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めぐみちゃんとでぇと
第拾壱話 けっこうマジだったんだけどなー

 土曜日。
 詩織ちゃんは学校に来ると、スグにめぐみちゃんのクラス(J組らしいですね)に行ってみました。しかし、めぐみちゃんの席には鞄もありません。
「メグ、まさかお休みかなぁ?」
 詩織ちゃんは首を傾げましたが、予鈴が鳴ったので、仕方なく自分のクラスに帰ったのでした。

 土曜日は午前中だけで授業はおしまいです。
 詩織ちゃんは、めぐみちゃんのことが気になって、授業にもあんまり身が入らない様子でした。
 授業が終わると、真っ直ぐに公くんの席にやってきます。
 昨日の好雄くんとの電話で、既に明日のデート対策は万全の公くん、余裕の笑みで詩織ちゃんを迎えます。
「詩織、帰るのか?」
「ううん。ちょっとメグが気になって……。朝来てなかったから。ちょっとメグのクラスに行って来るんだけど、公くん、待っててくれる?」
「ああ、いいよ」
 公くんは、頭の後ろで手を組みながら、あっさりと答えました。
 詩織ちゃんはポンと手を合わせて喜びました。
「よかった。それじゃ、すぐに戻ってくるね!」
「ああ」
 公くんの答えに送られるように、詩織ちゃんは走って行きました。
 めぐみちゃんのクラスをぐるっと見回しますが、やっぱりめぐみちゃんはいません。
「お休みしちゃったのかな、メグ……」
 詩織ちゃんは、昨日の夜の電話のことが気になっていたのでした。
「……私のせい……なのかな?」
 そっと呟くと、詩織ちゃんは右手で自分の胸を押さえて、柱にもたれ掛かりました。
 そんな詩織ちゃんを、物陰からそっと見る目がありました。
「愛ちゃんがお休みしたの、藤崎さんと関係があるのかな?」
 見晴ちゃんは、詩織ちゃんをこっそりと見ながら呟くのでした。
 時間は数分戻ります。
 詩織ちゃんが出ていくのを見送る公くんに、好雄くんが笑いながら言いました。
「なかなか詩織ちゃんも可愛くなってきたなぁ」
「そうか?」
 真顔で聞き返す公くんに、好雄くんは呆れ顔で肩をすくめました。
「おまえって本当にそのあたりの機微に疎いねぇ」
「へんだ」
 公くんはふと、好雄くんの後ろに夕子ちゃんが立っているのに気づきました。夕子ちゃんは「しぃー」という仕草をします。
「あん? どうした、公?」
 好雄くんは公くんの視線から、振り向こうとしましたが、一瞬早く夕子ちゃんがその肩を押さえつけていました。
「つっかまえたぁっと!」
「わっ! あ、朝日奈!?」
「今日こそは逃がさないかんね!!」
 結局、昨日も映画館で見失ってしまった夕子ちゃん、目がマジです。そのまま腕を好雄くんの首にかけると、ぐいぐいと締め上げます。
「さぁ、吐け!」
「ぐ、ぐるじぃ……」
 じたばたもがく好雄くん。でも夕子ちゃんの腕はがっちりと決まっていて、簡単には解けません。
「さぁさぁ!」
「こ、こうなったら……」
 好雄くんは、半ばもうろうとしながらも、両腕を後ろに回しました。
「必殺、冒険野郎!!」
 むに
「……」
「……」
 沈黙が1.22秒流れ、そして、夕子ちゃんが悲鳴を上げました。
「きゃあ!ボカ何をガスやってんのドゴよっバキィ!!」
 悲鳴を上げながらの見事な十連コンボ。文字でお伝えできないのが残念です。
 そのまま、胸を押さえながら後ずさる夕子ちゃん。お顔が真っ赤になっています。
 ズゥン
 好雄くんが床に倒れました。まだ、その両手はワキワキしています。
「……84のC……」
「もう、超さいってぇ!!」
 問答無用に蹴りを入れようとしかけて、この間の事を思い出したのか、夕子ちゃんはぴたりと足を止めました。代わりに好雄くんの襟首を掴んで引きずり起こします。
「もう、この……」
「夕子」
 不意に好雄くんが真面目な顔になって、夕子ちゃんの腕を掴みます。
「あ、あによぉ」
 ボン
 音がしたみたいに夕子ちゃんはさらに赤くなります。
(ヤ、ヤダぁ。あたしってばなに赤くなってんだろ。これじゃまるでなんだかだーって感じじゃん!)
 夕子ちゃんは我に返って好雄くんから逃れようともがきます。そんな夕子ちゃんに一言。
「惚れたろ?」
「ばっ!!」
 今度こそ、夕子ちゃんは茹で蛸みたいに真っ赤になって絶句しました。
「ば、ばか言ってるんじゃないわよっ!!」
(そりゃ、よっしーもこういう凛々しい顔してれば、まぁいい点つけてもいいかなって思うことはあるけどさぁ。それに情報は詳しいし、一緒にいて飽きないし、何だかんだ言っても優しいし……ちょっとシスコンかもしんないけど、そりゃ単に彼女がいないだけなんだし……って、ちょっと待て夕子っ! 期待してるわけじゃないだろう!?)
 夕子ちゃん、渾身の力を振り絞って言い返します。
「んなこと言ったって、知ってるんだかんね! 最近よっしーって、ゆかりと……」
「バカだなぁ。本気なのは、おまえだけさ」
「えっ……」
(あ、だめ……。なんだかふわふわしちゃって……。超へんな感じぃ……)
 夕子ちゃん、ぽぉーっとなっています。
 好雄くんは、そんな夕子ちゃんを見て、不意にくすっと笑いました。
「……?」
「……らしくないよな、俺も、おまえも」
「……」
 夕子ちゃん、目をぱちくりとさせて、それから表情が段々険しくなります。
「からかったんだ!」
「お、おい。マジに怒るなよ!!」
「こ、この、バカーッ!!」
 ドーン
 夕子ちゃんは好雄くんを思いっきり突き飛ばしました。机を2、3個まとめて吹っ飛ばしながら、好雄くんは倒れます。
「うわっ」
「こ、この、もう……」
 夕子ちゃんは、顔を袖でぐいっと拭うと、怒鳴りました。
「超さいてぇ!!」
 そのまま、だーっと廊下に飛び出していきます。
「お、おい、好雄……」
「いてて」
 好雄くんは公くんの手を借りて、立ち上がりました。そして肩をすくめました。
「ざまねぇな」
「おまえらしくも無いな。朝日奈、泣いてたぞ」
「わかってるって。さぁて、フォローに行くかな。悪いな、公。一緒に帰れなくて。……おっと、公には藤崎さんがいたか」
「いや、それは……その……」
「じゃ、がんばれよ」
 そう言いながら、好雄くんは夕子ちゃんを追いかけて走り出しました。そして、教室を出てからちらっと振り向きます。
「あいつの前で、古式さんとどうして一緒にいたか、なんて言えないだろうが。朝日奈も困ったもんだぜ、まったく。どーせゲーセンか、マクドだろうな……。先に銀行に寄っていくかな……トホホ」
 とてとてとてと詩織ちゃんは公くんの待つ教室の前まで来ました。そこで立ち止まると、窓ガラスに自分の顔を映してみます。
「変な顔してちゃ駄目だもんね。公くんの前では、いつでもいい顔でいたいんだもん」
 詩織ちゃん、乙女していますね。
 しかし、その頃教室の中は修羅場になっていたのでした。
「なに、これ!? どうしちゃったの?」
 詩織ちゃんは机が散乱する教室の様子を見て、公くんに訊ねました。
「うーん」
 公くんは話すかどうか一瞬迷いましたが、結局好雄くんと夕子ちゃんの一件を話したのでした。
「ふぅん」
 公くんをお手伝いして机を起こしながら、詩織ちゃんは頷きました。
「朝日奈さんが怒る訳よね」
「そうなの?」
「……はぁー」
 深々とため息をついてしまう詩織ちゃんでした。
(公くんって、どうしてこういう事はまるでだめなのかなぁ。やっぱり私が教えてあげなくっちゃだめなのかしら……。きゃ、私ってば)
 急に赤くなっていやいやとかぶりを振ってる詩織ちゃんを、公くんは思わず手を止めてじっと見つめてしまうのでした。
「この頃の詩織、なんだか……変……」
 というわけで、机と椅子を綺麗に並べ直した詩織ちゃんと公くんは仲良く帰るのでした。
 さて一方、銀行でなけなしの5000円をおろした好雄くんは、ゲーセンで夕子ちゃんを見つけました。
 夕子ちゃんは対戦台に座ってレバーをがちゃがちゃやっています。
 好雄くんはにやっと笑うと、夕子ちゃんの反対側の匡体の前に座り込んで、コインを放り込みます。
 夕子ちゃんの画面に、不意に音楽と共に文字が浮かび上がります。
 『挑戦者有り』
「誰でもいーわよ! 来なさいっ! このHNAさま(ゲーセンの夕子ちゃん愛用ネーム(笑))が相手になってあげるわよぉ。あたしとエ○スは一心同体なんだかんねっ!」
 画面に現れた相手を見て、夕子ちゃんは鏡さんのように口に手を当てて笑います。
「おーっほっほっほ。ラン○ーでこのエ○スさまに勝とうなんて1000年早いわ! 来年またいらっしゃい!!」
 30秒後。
「ど、どうしてあたしのエ○スが……」
 画面では、可愛らしい女の子がごついおっさんに棍棒でぶん殴られています。
 体力ゲージが点滅しています。慌てて夕子ちゃんは女の子を下がらせようとしましたが、操作を間違えてジャンプさせてしまいました。
 その隙を見逃さず、おっさんが棍棒を振り下ろします。
「大地の怒り!」
「シックルダンシング!」
 咄嗟に空中技を出して、着地タイミングをずらして技をかわすあたりはさすがですが、それはよまれていました。おっさんは大蹴りを繰り出し、あえなく女の子は吹っ飛ばされてしまいました。
「ああー、あたしのエ○スがぁ〜〜」
「気が済んだろ。さて、マクドにでも行くか?」
 聞き慣れた声に、夕子ちゃんはプンとむくれました。
「あによ」
「……バ○ューセットおごる」
「よかろう」
 夕子ちゃんはにまっと笑うと、立ち上がりました。
「……ってわけだよ」
 好雄くんはコーラを飲みながら、夕子ちゃんに説明を終わりました。
「ふぅーん」
 夕子ちゃんはウーロン茶を飲み干すと、好雄くんに言いました。
「訳はわかったけどね」
「けど?」
「……傷ついた乙女のハートはどーしてくれんの?」
「……」
 好雄くんは目をぱちくりさせて夕子ちゃんを見ました。
「朝日奈、おまえ……」
 夕子ちゃんは窓の外を見ながら、聞こえよがしに呟きました。
「あーあ。あたし結構マジだったんだけどなー、あの時」
「……えーと」
 好雄くん、特大の汗を後頭部に浮かべながら、夕子ちゃんに話しかけます。
「あ、あの、朝日奈……さん? 怒ってらっしゃいます?」
「さぁーね」
 超なげやりに言う夕子ちゃん。好雄くん、おたおたします。
「あ、あの、そのね、朝日奈、だから……」
「なーんてね」
 夕子ちゃん、くすくす笑いながら向き直りました。
「今回は、勘弁したげるわ」
「ははぁー」
 好雄くん、平伏します。そんな好雄くんを見ながら、夕子ちゃんは心の中で呟きました。
(ま、そういうことにしておこうかな、今回は)
 こうして、土曜日は何事もなく過ぎました。そして、いよいよ運命の日曜日となったのでございます。

《続く》

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