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ときめきファンタジー
章 スラップスティック

その 切なさが痛い

「失敗だと!?」
 再び領主の館。
 下っ端は頭を下げた。
「へい。逃げられちまいました」
「まったく、役立たずが」
 小男は舌打ちした。と、不意にドアがノックされた。
 下っ端は慌ててカーテンの陰に隠れる。それを見てから、小男はドアを開けた。
「おお、これはこれは領主様。如何なさいました?」
「いや、アキラ殿に相談したいことがあってな」
 そう言いながら、格幅のいい男が部屋に入って来た。
「わたくしのような旅の僧に相談とは……」
「何をおっしゃるやら。あなたのおかげで私どもの息子が一命を取り留めることができました。あれ以来、あなたのことは師と仰いでおりますのですよ」
「いえいえ、それは聖職者としては当たり前のことです」
 彼はもっともらしく言うと、椅子に腰を下ろした。
「して、ご相談とは?」
「実は、王都キラメキの商業ギルドのギルドマスターが、スライダに来るという知らせが参りまして……」
 アキラはもっともらしく頷いた。
「神からのお告げがありました。ギルドマスター殿は、途中で事故に遭われ、ここに来ることはないでしょう」
「そ、そうですか!」
 領主の顔に笑みが広がる。
「いや、お恥ずかしい話ですが、商業ギルドに納める税が、多少ではありますが滞っておりまして……」
「心配は無用ですぞ。神もそうおっしゃっておられますからな」
「ははーっ。ありがたいことです」
 領主は深々と頭を下げた。アキラは鷹揚に笑ってみせる。
「総ては神の御心のままです」

 そのころ、宿屋の2階で……。
「ええーっ!?」
 一部を除く全員が、思わず大声を上げていた。
「ごめんなさい。あたしがしっかりしてなかったから……」
 サキがみんなの輪の真ん中で、俯いている。
「参ったね、これはぁ」
 ユウコが天井を仰ぐ。
 アヤコは“ファイヤーボンバー”を軽く鳴らして、肩をすくめた。
「お金が無いとはねぇ」
「ごめんなさい」
 一同の資金を一括管理していたサキは、泣きそうな顔でもう一度頭を下げた。
「それは、困りましたねぇ」
 全く困ってないような笑顔のユカリだった。
 ミオが眼鏡の位置を直しながら、言う。
「とにかく、明日からでも、お金を稼ぐしかありませんね。幸い、オキタさん達がこのスライダに来るまで、まだ6日ほどありますから、その間は時間にも余裕がありますしね」
「ええーっ? かったるいなぁ。ブッチしちゃおうかなぁ」
 ユウコは小声で呟いた。その頭をミラが鉄扇でパチンと叩く。
「いったぁ。あにすんのよ、このおばん」
「何故お金が無くなってしまったと思っているのかしら? 最新流行の水着とやらを三着も買ったユウコさん」
「ぐぐーっ」
 何も言い返せないユウコだった。
 コウが話しかける。
「とにかく、ユウコさんはここの宿のご主人とは知り合いなんでしょ? 仕事の斡旋頼めないかなぁ?」
「しゃーないかぁ。んじゃ、行ってくんね」
「仕事ねぇ」
 カツヤは賑わう食堂のカウンターの中で、フライパンを振りながら頷いた。
「ちょうど今は繁忙期だから、選ばなければいくらでもあるんじゃないかな」
「超ラッキー!」
 ユウコは小踊りした。それから、ふとおもいついて、彼に尋ねた。
「ここでお金稼いでもいっかな?」
「何するんだ?」
「アヤコがリュートできるからさぁ、組んでここで踊ろっかなって思ってんだけど」
「ショバ代は上がりの3割で手を打とう」
「ええーっ? 高いよぉ、それ」
「他はもっと高いぞ」
 カツヤはにっと笑った。そこに声が掛かる。
「ビール4つ!」
「はい、少々お待ちを!」
「なんだ。ここはカッちゃん一人でやってんの?」
 ユウコはにっと笑った。
「じゃ、応援連れてくんね」
「応援?」
 カツヤが聞き返そうとしたときには、ユウコはもう2階に駆け上がっていた。
 バタン
 ドアを開けると、ユウコは部屋を見回し、言った。
「サキ、ミハル、ミラ、それからヨッシーとコウくんも、チョイ来て」
「え?」
 言われた皆は顔を見合わせた。
「サキちゃん、うまいモンだねぇ」
「ええ。慣れてますから」
 サキは手早く魚を炒めながら答えた。
「しかし、正直助かったよな」
 カツヤは、客達の間を盆を持って走り回るコウ達を見て頷いた。
 入り口の所では、ヨシオが客引きをしている。
「いらっしゃいませえ。只今タイムサービス中ですよぉ! おー、おねーさん美人! どう、寄って行かない? おまけしちゃうよ!」
「やっだぁ、この子お世辞うまいんだから」
「そんなことないって。ところで、住所氏名年齢職業、あと門限とスリーサイズを……いてて!」
「ヨッシー! お客さんをナンパすんじゃないの!」
 メモを出し掛けたところで、通りかかったユウコに思いきり耳を引っ張られてヨシオは悲鳴を上げた。
「ったく、こいつはぁ」
「いーだろ? 俺の趣味なんだから」
「カッちゃんのお店の評判が落ちたらどーすんのよ!」
「上がるかも知れないだろ。俺の評判でぶっ!」
 いきなりヨシオは後頭部をどつかれた。
「いってぇ。なん……げ、ユミ!」
「おにーちゃん! こんな所でバカしないでよぉ!」
 ユミは腰に手を当てて言い放った。ネコ耳がピンと立っている。
「おう、めんこいねーちゃんだねぇ」
 酔っぱらいがいきなり後ろからそのユミのお尻を撫でた。
「ひゃぁ!」
「お、尻尾までついて……」
「触るなぁ!!」
 どげしぃ
 レイやアルキーシさえもぐらつかせた、ユミの後ろ回し蹴りをまともに食らったその酔っぱらいは、そのまま店の外まで飛ばされた。
 カツヤが声を掛ける。
「お客さーん。喧嘩なら外でやって下さいねー」
「こ、このガキ!」
「でやぁぁ!」
 その酔っぱらいが起き上がって店に入って来ようとしたところに、ユミのドロップキックが決まった。
「ごげぇ」
 こんどこそ、その酔っぱらいは悶絶した。その腹に片足を乗せて、ユミはぴっと人差し指を立てた。
「いっちばぁぁん!!」
 カチャ
 カツヤはドアの鍵を降ろすと、振り返った。
「そっちは終わったかい?」
「ええ」
 にこにこしながら頷くサキの横で、コウとヨシオとユウコがぐてぇーっとしていた。
 サキは3人を見て肩をすくめた。
「だらしないなぁ、もう。お皿を50枚洗ったくらいで」
「サキは慣れてるからいいわよぉ。それに、水仕事は手が荒れるんだからねぇ」
 流しに寄り掛かりながら、ユウコは腕を振った。
 カツヤが笑いながら近寄ってくると、カウンターの前の椅子に腰掛けた。
「お疲れの所悪いんだけど、聞きたいことがあるんだ」
「まずは、アサヒナ一族の事っしょ? あたしさぁ、かったるいから、明日にしてくんないかなぁ」
 ユウコはいかにも疲れた風に軽く手を振った。
「そうか、なら明日にするか……なんて、あの時と同じ手が通じると思ったか?」
 カツヤはニヤッと笑うと、ユウコの頭をがしっと掴んだ。
「あいたたた」
「さぁ、話してもらうぞ」
「わーった、わぁったってばぁ」
 ユウコはじたばたもがくと、カツヤの手を頭から外した。
「んもー、夜更かしはお肌の大敵なんだからね!」
 ぶつぶつ言いながら、彼女はカツヤの隣の椅子に腰掛けた。
「……そうか」
 ユウコが話終わる頃には、コウ達はすでに眠り込んでいた。
 カツヤは呟いた。
「兄さんや姉さんも……死んだのか……」
「まぁね」
 彼女は頷くと、カウンターに突っ伏して寝息をたてているコウに視線をやった。
「んもう、コウったら。こんな所で寝てたら風邪引くぞぉ」
 カツヤも、彼の顔を見ると、ふっと笑みを浮かべた。そして、ユウコと見比べる。
「あ、あによぉ」
 ちょっと慌てたように、ユウコが聞き返す。
「別に。で、こいつとはどこまで行ったんだ?」
「え?」
 ユウコは赤くなった。
「あたしは、べつにぃ……」
「そうか? ライバルは多いみたいじゃないか」
「へーんだ。そういうカッちゃんはまだ独り身なんっしょ?」
 反撃に出るユウコ。
 カツヤは苦笑した。
「そうだな」
「なによぉ、まだマイさんのことが忘れられないって?」
「ほっとけ。男はロマンチストなんだよ」
 カツヤはそう言うと、立ち上がった。
「じゃ、そろそろ寝るかな」
 翌日の夕方。
 コウは砂浜に座って、沈もうとする夕陽を見ていた。
「よう、どうしたんだい?」
「あ、ノゾミさん?」
 声をかけられて、コウは振り返った。
 ノゾミは、さすがに暑さに耐えかねたのか、いつも着ている皮鎧も脱いで、シャツ一枚という姿だった。それでも、長剣“スターク”だけは身につけている。
「うん、なんとなくね」
 コウはそう答えると、肩をすくめた。
 ノゾミは、辺りを見回して、誰も居ないのを確かめてから、近づいてきた。そして、訊ねる。
「隣、座ってもいい?」
「え? あ、いいよ」
「ありがと」
 彼の隣に座ると、ノゾミはコウを見た。
「ん? 何?」
「ううん。ただ……、こうしてコウと二人っきりになるの、初めてみたいな気がしてさ」
「そうかな? だって、剣の練習してるときも、二人っきりだったじゃないか」
「懐かしいなぁ。あれから随分たったみたいな気がする……。そうだ!」
 ノゾミは悪戯っぽく笑った。
「あれから、どれくらい上達したか、見てやるよ」
「え? わっ!」
 コウは咄嗟に転がって、ノゾミが抜き打ちに放った一撃をかわした。
「ひどいなぁ」
「あはは。冗談冗談。でもさぁ、今の一撃を避けるとは、少しは腕も上がったかな?」
「そ、そうかなぁ?」
「ああ。誰かに習ってるの?」
「うん、ユカリちゃんに習ってる」
 コウは起きあがりながら言った。
「へぇ。意外だなぁ。あたしはてっきり……」
 ノゾミは、トキメキ国のメンツを思い浮かべて苦笑した。
「誰もいないかぁ」
「ユカリちゃんはああ見えても、コシキ流剣術総師範の娘だから、剣術はなかなかなんだよ」
「ふぅーん」
 そう答えてから、不意にノゾミは自分の頭をぽかぽか叩いた。
(莫迦みたいじゃない。なんでそんな色気も何もない話しかできないんだよ、あたしはっ!)
「ど、どうしたの?」
 驚いてコウが訊ねたので、ノゾミはやっと我に返った。
「な、なんでもない。それより、コウ……」
「!!」
 その時、コウは思いがけないものを見てしまって、硬直した。
 ノゾミの着ているのは薄いシャツ一枚だった。そして、ちょうどコウの角度からは、そのシャツの襟から中が見えていたのだ。
 白い膨らみが、コウの目に焼き付いた。
 ノゾミは、はっとそれに気づいた。慌てて、襟をかき合わせる。
「ば、莫迦! 何を見てんだよっ!!」
「いや、あ、ご、ごめん」
「……」
 真っ赤になって俯いていたノゾミは、やがてちらっとコウを見た。
「ね、ねぇ。コウ……」
「え?」
「あのさ、あたしって……」
「コウ! こんな所にいたんだぁ!!」
 後ろから声がした。かと思ったときには、もうコウの首根っこにユウコがかじりついていた。
「わぁっ、ユウコさん!?」
「こんな所で何してんの?」
 ユウコは、二人を見比べた。
「さってと、あたしは剣の稽古でもしようかなぁ」
 ノゾミはわざとらしく言うと、立ち上がった。
「あ、ノゾミさん?」
「んじゃ、また後でね」
 ノゾミはそう言うと、砂浜を歩き出した。少し行ってから振り返る。
「こら、離れろって!」
「だーめ。あたし、寂しかったなぁ」
「わぁっ! 変なところ触っちゃダメだってば!!」
「……何やってるんだろ、あたし」
 ノゾミは呟くと、海に視線を転じた。そして、剣を抜いた。
「大海嘯っ!!」
 ドッパァァン
 押し寄せる波に逆らうように、ノゾミの起こした波が沖に向かっていく。
 パチパチパチ
 手を叩く音に、ノゾミは振り返った。
「見事な、剣技ですねぇ。わたくし、感心してしまいました」
「ユカリさんかい?」
 ユカリは、薄手の浴衣みたいなものを着ていた。みたいなもの、というのは、当然ながら西方のこの地で東方の衣類など手に入らないので、ユカリが自分で縫ったものだからだ。
 ノゾミはユカリに尋ねた。
「コウからさっき聞いたんだけど、コウに剣術を教えたのってユカリなんだって?」
「はい」
 ユカリはにこにこしながら頷いた。
「コウさんは筋がよろしいので、教えがいがありますわ」
「へぇ……」
 ノゾミは、ユカリの方に向き直った。
「一つ、頼みがあるんだけどさぁ」
「はい、何でしょう?」
「一度、東方の剣と手合わせしてみたかったんだ」
 ノゾミはその時、今までのもやもやを吹き飛ばしたかった。
 ユカリはにこにこしたまま頷いた。
「よろしいですよ」
 ノゾミとユカリは、砂浜で向かい合った。
 両者の間は約5メートル。ノゾミにとっては大海嘯の間合いだが、彼女はそれを使う気はなかった。
 ノゾミは軽く、ユカリは丁寧に頭を下げ、そしてノゾミは“スターク”を構えた。
 ユカリは懐から小剣を出した。
「この小剣、銘を“黒南風”と申しまして、我がコシキ流宗家に伝わりし秘剣でございます。これで、お相手いたします」
「この“スターク”は知ってるね?」
「はい。その剣のお相手をするには役不足かとも存じますが、この剣にて失礼いたします」
 ユカリはそう言うと、黒い鞘を払った。
 二人は、互いの剣を構え、対峙した。
「ねぇー、コウくぅーん」
「あ、あの、ユウコさん……。あ、あれ?」
 コウはユウコを振り解いて立ち上がった。
「あん」
「あれ、ノゾミさんとユカリさんじゃないの?」
「え? あ、ホント。何やってんだろ?」
「行ってみよう!」
 そう言うと、コウは駆け出した。
「あん、待ってよ!」
 仕方なく、ユウコもその後を追った。
「キヨカワ流剣術、参る!」
「コシキ流剣術、参らせていただきます」
 ダッ
 二人は同時に砂を蹴った。
 キィン
 澄んだ音がし、二人は場所を入れ替えて、振り返った。
「やるね」
 ノゾミはにっと笑った。ユカリもにっこりと微笑んだ。そして一礼する。
「それでは、失礼いたします」
「ああ。あたしはもう少ししたら戻るから」
 ユカリは“黒南風”を鞘に戻して踵を返した。そして、駆けつけてきたコウに気づく。
「あらぁ、コウさん。わたくし、先にお宿に戻っておりますので」
「え? え?」
「では」
 ユカリはコウと、その後ろから駆けつけてきたユウコにも一礼して、楚々と立ち去った。
「あ、あのぉ……」
「大した娘だね」
 ノゾミは言った。ユウコが肩をすくめる。
「今頃気づいた?」
「え? あ、あのぉ……」
 一人うろたえているコウであった。
 コウ達がスライダの街でアルバイトをしている何てことは露知らぬユーゾ達は、スライダまであと1日の所までやってきていた。
 野営の準備を雇われ人夫達がやっているなか、ユーゾは夕陽を眺めながら、呟いた。
「明日は、スライダかぁ。ユミさん、手紙読んでくれたかなぁ」
「ユーゾ」
 後ろから名前を呼ばれ、彼は振り返った。
「あ、父さん」
 キラメキの商業ギルドのギルドマスターであり、ユーゾの父親でもあるコーゾ・オキタは、彼の隣に腰を下ろした。それから、パイプに火を付け、一服くゆらせた。
 紫煙を吐き出し、それが風にさらわれる様を見送ってから、彼は静かに言った。
「……お前、彼女のことは……」
「いいんだよ、父さん」
 ユーゾは夕陽を見つめたまま、答えた。
「僕は、彼女が好きですよ。でも、彼女に僕を好きになれなんて言えませんよ」
「……そうか」
 コーゾは重々しくため息をつき、ユーゾの肩を叩いた。
「すまなかったな。余計な事をして」
「いえ」
 彼は首を振った。
 親子は、夕陽がすっかり沈むまで、そのまま黙って座っていた。
 夜中。
「ぎゃーっ」
 悲鳴が聞こえて、ユーゾは飛び起きた。
「なんだ!?」
「うわぁーっ!」
「たすけ……がぁっ」
 回り中から叫び声が聞こえてくる。
 彼はテントから飛び出した。とたんに、目の前に剣が突き出される。
「死ね!」
「くっ」
 とっさに、彼は足下の土を投げつけた。
「うわぁっ」
 その土が相手の目に入ったらしく、相手は目を拭っている。その隙に、ユーゾは逃げだそうとした。
 その前に、いかにも野盗という感じの男達が現れる。
「てめぇがユーゾ・オキタだな」
「何!?」
「“星”はどこだ!?」
「!!」
 その瞬間、ユーゾは直感した。
(こいつら、ただの野盗じゃない!)
「言いたくなけりゃ、言わなくてもいいんだぜ。皆殺しにして、ゆっくり探すだけだ」
「……」
 ユーゾは唇を噛んだ。
「ユーゾ!」
 不意に叫び声が聞こえた。
「と、父さん!」
 コーゾは、他の野盗達に囲まれながらも叫んだ。
「ユーゾ、いいか!? 我々は商人だ。それを忘れるな!」
「黙れ!」
 ザシュッ
 肉が裂ける音。
 血を吹き出しながら、コーゾは倒れた。
「父さん! 父さんっっ!!」
 駆け寄ろうとするユーゾを、野盗達が押さえつける。
 コーゾは、血塗れになった顔を上げ、ユーゾにもう一度言った。
「商人の誇りを……忘れるな」
 ドシュッ
 剣を振り下ろす音。
 ユーゾの目に、そのビジョンが焼きついた。
「さて、お前も親父のようになりたくなければ……」
「隊長! ありました!」
 不意に一人の男が叫んだ。彼の手には、ユーゾのナップザックがあった。
 ユーゾは顔色を変えた。
「それは!」
「へ。もう用はないな」
 隊長と呼ばれたその男は、ユーゾを突き倒すと、ナップザックを受け取った。そして言う。
「俺は一足先にアキラ様に報告する。お前達は後は好きにしろ。ただし、皆殺しにすることは忘れるなよ」
「やっほう!」
「へっへっへ」
 あちこちで歓声が上がる。そのなか、その男は姿を消した。
「畜生!」
 ユーゾは、地面をたたきつけた。
「へへ。スグに親父の所に送ってやるさ!」
 野盗達が、剣を持って彼を取り囲む。
 白刃が振り上げられた。ユーゾは、叫んだ。
「ごめん、ユミちゃん!」
「……ふぇ?」
 宿屋で眠っていたユミは、不意にむっくりと起き上がった。隣のベッドで横になっていたメグミに訊ねる。
「メグミちゃん、よんだぁ?」
 スースー
 メグミは、規則正しい寝息を立てていた。
「……気のせいかなぁ」
 ユミはポリポリと頭を掻くと、そのままバタンとベッドに横になった。
「うみゅ〜。コウさぁん……」
「死ねぇ!」
 野盗達が剣をユーゾに振り下ろそうとした、まさにその時。
 不意に声がした。
「久しぶりのキラメキ王国だってのに、血生臭いなぁ」
「カツマ! バカ言ってないでさっさとやりなさい!」
 もう一つの声がする。
「へいへい」
「だ、誰だ!?」
 消えかけた焚き火の光の中に、4人の人影が現れた。
 先頭の鎧姿の男が、剣を抜きながら言った。
「マーセナリー・カルテット、ただいま参上!」

《続く》

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