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ときめきファンタジー
第
章 運命の星のもとに
その
突撃ラブハート

数日がたち、コウも二人の少女の片方は甲斐甲斐しく片方は大雑把な世話を受けてほぼ全快していた。
そして、その夜。彼はジュウザブローに呼び出され、彼の部屋に来ていた。
まだ彼も寝たきりの生活ではあったが、医師の見立てでは、もうしばらくすれば起きられるようになるとのことだった。
部屋には、アカリとユカリも来ていた。
「おう、来たかね」
床の上に半身を起こし、ジュウザブローはコウを差し招いた。そして、枕元に座ったコウに聞いた。
「お主、怪我も良くなったと聞くが、これからどうする気だ?」
「色々考えましたが……」
コウは、ちらっとユカリを見て、視線を戻した。
「これ以上、ご厄介にもなれません。旅に出ようと思います」
「行く宛はあるのか?」
ジュウザブローは訊ねた。
コウは頷いた。
「聖剣を手にするための十二の鍵を探してみようかと思っています。漠然と西方に向かうよりも、そうした方が自分の過去にたどり着けそうな気がしますから」
「……そうか」
彼は深くため息をついた。そして、アカリに言った。
「あれを」
「はい」
アカリは、床の間に飾ってある二振りの剣のうち、短い方を取ると、ジュウザブローに手渡した。彼はその剣を抜いた。
灯明の光を反射し、剣身がきらっと光った。
「これは、我がコシキ家に代々伝わる小刀で、銘を“白南風”という。持って行くがよい」
パチン
“白南風”を鞘に納め、彼はコウに手渡した。
「え、でも……」
「コウさん。わたくしたちに出来ることはこれくらいなのです。どうか、お受けください」
アカリが静かに言った。コウは頷き、小刀を受け取った。
「ありがとうございます」
「道中、無事を祈っておるぞ」
ジュウザブローは言った。
と、今まで黙っていたユカリが不意に口を開いた。
「お父さま、お母さま。ユカリはコウさんと一緒に行きとう存じます」
「!?」
皆、一斉にユカリを見た。
「ユカリちゃん、それは……」
「ダメだ!!」
言いかけたコウを遮り、ジュウザブローは叫んだ。
「儂は絶対に認めぬ! そのようなことは、絶対に……」
「あなた」
アカリはジュウザブローに微笑みかけた。
「わたくしの父も、そうおっしゃいましたわ。あなたがわたくしの父に会いましたときにね」
「そ、それは……」
「それに、ユカリも、もう子供ではありませんわ。自分の進むべき道は自分で決めるべきでしょう?」
「……」
ジュウザブローはおし黙った。アカリは笑顔をコウに向けた。
「コウさん、わたくしからもお願いしますわ。ユカリを伴ってあげてくださいね」
「で、でも……」
「コウさん……」
ユカリは、じっとコウの瞳を見つめた。その無言の訴えに、コウは根負けしたように頷いた。
「判りました。一緒に行きましょう、ユカリさん」
「はい。よろしくお願いしますね、コウさん」
ユカリは糸のように眼を細めると、にっこり笑った。その笑顔を見て、まぁいいかと思うコウであった。
その様子を、天井裏からうかがっている人影があった。
「まっずいなぁ。二人だけで旅なんかさせてたら、あいつに取られちゃうじゃん。よーし。こうなったら、あたしも一緒に行っちゃおっかなぁ〜」
天井板をずらして、コウを見おろしながら、ユウコは呟いた。そして、はっと我に返る。
「あれ? あたし、どうしてあんな奴のことが気になるのかなぁ? ……ま、いっか。父さんも母さんもいつ帰ってくるかわかんないし、しばらく帰らなくても大丈夫だよねっ」
そう呟き、ユウコは視線をユカリに移した。
ちょうど、ユカリはアカリから何かを受け取っていた。
「これ、忘れてはいけませんよ」
「ああ、すっかり忘れておりました。ありがとうございます」
「……?」
ユウコは目を凝らした。
ユカリの手の中には、小さな金色の人形みたいなものがあった。
(あ、たしか十二の鍵のうちの一つとかって言ってたやつだよねぇ……。十二の鍵? どっかで聞いたことあるなぁ……。あ、もしかして!)
ユウコは天井裏から姿を消した。
数日後の朝。
コウとユカリは、並んで屋敷の門の前に立っていた。
ユカリは深々と頭を下げた。
「それでは、お母さま、タクミさん、お父さまのこと、よろしくお願いします」
「お任せください、お嬢様。お嬢様こそ、どうぞご無事で」
タクミは一礼した。そして、アカリは微笑みながらユカリの肩を軽く叩いた。
「行ってらっしゃい。がんばるのよ」
「は、はい。お母さま」
微かに頬を染め、ユカリは俯いた。
その隣で、コウは頭を下げた。
「お世話になりました」
「いいえ。一日も早く、総てを思い出せればいいですね」
アカリは言うと、微笑んだ。
コウはもう一度頭を下げた。
「それでは、行ってまいります」
「はい。行ってらっしゃい。気をつけてね」
うららかな陽光の下、二人は歩き出した。
見送っていた2人のところに、中から若者が飛び出してきて告げた。
「大変です! あのアサヒナの娘が姿を消しています!!」
「何だって!?」
慌てるタクミと対照的に、アカリは落ちついていた。
「心配は入りませんよ、タクミさん」
「し、しかし……」
「ユウコさんも、自分の為す事は判っている。そういうことですよ」
アカリは、微笑んで言うと、「さぁ、朝食の用意をしなくては」と言いながら、屋敷の中にとって返した。
「さて、最初は何処に行こうか?」
歩きながら、コウはユカリに訊ねた。
「さぁ、どちらでも、コウさんのお好きなようになさってくださいね」
にっこり笑うユカリ。
「だけど……」
「やっほー」
向こうから一人の娘が走ってきた。
「あ、君は……」
「やっだ〜、もう忘れちゃったのぉ? ユウコよ、ユウコ・アサヒナ」
ユウコは笑いながら言うと、不意にコウの耳に口を寄せて囁いた。
「教えてあげよっか? 次の鍵のあると・こ・ろ」
「知ってるの!?」
思わず聞き返すコウに、ユウコは小悪魔的な笑みで応じた。
「ねぇねぇ、あたしも一緒に連れていってくれるんなら、教えてあげるよ」
「ええ? で、でも……」
「わたくしは構いませんよ」
ユカリは眼を細くして微笑んだ。
「ほらぁ、ユカリちゃんもああ言ってるしぃ。よし、決まりね、コウくん」
ユウコはコウの肩をばんばんと叩いた。
「いたたた。で、何処にあるんだ? その次の鍵ってのは?」
訊ねたコウに、ユウコは微笑んで答えた。
「トコウスの村。あたしの故郷よ」
《第4章 終わり》

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