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めぐみちゃんとでぇと
第九話 清純なの!

お隣の公くんのために、腕を奮ってお弁当をつくってきた詩織ちゃん。ところが、その公くんは沙希ちゃんのお弁当を食べてしまったのです。
傷心の詩織ちゃんの前にさらなる衝撃が。
こんどは、親友のめぐみちゃんが、詩織ちゃんの知らない女の子と仲良くしてるところを見てしまった詩織ちゃん。
なんだか、公くんもめぐみちゃんも自分を離れていってしまうようで、寂しくなってしまいました。
放課後になりました。
朝までは、詩織ちゃんは公くんと一緒に帰ろうとうきうきしていたのですが、今は気分はすっかりブルー。授業が終わったというのに、机に頬杖をついて、ため息ばかりです。
でも、ずっと学校にいるわけにもいきません。詩織ちゃんはのろのろと立ち上がります。
「帰らなきゃ」
そうつぶやいて、鞄を持って廊下に出たところで、
ドシン
「きゃっ」
ほらほら、前をよく見ていないから。詩織ちゃん、横から来た人とぶつかっちゃいましたね。
「ご、ごめんなさい」
「こちらこそ、すいません」
静かな声に、詩織ちゃんは相手が誰かスグに判りました。
「如月さん、今帰りなの?」
「ええ」
如月未緒ちゃんです。詩織ちゃんとは図書室でよく会ってお話ししたりする仲です。
未緒ちゃんは、持っていた本を抱えなおすと、詩織ちゃんに訊ねました。
「どうかしたんですか? 顔色が悪いようですけど」
自分の身体が弱いだけに、人の体調にも敏感なようですね。
「な、なんでもないのよ」
詩織ちゃんは慌てて両手をパタパタと振りました。
「なんでも、ないの……」
その頬を、光るものが滑り落ちます。
「や、やだ……」
慌てて、頬を拭う詩織ちゃん。
「藤崎さん……」
未緒ちゃんは、碧色の瞳でじっと詩織ちゃんを見つめました。
さて、その頃。
「ねぇ、夕子ちゃん。もうやめましょうよ」
「あにいってんの! こうなったら絶対に突き止めてやるんだから!」
夕子ちゃんは拳をぎゅっと握りしめて、沙希ちゃんに迫りました。
「あいつがあれだけ隠そうとしてるってことは、きっとすごいヒミツがあるに違いないわ!」
「わ、判ったから、落ちついて、夕子ちゃん」
まあまあと夕子ちゃんをなだめようとする沙希ちゃんでしたが、夕子ちゃんは聞いていません。
「絶対に逃がさないわよっ!!」
「あ、ほら、夕子ちゃん。2人とも行っちゃうよ」
沙希ちゃんは、楽しげにおしゃべりしながら校門を出ようとしている好雄くんとゆかりちゃんを指さしました。
「おっといけね。行くぜハチ!」
「がってんでい、親分」
ノってますね。2人とも役者さんのようです。
さて一方、めぐみちゃんは、見晴ちゃんと並んで通学路を歩いていました。
「でね、なかなかユーカリの葉っぱが手に入らなくて大変だったのよ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。やっと直輸入してるペット屋さん見つけたんだけど……」
「この間、一緒に行ったところですね」
「そうそう。そこなのよ」
とっても仲良さそうですね。見ていても微笑ましいです。
ところが、不意に2人の前に人影が現れたのです。
「愛ちゃん!!」
「え? きゃっ」
慌ててめぐみちゃんは見晴ちゃんの影に隠れようとして、辺りを見回しました。
見晴ちゃんの姿がありません。
さらに慌てるめぐみちゃんに迫るのは、もうお馴染み主人公くんです。
「やっと、話が出来そうだね、愛ちゃん」
「い、いやぁ」
後ずさるめぐみちゃん。
その背中がトン、と塀に当たります。
めぐみちゃんは横に逃げようとしましたが、一瞬早く公くんはどんと塀に手を突いて、めぐみちゃんの退路を断ちました。
それから、ゆっくりと顔を近づけます。
「じっくりと話し合おうじゃないか」
好雄くんとゆかりちゃんは、前と同じように繁華街の雑踏の中を歩いています。ときどき立ち止まってはショーウィンドーを指して何か言ったり、露店のワゴンを覗き込んでは楽しそうに笑っています。
端から見ると、まるでデートでもしてるかのようですね。
「きーっ!! なんか知らないけど超むかぁ!!」
夕子ちゃんは、何故かイライラしています。
「ほら、沙希! さっさと行くよ!」
「どうしてあたしが……」
「つべこべ言わない!」
「……はぁい」
ああ、可哀想な沙希ちゃん。
やがて、2人は映画館に入っていきました。夕子ちゃんもその後を追って、看板を見上げます。
「えっと、……あ、あのボケがぁ」
「え? どうしたの? ……あ」
沙希ちゃんもつられて看板を見上げて、真っ赤になって俯いてしまいました。夕子ちゃんの背中をチョンチョンとつつきます。
「ねぇ、入るの?」
「も、もちろんっしょ!」
「あ、あたし、ちょっとこれは……パス」
「沙希って友達がいないのね」
「だ、だってぇ……。第一、制服じゃいけないんじゃないかしら」
「そうなの?」
「うん。制服のままだと、受付で丁寧に断られるんだから」
「……沙希、妙に詳しいのね」
「え?」
夕子ちゃんはにまぁっと笑った。
「さては、沙希……」
「そ、そんなことないわよ!」
沙希ちゃんは慌てふためいて大きく両手を振りました。
「こんなところ入ったことなんか無いんだから! 第一あたしは清純で通ってるんだから、ね?」
「そぉ?」
「そうよ! あたしは清純なの!」
沙希ちゃんはきっぱりと言いました。それから、看板を見上げます。
「それにしても、夕子ちゃん。本当に好雄くんたち、ここに入ったのかな?」
「……そういわれれば、いくらゆかりが天然ぼけでも、ここには入らないような気がするし、よっしーってああ見えて結構女の子には気を使ってるから、嫌がるようなところには連れていくわけないしぃ……」
夕子ちゃんは腕を組んで考え込みます。
沙希ちゃんは、そんな夕子ちゃんの袖を引いて、隣の建物を指しました。
「こっちに入ったんじゃないの?」
「え?」
そっちを見る夕子ちゃん。そこも映画館のようです。
「えっと……『愛のひなげし』?」
二人は顔を見合わせました。そして頷き合います。
「どうみても、こっちよねぇ」
「だねぇ」
放課後の教室は、誰も訪れることもなく、静寂が支配しています。
そんな中で、未緒ちゃんと詩織ちゃんは向かい合って座っていました。
詩織ちゃんは、白いレースのハンカチをぎゅっと握り締めています。
未緒ちゃんがほっとため息をつきました。
「そうですか。事情はわかりました」
「如月さん……」
詩織ちゃんは、泣きそうな声で呟きました。
「わかってるの。どっちも手に入れようなんて図々しいだけなんだって。今、その罰を受けているんだって……」
「……」
「でも、でも……、私……、やっぱりメグも公くんも、大事なの……」
「……一番大事なのは、自分じゃないんですか?」
未緒ちゃんの声に、詩織ちゃんの身体がびくっと震えました。
「如月さん……」
「人が人と関わって生きていく以上、人は傷つくことを回避することは出来ません。時は一方向にしか流れていかないものですから」
未緒ちゃんは静かに言うと、眼鏡を外しました。
「今の藤崎さんは、自分が傷つくことを怖がってるだけだと思います」
「……」
詩織ちゃんは黙って、未緒ちゃんの言うことを聞くだけしかできませんでした。
見晴ちゃんは、物陰からめぐみちゃんと公くんをじっと見つめていました。
(あーん、どうしよう。公くんの姿見て反射的に隠れちゃったけど、めぐみちゃん危ないし……。でも、私の鉄山靠、不意をつかないとかわされちゃうから……)
一方、追いつめられためぐみちゃんは、恐怖の余り身がすくんでしまって動けない様子です。
そんなめぐみちゃんに公くんは勝ち誇ったように言います。
「さぁ、話を聞いてもらおうか」
「い、いやぁ……」
めぐみちゃんはふるふると首を微かに振るのでした。
そんなめぐみちゃんに構わずに、公くんは言葉を続けます。
「あの時のことだけど……」
その言葉を聞いて、めぐみちゃんはあの悪夢のような出来事を思い出しました。
「……」
めぐみちゃんの瞳が、おおきく見開かれます。
「いけないっ! 見晴、行きます!!」
見晴ちゃんは、物陰から飛び出しました。
次の瞬間、めぐみちゃんは息を呑みました。
公くんが、突然その場に土下座したのです。
《続く》

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