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めぐみちゃんとでぇと
第拾八話 日曜、暇?

(またダブルブッキングをくんでしまうなんて、俺は、俺は大バカ野郎だぁぁぁ)
公くんは頭を抱えてその場でゴロゴロと転がり周り始めました。
「こ、公くん! どうしちゃったのよ、公くん!!」
詩織ちゃんはおろおろしています。無理もありません。その気はなかったとはいえ、めぐみちゃんを傷つけてしまって、動転しているところにもってきて、公くんが突然のたうち回っているのですから。
「公くん!」
「詩織、俺は、俺はぁぁ!!」
「きゃ!」
公くんの傍らに屈み込んだ詩織ちゃんに、公くんはやにわに抱きついて、そのままその場に押し倒しました。
(公くん、どうしちゃったの!? あ、でもこのまま流されていっちゃいそう……)
詩織ちゃんはぽっと赤くなりました。
公くんは、そのまま詩織ちゃんを地面に押さえつけて、荒い息を付いています。まさしくその姿は野獣ですね。
さて、その頃。
「……う……」
めぐみちゃんはうっすらと目を開けました。
無骨な蛍光灯と、升目のような天井が見えました。
「……ここは……」
「愛ちゃん、気が付いた?」
その声の方を見ると、見晴ちゃんが心配そうにめぐみちゃんをのぞき込んでいます。
その顔を見て、めぐみちゃんは思い出しました。今までのことを。
「……」
めぐみちゃんは、シーツを頭でかぶって、その中に潜り込んでしまいました。
「ねぇ、めぐみちゃん……」
そのシーツを掴んだ見晴ちゃんの手を、保健室の先生は押さえました。思わず見上げる見晴ちゃんに、黙って首を振って見せます。
「……うん」
見晴ちゃんは頷くと、椅子に座りました。
先生は、優しく言いました。
「美樹原さん、人と付き合ってて、傷つかない事なんて無いのよ。ここにいる見晴だって、あっけらかんと生きてるみたいで結構ボロボロなんだから」
「ち、ちょっと、お姉ちゃん!?」
見晴ちゃんは慌てて先生の白衣をひっぱりました。
「なぁに、館林さん?」
平然と答える先生に、見晴ちゃんは真っ赤になって小声で怒鳴りました。
「何て事言うのよぉ!!」
「あら、違ったかしら? だって、中学の時のあの……」
「きゃーきゃーきゃー、やめてぇぇえ!!」
慌てて見晴ちゃんは泣きそうな顔で先生の袖をひっぱります。
「それだけは言わないでよぉ。私も忘れたいんだから……。あのこと……」
「じゃ、アップルタルト一つ」
「……任務、了解」
妙にまじめな顔で頷く見晴ちゃんに、先生は笑顔を向けました。
「いい子ねぇ」
「……サディスト」
小声で呟く見晴ちゃんでした。
先生は、見晴ちゃんの足をぎゅっと踏みつけました。ローヒールでも痛いです。
「あう」
「聞こえていますよ、館林さん」
「……ひーん」
二人の漫才を、いつの間にかシーツから顔を出してめぐみちゃんは見つめていました。
「あ、よっしー!!」
メモに何か書きながら廊下を歩いていた好雄くんを呼び止める声がしました。好雄くんは振り返りました。
「なんだ、朝日奈か」
「なんだ、とはご挨拶ねぇ。いいネタ拾って来たんだけどなぁ〜」
「ああっ、ごめんなさい、朝日奈大明神様!!」
慌ててその場で両手を合わせて夕子ちゃんを拝む好雄くんでした。夕子ちゃんは機嫌を直したらしく、笑顔になって好雄くんに手のひらを差し出します。
「はい」
「は?」
「あにすっとぼけてんだか。情報料よ」
「今俺ビンボーなの。ごめんね」
「人の真似してんじゃ、ないっ!!」
すぱぁぁん 小気味いい音ですねぇ。
通りかかった数人の女の子達が、そんな二人を見てくすくす笑っています。それに気づいて、夕子ちゃんは赤くなってハリセンをしまいました。
「ま、いっか。こんどロッ○リアのシェーキ飲んで貰おっと」
「わ、わかった! それじゃ、今度WWWから超兄貴なやつ落としてくるから」
「誰がいるかぁそんなもん!」
もう一度ハリセンを出しかけて、夕子ちゃんは思いとどまりました。
好雄くんはメモを出しました。
「それで、情報ってのは?」
「あ、そうそう。なんでも、主人くんが日曜日にまたデートの約束したって」
「なんだ」
好雄くんはがっかりしたみたいにメモを閉じました。
「それなら俺でも知ってるぜ。藤崎さんとだろう? やれやれ、朝日奈の情報網もあんまり……」
「それが、違うんだなぁ」
夕子ちゃんは余裕たっぷりの笑みを浮かべて言いました。
「え?」
「あのねぇ……」
わざとらしく左右を見回してから、夕子ちゃんは好雄くんの耳に口を寄せました。
「あん、耳に息吹きかけられると弱いのぉ」
「……ここからロリポップかけていい?」
「……ごめんなさい」
「あのね……ごにょごにょ」
夕子ちゃんは好雄くんの耳に二言三言囁きました。好雄くんは思わず夕子ちゃんに聞き返します。
「マジ?」
「確かだよ」
胸を張って答える夕子ちゃん。
好雄くんは頭をぽりぽりと掻きました。
「あのばかったれ」
「もうなんだかなーって感じよね」
夕子ちゃんは肩をすくめました。
好雄くんは夕子ちゃんに聞きます。
「参考までに聞きたいんだけどさ、公のやつ、どう思う?」
「うーん」
ほっぺたに指をぴとっと当てて、夕子ちゃんは首を傾げました。
「なーんか、ふつーじゃないんだよね、主人くん」
「普通じゃない?」
「うん、雰囲気っていうかさ……、うまく言えないんだけど、なんかこう……。あー、やっぱよくわかんないわ」
夕子ちゃんはそう言うと、好雄くんに聞き返しました。
「でも、どうしてそんなこと聞くわけ?」
「いまいち俺にもわからないんだよなぁ。どうして公のやつがそんなにもてるのか。
藤崎さんはもうすっかりあいつにゾッコンって感じだし、美樹原さんも好きみたいだし、古式さんもだし、あと虹野さんもそれっぽいし、それに今度は片桐さんも加わってくるとなると……」
好雄くんはメモをぱらぱらとめくりながら呟きました。
夕子ちゃんは笑いました。
「なーに悩んでるんだかぁ」
「朝日奈にはわかるのか?」
「モチ!」
夕子ちゃんはそう言うと、すたすたと歩いていきます。慌てて好雄くんは夕子ちゃんを追いかけました。
「おい、待てよ、朝日奈!」
「それはね」
不意に夕子ちゃんは立ち止まって、顔だけ振り向かせました。そして、指をちっちっと振って、言います。
「好きになるのに、理屈なんてないモンよ」
「は?」
「愛とか恋とかなんて、理屈つけて考えるモンじゃないっしょ? あたしはあなたが好き、それでいいじゃん」
「……そんなもんかなぁ」
好雄くんは考え込みました。夕子ちゃんは何故か真っ赤になりながら、「んじゃね」と言ってそのまま走って行きました。
「あ、おい! 朝日奈! ……なんだってんだろ、あいつ」
廊下の角を曲がって、夕子ちゃんは立ち止まりました。
心臓が壊れそうにドキドキと鳴っています。
夕子ちゃんは、そっと廊下の角からもと来た方をのぞき込みました。
好雄くんは腕を組んで考え込んでいます。
「……もう、ウルバカなんだからぁ」
夕子ちゃんはそう呟きました。そして、壁に背中をもたれさせて、胸に手を当てました。
「やっぱ、あれじゃ気づいてくれないか……。結構、勇気いったんだけどなぁ」
「でも、あいつ恋愛に関してはペーパードライバーだからなぁ」
「やっぱそっかぁ……え?」
夕子ちゃんはぎくっとして、ゆっくりと隣を見ました。
「よ、朝日奈」
「え、戎谷!?」
壁に肘をついて、夕子ちゃんをのぞき込んでいたのは戎谷淳くんでした。校内きってのプレイボーイで、彩子ちゃんと浮き名を流した例の一件は全国的に有名ですね(笑)
淳くんは笑って言いました。
「朝日奈もあんな鈍い奴いい加減に見切りつければ?」
「余計なお世話よ」
夕子ちゃんはぷっと膨れました。それから、上目遣いに淳くんを睨みます。
「最初に言っとくけど、あたしとよっしーの橋渡しなんてやんなくたっていいからね」
「何の事かなぁ?」
淳くんはすっとぼけてみせました。夕子ちゃんは肩をすくめます。
「あたしとよっしーの情報網を甘く見ないの」
「はいはい、降参します」
あっさりと淳くんは両手を上げました。そして、壁から身を起こすと立ち去りかけ、思い出したように振り返りました。
「そうそう、忘れてた。日曜、暇?」
「え? まぁ、予定無いけど……」
「そんじゃぁさ、俺予約しとくから、空けといて」
「え?」
思わず聞き返す夕子ちゃんに、淳くんはさわやかな笑みを浮かべてウィンクしました。
「そういうこと。じゃあな」
淳くんはそのまま歩いていきました。夕子ちゃんはその後ろ姿を見送るように、その場に立ち尽くしていました。
《続く》

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