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 Date with mistress Megumi
Curtain-Call
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「夕子、大丈夫?」
「あたしは大丈夫だけど、沙希は?」
「しっかりして、虹野さん!」
「清川さんは大丈夫ですかぁ?」
「あ、ああ。こぶができただけだよ。痛てて」
「詩織ちゃん……」
「ゴホゴホッ、だ、大丈夫よ、メグ」
 やっとのことで引き上げられた4人を囲んで大騒ぎになっている洗い場をちらっと見て、結奈さんは肩をすくめました。
「まったく、世話のかかる……。え!?」
 不意に眉をひそめると、結奈さんは左耳に左手を当てました。おや、よく見ると結奈さん、左の耳にだけ、黒っぽいイヤリングをしていますね。
 夕子ちゃんだけは、再びめざとく結奈さんの様子がおかしいのに気がついたのですが、さっきの洗い桶で懲りたのか、無視して沙希ちゃんの様子を見ています。
 沙希ちゃんはいまだにぐったりしています。夏のプールならぬ春の温泉の中ですから、すっかり茹で上がっちゃって真っ赤になっていますね。
「こら、沙希、起きろー……。駄目だこりゃ」
「夕子、あの手でいく?」
 彩子ちゃんは夕子ちゃんに訊ねました。夕子ちゃんはにぃっと笑って頷きます。
 そして、二人は声を合わせて叫びました。
「あ、主人くんだ!!」
「え? どこどこ? や、やだやだっ! タオルどこ、タオル……」
 とたんに跳ね起きて、自分が素っ裸なのに気が付くと、あたふたとタオルを捜す沙希ちゃん。
「よし」
 夕子ちゃんと彩子ちゃんはパンと手を打ち合わせます。そして、
「え? え? え?」
 沙希ちゃんはきょときょとと左右を見回しているのでした。
 笑い声があがる洗い場をよそに、結奈さんは一人難しい顔をしていました。
「歪震波を打ち出した、ですって? ということは、やはり自然の隕石ではなかったということね。真・世界征服ロボのリミッターを解除しておく必要がありそうだわ」
 どうやら、結奈さんの左耳の黒いイヤリングは、通信機のようですね。どういう仕組みかはわかりませんが、このイヤリングを通して、結奈さんは伊集院家地下特設司令室の情報を得ているようです。
「ふふふ、これは私に対する挑戦ね。ああ、久しぶりに燃えてきたわ」


 めぐみちゃんとでぇと カーテンコール
  第七話 「これでも、くらいなさい!」



「うわぁ」
「すごい……」
 公くんと未緒ちゃんは、思わず言葉を失っていました。
 ゆけむり公園では、桜と桃が同時に咲き誇っていました。地面は落ちた花びらで、ピンク色の絨毯を敷き詰めたようになっています。
「とても、綺麗ですねぇ」
 ゆかりちゃんは、頭上の花を見上げながら微笑みました。
 その声で我に返った公くんは、言いました。
「とにかく、こうしてるのも何だから、どこかにシートを広げることにしよう」
「そ、そうですね」
 未緒ちゃんも頷きました。
 ゆかりちゃんは、大きなバッグを地面に置くと、中からござを取り出しました。そして、おもむろにそれを広げます。
 ざっと10畳くらいの広さはありそうなござですね。
 それを広げてから、靴を脱いで、丁寧にござの脇に置くと、二人を招きました。
「どうぞ、お上がりくださいな」
「あ、はい。失礼します」
 思わずござにあがるときにお辞儀をしてしまう公くんでした。
 公くんがすぐ近くにいるなんて夢にも思っていない沙希ちゃん、夕子ちゃんと彩子ちゃんに詰め寄っています。
「あんな嘘つくなんてひどいじゃないのぉ!」
 沙希ちゃんのほっぺたが真っ赤なのは、お風呂でのぼせたせいばっかりじゃ、ないみたいですね。今怒ってるのも、照れ隠しが入ってるんでしょう。
 それは重々承知している彩子ちゃんと夕子ちゃんです。
「まぁまぁ。ほら、沙希だってリバイブ、甦ったんだから、ノープロブレムよ」
「そーそー」
 そこに、詩織ちゃんが割って入ります。
「ねぇ、一旦上がらない? 私、もうのぼせちゃいそう」
「それもそうよね」
 彩子ちゃんは頷きました。
「で、上がってなにすんの? お土産屋回りなんて超ダサなことやーよ」
 そう言ってから、夕子ちゃんは慌てて付け加えました。
「あとね、テーブルトークもやめよーね」
「や、やぁね、朝日奈さんってば。おほほほ」
 そう笑ってから、詩織ちゃんは夕子ちゃんに背を向けて、がっくりと肩を落としました。
(せっかく、受験勉強の合間に作った最新のシナリオができるかなって楽しみにしてたのに……)
 詩織ちゃん、懲りてないようですね。
 ござの上で思わず正座をしている公くんと未緒ちゃんに、ゆかりちゃんは笑いながら言いました。
「そんなにかしこまらなくても、よろしいですよ。足をお崩しになってくださいな」
 そう言うゆかりちゃんは、それこそ華道や茶道の先生みたいにきちっと正座しています。
「古式さんは?」
「わたくしは、常日頃から正座には慣れておりますので、かえって、足を崩していた方が、疲れてしまうのです」
 ゆかりちゃんはそう答えました。
「そう? それじゃ、お言葉に甘えまして」
「そうですね」
 未緒ちゃんと公くんは足を崩します。公くんはあぐらをかき、未緒ちゃんは正座を崩した、いわゆる女の子座りをします。
「それでは、お花見をしましょうか」
「そうですね」
 ゆかりちゃんと未緒ちゃんは頷きあうと、桜を見上げました。
 公くんは、なんだかいやな予感がするのを感じました。
 不意に、未緒ちゃんが言いました。

  美しき
  桜の花の
  その下で

 一拍置いて、ゆかりちゃんが静かに続けます。

  ともに詠える
  その喜びを

 未緒ちゃんとゆかりちゃんは、顔を見合わせてにっこりと笑いました。
 そして公くんはがっくりと肩を落としました。
(この二人って、優雅だぜ、優雅すぎるぜ。まるで平安時代の花見じゃないかよぉぉ)
 望ちゃんは、パシンとタオルを振るって、付いている水気をとばしてから笑いました。
「温泉からあがったら何をするか、なんて決まってるじゃないか」
「え? なにすんの?」
「温泉と言えば、あれだろう?」
 そう言って、笑みを浮かべる望ちゃんでした。
 と、その横を結奈さんがすたすたと歩いていきます。
 ショックから立ち直った詩織ちゃんが声をかけます。
「紐緒さんも一緒に行かない?」
 結奈さんは、みんなをちらっと見て、答えました。
「ちょっと地球の危機が迫っているから、失礼するわ」
「?」
 みんなは顔を見合わせました。でも、その時は、結奈さんの言ったことを本当の事だと思った娘はいなかったのです。
 と、不意に結奈さんは振り返りました。
「朝日奈」
「え? あたし?」
 いきなり呼ばれて、夕子ちゃんは自分を指しました。結奈さんは頷くと、露天風呂の隅の方を指しました。
「あれはあなたに任せるから」
「へ?」
 言われて夕子ちゃんはそっちを見ました。湯気の向こうにぼんやりと、誰かが風呂に浸かっているのが見えます。
「あ、まさか!」
「あなた達が入ってくる5分ほど前に、向こうの男風呂との仕切りをよじ登ってきて、私が仕掛けておいたトラップに引っかかったのよ。生命には別状ないけど、まだ意識を失ったままみたいね」
「……あのバカ」
 夕子ちゃんは、苦い顔をして額を押さえました。
「……ん?」
 好雄くんは、目を開けました。
「よっしー、大丈夫?」
 心配そうな顔の夕子ちゃんがのぞき込んでいます。
「夕子か。大丈夫みたい……。あれ?」
 返事をしようとして、好雄くんは身動きがとれないのに気が付きました。
 夕子ちゃんがしおらしく言います。
「あたしだって、こんなことしたくなかったんだけどぉ、みんながどーしてもって言うもんだからぁ」
 好雄くんは、遅まきながら自分の状況に気が付きました。布団でくるまれて、その上からロープで縛られています。いわゆる“簀巻き”状態ですね。
「ワッツセイ、何言ってんだか。嬉々として縛り上げてたの、夕子じゃない」
 脇から声がしました。好雄くんはそっちを見て、再度げっとなります。
 そこには彩子ちゃんや詩織ちゃんをはじめ、一緒に来た女の子達がずらっと並んでいたのです。
「ちょ、ちょっと、どうなってるんだよ、これは?」
「自分の胸に聞きなさい、早乙女くん」
 詩織ちゃんは腕を組んできっぱりと言いました。でも、目が笑ってますよ、詩織ちゃん。
 好雄くんは、必死に助けを求めます。
「助けてくれぇ、虹野さぁん」
 沙希ちゃんはウィンクしました。
「早乙女くん、根性で頑張ってね!」
 好雄くん、がっくりとうなだれます。このメンバーで、沙希ちゃんに助けてもらえないなら、誰も助けてはくれないのをよく知っているからです。
 夕子ちゃんは、さっきまでの殊勝な顔つきはどこへやら、いかにも楽しそうな笑みを浮かべて言いました。
「それじゃ、みんな。やっちゃおう!」
「おーっ!」
 女の子達は歓声をあげました。そして、好雄くんの悲鳴があがります。
「ひょえぇぇぇ」
「困るんだよ、こんなところにそんなばかでかいもの置かれると」
 その頃、結奈さんは駐車場の管理人に文句を言われていました。
 平然と答える結奈さん。
「駐車場の規則には抵触していないわ。3ナンバーお断り、とはあったけど、巨大ロボットお断りとは書いてなかったもの」
「そんなもの書いてあるか! とにかく、すぐにどけてくれ」
「それは無理ね。今から真・世界征服ロボのリミッター解除をしなければならないんだから」
「何をわけのわからんことを!」
 怒った管理人が結奈さんにつかみかかろうとします。結奈さんは右手を挙げました。
「これでも、くらいなさい!」
 その頃、ゆけむり公園では、未緒ちゃんとゆかりちゃんの連歌合戦が延々と続いていました。
 そして、二人に挟まれて、公くんは動くに動けない状況だったのです。
(だ、だれか、何とかしてくれぇぇぇ!!)
 思わず心の中で叫ぶ公くんでした。
 しかし、その願いが思いもかけない形で実現するとは、そのとき公くんに想像できるはずもなかったのです。
「うぎゃぁぁぁ!」
 走って逃げる管理人を見送って、結奈さんはため息を付きました。
「愚民のせいで、時間を浪費してしまったわ。急がないと。ロボ、メンテナンスモード!」
 ガシャン
 真・世界征服ロボは、ご主人様の命令に従って、膝を付くと、全装甲を開きました。
 結奈さんはそのなかに潜り込んでいきました。ぶつぶつ呟きながら。
「全兵装のリミッターを一度に解除するモードも付けておくんだったわ。私としたことが、迂闊だったわね」
 そうなんです。真・世界征服ロボの兵装リミッターは、ひとつひとつ手動で解除しないといけないんですね。
 そして、真・世界征服ロボの全兵装は48種類にものぼるのです。
 結奈さんも大変ですね。
「うわぁーん、夕子さまぁ、もうしませんからおろしてぇぇ〜〜」
「うっさい。ちょっとは反省しろぉ」
 哀れ、超極上高級ホテル・ゆけむり第一ホテルの6階ベランダから吊されてしまう好雄くんでした。
 合掌。

《続く》

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