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宇宙戦艦セント・エルシア その4
敵の秘密と味方の謎と

「ほーこくしょのてんそー、終わったよん」
 ミャーコさんがインカムを押さえて、振り向いて言いました。お兄ちゃんは頷くと、スクリーンに向き直ります。
「報告書、転送しました」
「うむ」
 スクリーンに映っている偉そうな軍人さんは、頷いてからお兄ちゃんに言いました。
「緊急避難的措置として、諸君の行動を認め、軍務違反については不問に付すことにしよう。なお、個人的な見解だが……」
 そこで言葉を切って、ふっと微笑みました。
「よくやってくれた。“セント・エルシア”があの場で撃沈されていた場合、我々の損失は計り知れない。君たちの行動に感謝する」
「ありがとうございます」
 お兄ちゃんも緊張を解いて、頭を下げました。

 私たちを乗せた、連合宇宙軍最新鋭戦艦“セント・エルシア”は、ドック艦“星名”から緊急離脱して、襲ってきた相手を逆にやっつけました。
 一段落したところで、お兄ちゃんと天都さんが相談して、連合宇宙軍の本部に連絡を取ることにしたんです。

「さて、現在“セント・エルシア”の本来の乗員だが、シャトルでそちらに向かっているところだ。合流次第、諸君らは彼らに“セント・エルシア”を引き渡し、折り返し、そのシャトルでこちらに戻ってきてもらいたい。以上」
 通信が切れました。
「あ〜あ、ここにいられるのもあとちょっとってわけか」
 冴子さんが残念そうに、自分の席の正面のパネルを軽く叩きました。
「最新鋭戦艦なんて、今後乗れることなんてないだろうし……。まぁ良い経験になったって思えばいいんじゃない?」
 菜織ちゃんはそう言うと、振り返りました。
「ね、正樹?」
「そうだな」
 お兄ちゃんは苦笑して、艦長席に座りました。
 天都さんが立ち上がって、その隣りに歩いてきました。
「伊藤准尉……。ちょっとお話があるんですけど……」
「なんですか?」
 天都さんの方を見るお兄ちゃん。天都さんはブリッジを見回しました。
「ここじゃちょっと……」
「あ、わかりました。菜織、ちょっと頼む」
 そう言って、お兄ちゃんは立ち上がりました。そして、天都さんと一緒にブリッジを出ていってしまいます。
 ……天都さん、美人だなぁ。
「……おい、ミャーコ! 何してんだっ!?」
 ぼーっとしていた私は、冴子さんの怒鳴り声ではっと我に返りました。
「なにって? 艦内モニター見てるだけだよ」
「見てるって、そこに写ってるの、正樹と天都さんじゃねぇか!」
「ふっふっふ。サエも興味あるんでしょ?」
 お兄ちゃん?
 私も立ち上がって、ミャーコさんの席に近寄りました。
 ミャーコさんの前に広がっているウィンドウに、お兄ちゃんと天都さんが写っています。何か話してるみたいだけど、音は聞こえてきません。
 あ。
 お兄ちゃんがなにか驚いてるみたい。何を言われたんだろ?
「お、おい、ミャーコ。音は聞こえねぇのか?」
 冴子さんもじれったいみたいです。ミャーコさんに声をかけています。
「ちょっと、2人とも止めなさいよ」
 そう言いながら、菜織さんがのぞき込みました。
「菜織ちゃんも聞きたい?」
「えっと、その……。あ、あたし今ここの責任者だから、艦内を監視しないといけないのよね」
 ……菜織ちゃんも聞きたいみたいです。咳払いして、ミャーコさんに言いました。
「コホン。音声を出してくれるかしら?」
「アイアイサー。ポチッとな」
 ミャーコさんがそう言いながらウィンドウを撫でるようにすると、お兄ちゃんの声が聞こえてきました。
「それじゃ、あの敵は異星人だって言うんですか!?」
「……」
 私たちは顔を見合わせました。
 天都さんの声が聞こえてきます。
「間違いないわ。私の父が長年研究してきた、そして警告しては笑い飛ばされてきた異星人の存在。……伊藤准尉、冥王星の遺跡は知ってるわよね?」
 私は大きく息をのみました。知ってるもなにも、私はついこの間まで、その冥王星にいたんですから。
「た、確かに冥王星の遺跡は異星人のものでしょうけど、でももう異星人はずっと昔にいなくなったって……」
「戻ってきたのよ」
 天都さんは、壁にもたれるとそう言いました。それから、不意にこっちを見上げます。
「やばっ!」
 ミャーコさんが慌ててウィンドウを撫でました。画像がふっと消え、声だけが聞こえてきました。
 天都さんのくすっと笑うような声です。
「好奇心旺盛な皆さんね」
「……え?」
「そこの監視カメラ、作動してたみたいよ」
「……ミャーコちゃんかっ!!」
「うわちゃぁ。あのあのえっと、あたしいないって言っといてね〜っ!」
 そう言って、ミャーコさんはばたばたっとドアから飛び出していきました。入れ替わるように、別のドアからお兄ちゃんが飛び込んで来ます。きょろきょろと見回して、私に尋ねました。
「乃絵美、ミャーコちゃんは?」
「あの、えっと、その……」
「ミミミミャーコなら、その、おトイレみたいよ。ね、サエ?」
「おおおおおう、そうだなっ」
 菜織ちゃんと冴子さんが頷き合っています。傍目から見てもとっても怪しいです。
 お兄ちゃんは、肩を組んで笑っている2人を見てから、私に近づいてきました。
「乃絵美、知ってるんだろ?」
「あああの、えっとえっと……」
「お兄ちゃんに隠し事するなんて、悲しいな」
 お兄ちゃん、本当に悲しそう。
「ご、ごめんなさい」
「あーっ、正樹っ! それは卑怯よっ!!」
「菜織ちゃん、いいの。やっぱり私、お兄ちゃんに隠し事なんてできない」
 私は首を振りました。そして言おうとしたとき。
 フィフィフィフィフィフィ
 変な音が急に鳴り出しました。

「な、何の音?」
「救難信号!」
 ドアが開いて、逃げていったはずのミャーコさんが飛び出して来ました。私も慌てて自分のシートに戻ります。
「あ、出てきたな、ミャーコちゃん!」
「正樹っ! それどころじゃないでしょっ!」
「いや、そりゃそうかもしれないけど……」
「にゃはははっ。ごめんね〜」
 そう言って通信士のシートに滑り込みながら、ミャーコさんは私のほうにぺろっと舌を出して見せました。それから前のウィンドウに向き直ります。
「発信源を特定。方位114マーク25、距離225光秒。音声受信しました」
「チャンネルオープン!」
 お兄ちゃんがそう言ったとき、ちょうど天都さんもブリッジに戻ってきました。
 声が聞こえてきます。
『こちら、連合宇宙軍シャトル・スターゲイザー。現在正体不明の敵からの攻撃を受けている。至急救助を求む。繰り返す、こちら……うわぁっ!』
 どぉっ、という爆発音が最後に聞こえて、それから何も聞こえなくなりました。ミャーコさんが振り返って伝えます。
「音声信号、途絶しました。救難信号は持続してます」
「それって、“セント・エルシア”の乗員を乗せてるはずのシャトルじゃねぇのか!?」
 冴子さんが声を上げます。
 天都さんが頷きました。
「ええ。連絡通りなら、そのシャトルのはずよ」
「菜織っ!」
 お兄ちゃんが叫びました。菜織ちゃんは頷きます。
「判ったわ。方位114マーク25に針路修正」
「“セント・エルシア”発進!」
 “セント・エルシア”は、シャトルの方向に向かって進み始めました。

 でも、その場に着いたときは、全てが終わっていました。
「……生存者の反応、……ありません」
 何度も確認したけど、レーダーの探査範囲には、人の生きている証拠はなにもなかったんです。
「……間に合わなかった」
「畜生!」
 冴子さんが、どんとコンソールパネルを叩きました。
 重い空気がブリッジに立ちこめます。
 と、天都さんが静かに言いました。
「……これが、やつらのやり方」
「天都さん……?」
「みんな、聞いてたんでしょう?」
 その言葉に、私たちは思わず俯いてしまいました。
 天都さんは苦笑しました。
「いいのよ。それについてはとがめるつもりはないから」
「それじゃ改めて聞きますけど、どうして俺にそんな話をしたんですか?」
 お兄ちゃんが天都さんに視線を向けます。
「俺は、自分で言うのもなんだけど、軍人としても、まだ半人前ですよ。そんな俺に秘密を話したって、どうにでもなるわけじゃないと思うんですけど……」
「なぜかしら。自分でもよく判らないんだけど」
 苦笑するように、天都さんは正面のスクリーンに視線を向けました。
「あなたなら、ううん、ここにいるみんななら、話しても大丈夫。そう思ったのよ」
「大丈夫っていうのは、どういう意味なんだよ?」
 冴子さんが聞き返します。
 天都さんは、スクリーンを見つめたまま、答えました。
「それは、あなた達が選ばれた者だから……」
「えっ!?」
 みんなが同時に天都さんに視線を向けました。
 天都さんはくすっと笑って肩をすくめます。
「なんてね。ちょっと格好良いでしょ?」
 なんだ、冗談だったんですね。ちょっとドキドキしちゃいました。
「天都さんも人が悪いなぁ」
 お兄ちゃんも、頭の後ろに手を当てて、苦笑してます。
「それでね……」
 振り返って、天都さんは言いました。
「私としては、あなた達に頑張って欲しいの」
「……はい?」
 頭の後ろに手を当てた格好のまま、お兄ちゃんは聞き返しました。
 何となく、私は胸騒ぎを感じてました。
「……お兄ちゃん……」
「だからね、この“セント・エルシア”は、あなた達に任せちゃうわね」
「天都……さん?」
「あ、もう一人……。新しい艦長と、あなた達に、ね」
 天都さんはウィンクすると、パチンと指を鳴らしました。
 信じられないことに、その瞬間、天都さんの姿が消えてしまったのです。
「あ、あれ……?」
 一拍置いて、ブリッジは大騒ぎになりました。
「何があったの? 天都さんは!?」
「ミャーコ、おめぇかっ!?」
「ぶるぶるぶる、あたし、まだ何もしてないよっ!」
「まだってことはやっぱ何か企んでやがったのかぁっ!!」
「ちょっとサエっ! ミャーコをいじめてる場合じゃないでしょっ!」
「止めるな菜織っ! あたいは今日こそこのバカをっ!!」
 私もびっくりしてたんですけど、みんながあんまり大騒ぎしてるので、かえって落ち着いちゃいました。
 とりあえず、自分の席の前に開いているウィンドウに指を走らせます。
 気になっていたのは、天都さんが最後に言ってたこと。

「だからね、この“セント・エルシア”は、あなた達に任せちゃうわね」

 ……やっぱり。
「お兄ちゃん……」
 言ってから、この騒ぎじゃ聞こえなかったかな、って思ったけど。
「どうした、乃絵美?」
 お兄ちゃんはやっぱり、すぐに来てくれました。だから私……。
「あ、ううん」
 私は慌てて頭を振って、それから言いました。
「お兄ちゃん、メンバーがコンピュータにロックされちゃってるの」
「マジぴょん!?」
 ミャーコさんが、ぴょこんと立ち上がりました。それから慌ててインカムに指をかけて、声を上げます。
「コンピュータさん、乗員変更っ!」
 ビーッ
 エラーの音が鳴るだけです。
「はにゃぁぁ」
「どういうことよ、それって?」
「私たち以外には、この“セント・エルシア”は動かせないんです」
 私が言うと、お兄ちゃん達は顔を見合わせました。
「なんだってぇ!?」

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あとがき
 久しぶりだな、このシリーズも。
 まぁ、色々とありましたから(笑)

 今回から、簡易採点システムをつけてみました。
 どうぞご利用ください。っていうか、使ってみてください(笑)

 宇宙戦艦セント・エルシア その4 00/01/20 Up

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