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めぐみちゃんとでぇと
第弐拾八話 君とデートしたい

「……ここ、いいか?」
夕子ちゃんの正面の席を指して、好雄くんは訊ねました。夕子ちゃんはこくりと頷きます。
「いいよ」
「……」
好雄くんは椅子に座ると、夕子ちゃんをじっと見つめます。
「そ、それで何の用なの?」
「朝日奈……。お、俺……」
「……」
夕子ちゃんは、思わずごくりとつばを飲み込みました。
(よっしー、もしかして……。な、なに期待してるんだろ、あたしってば。よっしーはあたしの事なんて何とも思ってないってわかってるっしょ!?)
好雄くんは真面目な顔で夕子ちゃんを見つめています。
夕子ちゃんのほっぺたがかぁっと熱くなってきました。
「よ、好雄……くん……」
「朝日奈……」
(何どもってんだよ! 早く言えよ、デートなんかするなって!!)
好雄くんはぎゅっと拳を握り締めました。
「お、俺……」
「よっしー……」
と。
「おーっほっほっほっほ!」
背後から突然高笑いの声が響きわたりました。2人は焦ってそっちを見ます。
「この声は!?」
「鏡さん?」
きらめき高校の女王様こと鏡魅羅さまです。今日も今日とて、親衛隊の面々を引き連れてのご登場です。
「たまにはこういうところもいいわね。ねぇ、みなさん」
「はい、鏡さん!!」
一斉に答える親衛隊のみなさんです。ちなみに、うやうやしげにトレイを捧げ持っている数人が通称お側役といわれる人に違いありません。
「さぁ、みなさんも席にお着きなさい」
「はい、鏡さん!」
答えるや、親衛隊の皆さんは一斉に席を確保しに動きます。
「わ、わぁっ!」
「な、なんなのよ、これはぁ!!」
哀れ、夕子ちゃんと好雄くんはその人混みの中に飲み込まれてしまうのでした。
合掌。
「ここが、そのペットショップというものなのですね?」
ゆかりちゃんは、ショーウィンドーをのぞき込んで言いました。
ショーウィンドウの中では、子猫が3匹戯れています。
「まぁ、可愛らしいですねぇ」
にっこりと笑うゆかりちゃん。そういう本人もとっても可愛いですね。
「でしょ?」
見晴ちゃんはうんうんと頷きました。
「私も猫飼いたいなって思うんだけど、でもコアラちゃんがいるから飼えないんだ」
それから振り向いて、怪訝そうな顔をする見晴ちゃん。
「愛ちゃん?」
「……え? あ、はい!?」
めぐみちゃんはその声で我に返ったようです。慌ててお返事しました。
怪訝そうな表情のまま、見晴ちゃんは訊ねます。
「子猫ちゃんになにかあるの? じぃーっと見てたけど」
「い、いえ、なんでも……ないです」
頬を赤く染めながら、めぐみちゃんはかぶりを振りました。そして、また子猫に視線を移します。
(あの子猫ちゃん、元気にしてるかな……。してるよね、きっと。だって公さんが助けてくれたんですもの)
めぐみちゃんはあの時のことを思い出していました。
それは去年のクリスマスパーティーからの帰り道のこと。
めぐみちゃんは一人寂しく帰り道を歩いていました。
吐く息が白く見える寒い日、めぐみちゃんの心の中も負けず劣らず寒かったのです。
一緒に帰ってくれると思っていた詩織ちゃんはあっさり言いました。
「ごめんね、メグ。私、ちょっと用事があるから、先に帰ってていいよ」
待っていれば良かったのかも知れませんが、詩織ちゃんにそう言われると、なんだか命令されたような気になってしまうめぐみちゃんでした。
(言うとおりにしないと、嫌われちゃう)
無意識にそんな思いを抱いためぐみちゃんは、こうして一人で帰り道を歩いているのでした。
と、不意にめぐみちゃんは俯いていた顔を上げました。
(何か……聞こえた……よね?)
めぐみちゃんは耳を澄ませました。微かに、本当に微かにめぐみちゃんの耳に音が聞こえてきます。
みゅー
(……猫?)
めぐみちゃんはそちらの方に引かれるように歩き出していました。
ほどなく、小さな公園に着きます。めぐみちゃんは公園の入り口の柱の後ろに、段ボール箱を見つけました。声はその中からしてきます。
「あ!」
めぐみちゃんは、箱の中でもぞもぞと動くものを見つけました。それは真っ白で小さな子猫でした。
子猫はめぐみちゃんの気配に気づいたのか、顔を上げて弱々しく鳴きました。
みゅー
「だ、大丈夫?」
思わず、めぐみちゃんは子猫を抱き上げてはっとしました。
(冷たい……)
どれくらいの間、この寒空の中に放り出されていたのでしょうか? 子猫の身体はすっかりと冷え切っていました。
(暖めてあげなくちゃ!)
めぐみちゃんは、着ていたオーバーのボタンを外すと、子猫を抱きしめました。
と。
「これ、使う?」
不意に声が聞こえました。めぐみちゃんは顔を上げました。
一人の男の子がのぞき込んでいます。街灯の光がちょうど逆光になっていて、顔は良く見えません。
いつもならめぐみちゃんは怖がって逃げ出しちゃうところでしょう。でも、そのときは何故かめぐみちゃんは逃げようとせずにじっとしていました。
その男の子は、片手を差し出していました。その手に持っているのは、使い捨てカイロです。
「あ、はい」
めぐみちゃんはその使い捨てカイロを受け取りました。
男の子は子猫をのぞき込みました。
「なんだか猫の声がするなと思ったら、やっぱり捨て猫だったんだ……」
彼が姿勢を変えたので、街灯の光が男の子の横顔を照らしました。めぐみちゃんにも見覚えのある顔です。
(この人……確か詩織ちゃんの幼なじみの……)
不意に彼はにこっと笑いました。
「こいつ、幸せもんだよな。可愛い娘の胸で眠れるなんて」
「え?」
めぐみちゃんがそう言われてみると、子猫は目を閉じています。時折もぞもぞと動くので生きているってわかります。本当に眠ってしまったようですね。
ほっと安心すると同時に、めぐみちゃんは恥ずかしくなってきました。
「あ、あの、失礼します!」
「え? あ、ちょっと待って!」
彼が声を上げるのも無視して、めぐみちゃんは駆け出していました。頬がかっと赤く染まっています。その頭の中では、さっきの彼の言葉がリフレインしていました。
「……可愛い……可愛い……可愛い……」
(は、恥ずかしいです……)
(……公さん……)
ぽーっとしているめぐみちゃんを見晴ちゃんはのぞき込みます。
「めぐみちゃん?」
その声に、めぐみちゃんははっと我に返ります。
「ほ、ほら、早く入りましょう! ね、ね?」
めぐみちゃんは見晴ちゃんの背中を押すようにして、ペットショップに入っていきました。
「ちょ、ちょっと愛ちゃん?」
「何でもないんですってばぁ」
そんな2人が店内に消えるのを微笑ましく見守るゆかりちゃんでした。
「とっても、仲がよろしいのですねぇ」
さて、その頃。保健室では公くんが危機に立たされていました。
「どっち?」
「ハッキリ、決めてよね」
左右から詩織ちゃんと彩子ちゃんが同時に公くんに言いました。
「えっと、その、あの……」
救いを求めるように視線を上げた公くんは、ちょうど正面にいる娘にその視線を止めました。
未緒ちゃんはじっと公くんを見つめています。
(俺は、俺は……、俺はぁぁぁ!!)
プツン 何かが切れた音がしました。公くんの頭の中で。
公くんは、すっと立ち上がりました。そして、ヒートアップしてる2人を押さえるように片手を上げました。
詩織ちゃんと彩子ちゃんは、公くんに視線を向けます。
(公くん、私、信じてるから。だって公くんと私はもう他人じゃないんだもの。私の身体は公くんのためにあるんだものね!)
(ユーはミーをセレクトするに決まってるわ)
2人の乙女の内なる思いを受けて、公くんは口を開きます。
「決めた」
ゴクリ
2人は同時につばを飲み込みました。
公くんは言葉を続けます。
「俺は……日曜に……君とデートしたい」
「……え?」
詩織ちゃんと彩子ちゃんは、口をぽかんと開けました。
そして……。
未緒ちゃんは思わず自分を指しました。
「わ、私と、ですか?」
頷く公くん。
ガガーン
例のプラカードを自分の背後に掲げてしまうお茶目な未緒ちゃんでした。
《続く》

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