
「く、くく、沙希、笑っちゃ駄目。根性でた、耐えるのよ……」
その沙希ちゃんの肩を、望ちゃんが目に涙を浮かべながら叩きます。
「な、何も考えずに笑えよ。我慢は、よくないぜ、くくくっ」
「ナイスジョーク。キャハハハハ」
彩子ちゃんは大口あけて笑っています。
見晴ちゃんはうるうるしながら最後の砦、めぐみちゃんに視線を向けました。
「めぐみちゃんは、信じてくれるよね?」
「見晴ちゃん」
めぐみちゃんは、見晴ちゃんの肩に手を置きました。
「辛いことがあったって、私たちはお友達よ」
一拍置いて、ゆけむり温泉郷に見晴ちゃんの声が響きわたりました。
「どーして、誰も信じてくれないのよぉぉぉ!!」
見晴ちゃんに続いて、みんなはホテルの裏庭に出てきました。
「で、何処まで行くの?」
「ここでいいかな」
見晴ちゃんはそう言って立ち止まりました。そして、振り返ります。
「みんなに信じさせてあげるわ! 私が宇宙人だって!」
「ほらほら、そんなにムキににならなくても……」
と、夕子ちゃんが見晴ちゃんの肩をぽんぽんと叩きます。
見晴ちゃんは、ふんと夕子ちゃんからそっぽを向きます。
「タコとはもう絶交よぉ!」
「タコタコ言うなあ!」
叫ぶ夕子ちゃんを無視して、見晴ちゃんは胸元からペンダントを出します。そして、そのペンダントに向かって言いました。
「ΧΞΦτξΦΝΓΑ〜」
「え? 今なんて言ったの?」
思わず聞き返す夕子ちゃん。
「あ! 何だ、あれ?」
望ちゃんが空を指さしました。
すっかり暗くなった空に、光る点が一つ、すうっと動いています。だんだん明るくなってきているようです。
「ま、まさかぁ」
「ちょ、ちょっとマジ?」
「アンビリーバボー!」
みんなが口々に叫ぶ中、辺りがぱぁっと明るくなります。そして……。
「これは、UFO!?」
詩織ちゃんが声を上げました。
光り輝くUFOが、ゆっくりと降りてきます。
見晴ちゃんはそのUFOをバックに、腰に手を当ててみんなを見回しました。
「これで、どう? 信じてくれた?」
と。
「駄目じゃないか、こんな目立つことをしては。僕の計画に支障が出てしまうんだから」
不意にみんなの後ろから声がしました。その声を聞いて、詩織ちゃんの全身からすうっと血が引きます。
(そ、そんな……。あの人がこんなところにいるはず……、でも、この声……)
「おや、詩織。久しぶりだね」
その声の主は、笑みを含んだ声で詩織ちゃんに話しかけました。しかも、名前を呼び捨てにして。
詩織ちゃんは、両手で自分の肩を抱くようにしながら、ゆっくりと振り返りました。
そこには、眼鏡をかけ、くすんだ短い金色の髪の少年が立っていました。
彼は、眼鏡の位置を直すと、爬虫類を思わせる笑みを浮かべました。
「こんなところで、君に逢えるとはね」
詩織ちゃんは、一歩後ずさりました。そして、ふるえる唇で呟きます。
「し……島田……、島田雄二……」
《続く》

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