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 内気な美少女めぐみちゃん。彼女は親友の詩織ちゃんのお隣に住んでいる公くんを、ある日デートに誘いました。
 ところが、事もあろうにその公くんは、デートの最中に突然めぐみちゃんに襲い掛かったのです。
 その場は何とか難を逃れたのですが、それからも公くんは愛ちゃんを狙い続けているようで、しつこく彼女を追いかけてきます。
 今日も、学校帰りに待ち伏せして、めぐみちゃんに襲い掛かってきました。運良くお友達の詩織ちゃんが公くんを退治してくれて、その場は無事に済みましたが、これからのことを考えると、めぐみちゃんはため息をつくしかありません。
「神様。愛をお守りください……」
 寝る前に、めぐみちゃんは神様にお祈りするのでした。

めぐみちゃんとでぇと
第弐話 君は僕の太陽だ


 めぐみちゃんが襲われた忌まわしいあの日から数日が過ぎました。
 公くんは、懲りもしないでめぐみちゃんを狙っているようです。
 ほら、今も。
「めぐみちゃぁぁん!!」
「いやぁーっ!!」
 バタバタバタ
 廊下を走る二人。もちろん、公くんがめぐみちゃんを追いかけているのです。
 公くん、そのまま行ったら……。
「いいかげんに、しなさぁーい!!」
 バキィ ほら、言わないこっちゃない。
 めぐみちゃんの頼もしい守護神、詩織ちゃんの登場です。
「公くん! いい加減にしなさいよ。メグ、厭がってるでしょ!」
「詩織には関係ないっ!」
 公くん、不屈の闘志で立ち上がります。
「俺は愛ちゃんに用があるんだ。そこをどいてもらおう」
「ダメ」
 詩織ちゃんは二人の間に大きく手を広げて立ちはだかります。
「メグには手出しさせないから!」
「……っ!」
 二人は束の間睨み合い、そして、公くんの方が根負けしたように目を逸らします。
「愛ちゃん、後でね」
 そう言って、公くんはくるっと振り向いて歩いていきます。野次馬が、さっと左右に分かれます。
「どけ! 見せ物じゃねぇんだ!!」
 どう見ても、見せ物ですね。
 その夜。
 詩織ちゃんはベッドに腰掛けて考え込んでいました。その視線の先にはコードレスホンがあります。PHSにもなる優れものは、お隣の公くんが去年プレゼントしてくれたものです。
「やっぱり、はっきり言わないとだめなのかな……」
 詩織ちゃんは呟くと、決心したように大きく頷きました。
「そうよね。メグのためだもんね。よしっ」
 コードレスホンを取ると、短縮の1番。
 ピポパパッ
 ツー・ツー・ツー
「……話し中かぁ」
 詩織ちゃんはそう呟くと、カーテンの隙間から向かい側の窓を見るのでした。
 そのお向かいの公くんの部屋。
 公くんは受話器を握って声をかけていました。
「愛ちゃん、話だけでいいから聞いてくれ! 愛ちゃん!」
 プツッ、ツーツーツーツー「愛ちゃん、めぐっ……。ちぇ」
 公くんは電話をベッドに放り上げて、床にあぐらをかいて座り、腕を組みました。その姿勢のまま天井を見上げます。
「謝ることもできねぇもんなぁ。どうしたらいいってんだ、好雄よぉ」
 その頃、好雄君は。
「骸割りっ!!」
「きゃぁーっ!」
「へっへっへ、見たかぁ」
「超むかぁ! このぉ、キスキスキッス! えいえいえいえいえい、ばかーっっ!!」
「うわーっっ!」
「超こわかったぁ」
 ゲーセンで夕子ちゃんと遊んでいたのでした(笑)
「こうなったら直接言うしかないわよね。うん、メグのためだもんね」
 詩織ちゃんはそう呟くと、カーディガンを羽織りながら立ち上がろうとしました。
 と、ちょうどその時、電話のベルが鳴ったのでした。
 とるるる、とるるる
「誰かしら?」
 一瞬、ちらっとお隣の窓を見て「まさかね」と呟いてから、詩織ちゃんは電話を取りました。
「はい、藤崎です」
「もしもし、美樹原です……」
「メグ? メグなの!?」
「あ、はい……」
 受話器の向こうから、めぐみちゃんの声が聞こえてきました。
 詩織ちゃんは受話器に耳を押しつけました。めぐみちゃんは声が小さいので、こうしないとよく聞こえないのです。
「どうしたの? メグからかけてくるなんて……」
「詩織ちゃん、今、主人さんから電話が……」
「公くんから?」
「うん。私、私……どうしたら……」
 受話器の向こうからすすり泣きの声が聞こえてきます。
 詩織ちゃんはぎゅっと拳を握りしめました。
「いいわ、メグ。私から公くんにちゃんと話を付けるから!」
「え? でも……」
「それじゃ、後は任せてね!」
 カチャン 電話を切ると、詩織ちゃんは公くんに電話を掛け直します。
「いまならいるはずよね、公くん!!」
 10分後。
 詩織ちゃんに呼び出されて、公くんは近所の公園に来ていました。
「何の用だろう、詩織のやつ。まさか……、公くん、じつは私、公くんのことが……。ばかだなあ、詩織。そんなことわかってるよ。嬉しい、公くん!」
 夜の公園で一人ぶつぶつ言う公くんはとっても危ないですね。
 おや、そんなことを言っている間にも詩織ちゃんがやってきましたよ。
「公くん!!」
「おお、詩織! さぁ、僕の胸の中に飛び込んでおいで!」
「は、はぁ?」
 面食らった顔をしながらも、詩織ちゃんは公くんの前に立ちました。
「何を訳の分からないことを言ってるの?」
「はっはっは、恥ずかしがり屋さんだねぇ、詩織ちゃんは」
 全然話が噛み合ってませんね。
 じれた詩織ちゃんは、つかつかと公くんに近寄りました。
「いい? 私はね、メグのことで……」
「詩織!」
 急に公くんは詩織ちゃんを抱きしめました。
「え?」
 長い髪がふわりと揺れて、公くんの顔に掛かります。
 ドキドキドキドキ 詩織ちゃんの鼓動が高鳴ります。
(わ、私、どうしたのかしら? どうして、公くん? え? なんなの?)
 詩織ちゃんはすっかりパニックになってしまいました。お顔がかぁっと赤くなります。
「こ、公……くん……」
「詩織。何も言わないで……」
「……」
 どれくらいそうしていたことでしょう。詩織ちゃんははっと我に返りました。
 気がつくと、自分も公くんの背中に手を回しているではありませんか。
(こ、これじゃ私、自分から公くんに抱かれたがってたみたいじゃない! 違うのよ。私はメグのために……。でも、なんだかふわふわしてて、溶けちゃいそうな気分……)
 そう思いかけて、詩織ちゃんはあわてて首を振りました。そして、思いっきり公くんを突き飛ばしました。
「やめてーっ!!」
 ドン
「おうわっ!!」
 吹っ飛ばされた公くんは、そのまま大きな木に頭をぶつけてしまいました。
 詩織ちゃんは頬を赤く染めたままおろおろしています。
「私、私は、メグの事で、その、公くんに抱かれて嬉しかったんじゃなくて、違うの、その……。まぁ、今晩はこれくらいにしておくわね!」
 そのまま、くるっと振り返ると、公くんをそのままにして、詩織ちゃんはパタパタと自分の家に駆け戻っていってしまいました。
 パタン
 自分の部屋のドアを閉めると、詩織ちゃんはそのドアに背中を預けてため息を一つつきました。それから自分の両手をまじまじと見つめます。
(私、どうして公くんを抱きしめてたのかしら……。わかんない、もう自分がわかんないよ……。メグ、ごめんね……)
 詩織ちゃんは、そのまま、自分で自分を抱きしめてその場にうずくまってしまいました。
 翌朝。
「……ってわけなんだ」
 公くんは、後頭部のこぶを撫でながら、好雄君に昨日の話をしました。それから、詩織ちゃんの席をちらっと見ます。
 詩織ちゃんは今日は急に風邪を引いて、学校を休んでいます。
「美樹原さんに続いて、今度は藤崎さんにも手を出したのか、お前は」
 好雄君は呆れ顔で聞き返しました。
「そういう言い方はないだろう?」
「他にどう言えばいいってんだ?」
「ああーっ、俺はもうおしまいなのかぁ!?」
 公くんは頭を抱えてうずくまってしまいました。その公くんを見下ろして、好雄くんは一言だけ言いました。
「勝手に終わってろ」
 休み時間。公くんはふらふらと廊下を歩いていました。そして、やにわに廊下の窓をがらっと開けると、空に向かって叫びます。
「俺は、不幸だぁぁぁぁ!!」
 と。
「こんにちわ、主人さん」
 おっとりとした声が聞こえて、公くんは振り返りました。
「あれ? 古式さん?」
「ごきげんよろしゅう」
 古式ゆかりちゃんです。今日も三つ編みがとってもキュートな古式不動産のお嬢様です。
 とっても礼儀正しいゆかりちゃんは丁寧に頭を下げると、公くんに訊ねました。
「ところで、主人さん。来週の日曜日は、空いておりますでしょうか?」
「え? うん、空いてるけど」
「よかったです。それでは、中央公園に行きませんか?」
 ゆかりちゃんはにっこりと笑って言いました。公くんは頷きました。
「いいね。行こうか」
「はい。それでは、そのように」
 ゆかりちゃんはまた丁寧なお辞儀をして、そのまま歩いていきました。
 公くんは思わずガッツポーズをしながら涙を流していました。
「ゆかりちゃぁん、君は僕の太陽だ!!」

《続く》

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