喫茶店『Mute』へ  目次に戻る  前回に戻る  末尾へ

めぐみちゃんとでぇと 外伝
すごいよミハルさん(後編)

 土曜日の授業は半日で終わります。
 受験生の千晴ちゃんは、そこから直接塾に行くことになっていますが、帰宅部の美鈴ちゃんは速攻で帰ってきました。
 そして、あらためて晴海さんから説明を受けたのでした。
「へぇ。従姉妹なんだ。あ、あたしは美鈴よ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる明子ちゃん。
 晴海さんは笑いました。
「よし、今日はカラオケでも行きましょうか」
「カラ……? 何ですか、それ?」
「行けばわかるって」
「千晴はどうするの?」
 美鈴ちゃんが訊ねます。
「今日は塾で遅くなるんでしょ?」
「呼びましょ。いいじゃない、塾を1回や2回さぼったくらいで大した事ないって」
 そう言うと、晴海さんはつぶやきました。
「もっと大事なことだってあるんだから」
「え?」
「何でもない。えっと、頌栄塾の電話番号は何番だっけ?」
 晴海さんは胸ポケットから携帯電話を出しました。ボタンをいくつか押すと、耳に当てます。
「あ、もしもし。……いつもお世話になっております。私、そちらの生徒の館林千晴の姉ですが、千晴をお願いできますでしょうか? え? 授業中ですか? それなら、授業が終わりましたら自宅まで電話するようにご伝言お願いできますでしょうか? ……ええ。……はい、すみません。失礼いたします」
 電話を切ると、晴海さんはにこっと笑いました。
「それから、明日はせっかくの日曜だから、きらめき遊園地でも行きましょう」
「え? あの、私明日は……」
 それを聞いて、見晴ちゃんは慌てて言います。
 晴海さんは見晴ちゃんの頭をぐりぐりと拳骨ではさみます。
「心配しなさんなって。主人くんと虹野さんのデート場所も遊園地だから。途中であんたがふっといなくなるのは黙認してあげよー」
「違うんだってばぁ!!」
 慌てて悲鳴を上げる見晴ちゃん。おやおや、お顔が真っ赤ですね。

「ったく。何考えてんのよ。あたしは受験生なのよ!」
 カラオケボックスの前で待っていた千晴ちゃんは、ちょっと遅れてきた晴海さん達を見付けると、ぷりぷりしながら言いました。
「まぁまぁ」
「ったく。さっさと入るわよっ!」
 まだぷりぷりしながら、千晴ちゃんは先頭に立ってカラオケボックスに入っていきました。カウンターにいた男の人に話しかけます。
「すいません。カラオケ、6人なんですけど」
「時間はどうなさいますか?」
 聞かれて、千晴ちゃんは間髪入れずに答えました。
「朝までお願いします」
「ばかもーん!」
 慌てて美鈴ちゃんが後ろから駆け寄りました。
「嘘です嘘! 4時間でお願いします!」
「ええー? 足りないよぉ」
「そんなのあんただけじゃ! 第一明日は遊園地なのよ遊園地!」
 美鈴ちゃんはきっぱりと言いました。千晴ちゃんはしぶしぶ頷きました。
「しょうがないなぁ、もう。んじゃ、灰ペースで行くかぁ」
「1番、館林千晴、『炎の転校生』歌いますっ!!」
 速攻で機械に直接番号を打ち込んだ千晴ちゃんは、マイクを握り締めて言いました。
「おいおい、いきなり入るかぁ?」
 晴海さんが苦笑しますが、千晴ちゃんはもう返事もしません。

 ♪燃えろふぁいやー た・た・か・えっ!!

 さすが千晴ちゃん。イントロもばっちりですね。
 ♪正義と悪との識別完了ぉぉ
  おーれーがほのおのてんっこうせいーーっ!!

 歌い終わって、千晴ちゃんは椅子に腰をおろしました。
 晴海さんがぽんと肩を叩きます。
「うむ。ご苦労」
「……」
 小声で千晴ちゃんがつぶやきます。その口元に耳を寄せて聞き取った晴海さんは苦笑して、インターホンを取りました。
「あ、すいません。ウーロン茶一つお願いします」
「ほら、見晴姉ぇも負けてられないぞ」
 美鈴ちゃんが見晴ちゃんにマイクを渡しました。
「え? 何、何?」
「大丈夫。もう入れてあるから」
 その時、テレビ画面の「検索中です」の文字が消えて、イントロが流れ出しました。見晴ちゃんはひきつった顔を美鈴ちゃんに向けます。
「あっちで歌うの?」
「もちろん」
 腕を組んでうんうんとうなずく美鈴ちゃん。ちなみに晴海さんは「がんばれみはる」のプラカードを上げています。
 見晴ちゃんは、自棄になったように叫びました。
「分かったわよぉ! 見晴、『ゴッド・フィフネル』、歌いますっ!!」
「いよっ! 本家!」
「元祖っ!」
 美鈴ちゃんと晴海さんがやんやと手を叩く中、見晴ちゃんは心の中でつぶやくのでした。
(あーん。村井せんせいごめんなさぁーい)

 ♪見晴、カンゲキィーーーーッ!!

 見晴ちゃんが歌い終わりました。その途端に、
「うよぉし、乗ってきたぁ!」
 がばっと復活の千晴ちゃんがマイクを握ります。
「わ、いつのまに!」
「へへーん。もう曲入れたもんねぇ!」
 千晴ちゃんがそう言うと同時にイントロが流れ始めました。それを聞いて、美鈴ちゃんがちっと舌打ちします。
「ちっ、先にやられたかぁ」
「いっきまぁす!!」


 ♪ガガガッ ガガガッ ガオガイガー!
  ガガガッ ガガガガ ガオガイガー!

  怒れぇ 鋼のサイボーグぅ〜
  赤い たてがみ 金の腕ぇ〜
 最初はさすがにすっかり飲まれていた明子ちゃんと有子ちゃんでしたが、1時間も過ぎた頃にはすっかり馴染んでしまっていた辺りは、さすが館林の血と言ったところでしょうか。特に有子ちゃんは「ブラジルでも古いアニメはやってたんだよ」とかいいながら、どんどん歌ってましたし、明子ちゃんも恥ずかしがりながらもきれいな歌声を披露してくれました。
 そして、きっちり最後は『ゲッターロボ!』で締めると、みんなはカラオケを出たのでした。
「これが日本の伝統文化のカラオケなんですね。私、すっかり気に入ってしましました」
 興奮のせいか、うっすらと頬を染めて明子ちゃんが言いました。
「あたしも気に入ったぁ」
 と、こっちは有子ちゃん。熱唱し過ぎたせいか、ちょっと声ががらがらですね。
 その頭を軽くこつんと晴海さんが叩きました。
「この程度で喉がやられるとは、まだまだ修業が足りないぞ。あたし達を見なさい。誰もびくともしてないんだから」
 確かに、晴海さんはもとより、千晴ちゃんも美鈴ちゃんも、そして見晴ちゃんも平気な顔をしています。
「はい、有子ちゃん。喉飴あげるね」
 千晴ちゃんが有子ちゃんに喉飴を渡しました。
「ありがとぉ、おねえさまぁ」
「えへへ」
 なんだかちょっぴり照れたような顔の千晴ちゃん。今まで館林四姉妹の末っ子の千晴ちゃんは、「おねえさん」って呼ばれたことがなかったんですよね。
 そんな千晴ちゃんを、晴海さんはなぜかちょっと辛そうな顔で見ていました。
 翌朝。
「よぉーし、ばっちり晴れたぁ!」
 玄関前で雄たけびを上げているのは、言わずと知れた晴海さんです。
 確かに、雲一つない、澄み切った青空が広がっていますね。
 晴海さんは振り返ると、声を掛けました。
「千晴ぅ、お弁当の用意は?」
「あと5分待って!」
 台所から千晴ちゃんは叫び返します。それからおにぎりをせっせと握りながら、ぶつぶつとこぼします。
「ったく、お姉ちゃん達こういうことは全然手伝ってくれないんだからぁ」
「おねえさま、ナゲットはこっちに入れればいいんですか?」
 明子ちゃんがタッパーを開けながら訊ねます。
「そ。いやぁ、明子ちゃんがいてくれて助かるわぁ」
「そんな、いやですわ、おねえさま」
 そう答えながら、手際よくナゲットとレタスをタッパーに詰めていく明子ちゃん。
 千晴ちゃんはおにぎりをバスケットに詰めながら訊ねました。
「あれ? そう言えば有子ちゃんは?」
「多分、晴海おねえさまの所に行ってると思うんですけど……」
 小首を傾げる明子ちゃんでした。
 ドッドッドッドッ
 独特のエンジン音を響かせながら、晴海さんの愛車、ミニクーパー1.5i、通称“たてばー4号”がガレージから出てきました。そして、玄関の前に止まります。
 その後ろから、美鈴ちゃんと有子ちゃんが、大きなキャリアを持って出てきました。
 いわゆるモンテカルロキャリーというやつです。本来は、ミニクーパーのラリー仕様車の予備タイヤを乗せるために使います。モンテカルロという名前は、その通り、モンテカルロラリーでこのキャリーをよく使った所から付けられたものです。
「ん、ごくろー」
 ミニから降りると、晴海さんは二人に手伝わせてキャリーをミニの天井につけて、ベルトでとめました。
 カチャ
「ふわぁ、おはよー」
 そこに玄関を開けて登場したのは我らが見晴ちゃん。ちょっとお寝坊したようですね。
「おー、見晴! おはよぉ!」
 晴海さんは肩を叩きました。
「あ、晴海姉ぇ。もう出発?」
「千晴達が来たらね。お、来た来た」
 そこに、大きなバスケットを3つ抱えて千晴ちゃんと明子ちゃんが登場です。
「よぉし、そのお弁当は天井に積めぃ」
「はいはい」
 晴海さんの言う通り、バスケットを天井のキャリーに乗せてから、千晴ちゃんは訊ねました。
「でも、ミニって4人乗りだよね?」
「まぁ、詰めれば5人は乗れるわよ」
 自信たっぷりに答える晴海先生。道路交通法は守らないといけませんよねぇ。
 千晴ちゃんは冷静に指摘します。
「でもさ、6人だよ」
「……」
 晴海さんは数え直します。
「あたし、見晴、美鈴、千晴、明子、有子……」
 確かに6人です。
 晴海さんはすこぉし考えて、言いました。
「美鈴は助手席ね。千晴、明子ちゃん、有子ちゃんは後ろに何とか入って」
「はぁーい」
 2ドアのミニですから、まず千晴ちゃん達が後ろの席に入ります。そうしてから、美鈴ちゃんが助手席に座ってパタンとドアを閉めます。
「あのぉ、お姉ぇ。あたしは?」
 おそるおそる訊ねる見晴ちゃん。
 晴海さんはその肩をポンと叩きました。
「大丈夫。走ってついてこいなんて言わないから」
「ま、まさか?」
 訊ねる見晴ちゃんに晴海さんは黙って天井のキャリーを指しました。
 ドッドッドッドッ
 時速50キロで走るミニの上で、必死にキャリーにしがみつきながら、見晴ちゃんは叫ぶのでした。
「あたしって、ふこぉぉぉぉぉ〜〜〜〜」
 晴海さんは、遊園地の駐車場で車を止めると、サングラスを掛けながら降りました。そしてキャリーを見て一言。
「あらま」
 お弁当の入ったバスケットはあるものの、見晴ちゃんの姿はありません。
 晴海さんは頭をぽりぽりと掻きました。
「どこかで落としちゃったカナ? ま、いっか」
「なにが、「ま、いっか」なのよぉ!」
 後ろから声が聞こえて、晴海さんは振り返りました。
 全身ぼろぼろになった見晴ちゃんが、走ってきたのでしょうか、ぜいぜいと息を切らせながら立っていました。
 晴海さんはポンと両手を合わせました。
「まぁ、見晴! とっても心配しちゃったのよ! 大丈夫だったぁ?」
「あ、あのねぇぇ」
 ぎゅっと拳を握り締める見晴ちゃん。
 その肩をぽんと叩いて、晴海さんはぼそっと呟きます。
「あ、あそこに主人くんが」
「え? どこどこ?」
 とっさに晴海さんの影に隠れながら、辺りを見回す見晴ちゃん。
 その目に、沙希ちゃんと楽しそうに話しながら、遊園地に入っていく公くんが映りました。
「あ……」
 見晴ちゃんは、晴海さんに「それじゃ」というように手を振ると、そのままこそこそと二人を付けて行ってしまいました。
「あの、お姉さま。見晴お姉さまはどうしたんですか?」
 ミニから降りてきた明子ちゃんが訊ねます。晴海さんは苦笑しました。
「まぁ、青春の光と影ってやつよ。それより、私たちはぱあーっと遊びましょう」
「そうそう! ぱぁっとやろ!」
 美鈴ちゃんが嬉しそうに言いました。
「まずはヴァーチャルシップから行こう!」
「あにいってるんだか。ビビールに決まってるじゃない!」
 と千晴ちゃんが割り込みます。
「まぁまぁ。それじゃまずはパスポート買いましょうか」
 そう言って、晴海さんは入り口ゲートに向かって歩きだしました。
「うひゃぁぁ」
 ビビールから降りてくると、千晴ちゃんはブンと頭を振りました。
「まだくるくる回ってるみたい」
「まだまだ甘いわねぇ。あの程度でくるくる回ってるとは」
 晴海さんはそう言って笑うと、振り返りました。
「ひゃ、ひゃるみねぇぇぇ」
「……情けない」
 ヨロヨロと足をもつれさせながら降りてくる美鈴ちゃんにそう言うと、千晴ちゃんは明子ちゃん達に駆け寄りました。
「ねぇねぇ、どうだった? すごいでしょ?」
「そうですね。私、面白かったです」
「あたしは……こういうのダメ」
 目を輝かせて喜ぶ明子ちゃんと、死んだマグロのような目をして呟く有子ちゃんでした。
「そっかぁ、明子ちゃんはオッケイか。それじゃ、次ぎハイパーコースター行こう!」
「はい、楽しみです! 有子ちゃんも行こ!」
「あたしはパス。観覧車でも乗ってるわ」
 有子ちゃんは手をヒラヒラさせて言いました。
 晴海さんは苦笑して、ポケットからPHSを出しました。
「千晴、これ持って行きなさい。明子ちゃんの世話は任せるわよ」
「オッケイ。んじゃ、行こ、明子ちゃん!」
「はい、お姉さま」
 二人は人込みの中を駆けていきました。
 その頃、見晴ちゃんは……。
「あっ! そんなに近づいちゃダメェ! そ、そんなぁ、見つめ合ってるなんてぇ」
 お化け屋敷の前でいちゃいちゃしている公くんと沙希ちゃんをやきもきしながら眺めているのでした。
「きぃーっ! 手なんか握ってぇぇ!」
「おい、姉ぇちゃん。掃除の邪魔だ……」
「鉄山靠!」
 どげぇっ
 腹立ちまぎれに、罪の無いお掃除のおじさんをふっとばし、見晴ちゃんはさらに観察を続けるのでした。
 から〜ん、から〜ん
 12時を告げる鐘が鳴り、晴海さんは携帯電話で千晴ちゃん達を呼びだします。
「もしも〜し! そろそろお昼にしない?」
『はいはい。で、どこで待ち合わせる?』
「そうねぇ。目付きの悪いコアラ像前でどう?」
『わかった。んじゃそこに向かいまぁす』
 ピッ
 電話を切ってから、晴海さんは苦笑しました。
「便利になったものねぇ」
「ねぇ、晴海姉ぇ。見晴姉ぇはいいの?」
 訊ねる美鈴ちゃん。大分復活したみたいですね。
 晴海さんは苦笑しました。
「見晴は主人くん達が帰るまでは呼んでもこないわよ」
「納得」
 美鈴ちゃんもうなずきました。
 “目付きの悪いコアラ”像の前で首尾よく落ち合ったみんなは、芝生の上でお弁当を拡げました。
「わぁ、おいしそう!」
 バスケットを開けて、有子ちゃんが歓声を上げます。えっへんと胸を張る千晴ちゃん。
「まぁ、姉ぇさん達が頼りないからねぇ」
「言ってくださるわね」
 と早くもおにぎりをぱくつきながら美鈴ちゃん。
「まぁまぁ。それより、遊園地はどう?」
 二人をなだめながら、晴海さんは明子ちゃんと有子ちゃんに訊ねました。
「とっても楽しいです」
「うん、すごいよね」
 二人はにこにこしながらうなずきました。晴海さんはにこっと笑います。
「それなら、よかったわ」
 午後もあっという間に過ぎて、辺りはだんだん暗くなっていきます。
 3時を過ぎた所から、家に帰る公くん達を見送った見晴ちゃんも合流し、さらにみんなで遊び回る館林ご一同さまです。
 そして、午後8時。
 あたりはすっかり真っ暗ですが、遊園地は9時までやっています。
 というわけで、みんなはナイトパレードを見に来ていました。
 音楽に合わせて、きらびやかに飾られた車が、前を通り過ぎていきます。
「すごく奇麗……」
 明子ちゃんはうっとりとしてそれを見ていました。時々、有子ちゃんの袖を引っ張って何ごとか囁くと、二人で笑い合っています。
 それを見ていた晴海さんの肩を、美鈴ちゃんがつつきました。
「晴海姉ぇ、晴海姉ぇ」
「え?」
 我に返ったように振り返る晴海さんに、美鈴ちゃんは首をかしげました。
「どうしたの? ぼぉーっとして」
「うーん、ちょっと疲れたかな? あたしも歳かもねぇ」
 苦笑して、晴海さんは答えるのでした。
 目の前を、最後の車が通り過ぎていき、アナウンスが流れます。
「これで、本日のナイトパレードを終了させていただきます。なお、まもなく閉園時間となります。お客さまの皆さまは速やかに退園をお願いいたします。またのご来園をお待ちしております……」
「さぁて、それじゃ、帰りましょうか」
 晴海さんはみんなに声を掛けました。
 その翌朝。
「ちょ、ちょっと! 冗談でしょ!!」
 食事を作りながら、何の気なしに朝のニュースを見ていた千晴ちゃんは、思わずテレビにかじり付きました。
「あれ? どうしたの?」
 ちょうどそこに入ってきた美鈴ちゃんが訊ねるのを無視して、千晴ちゃんは玄関に走っていきました。すぐに駆け戻ってくると、美鈴ちゃんに訊ねます。
「美鈴姉ぇ! 新聞は!?」
「あ、はい」
 その剣幕に押されて、美鈴ちゃんは、まだ広げてもいなかった新聞を千晴ちゃんに渡しました。
 千晴ちゃんはその新聞を食卓の上に広げます。
 第1面に大きく記事が載っていました。

「ブラジル発成田行きの飛行機
  太平洋上に墜落
   乗客乗員522名の生存は絶望」

 ばばっと千晴ちゃんは新聞をめくり、乗客名簿一覧が出ている所を開くと、ゆっくりと読み始めます。
 美鈴ちゃんは、ごくりと唾を飲み込みました。
 そして、千晴ちゃんの指が、二つの名前の上で、ぴたりと止まります。

 タテバヤシ・アキコ
 タテバヤシ・ユウコ

「そ、そんな! だって!!」
 美鈴ちゃんはそれだけ叫ぶと、台所から飛びだしていきました。
 ガチャ
 美鈴ちゃんは、明子ちゃん達の寝ているはずの部屋のドアを開けました。そしてかくんとその場に膝を突きました。
「そんな……」
 そこには、誰も寝た様子の無いベッドが、2つ並んでいるだけでした。
 美鈴ちゃんは呟きました。
「それじゃ、あれは一体……誰だったの?」
「……明子ちゃんと有子ちゃん、あたし達に逢いたかったんだよ、きっと」
 その声に、美鈴ちゃんは振り返りました。
「見晴姉ぇ……」
「きっと、逢いたかったんだよ……」
 見晴ちゃんは、ぽろっと涙をこぼしました。
「見晴……ね……」
 美鈴ちゃんは、見晴ちゃんに抱きついて、泣きだしてしまいました。
 それから1週間たった日曜日。
 晴海さんは、ガレージからミニを出して、鼻歌混じりに洗車していました。
 ふと、人の気配を感じて振り返ると、見晴ちゃんがドアの前の階段に座って、じっと晴海さんを見ています。
「なぁに、見晴?」
「晴海姉ぇ、知ってたの?」
「……さぁね」
 洗車の手を休めないで、晴海さんは言いました。
 見晴ちゃんは、空を見上げました。先週と同じように、青く澄んだ空。
 一瞬、二人の笑い声が聞こえたような気がしたのは、見晴ちゃんの気のせいだったのでしょうか?

《終わり》

 メニューに戻る  目次に戻る  前回に戻る  先頭へ