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めぐみちゃんとでぇと
第六拾七話 食べていいの?

さて、保健室では……。
「未緒、なかなかよかったわよ」
「そんな……」
先生は、ロッカーを開けて、白衣を羽織りながら満足げに微笑みました。
「これからも、ちょくちょくいらっしゃいね」
「あ、はい」
未緒ちゃんは頷きました。そして、保健室のドアに手をかけて、振り返りました。
「あの、このことは……」
「もちろん、二人だけのヒ・ミ・ツ」
先生がそう言うと、未緒ちゃんはぽっと赤くなりました。
「それでは、失礼します」
「はい」
未緒ちゃんは頭を下げると、保健室を出ていきました。
先生はくすっと笑いました。
「真面目な娘ってウブで可愛いんだから……。さぁて、お仕事お仕事っと」
「どうすんのよ?」
「どうするって言われたって……」
食堂で向かい合わせに座ってパンを食べながら、好雄くんと夕子ちゃんはお話しをしていました。
もちろん、話題は公くんがらみのことです。
好雄くんは頭を抱えました。
「ライブの後、あいつと藤崎さんなにかあったのかなぁ? となると、他の女の子達との関係も微妙に変化するしなぁ……」
「何かって、何よぉ」
にやにやしながらツッコミを入れる夕子ちゃん。
「それは、そのだなぁ、まぁ、……おお、あそこに見えるは古式さんではないか!」
「え? ゆかりが食堂に?」
夕子ちゃんは振り返って、人混みの中を漂っているゆかりちゃんを見かけました。
おやおや、人の動きに流されてしまっているようですねぇ。
「しょうがないなぁ。ちょっち、行ってくんね」
そう言うと、夕子ちゃんは立ち上がって駆け出しました。
それを見送りながら、好雄くんはポケットからメモ帳を出して何やら書き込んでいました。
「ご迷惑をおかけしまして」
ゆかりちゃんは深々と頭を下げました。
夕子ちゃんがゆかりちゃんを引っ張って、好雄くんの前に戻ってくるまで、約45秒かかりました。その間に、好雄くんはカツサンドを平らげて、今はコーヒー牛乳を飲んでいます。
「いいって。それよかさぁ、ゆかりが食堂に来るなんて珍しいじゃん。なんかあったん? あ、これ美味しいよ」
訊ねながら、夕子ちゃんはゆかりちゃんにチョココロネパンを勧めます。
「まぁ、ありがとうございます。いえ、実はお二人を捜していたのですよ」
そう答えながら、ゆかりちゃんは上品にコロネパンを口に運びました。そして、ほっぺたに手を当てて、にっこりと微笑みます。
「本当に、美味しいですねぇ」
「それで、聞きたい事ってなに?」
夕子ちゃんは自分のグレープフルーツジュースを飲みながら、訊ねます。
「はぁ。実はですね、先ほどわたくし、J組に行ったのですが……」
その瞬間、夕子ちゃんと好雄くんは顔を見合わせました。
先週は中頃まで不調だったとはいえ、きらめき高校の誇る情報通の二人です。ゆかりちゃんとめぐみちゃんの仲がいいことはちゃんと知っています。
夕子ちゃんはゆかりちゃんに視線を戻して先を促します。
「で、どうしたん?」
「はい。先週、見晴さんとテニスのお約束をしておりましたので、お誘いに参ったのですが、見晴さんはいらっしゃいましたが、愛さんがいらっしゃいませんでした。見晴さんにお聞きしたのですが、どうも要領を得なくて……」
ゆかりちゃんはそう言うと、コロネパンを食べ終わりました。
「大変、美味しゅうございました」
「藤崎さんに呼び出されたのかな?」
「間違いないぜ。きっとそうだ」
好雄くんは頷き、頭を掻きました。
「さぁて、どうしたもんかな……。下手に手を出すと、薮をつついて蛇を出すことになりかねねぇし……」
「だからって、ほっとくのもね〜」
夕子ちゃんも、困ったように腕を組みました。
「あの、いかがなさいましたか?」
ゆかりちゃんはそんな二人の顔を見比べて訊ねました。でも、二人はゆかりちゃんの質問にも答えずに、うーんと唸っているだけでした。
7
「ハァイ、望!」
廊下を歩いていた望ちゃんは、不意に声をかけられて振り返りました。
「あら、彩子じゃない」
「聞いたわよぉ。昨日、ライブやったんですって?」
彩子ちゃんは、悪戯っぽい笑みを浮かべて望ちゃんに言いました。望ちゃんは照れたように頭を掻きます。
「いやぁ、どうしてもって頼まれてさ、断りきれなかったんだよ」
「フゥーン。ま、そういうことにしておきましょうか」
そう言うと、彩子ちゃんは望ちゃんの後ろの方に視線を向けました。
「で、こうなっちゃったわけだ。」
「え?」
つられて振り返ると、廊下の柱の影から、下級生らしい女の子が数人、こちらを伺っています。
「きゃ! こっち見たわよ!」
「素敵ぃ〜」
「憧れちゃうなぁ」
「おいおい」
望ちゃんは彩子ちゃんに向き直りました。
「あたしにはそんな趣味はないってば」
「望がそう言うんなら、そういうことにしておくわね」
「だーかーらー!」
望ちゃんは怒鳴りかけて、あきらめたようにため息をつきました。
「やめた。あんたに何を言っても無駄だよな」
「よくわかってるじゃない。オッケイ。今度の新刊はこれで決まりね」
彩子ちゃん、何の話をしているのでしょうね?
さりげなく望ちゃん、話を逸らそうとします。
「それより、何の用だよ?」
「あ、そうそう。忘れるところだったわ」
彩子ちゃんはポンと手を打つと、望ちゃんに言いました。
「頼みがあるのよ」
「頼み? なんだい?」
聞き返す望ちゃんの耳に、彩子ちゃんは何事か囁きました。望ちゃんは途中で驚いたように彩子ちゃんに訊ねます。
「あたしに?」
「だって、望、こういうの詳しいんでしょ?」
ウィンクする彩子ちゃん。おやおや、望ちゃん慌てまくってますね。
「い、いや、それはだなぁ〜」
「ノンノン。しらを切ろうとしても、無駄よ。あきらめて協力してね」
そう言うと、彩子ちゃんは真面目な顔で言います。
「でも、そんなに隠すことでもないと思うけど……」
「それは……。えっと、て、照れるじゃないか」
バシィッ
望ちゃんに思いっきり背中を叩かれて、彩子ちゃんつんのめります。
「痛いわよ」
「ご、ごめん」
「どうしよう、どうしよう、どうしよう」
ぶつぶつ呟きながら、廊下を歩いている優美ちゃん、後ろからいきなりポニーテイルを引っ張られます。
「痛っ! 誰よっ!」
反射的に繰り出される左腕の一撃をがしっと受けとめたのは、優美ちゃんの親友の美鈴ちゃんです。
「なんだ、みっちゃんかぁ」
「みっちゃんかぁ、じゃないわよ。どうしたのよ、ゆー」
聞き返す美鈴ちゃん。ちなみに、ゆーというのは優美ちゃんの愛称みたいですね。
「なんでもないよぉ」
首を振る優美ちゃん。
美鈴ちゃんはじと目で優美ちゃんを見ます。
「何でもないようには見えないぞ。どうしたんだゆー。この館林美鈴に言ってみなさい」
「本当に何でもないんだってば!」
優美ちゃんはそう言うと、窓から外を見てはっとしました。
そこからは、校庭が見渡せます。そして、その校庭の片隅にある大きな樹の根元の所に、見覚えのある人影が見えたのです。
「藤崎先輩だ!」
「え?」
「じゃーね、みっちゃん! 優美、行きま〜す!!」
そのまま、ダッシュしていく優美ちゃんを、美鈴ちゃんは呆れたように見送っているのでした。
「なんだろ、あれ?」
「相変わらず、早乙女は元気いいなぁ」
後ろから笑い声がして、美鈴ちゃんは振り返りました。
「あら、吉野くん。どうしたの?」
「たまたま通りかかっただけだけどね。あ、館林。四本松見なかったか?」
「優ちゃん? たしか、テニス部室の方にいたと思ったけど……」
「サンキュ。じゃ」
将くんは軽く手を振って、廊下を駆けていきました。美鈴ちゃんはそれを見送りながら呟くのでした。
「吉野、将くん、かぁ……。ま、私は見つめるだけ。それでいいんだよね……」
その頃、屋上では。
「はい、デザートのリンゴよ」
「お、ちゃんとウサギになってるじゃないか。さすが芸が細かいね、沙希ちゃんは」
「そうかしら?」
「ああ。きっといい奥さんになれるよ」
「え? あ、たくさんあるからもっと食べてね!」
沙希ちゃんリンゴみたいに真っ赤になってますね。
「食べていいの?」
何気なく公くんが聞き返すと、沙希ちゃん更に真っ赤になりました。
「え? あ、えっと、その……」
(やだやだあ、公くんってばダイタンなんだからぁ。ここは学校で、いまはお昼休みなのにぃ……。でも、公くんがそれを望んでいるのなら、あたしは……)
沙希ちゃんは潤んだ瞳で公くんを見つめます。
公くん、ドキリとしました。
(な、なんだ? 今日の虹野さん、いつもとなんか違うぞ……。これは覚悟完了ということなのか? 俺は、俺は一体どうしたらいいんだ!? 教えてくれタイガージョー!!)
《続く》

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