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めぐみちゃんとでぇと
第六拾九話 鉄山靠!

「まぁ、終わっちまったもんはしょうがないな。帰るか」
6時間目の終わりの鐘で目を覚ました公くん、大きく欠伸をして立ち上がりました。
と、不意に大きな音を立てて屋上のドアが開きました。
「公くん!」
「え? あ、詩織?」
まだ半分寝ぼけていた公くん、詩織ちゃんの顔を見て瞬時に正気に戻りました。
詩織ちゃんは、公くんの姿を見ると、泣きながら飛びついてきました。
「公くぅん!」
「わあっ! な、なんだ?」
「私、私……」
その後は言葉にならない様子で、詩織ちゃんはそのまま泣き崩れてしまいました。
公くんはどうすることもできずに、ただそのままぼうっと立っていることしかできませんでした。
「いよいよ決着を付けるときがきたようね、タコ!」
中庭で、見晴ちゃんはピシッと夕子ちゃんを指します。
「あたしに勝とうなんて300年早いってこと、見せてあげるわよ」
言い返す夕子ちゃんに、妙に自信ありげに余裕の笑みを漏らす見晴ちゃん。
「ふっふっふっふ」
「あによぉ、気になる笑い方して」
「気になる? じゃ、教えてあげるね。実はね、私、文芸部員だったのよ!」
見晴ちゃんはそう言うと、両手を高く上げました。
夕子ちゃんははっと気がつきます。
「まさか、見晴、あんた……」
「今頃気付いても遅いわ! くらえっ、文芸部奥義、メグトン辞書!!」
しぃーーん
夕子ちゃんは、思わず反射的に腕を上げてガード姿勢をとっていました。でも、なにも起こらないので顔を上げます。
「……」
「あ、あれ?」
振り上げた腕の下ろしどころに困ってしまった見晴ちゃんです。
それを保健室の窓から見ながら、先生は苦笑しました。
「見晴、幽霊部員に部活奥義は覚えられないのよ。素直に“気分爽快”でも使ってなさい」
と、不意にノックの音がしました。瞬時に向き直ると、先生はお返事します。
「どうぞ」
「失礼します」
そう言って、一人の女生徒が保健室に入って来ました。
カールさせた紫色の長い髪を持つ大柄なこの美人を知らない人は、きらめき高校にはいないでしょう。
「あら、鏡さん。いらっしゃい」
先生はそう言うと、気軽に椅子を勧めました。
「で、今日はどうしたの? 弟が反抗期なの?」
魅羅さんの美しい表情が曇りました。そして、椅子にすとんと腰を下ろします。
「ええ……。実は、光の事なんですけど……。今朝急に学校に行くのが嫌だなんて言い出して……」
「ははぁ、学校で苛められたのかな」
聞き返す先生に、魅羅さんはこくりと頷きました。
先生は、頭を掻きながら呟きました。
「困ったものね。最近のお子さま達は加減ってものを知らないから……」
「私……」
魅羅さんは顔を上げました。そこには、いつもの女王様然とした笑みではなく、必死になった心優しいお姉さんの顔がありました。
「私、自分が味わってきたものを弟達にまで味合わせたくはないんです」
「……無菌室に置くのが必ずしもいいってわけじゃないでしょうけれど、だからといってゴミ溜めに置くのは論外よね」
そう呟くと、先生は、魅羅さんを抱き寄せました。そして、噛んで含めるように言います。
「単にさぼりたいかどうかの見極めは、貴女がしなさいね。で、本当にそうだったら、行かせちゃダメよ」
そう言うと、先生はふっとため息をついて、窓の外を見つめました。そして呟きます。
「私も、間違えたことがあるの。貴女には、それをして欲しくないのよ」
「……え?」
魅羅さんは、先生の顔を見ました。
先生は、魅羅さんを見ずに、独り言のようにぽつりと漏らしました。
「ごめんね……見晴」
さて、一方その頃、科学部室では……。
「ふふふ。あなたのその“根性”とやら、見せてもらいましょうか」
いつものように白衣を着た結奈さんが、目の前の簡易ベッドに横たわる沙希ちゃんを前に、笑みを浮かべていました。
その沙希ちゃんは、すやすやと眠っているようです。そしてその頭には怪しげな輪っかがが付けてありました。
「さぁて、実験実験」
嬉しそうに結奈さんは機械のスイッチを入れました。
その頃、ゆかりちゃんはいつものようにテニス部で練習をしておりました。
「ふぅ」
一息ついて、汗を金網に引っかけておいたタオルで拭いていたゆかりちゃんは、目を上げて、知っている人が伝説の樹の下に佇んでいるのに気がつきました。
「あら、あれは……、美樹原さんの、ようですねぇ」
そう呟くと、ゆかりちゃんは振り返りました。
「連尺さん」
「あ、はい」
クリップボードに何か書き込んでいたみゆきちゃんが駆け寄ってきました。そのみゆきちゃんに、ゆかりちゃんは言いました。
「少々皆さんをよろしくお願いしますね」
「あ、はい」
「男子の方は将さんと仲良く見て下さいね」
「え? あ、はい」
みゆきちゃん、ちょっと赤くなって、それでも嬉しそうに頷きました。
ゆかりちゃんはにこっと笑うと、テニスコートから出ていきました。
めぐみちゃんは、伝説の樹にもたれ掛かって、何事か考え込んでいました。
そんなめぐみちゃんに、テニスウェア姿のゆかりちゃんが声をかけます。
「美樹原さん。いかが、なさいましたか?」
「……古式、さん?」
顔を上げて、初めてめぐみちゃんはゆかりちゃんがそこにいたことに気がついたみたいです。
そんなめぐみちゃんに、ゆかりちゃんはいつもの、人をほっとさせてくれる微笑みを浮かべて訊ねました。
「いかが、なさいましたか?」
「……」
めぐみちゃんは、沈んだ顔で俯いてしまいました。
それを見て、ゆかりちゃんは樹の根元に腰を下ろしました。そして、顔を上げます。
「美樹原さんも、お座りになられませんか?」
「……はい」
小さな声でお返事をすると、めぐみちゃんも腰を下ろしました。
ゆかりちゃんは、空を見上げました。
「……いい、お天気ですねぇ」
二人の頭上を、白い雲が流れていきます。
その頃、屋上では、ようやく落ちついたらしく、詩織ちゃんが顔を上げていました。
「どうしたの、一体?」
「うん」
詩織ちゃんは公くんの問いに、ハンカチで目尻を拭いながら、小さく頷きました。
「メグが……」
「また、ケンカしちゃったの?」
「うん。……だって、メグが公くんを、その、誘惑したって……」
「え?」
公くんは思わず聞き返しました。
詩織ちゃんは、公くんの腕を掴みます。
「だって、もう公くんと私は、その……」
そこで、ぽっと赤くなって俯きながら、詩織ちゃんは言いました。
「恋人同士なんだものね。それなのに、メグったら……」
「こっ」
思わず絶句する公くん。
詩織ちゃんは顔を上げて公くんを見つめました。
「そうだよね、公くん? だって、昨日私たち……」
そう言ってから、詩織ちゃんは俯いて、小声で言いました。
「その、……しちゃったんだもの……、ね」
「あ、ああ……」
公くんも照れて、後頭部をポリポリと掻きます。それからはっとしました。
(違う! 照れてる場合じゃないだろう!)
詩織ちゃんは、幸せそうに微笑みながら、公くんにもたれ掛かりました。
「こういうの、幸せっていうのかなぁ……。ね、公くん」
「あのさ、詩織」
公くんは、詩織ちゃんの肩を掴んで、自分から引き離しました。
「……公くん?」
不審そうに公くんを見る詩織ちゃんに、公くんは口を開きました。
「詩織、あのさぁ……」
「それじゃ、帰るぞー、優美」
「……うん」
優美ちゃんはこくりと頷きました。いつもの元気がない優美ちゃんに、好雄くんは笑いかけます。
「そんなに落ち込むなって。そうだ、帰りに何かうまいモノでも食って帰るか」
「……うん」
またこくりと頷く優美ちゃん。
と、
バタバタバタッ
足音に、二人がそっちを見ますと、見覚えのある女の子が、両手で顔を覆いながら走ってきます。
「あれ? 藤崎さん……じゃ」
声をかけようとした好雄くんを無視して、そのまま詩織ちゃんは二人の前を走っていってしまいました。
それを見送りながら、優美ちゃんは呟きました。
「藤崎先輩……、泣いてた。でも……どうして?」
「まさか……、あの莫迦」
好雄くんは、優美ちゃんにも聞こえないくらい小さな声で呟きました。
そしてその頃……。
見晴ちゃんと夕子ちゃんは睨み合いを続けていました。
二人とも、帰宅部奥義、“気分爽快”は使えるのですが、この技は溜め技なので、迂闊に使っていると、溜めている間にやられてしまうのです。
不意に見晴ちゃんはにっと笑いました。
「そっか。タコは突進技持ってないもんね!」
「あちゃ、気付かれたか」
しまった、と言う顔で舌打ちする夕子ちゃん。
その瞬間、見晴ちゃんは突っ込んでいました。
「鉄山靠!」
と、その瞬間、夕子ちゃんがにっと笑いました。
「かかったな、見晴っ!」
「え?」
夕子ちゃん、さっと右にステップを踏みました。鉄山靠をかわされてたたらを踏む見晴ちゃん。
さっと右手を振り上げて、夕子ちゃんは高らかに叫びます。
「あたしのこの手が光ってうなるっ! 貴女を倒せと輝き叫ぶっ! ひっさぁつ!!! シャイニング・クレェンアァァァァーームゥッッッッ!!!」
ズガァァァァッ
一瞬、中庭で何かが爆発したかのように、激しい光が辺りを満たしました。
「う……、うん」
うめき声を上げて、見晴ちゃんは目を開けました。
心配そうにのぞき込んでいた、赤い瞳と視線が合います。
「タコ……」
「タコタコ言うなって」
夕子ちゃんは苦笑して、見晴ちゃんを引っ張り起こしました。そして、言います。
「第一、鉄山靠はね、相手の技に対してカウンターでかけなくちゃダメよ」
「う、うん」
頷く見晴ちゃんに、夕子ちゃんは笑って言いました。
「それじゃ、帰ろうか」
「うん」
見晴ちゃんは夕子ちゃんに訊ねました。
「それにしても、さっきの技、なんだったの?」
聞かれた夕子ちゃんは、笑いました。
「ヒ・ミ・ツ。へっへー」
《続く》

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