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Date with mistress Megumi
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結奈さんは溜息をひとつついて、洗い桶の中から、青いプラスチックの水鉄砲を出しました。そしてお風呂の中に沈めて、お湯を入れると、脱衣場の方に狙いを付けて、引き金を引きます。
ドゴォン
すごい音がして、仕切りが半壊します。そして、その向こうであられもない姿の女の子達が目をぱちくりさせています。
結奈さんはそちらに突き刺すような視線を向けて、言いました。
「脱衣場では、静粛に!」
めぐみちゃんとでぇと カーテンコール
第六話 「虹野さんが溺れてるぅ!」
「それにしても、紐緒さんも来てたなんて、偶然ね」
そろそろとお湯に身を沈めながら、詩織ちゃんは笑いかけました。
「ちょっとした気分転換よ」
結奈さんは、手にした水鉄砲を洗い桶の下に戻しながら答えました。夕子ちゃんはその様子を興味しんしんといった感じで見ています。
「ねぇねぇ、それ何なの? ただの水鉄砲じゃないっしょ? さっきは超びっくりしたもんね!」
「単なるGキャンセラー付き超高圧放水装置よ。くだらない代物だけど、護身用には使えるからね」
「へぇー、面白そう! ちょっと貸してくんない?」
言うが早いか、結奈さんの洗い桶にささっと手を伸ばす夕子ちゃん。
「あ!」
結奈さんが声を上げたときにはもう、夕子ちゃんは洗い桶を持ち上げて……、そのまま凍り付いたように動かなくなっていました。
結奈さんはため息をつくと、お湯からあがって、夕子ちゃんの手から洗い桶を取り返すと、元の位置に戻しました。
「だから止めようと思ったのに」
ぎぎぃっと夕子ちゃんは首を回して結奈さんの方を見ました。
「ひ、ひ、ひもーさん、今のなんなのぉ?」
「ふふふ。世の中にはね、知らない方がいいことがあるのよ」
結奈さんは妖しく笑いました。
「あは、あはは、そーかもねー」
夕子ちゃんは後頭部に汗をかきながら笑うと、そろそろとお湯の中に戻るのでした。
ちゃぷん。
「はぁぁぁ」
めぐみちゃんは、湯船の中に浸かって、自分の身体にお湯をかけてみて、深々とため息をつきました。
「どうしたの? メグ」
お隣で気持ちよさそうに目を閉じていた詩織ちゃんは、めぐみちゃんの様子に気がついて目を開けました。
「……いいなぁ、詩織ちゃんは」
めぐみちゃんは、じぃっと詩織ちゃんを見つめて、ぼそっと呟きました。
「え? 何が?」
聞き返して、詩織ちゃんははたとめぐみちゃんの視線が自分の何処に注がれているのか気がついたようです。慌てて自分の胸を手で隠して笑います。
「そ、そんなことないよ、メグ。大きければいいってものでもないし、それに小さい方が好きだって人も多いんだから」
「……でも」
言いかけて、めぐみちゃんは真っ赤になりました。そしてそのまま目の下までお湯に浸かります。
ぶくぶくぶく「え? や、やだ、メグったら。公くんの好みなんて私が知ってるわけ無いじゃない!」
慌てて詩織ちゃんは否定します。
ぶくぶく、ぶく「そ、そんなことないってばぁ! 全然無いのよ!」
何を慌ててるんでしょうね、詩織ちゃんは。
そこに、見晴ちゃんがやってきました。
「ねぇ、めぐみちゃん。千晴見なかった?」
めぐみちゃんは相変わらず半分水没しています。その代わりに、これ幸いと詩織ちゃんが答えました。
「千晴ちゃん? ううん、見てないけど……」
「おかしいなぁ。何処に行っちゃったんだろう? ……みぎゃぁ!!」
いきなり悲鳴を上げる見晴ちゃん。
その背後で、めぐみちゃんがぼそっと呟きます。
「やっぱり大きい……」
「め、めぐみちゃん、わ、私そういう趣味はないの! お姉ちゃんはあれだけど、私はノーマルなんだからぁ!」
「……」
黙ってめぐみちゃんは見晴ちゃんの胸から手を離しました。見晴ちゃんは遅まきながら自分の胸をガードしながら振り返りました。
「め、めぐみちゃん、どーしたのよぉ。まさかお姉ちゃんに開発されちゃったとか?」
「ううん。そうじゃないんだけど……」
めぐみちゃんは、自分の胸をむにぃっとしてみながら呟きました。
「やっぱり大きい方がいいわよねぇ……」
さて、その千晴ちゃんですが……。
おやおや。お土産屋さんの前で立ちつくしていますね。
どうしたんでしょうか?
店の中から、お客さんの声が聞こえてきます。
「よーし、優美ちゃん、美鈴、好きなもの選んでいいわよ。晴海姉ぇさん、おごっちゃうから」
「やったぁ!」
「さすが晴海姉ぇ。話がわかるぅ」
「優美ね、このペナントがいいなぁ」
「うーっ!」
とうとう我慢しきれなくなったか、千晴ちゃんはお土産屋さんにずかずかと入っていきました。そして怒鳴りつけます。
「晴海姉ぇ!」
「わ! ち、千晴?」
晴海さん、びっくりして振り返りました。
千晴ちゃんはずんずんと迫ります。
「今月は、ただでさえ見晴姉ぇが大学入るし、あたしが高校入るしで、財政苦しいんだから、無駄遣いしないことって決めたでしょうが!」
「ま、まぁまぁ」
「まぁまぁじゃないわよぉ! 第一、学校はどうしたのよ、学校は?」
「あのね、千晴ちゃん。優美たちね、学級閉鎖なんだよ」
「そうそう。インフルエンザが流行ってるでしょ?」
脇から優美ちゃんと美鈴ちゃんが割り込みますが、千晴ちゃんは一蹴しました。
「美鈴姉ぇや早乙女先輩はそれでいいけど、晴海姉ぇは保険の先生でしょうが! インフルエンザが流行ってるのに、遊んでていいわけ?」
「あ、いや、その、ね」
うろたえる晴海さんを、千晴ちゃんは腕を組んで、横目でじろっと見ました。
「そういえば、昨日の夜、カラオケから帰った後で、どこかに電話してたわよねー、晴海姉ぇさんってば」
「あら、そうだったかしら? おほほほ」
「今頃、きらめき高校の保健室にいるのは誰なのかなー? 本職のお医者さんだったりしてねー」
千晴ちゃんは晴海さんに言い渡しました。
「まぁ、代役を置いてきたんなら、きらめき高校の方はいいんだけどね。でも、それとこれとは話が違うわよ。お金の無駄遣いは許しません!」
さすが千晴ちゃん。館林家の大蔵省主計局の異名は伊達ではありませんね。
「うぅーん、ナイスなビューイング、風景ねぇ」
彩子ちゃんは頭にタオルをのせて、景色のよく見える端の方に移動していました。
そこに、バシャバシャと泳ぐように沙希ちゃんがやってきます。
「ねぇ、彩ちゃん」
「あ、沙希。そこ……」
「え? わぶっ」
その瞬間、沙希ちゃんの姿がかき消えました。あとには、沙希ちゃんが頭に巻いていたタオルがぷかぷかと浮かんでいるだけです。
彩子ちゃんは肩をすくめました。
「深くなってるから、アテンションプリーズ、気をつけなさいって言おうと思ったのに……」
ガバァッ
沙希ちゃんがお湯から顔を出しました。あれあれ? 様子がちょっとおかしいですね。
「助け……」
と言いかけて、また沈んでしまいました。どうやら溺れているみたいです。
見晴ちゃんが悲鳴を上げました。
「きゃー! 虹野さんが溺れてるぅ!!」
「待ってろ、虹野さん!」
洗い場で身体を洗っていた望ちゃんが、ざばぁっとお湯を身体にかけて泡を落とすと、そのままきれいなフォームで露天風呂に飛び込みます。
ガァン
すごい音がしました。
すぐ脇にいた結奈さんが、呆れたように肩をすくめます。
「飛び込むほど深くはないわよ、この辺りは」
「虹野さん!」
その間にも、お湯をかき分けて詩織ちゃんが沙希ちゃんを救出に向かいます。
「アテンション! 藤崎さん、そこ」
「え? きゃっ」
いきなり足を滑らせて、詩織ちゃんは仰向けにお湯の中に沈みます。
「底の岩に水苔が生えてて、スリップ、滑りやすいから気を付けてって言おうと思ったんだけど……」
「詩織ちゃん!!」
めぐみちゃんが悲鳴を上げます。
そこは浅かったので、詩織ちゃんはスグに起きあがりましたが、お湯を飲んでしまったようでゲホゲホと咳き込んでいます。
「しょうがないなぁ。ほら、沙希、こっち」
夕子ちゃんが泳ぎよっていきます。
沙希ちゃんさっきからもがきっぱなしで、半ばもうろうとしてるみたいです。近くまで来た夕子ちゃんに、これ幸いとしがみつきます。
「わぁっ、やめれ沙希ぃ!」
いきなり正面からのしかかられる姿勢になった夕子ちゃん、沙希ちゃんもろとも轟沈しました。
「ど、どうしよう!」
「わ、わかりません!」
おろおろする見晴ちゃんとめぐみちゃん。
「やれやれ」
ため息混じりに結奈さんが立ち上がりました。そして、洗い桶の下に手を突っ込みます。
さて、その頃。
「やっと、つきましたねぇ」
ゆかりちゃんは、バッグを両手で捧げ持ちながら、辺りを見回しました。
「そうだね。さて、花見に行こうか」
「はい」
そう言うと、未緒ちゃんは観光案内板を見ました。
「早咲き桜は、確かゆけむり公園で見られるのでしたね」
「ああ。ここから歩いて15分か。如月さん、もし疲れたんだったらタクシーで行くけど……」
公くんは、未緒ちゃんのお顔をのぞき込みました。
さっと頬を染める未緒ちゃんです。
(主人さんが私の身体を気遣ってくださるなんて……)
「あ、大丈夫です」
「そう? じゃ、歩いて行こうか」
「は、はい!」
心なしか、未緒ちゃんのお返事がうわずっていますね。でも、そんな微妙なところに公くんが気づくはずもありません。
「ゆかりちゃん、そのバッグ重そうだけど、何が入ってるの?」
「はい。お母様にお花見に参りますと言いましたら、それならばこれを持って行きなさい、とおっしゃいまして」
「へぇ。中は見てないんだ」
「お花見をするところに着くまで、開けてはならないと言われておりますので」
にっこりと笑いながら、ゆかりちゃんは答えました。
公くんは手を伸ばします。
「それにしても、重そうだね。持ってあげるよ」
「あっ」
その弾みに、公くんの手とゆかりちゃんの手が触れ合いました。
ドサッ
バッグが道路に落ちます。そして見つめ合う二人。
(ゆかりちゃん……)
(主人さん……)
未緒ちゃんははっとします。
(もしかして、これは遥か昔より伝えられる、“キックオフ状態”というものなのでしょうか? は、初めて見てしまいました……)
ゆけむり温泉郷で、そんなのんびりとした情景が繰り広げられている頃、伊集院家地下の特設司令室には緊迫した空気が張りつめていました。
隕石が加速したために、核ミサイルの到達時刻は予定よりもずっと早くなっていました。
正面の大パネルに、地球目がけて接近してくる隕石と、その隕石に刻々と接近していくミサイル群が、ご丁寧にポリゴンで映し出されています。
オペレーターが声を上げました。
「到達まで、あと15分!」
「隕石に変化なし」
隕石を監視しているオペレーターが報告します。
レイさんは唇を噛んで、それを見つめていました。
(破壊はできないにしても、せめて爆発の影響で、軌道が逸れてくれれば……)
と、その時、不意にオペレーターが叫びました。
「隕石、さらに加速!!」
「なんですって!?」
思わず、椅子から立ち上がるレイさん。すぐにオペレーターに尋ねます。
「軌道は? 方向はどうなっていますか?」
「まっすぐミサイル群に向かっています! このままでは、2分後に衝突!!」
と、別のオペレーターが叫びました。
「こ、これは!?」
「どうしました!?」
鋭く訊ねるレイさん。
「は、はい。隕石から歪震波を確認!」
「!?」
その瞬間、隕石の正面にあったミサイル群が、ふっと消えました。
「ミサイル群、し、消滅!」
「そ、そんな……」
レイさんは、椅子に、崩れるように座り込みました。
「隕石の進路変わらず! 依然として地球を目指しています!」
「最終到達箇所の計算が終了しました! 現在のままの軌道を隕石が取るとすれば、落下箇所は、……日本です!!」
オペレーターたちの声は、もうレイさんの耳に入っていませんでした。最後の緊張の糸がぷっつり切れたのか、レイさんは気を失っていたのです。
「医師を呼べ!」
それを見て、外井さんが慌てて声を上げました。
こうしてレイさんが倒れたために、伊集院家地下の特設司令室は一時完全に機能を停止してしまったのです。
《続く》

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