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めぐみちゃんとでぇと
第拾六話 今日デートしたのは?

公くんは、夜道をとぼとぼと歩いていました。
「まぁ、なんだかんだあったけど、今日は結構いい日だったよなぁ」
そう呟く公くん。でも、まだ今日という日は終わってなかったのです。
家の近くまで来たところで、公くんは不意に足を止めました。
(なんだ? 今すごくイヤな予感がしたぞ)
曲がり角から、そっと家の方を伺う公くん。
公くんの家の玄関に明かりが灯っています。その明かりに照らされて、一人の人影が立っているのが見えました。
(……詩織じゃないか? なにやってるんだ、あんなところで?)
公くんはそのまま歩いていきました。
足音に気づいたのか、詩織ちゃんが顔を上げます。
「やぁ、詩織。いったいどうして……」
公くんの言葉は、尻すぼみに小さくなっていきました。
詩織ちゃんは、にっこりと笑いました。
「お帰りなさい、公くん」
「う、うん……」
「随分、遅かったわねぇ」
「え、あ、そうかなぁ?」
「ほら、もう10時過ぎよ」
詩織ちゃんは、腕時計を掲げて見せました。
「そ、そうかなぁ? あははは」
「さっきね、早乙女くんに電話したの」
詩織ちゃんはにこにこしながら言いました。その瞬間、公くんの顔からさぁっと血の気が引きました。
「よ、好雄に?」
「うん。早乙女くん、今日はずうっと朝日奈さんと遊んでいたって言ってたわ」
(好雄、貴様ぁ!!)
思わず心の中で好雄に五寸釘を打とうとする公くんでした。
その公くんに、詩織ちゃんはずいっと近寄りました。思わず公くん後ずさりします。
「公くん」
「は、はい!」
「ちゃんと、わけを聞かせてくれるんでしょうねぇ? 私とのデートを途中で打ち切ってまで、やらないといけないことがあったわけ?」
トン
公くんの背中が、塀にぶつかりました。とうとう進退窮まったようです。
「えっと、その、まぁ落ち着けよ、詩織……」
「私はとぉっても落ちついてますよ。ええ、とっても」
笑みを絶やさず、詩織ちゃんは言いました。
(こ、怖い……)
「公くんが言えないなら、代わりに言ってあげましょうか?」
「……え?」
思わず聞き返す公くんの鼻先に、詩織ちゃんはぴっと指を突きつけました。
「古式ゆかしいって10回言ってみて」
逆らうと怖いので、公くんは大人しく従いました。
「古式ゆかしい古式ゆかしい(中略)古式ゆかしい」
「今日デートしたのは?」
「古式ゆかり……あ」
はっとして口を押さえる公くん。万事休すです。
「そういうことね」
詩織ちゃんは、公くんをじっと見つめました。
「ご、ごめん」
公くんは頭を下げました。そして、その姿勢のままで詩織ちゃんの出方をうかがいます。
殴りかかるはないにしても、平手打ちの数発は覚悟していた公くんでしたが、予想に反して、何も起きません。
公くんは恐る恐る顔を上げました。
詩織ちゃんは、胸の前で手を組んで、じっと公くんを見つめていました。
その緋色の瞳から、キラリと一滴の涙がこぼれ落ちます。
「……詩織……さん?」
「公くん……バカ」
詩織ちゃんは、公くんの胸をぽかぽか叩きました。
「バカバカバカ!」
「し、詩織、ちょっと……」
「バカァ」
そのまま、詩織ちゃんは公くんの胸に顔を埋めて、呟きました。
「……でも、好きなの」
「……え?」
(今、詩織は何て言ったんだ? 聞こえなかったぞ)
と、不意に詩織ちゃんは顔を上げました。
「あー、すっきりした」
「は?」
「それじゃ、公くん。お休みなさい」
詩織ちゃんはそれだけ言うと、自分の家の方に駆け戻っていきました。やがて、玄関の閉まるパタンという音が聞こえてきました。
公くんは首を捻りながら、その場に立ち尽くしていました。
翌日のお昼休み。
公くんは屋上で寝ころんでいました。
今日もとってもいい天気です。ぽかぽかと暖かい陽に包まれて、公くんはいつしか半ばうとうととしていました。
(公さん、何処に行ったのかしら?)
めぐみちゃんは、公くんを捜して学校中を歩き回っていました。お昼休みになって公くんのクラスに行ってみたのですが、もう公くんはどこかに行ってしまっていたのです。
めぐみちゃんの手には、白い封筒が握られていました。それは、詩織ちゃんの家から帰ってきて、めぐみちゃんが一生懸命に書いたお手紙でした。めぐみちゃんは、それを公くんに渡そうと思って、彼を探し回っていたのです。
中庭にも公くんはいませんでした。がっかりして空を仰いだめぐみちゃんはふと思いました。
(もしかしたら、屋上かもしれない)
めぐみちゃんは、階段を駆け上がっていきました。
屋上の重い扉を必死になって開けると、愛ちゃんは辺りを見回しました。
その小さな胸が不意に高鳴ります。
(いた!)
公くんは腕を枕にして、眠っているようです。
めぐみちゃんは、足音を忍ばせて、近寄りました。そして、公くんの傍らにしゃがみ込んで、その顔をじっと見つめました。
(公さん……。公さんは、本当に誰が好きなのかしら……?)
そんなこと、公くん自身にも良くわかっていないんですけれどね。
と、不意に公くんはごろんと寝返りを打って、めぐみちゃんに背中を向けてしまいました。
めぐみちゃんは何となく寂しくなってしまいました。
不意に、めぐみちゃんの脳裏に、昨日の詩織ちゃんの言葉が甦りました。
『メグは、もっと自分に自信を持たなくっちゃね』
(詩織ちゃん……)
めぐみちゃんは、そっとその場に座ると、公くんの頭を自分の太ももの上に載せました。そして、手を後ろに回すと、髪飾りを外しました。
ぱさぁっ いつもめぐみちゃんが編みあげている髪が、解けてその顔にかかります。
(変わらなくちゃ……。私も……)
めぐみちゃんは、そのまま上半身を、眠っている公くんのほうにかがめました。
そして……。
「ううーん」
公くんは大きく伸びをして、目を開けて辺りを見回しました。
「あれ? 誰か近くにいたような気がしたんだけど……、気のせいかなぁ? なんだかあったかくてふわふわしてたような……夢でも見たか?」
首を傾げながら、公くんは立ち上がりました。と、何かが屋上のコンクリートの上に落ちました。
「なんだ?」
公くんはそれを拾い上げました。それは、白い封筒で、表に宛名が記されていました。
『主人公さんへ』
「なんだ、これ?」
公くんは封筒をためつすがめつしながら、首を捻るのでした。
と。
キーンコーンカーンコーン
「やべ! 5時間目がはじまっちまう!」
公くんは、その封筒をポケットに入れると、階段を駆け下りていきました。
《続く》

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