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めぐみちゃんとでぇと
第六拾参話 今日は本当にありがとう!

それから立て続けに、ロック調のノリのいい曲を5曲ほどやったところで、淳くんがまたマイクを握りました。
「じゃ、ここらでちょっと一息入れようぜ。みんなも座ってくれ」
その声に、はじめてみんな、自分たちがいつの間にか立ち上がっていたことに気付いて座ります。
淳くんはそれを見てから悪戯っぽく笑いました。
「それじゃ、俺達ちょっと着替えてくるからさ、藤崎、後頼むぜ」
「え!? ちょ、ちょっと!」
どっと湧く会場内のみんな。慌てる詩織ちゃんをよそに、他のみんなはそのままステージ脇に引っ込んでしまいました。
詩織ちゃんはインカムのマイクの位置をちょっと直すと、話し始めました。
「みなさん、今日はようこそ」
わぁーっ みんなはそれだけで声を上げます。
詩織ちゃんは、訊ねました。
「えっと、きらめき高校の人はどれくらいいるのかな。手を上げてくれる?」
ざっと手が上がります。その数9割ちかく。
「そんなにいるんだぁ。本当にありがとうね。それじゃ、きらめき高校から来てくれたみんなに、感謝を込めてこの曲を贈ります」
詩織ちゃんは、キーボードの音を切り替えてから、そっと言いました。
「『告白』です」
パチパチパチ
次の曲にはもう他のメンバーも戻ってきました。そして次第にステージは盛り上がっていきます。
でも、お祭りは何時か終わるもの。
詩織ちゃんが手を振ります。
「みんなぁ! 今日は本当にありがとう! それじゃ、最後の曲、聴いてください!
『だからっ!』」
わぁーっ 歓声が上がる中、詩織ちゃんの指先からポップな前奏が流れ、淳くんのサックスがそれに花を添えます。
♪君に追いつく ちょっと急いで
弾む呼吸と
昨日のほほえみ
淳くんと勝馬くんがバックコーラスをします。
詩織ちゃんは会場に目を走らせました。
一番後ろで、立ってステージを見つめている公くんと、視線が合います。
そのまま視線を逸らさずに、詩織ちゃんは歌いました。
♪「昨日はごめん」 きこえてるから
少し笑う ス・キ・よ♪
ワァーッ
パチパチパチ 曲が終わって、会場は歓声と拍手に包まれました。そして幕が降ります。
期せずして、会場のどよめきは、一つの声に収束していくのでした。
アンコール、アンコール、アンコール!
その声は、当然楽屋まで届いています。
「どうする?」
淳くんは汗をタオルで拭いながら訊ねました。
くるっと右手でドラムスティックを回して、弾くんは笑います。
「決まってるだろ?」
「だよな」
頷く勝馬くん。
「あたしも、中途半端はやだしね」
望ちゃんも、そう言うとベースを構えます。
そして詩織ちゃんが言いました。
「やりましょう」
「オッケイ! じゃ、行くぜ!!」
ポンとタオルを置いて立ち上がると、淳くんはサックスを構えました。
公くんがみんなと一緒に「アンコール」と叫んでいると、不意に脇から声が聞こえました。
「主人さん、来てたんですね!」
「え? あ、美樹原さん!?」
周りが叫んでいるものですから、こちらも叫ばないとお互いの声も良く聞き取れません。
めぐみちゃんは、後ろを振り返りました。
「どうします!?」
「ど、どうしようって! あ……」
めぐみちゃんの後ろにいた見晴ちゃん、叫び返しかけたところではじめて公くんに気がついて、真っ赤になって俯いてしまいました。
この二人、詩織ちゃん達が引っ込んだところでもうおしまいだと思って帰ろうとしたのですが、途中まで来たところでみんながアンコールで盛り上がってしまい、にっちもさっちも行かなくなってしまっていたのです。
公くんもそれがわかったので、気軽に言いました。
「それじゃさ、一緒に見ない?」
「は、はい。いいですか?」
めぐみちゃんは頷くと、見晴ちゃんに訊ねました。見晴ちゃんもこくんと頷きます。
公くん、見晴ちゃんに訊ねました。
「こんにちわ。美樹原さんのお友達?」
「え!? あ、はいっ!! わ、私、館林見晴って……」
でも、見晴ちゃんにとってはちょうど間が悪いことに、ちょうどその時ステージの向こうからドラムの音が響いてきました。周りのみんなが歓声を上げて、会話できなくなってしまったのです。
(何て名前だったんだろ? 聞き取れなかったぜ。ま、いいか)
公くんはステージに向き直りました。そして見晴ちゃんは、内心で狂喜乱舞していたのでした。
(きゃあきゃあ、と、とうとう言っちゃった。とうとう名前言っちゃった! これで私のことも覚えてもらえるのね! 見晴、感激!!)
ああ、可哀想な見晴ちゃん。合掌。
激しいスコールのように、弾くんがドラムを叩きます。そして、勝馬くんが華麗なギタープレイを魅せます。
それだけで観客はもう総立ちです。
そして、勝馬くんはマイクスタンドに向かってシャウトします。
♪宇宙を全部くれたって 譲れない愛もある
何が本当か 何が嘘か わからない時もある
見つめ合うだけじゃ 朝は遠すぎる
抱きしめたい今夜だけ ヒ・ヲ・ツ・ケ・ロ
HOLY LONELY LIGHT 燃やせ身体の芯まで
HEABY LONELY NIGHT 二度と心は後ろを
振り向くな!
もう観客のみんなも、拍手だけでは物足りなくて、一斉に拳を振り上げてます。
完全にステージと客席が一体化していますね。
曲が終わったところで、勝馬くんは汗を額に浮かべながら叫びました。
「みんな、今日はありがとう!!」
オオーッ
観客のみんなも叫び返します。
そして、勝馬くんは、ギターを構えました。
「それじゃ、本当にこれが最後! この曲を、今日来てくれたみんなと、そして弾に。それじゃ、行くぜみんな! TRY AGAIN!」
そう叫ぶと、静かにギターを奏で、勝馬くんは歌います。
♪たった1曲のRock'n Roll 明日へ響いてく
朝焼けの彼方へ おまえをさえぎるものは 何も……ない!
次の瞬間、ドラムが、ベースが、キーボードが一斉に鳴り響き、ハーモニーを奏でます。弾くんが打ち、望ちゃんが、勝馬くんがかき鳴らし、詩織ちゃんが奏でます。そして、観客が湧き、ハーモニーに勝馬くんのヴォーカルが乗ります。
♪戦い続ける空に オーロラは降りてくる
打ちひしがれた夜 おまえはひとりぼっちじゃない いつだって
たった一つの言葉で 未来は決まるのさ
俺達のビートは 輝くダイアモンド
本当の空へ 本当の空へ
命輝く空へ
観客のみんなも、いつしか声を合わせて歌い出していました。
♪FLY AWAY FLY AWAY 昇っていこう
TRY AGAIN TRY AGAIN 昨日に手を振って
FLY AWAY FLY AWAY 信じる限り
TRY AGAIN TRY AGAIN 明日を愛せるさ!!
詩織ちゃんは、顔を上げて、客席の一番後ろを見つめます。
(公くん!)
(詩織!)
公くんもじっと、詩織ちゃんを見つめていました。詩織ちゃんは、軽く頷いて、キーボードを白い指で叩きます。
淳くん、勝馬くん、弾くん、望ちゃんの4人、そして観客のみんなも、はっと気付きます。
(メロディーが違う。……これはアドリブ!?)
そうです。間奏部分で、詩織ちゃんは本当の楽譜通りではなくて、その場で即興のメロディーを奏でているのです。
(藤崎さんやるもんだ。負けられないね!)
望ちゃんは、ここぞとばかりにチョッパーで弾きまくります。その華麗なベースプレイに女の子達がどっと湧きます。
詩織ちゃんのアドリブが終わるとすかさず勝馬くんが、今度はエレキでアドリブを入れます。
(やるわね、芹澤くん!)
詩織ちゃん、負けじと勝馬くんのアドリブにさらにアドリブで応えます。一方淳くんは淳くんで、本来は入らないはずのサックスパートをその場で勝手に作って入れています。
もうみんなも大喜びで手拍子で合わせます。だって、ここでしか聞けない曲になるわけですものね。
本当は20秒そこそこのはずの間奏を、こうして延々と5分ほどやったところで、勝馬くん、軽く手を挙げます。
みんな頷いて、一斉になにごともなかったかのようにもとの曲に戻ります。
♪たった一つの迷いが チャンスをダメにする
嵐の中だって 瞳そらさない
さぁ何度でも さぁ何度でも
やりなおせるさ きっと
FLY AWAY FLY AWAY 昇っていこう
TRY AGAIN TRY AGAIN あきらめないで
FLY AWAY FLY AWAY 信じる限り
TRY AGAIN TRY AGAIN 陽はまた昇るだろう
そして、一気に曲を盛り上げ、突然メロディが止まります。
その静寂の中、詩織ちゃんの奏でるエレトリックピアノの音に重なるように、勝馬くんの声が、静かに会場を満たしていきます。
♪たった1曲のRock'n Roll 明日へ響いてく
朝焼けの彼方へ おまえをさえぎるものは 何もない
uh〜
静かに、今までの熱狂が嘘だったみたいに、本当に静かに曲が終わり、そして会場内はまさしく万雷の拍手に包まれました。
こうして、tTSのライブは終わりました。
《続く》

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