喫茶店『Mute』へ
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めぐみちゃんとでぇと
第四拾六話 お世話になっております

気まずい沈黙を破ったのは未緒ちゃんの方でした。
「ど、どうぞ、座って下さい」
「あ、はい」
促されて、沙希ちゃんはソファに座りなおしました。そして、訊ねます。
「それで、身体の方は大丈夫なの?」
「ご心配をかけまして申しわけありません。明日には学校に行けると思います」
二人とも、微妙に視線をずらして、互いに目を合わせません。それに気付いて、彩子ちゃんは二人を見比べて、くすっと笑いました。
それから、おもむろに未緒ちゃんに訊ねました。
「今日休んだのは、やっぱり噂の通りのワケなの?」
「片桐さん!」
思わず沙希ちゃんが声を上げます。
未緒ちゃんは、彩子ちゃんに訊ねました。
「噂、とは?」
「ズバリ、沙希が未緒を襲ったって学校中で噂になってるわよ」
彩子ちゃんは指を立てて言いました。
沙希ちゃんが思わず立ち上がります。
「違うの、それは……」
未緒ちゃんは、笑顔を向けました。
「私、気にしていませんから」
「きっ、如月さんっ! そんな誤解を招きそうなこと言っちゃだめ!」
慌てて沙希ちゃんが言った刹那、二人の視線がばちっとあいました。
ポン
音を立てたように二人とも真っ赤になって俯いてしまいます。
しばし間をおいて、沙希ちゃんが俯いて指をつんつんさせながら言います。
「ごめんね、如月さん。あたし、あんな騒ぎになるなんて思ってなかったから……」
「虹野さん……」
「あたしは、あたしはただ、如月さんに元気になってもらいたくて……」
そこで言葉を切ると、沙希ちゃんは顔を上げてぎょっとしました。
未緒ちゃんが目の前に顔を近づけていたのです。
「き、如月さん?」
「虹野さん」
未緒ちゃんは眼鏡を外しました。そして、レンズ越しではなく、直に沙希ちゃんの顔をじっと見つめます。
二人の脇では、彩子ちゃんがわくわくしながら二人を見守っていました。
「……ってわけで、恵が紐緒さんに連れて行かれちゃったのよ。勝馬、戎谷くん何処にいるか知らない?」
奈津江ちゃんはいつものように体育館に冷やかしに来た勝馬くんを捕まえて訊ねていました。
「戎谷のヤツなら、朝日奈さんと一緒に帰ったけどな」
勝馬くんは答えました。その答えに、優美ちゃんが駆け寄ってきます。
「かつまぁ、それホント?」
「ああ、少なくとも本人はそう言ってたぜ」
「真っ直ぐ帰っちゃったの?」
奈津江ちゃんは訊ねました。勝馬くんは肩をすくめて答えます。
「あいつが女の子と一緒に帰って、真っ直ぐ帰ると思うか?」
「そりゃそうだわ」
「ええー? そんなのやだよぉ」
優美ちゃんが勝馬くんに迫ります。慌てて下がる勝馬くん。昔優美ちゃんにトゥームストンパイルドライバーをかけられてから、その吸い込み技の恐ろしさはよく知っているのです。
「落ちついて、優美ちゃん」
「勝馬、心当たりはないの?」
と言いながら、奈津江ちゃんはさりげなく優美ちゃんと勝馬くんの間に割り込みます。
勝馬くんは顎に手を当てて考え込みました。
「あそこ、かなぁ?」
「どこよ?」
「ああ、戎谷が最近気に入ってる喫茶店があるんだ。あそこかも知れない」
「じゃあ、勝馬、さっさとそこに行って戎谷くんを連れてきなさい!」
「あい」
勝馬くん、即座にダッシュしていきます。でも、どっちかと言えば、奈津江ちゃんの命令を聞いたというよりも、優美ちゃんの前から逃げ出したってほうが適当かも知れませんね。
「優美も!」
「優美ちゃんは、練習よ! UFOダンクシュートの次はナイアガラダンクをマスターしないとね!」
さすがはバスケ部の部長さん。勝馬くんも裸足で逃げ出す優美ちゃんも形無しのようですね。
もともとその喫茶店『Mute』は、学校からそんなに離れたところではありません。
というわけで、勝馬くんはスグにその喫茶店につきました。ドアを開けて店内を見回すと、カウンターに座っている淳くんはスグに見付かりました。
淳くん達の方も、入り口の方を見て勝馬くんに気がつきます。
「よう、カツ。こんな所に来るなんて珍しいじゃないか。どうした?」
「戎谷……」
勝馬くんは駆け寄ると、淳くんに囁きかけます。
「……」
「……なんだって?」
思わず聞き返す淳くんに、勝馬くんは黙って頷きます。
淳くんは、夕子ちゃんの方に向き直りました。
「悪い! ちょっと急用が出来ちまった!」
「ええーっ? この後、ゲーセン行って、それから……」
「それはまた今度な! じゃ!」
そう言うと、淳くんは財布から漱石さんを一人出してカウンターの上に置いて、鞄を掴んで駆け出しました。勝馬くんは「ごめん」というように夕子ちゃんを拝んでから、その後を追って駆け出します。
夕子ちゃんはため息を一つつきました。
「あーあ、つまんないなぁ」
「おい、好雄! 戎谷が行ったぞ」
「うっさいなあ、わかってるって」
好雄くんは小声で言い返し、なおも柱の陰から夕子ちゃんを見ています。
公くんは肩をすくめました。
「しょうがねぇなぁ……」
(こいつ、このままずっとこうしてる気かよ。じゃ、俺が一肌脱ぐか)
にっと笑うと、公くんは好雄くんの背中を思いきり突き飛ばしました。
「おうわぁっ!」
ドシィン
不意をつかれて、好雄くんは椅子から転げ落ちます。
公くんは、わざとらしく両拳を口元に持ってくると、言いました。
「ごめんね、ぶつかっちゃったぁ。バ〜イ謎の当たり屋」
「て、てめぇ!」
「よっしー!?」
その声に、好雄くんはびくっとして振り返りました。
カウンター席から夕子ちゃんが床に倒れている好雄くんをじっと見ています。
公くんは自分の鞄を掴んで二人に笑いかけました。
「さらばだ。また逢おう」
「お、おい、公!」
「え? 主人くんも!? どうしてここにいるわけ?」
夕子ちゃんはきょときょとと二人を見比べています。そのスキを逃さず、公くんは二人に手を振ると、喫茶店からさっさと出ていきました。
カラァン
ドアを閉めると、大きく伸びをして公くんは笑います。
「いい事すると気持ちいいなぁ。それじゃ帰るか」
めぐみちゃん、見晴ちゃん、ゆかりちゃんの3人は、連れだって帰り道を歩いていました。
「それじゃ、館林さんは4人姉妹なのですね? 初めて聞きました」
ゆかりちゃんはにこにこしながら言いました。
見晴ちゃんは頷きます。
「うん。お姉ちゃんと、あと妹の美鈴と千晴。美鈴はね、きらめき高校の2年でね、千晴は今中学3年なの」
「まぁ。中学3年生ともうしますと、来年は高校生なのですね?」
「そ。でね、私も美鈴も、それからお姉ちゃんもみんなきらめき高校だから、千晴もきらめき高校に行くんだって、今必死に勉強してるのよ」
「そうですか。入れると、良いですねぇ」
「そうだよね。私はもう卒業しちゃうんだけど……」
そう言って、見晴ちゃんはふと寂しげな顔になりました。
「……卒業、しちゃうんだよね、私達」
「時の河は流れ続ける、と申します。ですから、後悔しないようにしないと……」
ゆかりちゃんは俯いて、自分に言い聞かせるように呟きました。
見晴ちゃんも頷きます。
「やりたいこと、やったモン勝ちってことよね!」
「そうですねぇ」
にっこりと笑ってゆかりちゃんは答えました。
そのゆかりちゃんに、今まで黙っていためぐみちゃんが声をかけました。
「あ、あの……」
「はい、なんでしょうか?」
ゆかりちゃんはめぐみちゃんの方に向き直りました。
一瞬怯んだように口をつぐむめぐみちゃん。でも、ブンッと首を振ると、ゆかりちゃんに向かって言いました。
「あ、あの、わ、私にも教えてください!」
「はぁ、何を、でしょうか?」
「そ、その、こ、こ、……やっぱり、いいです」
そう言うと、めぐみちゃんは俯いてしまうのでした。嗚呼、内気なめぐみちゃん。
そんなめぐみちゃんを見かねたのか、脇から見晴ちゃんが何か言おうとしました。
「あ、見晴姉ぇ!」
「はれ?」
元気のいい声に振り向くと、小柄なブレザー姿の女の子が駆けてきました。見晴ちゃんと同じ色の髪を綺麗に肩で切りそろえたボブカットで、目もぱっちりした活発そうな娘です。
「あれぇ。千晴じゃない。どうしたの?」
「あたしは塾の帰りだけど……、見晴姉ぇのお友達?」
千晴ちゃんはひょこっとめぐみちゃん達の方を見ます。
ゆかりちゃんは丁寧にお辞儀をしました。
「お初にお目にかかります。わたくし、古式ゆかりと申します。いつもお姉さまにはお世話になっております」
「私、美樹原愛です」
めぐみちゃんもぴょこんと頭を下げました。
千晴ちゃんも慌ててお辞儀します。
「あ、私館林千晴っていいます。いつもふつつかな姉がお世話になっております」
「こら、だれがふつつかよ」
見晴ちゃんは慌てて千晴ちゃんの頭をぽかりと叩きます。
「いったぁ!」
「変なこと言わないの」
「むー」
頭を押さえて千晴ちゃんは見晴ちゃんを睨みました。そして、ゆかりちゃん達を招きます。
「古式さんと美樹原さん、ちょっとちょっと」
「はい、なんでしょうか?」
「なんですか?」
「あのね、お姉ちゃんってば、クリスマスにねぇ……」
「きゃーきゃーきゃー!!」
慌てて見晴ちゃんは割り込むと、千晴ちゃんを引っぱり出します。
千晴ちゃんは見晴ちゃんに言いました。
「イーセン」
「むむ……ウーバイ」
何の話をしてるんでしょうね?
《続く》

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