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めぐみちゃんとでぇと
第四拾弐話 世界征服ロボ……

一方、風雲急を告げる教具室。
沙希ちゃんの悲鳴が響きわたった直後、いきなりドアが開け放たれます。
「な、なんだ!?」
「サッカー部、只今見参!!」
数人の男子生徒たちがなだれ込んできました。
沙希ちゃんは思わず声を上げます。
「み、みんな!?」
「悪逆非道の文芸部め! 部長自ら我らがマネージャーの貞操を汚し、かつ誘拐までするとは言語道断! 正義の鉄槌を下してくれるわ!!」
「うるさい! 貴様らこそ、マネージャーを使って我が部長を篭絡せんとするとは、極悪至極!」
「くそ、ここでは狭すぎる!! 貴様ら表に出ろ!!」
「望むところだ! 文芸部を舐めるなよ!!」
彼らは言い争いながら教具室を出ていきました。取り残された沙希ちゃんは、はっと気付いて立ち上がりました。
「駄目! ケンカしちゃ駄目よ!! 止めなくちゃ!!」
沙希ちゃんがグラウンドに飛び出したときには、既に戦いは始まっていました。
「問答無用! オーバーヘッド唐竹割り!!バコォッ」
「必殺! 熱意の説得!キラァン」
「奥義、レッドカード乱舞!!ドカドカドカッ」
「ゆくぞぉぉ! メガトン辞書!!ドォォン」
両部の奥義が飛び交う戦場に、沙希ちゃんは飛び込みます。
「みんな、やめてっ!!」
ドォン
近くで爆発が起こり、小柄な沙希ちゃんは飛ばされます。
「いたっ」
地面を転がった弾みに、肘を擦りむいてしまった沙希ちゃん、その場に呆然と座り込んでしまいました。
「ど、どうしてこんな事になっちゃうのよぉぉ。あたしって、不幸……」
ドォン
奥義同士がぶつかりあいます。力はほぼ互角。
行き場を失ったエネルギーが、暴発します。その先に座り込んだ沙希ちゃんが……。
「危ない! マネージャー!!」
「え?」
叫び声に顔を上げた沙希ちゃんに、光の波となったエネルギーが迫ります。
「きゃぁぁ!!」
悲鳴を上げる沙希ちゃん。もう避ける余裕はありません。
痩せても枯れても奥義、しかもぶつかりあってエネルギーは2乗です。みんな思わず目を閉じました。
そのみんなの耳に、ひときわ冷静な声が聞こえました。
「……世界征服ロボ……」
ドォォォォン
辺りを揺るがす爆発が起こり、そして静寂が戻りました。みな、恐る恐る目を開けます。
「まったく、莫迦なことをしているわね」
蒼い巨体の足下で、同じ色の髪の女生徒が呆れたように呟きました。
沙希ちゃんはその人を見上げました。
「紐緒……さん?」
ほっと胸をなで下ろす文芸部員達とサッカー部員達。そして、また睨み合います。
「貴様ら、よくもマネージャーに!」
「責任転嫁だ!! 貧弱な貴様らの奥義のせいだろうが!」
結奈さんはそんな彼らに視線を向けて、怒鳴りつけました。
「やかましいって言ってるでしょう! 世界征服ロボwithサイバーファング!!」
ゴウッ
「うわぁぁぁぁっ!!」
彼らは薄れ行く意識の中で思い出すのでした。二つの部の奥義を使いこなす伝説のマッドサイエンティストのことを。
戦いが終わりました。グラウンドには、ばたばたと倒れた文芸部員とサッカー部員が折り重なっています。
「大変!」
沙希ちゃんは立ち上がると、彼らに駆け寄りました。
「みんな、大丈夫!?」
「な、なぜ助ける……?」
文芸部員の一人が顔を上げました。沙希ちゃんはにこっと笑いました。
「当たり前じゃないの。傷ついた人に、文芸部もサッカー部もないじゃない」
その沙希ちゃんの肘からは血が流れています。それに気付いて、彼は言いました。
「怪我してるじゃないか、虹野」
「あたしよりも、みんなが先よ」
こともなげに答えて、サッカー部仕込みの応急処置をしていく沙希ちゃん。
「おお〜〜」
思わず感動の涙を流す文芸部員達。
サッカー部員達も頷きます。
「それでこそ、我らがマネージャー」
こうして、沙希ちゃんの異名がもう一つ増えたのでした。
“きらめき高校のナイチンゲール”
その頃、詩織ちゃんは……。
「あーん、このロープ、もがけばもがくほど食い込んでくるぅぅ」
「ほら、じたばたしないの、詩織ちゃん」
「違うのよ、お母さん、その……」
「あ、我慢できないんだ。かーわいい」
なにやら妖しげな会話をしていました。
「……すごかったね」
「……は、はい」
グラウンドの大決戦を屋上で観戦していた公くんとめぐみちゃんは、戦いが終わったところで中断していたお弁当の所に戻りました。
「……あれ?」
公くんはめぐみちゃんの作ってくれたお弁当を見て、首を傾げました。
「おかしいな。まだ半分くらい残ってたはずなのに……」
「そうですね……」
めぐみちゃんと公くんは顔を見合わせて首を傾げるのでした。
ムグムグムグ、ゴックン
昇降口の陰で、見晴ちゃんは口の中のものを飲み下すと、胸に手を当てました。
「ああー、これで主人さんと私は同じものを分け合って食べた仲なのね! 見晴、今日の感動は一生忘れません!!」
そんな見晴ちゃんの口の脇にはご飯粒がついているのでした。
一体何をしてるんでしょうね、この娘は。
「あ、優美ちゃん!」
「え?」
廊下を元気良く歩いていた優美ちゃんは、後ろから声をかけられて振り返りました。そして、怪訝そうな顔になります。
「あれぇ? おねーさん、だれぇ?」
「あっちゃぁ。わかんないかな?」
その女生徒はぺちんと額を叩きました。そして、長い髪を頭の後ろでお団子にして見せます。
「これでどうかな?」
「ああっ! 片桐ぃ……先輩?」
優美ちゃんはびっくりして聞き返しました。
彩子ちゃんは笑って手を離しました。つやのある藍色の髪がふぁさっと広がります。
「髪、おろしちゃったんですかぁ?」
「イエス。まぁ、今日はたまたまだけどね」
笑って答えると、彩子ちゃんは髪をかき上げました。
「セットするの、結構面倒なのよねぇ〜。でも、ちゃんとまとめないと邪魔なのよね」
「それより、何の用れすか?」
ちょっと固い声で優美ちゃんは聞き返しました。無理もありません。昨日彩子ちゃんに向かって堂々とライバル宣言をしたばっかりですものね。
彩子ちゃんは肩をすくめました。
「別に用ってほどのものはないんだけど、見かけたから……」
「それじゃ、失礼しますれす」
「アウェイト、ちょっと待って」
彩子ちゃんは優美ちゃんの肩を掴みました。
「優美ちゃんとお話ししたいんだけど、いい?」
「……」
優美ちゃんは、彩子ちゃんの顔を見上げて、こくんと頷きます。
「いいれす」
二人は、中庭に出ました。
「ワァオ、気持ちいいわねぇ」
彩子ちゃんは大きく伸びをして、振り返りました。
「昨日は、アリトル、サプライズ、びっくりしちゃったわ」
「……」
優美ちゃんは硬い表情をして、彩子ちゃんを見返しています。
「でもね、優美ちゃん。あれじゃ不公平でしょ?」
「え?」
「だって、あたしは何も言ってないもの」
彩子ちゃんは、傍らの木に手をかけて微笑みました。そして、髪をかき上げてポニーテイルにくくります。
「……?」
キュッと黒い紐で髪をくくると、彩子ちゃんはきっと優美ちゃんに指を突きつけた。
「さおとめっ!! 彩子は負けないわっ!」
「!!」
「オールオーバー。以上よ」
そう言うと、彩子ちゃんは微笑みました。
優美ちゃんは、その笑顔を見て心の中で呟いていた。
(……優美、この人には勝てないのかも……。うーん、そんなことないもん! 優美、片桐先輩にも藤崎先輩にも、えーっと、虹野先輩にも古式先輩にも如月先輩にも……それから……ふぇぇーん、どうしてこんなにいっぱいいるのぉぉ?)
こうして昼休みは終わりました。舞台は放課後に移ります。
《続く》

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